四日目-29
語り終えた唯の言葉に感情は込められていなかった。
ただ淡々と事実を口にしただけに過ぎない。
晴れやかな顔も辛い顔も悲しい顔も一切ない。
起きた事実を赤裸々に話してくれただけ…だ。
「最後にまた気を失ったとき…もう、目覚める事なんてないと思ってた。けど、意識が戻ったとき…私はあの病院で一人になってた」
唯の話は想像を絶する程のもの。
こんな性格になったのは家庭の問題かも?と多少は思っていたけど、話が余りにも重すぎた。
僕が悩んでいる事なんて、唯が抱えていたものと比較したらなんてことない。
…僕は恵まれていたんだ。
「辛かったね…」
安っぽい言葉を掛ける事も出来ず、ようやく喉から出た言葉はそんなものだった。
「…うん。けど今はこうやって…自分だけの自由を手に入れた。あの人たちは…消えていなくなったから…。私の願いを、きっと神様が叶えてくれた。…そう思えた」
絶望と言う名の奇跡を願った。
それはなんて悲しくて寂しい願いなのだろう。
唯は世界すら憎んで否定して、一人を望んだ。
だから…この世界は生まれたんだ。
彼女が彼女自身の心を護るために。
「一つ訊いて良いかな?」
「…うん?いいけど」
「唯はこの町が…世界が本物の現実だと自覚しているの?」
僕は率直に訊ねた。
「浩人は言ってたよね…ここが別の世界だって、私が『創った』って。けど言ってる意味が分からない…」
やはり唯自身に自覚というものはなかったようだ。
「そっか。けどね、ここはやはり唯が創った世界なんだ。ここは現実なんかじゃない。前に言ってたよね?他のみんなは戻って来ないって。あれは自分で薄々気付いてた証拠なんじゃないかな?」
「…世界だとかそういうものは分かんないよ。けど人が居なくなったのは私がそう『望んだ』から、そんな気がしただけ…」
「ならさ、唯はもう元居た世界に戻りたいとは思わ…ない?」
「……………」
唯はやはり押し黙った。
当たり前だ。答えなんて訊く前に分かってる。
けどそれでも僕は訊ねなきゃいけないんだ。




