四日目-21
「わたしが…目覚めた場所は…病院」
「病院?」
「…うん。気付いたら、病院のベッドで寝て…たの」
「そっか。山下さんが入院していた、あの総合病院だね?」
「…そう。私が…目を覚ましたときには、もうここに人は居なかった」
「それはいつの話?」
「たぶん…四年前」
「そっか…出逢って最初の時に聞いた話、あれはそのままの意味だったんだね?四年前から一人暮らしって言ってた事」
「…うん」
唯はこの状態になってから四年間、ずっと一人ぼっちでこんな町に居たんだ。
やはり最初に僕の姿を見た時の反応、あれは驚いていたんだな…。
「じゃあ何で病院に居たのか…それは分かる?」
「……………」
唯は答えない。
答えたくないという意思が、閉ざされた唇の形で見て取れる。
「ふぅ」
僕は空を見上げた。
辺りはもうじき夕方に迫ろうとしていた。
止まった空の奥では、機械仕掛けのプラネタリウムのように色だけを変えている。
「ねえ唯?君は山下さんの事、嫌いだった?」
「えっ…?」
「君は大人が嫌いだって言ってた。けど山下さんの事は嫌っていなかったようにも見えたよ」
「……………」
「あの人は唯と同じだった。君と同じように、今のこの町が好きだったって言っていた」
「…山下さん…が?」
「うん。そして唯の事も、最期の最期まで気遣っていた」
僕は空を見上げたままだ。
けれど唯の視線が僕の方を見たと分かった。
「ひろ…と?山下さん…まさか…」
「うん…。今朝山下さんも消えてしまったんだよ…。余りにも突然で僕にもまだ信じられないけど…」
「やまし…た…さん」
「あの人は逃避をしていた。…帰りたい一心の僕らと違って、この世界なら自由に歩く事も出来たから」
「なんで?なんで山下さんは…消えたの?」
「それは僕にも分からないよ。けど…現実世界の身体に何かが起こっているんだ。昨日言っていた背中の痛み、あれが原因だった。多分…もうじき僕も居なくなる」
淡々と語ったが、それは紛れも無い事実だろう。
現実世界とこの町の時間は間違いなくリンクしている。
現実の肉体に異変が起こったからこそ、山下さんもまみこちゃんもこの世界から消えてしまった。
病か何かが原因か?例えそうじゃなかったとしても、身体に変調が出て治らないまますぐに二人とも消えた。
これは現実世界で僕らの事を誰も『見て』いないと判断するしかないんだ。
誰かが気付いているのなら、あんなにも簡単に人は…死なない。
でも身体が元気だったとしても、長い間飲まず食わずに寝ていてはすぐに衰弱してしまう事だろう。
僕だって…もう他人事じゃない。




