一日目-7
コンビニから少し離れたサイクル店。
先輩はここで足を止めた。
「なるほど、自転車ですか!」
「ああ、徒歩で捜すのは非効率的だ。自転車くらい乗れるだろ?」
「そりゃあもちろんです」
「なら問題はないな。ここにある自転車好きなのを選んで乗って行こう」
先輩は言うなりさっさと店内に入って行った。
「ちょ…待ってくださいよ!って先輩、なんか喜んでませんか?」
「ん?分かるか?」
緊張感に欠ける笑みを浮かべたまま先輩は振り向く。
「実は俺電動自転車っての乗ってみたかったんだよ。体力勝負な部活やってるし、自転車使う場合でもトレーニング兼ねて普通のしか乗ったことなかったからな」
「なるほど!僕は一度友達に乗せて貰ったことしかないです。あれが使えてたら通学も楽だったろうになぁ…。けど徒歩通学の僕にはどっちにしろ無理だけど」
「浩人は自転車通学じゃなかったのか?意外だったな」
「ええ、僕の通学範囲だとギリギリ許可が下りなかったんです。可能ならそりゃ当たり前のように使ってましたよ!電動かどうかは別として…」
「はははっ、それは災難だったな。あの学校ってそういうところは融通一切利かないから」
軽い会話を交えながらも僕らは自転車を選ぶ。
値段を見てみるととてもじゃないけど僕が買えるような額ではなかった。
十万は余裕で越えるものばかりで学生の僕が気軽に使えないようなものばかり。
しかし今はお金の心配は要らないのだ。値札なんて無意味と割り切って好きなものを探す。
ようやく手頃なものを見つけて試しに乗ってみる。
青い電動自転車が僕にはフィットしたんで、それを使うことに決めた。
「バッテリーも容量が大きいし、これなら一日使っていても大丈夫そうだ」
「スポーツタイプか。捜索には持って来いの機体だな。よし、俺もそのタイプにしとこう」
「あ、先輩。籠付きのにしておいたほうがいいですよ。じゃないとプレイヤーが流せないですから」
「おっとそうだった」
僕は自転車を外へ出すと跨ってみる。
乗り心地は凄く良さそうだった。
マウンテンバイクのような外見。これに乗れるなんてちょっと嬉しい。
「僕は一度家に戻って自分のプレイヤーを取ってきます」
「そうか、俺は家が反対方向だからな。電気屋に寄って適当に仕入れてから捜索始めることにするよ」
「分かりました。あっと…合流時間はどれくらいにします?」
「そうだな…夕方くらいでいいだろう。あんまり遅くなるのもアレだしな。六時にあそこのコンビニに集合ということでいいか?」
「六時ですね?了解しました」
「よし、お互い見つけられるよう頑張ろう。よし捜索開始だ」
「はい!」
現在は二時ちょうど。
僕は時計を確認すると自転車を漕ぎ始めた。
自宅に一度戻り、音楽プレイヤーを手にする。
もう一度家で変わったことはないか確かめたけれど、家を出る前と何も変わりはなかった。
忘れかけていた不安がまた蘇ってくる。
けれどもうそんなことでへこたれてはいられないのだ。
僕は振り切るためにすぐに家を飛び出し、再び自転車に跨った。
「電動って本当に楽なんだなぁ…。ほとんど漕がなくても進んでくれるし、坂道もこれなら全然疲れないぞ」
風を感じないからか『風を切って~』などとは言えない。けど爽快だった。
こんなときに楽しむなんて不謹慎かもしれない。
けれどずっと欲しかったものが手に入って僕は浮かれてるんだろう。
籠に音楽プレイヤーを入れ流しながら走る。
けどあまり早く漕いでも人を見逃しては意味がないため、そこまで速度は出せない。
「っと、浮かれてる場合じゃないな。まずはどこから捜そうか」
商店街付近まで来ていたのでまずはそこからと道を曲がる。
住宅地だらけのこの町では、主婦にとっては貴重な場所らしい。
西側のスーパーなんかよりも品物が安いと評判だし、近所では活気があった。
けれど今ではその活気なんて見る影もなく、商店街に入ってはみたものの当然人の影すらなく閑散としている。
好きなバンドグループの音楽だけが商店街に鳴り響いている。
ゆっくりと自転車を漕ぎ、辺りを見回しながら進んで行く。
けれど誰も出てくる様子はなかった。
時折後ろを振り返り確認するが、後を追ってくる人影もない。
「商店街には誰もいないのか…」
音楽を流しているから耐えられているだけであって、これがなければ凄く虚しい気分になっていたことだろう。
商店街の道には天井が設けられているためか、こんな陽が照っている日中でもそこまで明るさは感じない。
どこか不気味な感覚さえ覚えてくる。
「…出よう。ここには多分誰も居ない」
僕はその後様々な区域を捜し回った。
飲食店が立ち並ぶ通りや人が居そうな国道に大通り。
車もやはり走ってなく、車道を我が物顔で走っても轢かれる心配すらない。
あちこちで見かける駐車している車も全てが無人のままだ。
人が存在していた形跡すらないようにすら思える。
二時間が経過した。
近所と言える部分の場所はあらかた見て回った。
けれどやはり人は見つけられない。
僕は町に流れる大きな川に架かる橋に居た。
自転車から降りて、橋にもたれ掛かったまま流れを見る。
散策に疲れたために僕は休憩がてら呆けていた。
この町にはもう一つ大きな川がある。
それは隣町とを隔てている川。
分岐しているこの川はそことこの先で合流して、もっと大きなものになっている。
僕は隣町に行く事も少し考えたが、あまりにも遠いので合流時間に間に合わなくなると思い諦めた。
「はぁ…先輩がああ言うもんだから期待していたけれど、やっぱり僕らだけで他に人はもう居ないんじゃないかな…」
いつしかループにしていなかった音楽はとっくに止まり、無音の世界で僕はたそがれていた。
当然駅前にも寄ってみた。自転車を降りて駅の内部にまで入ってみたけど、当然人は居るはずもなかったし、電車すら運行していなかった。
駅の露店でジュースを一本拝借しただけで去らざるを得なかったんだ。
ここまで収穫なし。
先輩のほうはどうだろうか?
この分だとどちらか一人でも見つけられれば御の字のような、そんな気さえしてくる。
けど先輩だって頑張っているはずなのだ。
僕だって怠けているわけにも行かない。
とはいえ、あらかた人の多く集まりそうな場所は捜した。
ここからはもう適当に捜して行く他ないんだよな…どうしたものか。
「考えるよりも先に動くしかないか。とりあえずもっと色んな場所を回ってみよう」
考えていても始まりなんてしないんだ。
僕は再び自転車のサドルに跨った。
先輩が治療してくれたお陰で、ハンドルを握る手もそれほど痛くはないし電動自転車のせいで疲れもそんなに感じていない。
これは全部先輩のお陰なんだ。
それに報いるためにも僕も少しは役に立つところを見せなきゃいけない。
僕は自転車を反転させて来た道を戻る事にした。
住宅地を離れて過疎化したままの区域を走る。
この辺りはまだ未開拓なのか田んぼや山の面積が多い。
親友の武治がこの辺りに住んでいるから、結構詳しかったりもする。
一つの概念だけを見ていては、見逃してしまうことだってあるだろう。
だから僕はここに居る。
大分陽も傾いてきて空の色も陰りが見えてきた。
見通しのいい風景。ここなら注意していれば人の姿を見逃すことはない。
こんな地域だからこそ、誰か居るかもしれない。
確証なんてないけれど、手当たり次第捜すのならば人の多い地域だろうと少ない場所だろうと関係はないはずだ。
とにかくひたすら捜す。これしか道はない。
端から見れば暢気に自転車を漕いでいるようにも見えるだろう。
けど僕は僕なりに今は必死だった。
合流時間までもう間もない。
見つけられなかったからと責められることはないだろうけど、やっぱり僕だって他に人が居るというのなら逢いたいんだ。
時には自分で声を出し呼びかけてみる。
隔てるものが少ないのでこの辺りは声が良く通るのだ。
「誰かー!居ませんかー!!」
声が枯れ始めてくる。
飲み物が欲しくなったけど、ここらには自販機すらない場所だった。
少し進むと古いコンビニのような個人経営の店を見つける。
実は武治の家に行った後とか結構使っていたりする店だ
そこで飲料を補充。
予備のために二三本余分に籠に入れておいた。
軽い坂道なんかも多かったが電動のお陰で難なく進むことが出来る。
こんなにも自然に満ち溢れた地域だというのに、他の生き物が居ないためか妙に寂しい気分になってしまう。
やはり無駄骨だったのだろうか。
山が密集している地域まで来ると僕は引き返す。
これ以上先に進んでも多分意味はない。
太陽が山の斜面で消えてしまい、ここら一体はもう真っ暗だ。
「しょうがない…今日はもう戻ろう」
合流時間に遅れてしまえば先輩に余計な心配を与えてしまうだろう。
僕は籠に入れていたスポーツドリンクを開け、しぶしぶ帰路に付く事にした。




