四日目-16
学校から伸びる下り坂。
俺は逃げる厚川との距離をグングン縮めていく。
体重の軽い方がスピードは乗るのだが、脚力の違いはそんな差など無意味だ。
こいつは逃げた。
何も語ろうとはせず、ただ拒否の二文字を延々口に出し続けて。
すぐに追い付き、彼女の左手を掴む。
「本当の事を教えろ!厚川!」
「…めて!せのうえ…先輩…!」
幾ら不意を突いて逃げたとしても俺の足から逃げられるはずもない。
この目の前に居る厚川こそが元凶だ。
俺は何としても帰る。こんな世界…まっぴらなんだ!
もう…時間もない。
「お前がこの町を…世界を創ったんだろ!?どうやったら帰る事が出来るんだ!」
「…らない…私…そんな事知らない…っ!」
涙を貯めながら必死で抗おうとする厚川。
俺は逃げようとする彼女の腕をしっかりと掴んでいる。
絶対に放さない。ここで…すぐにでも終わらせるんだ。
「知っている事を全部話せば…すぐにでも放してやる。だから言え…言うんだ!」
「知らない…!私…何の事を言ってるのか…分からない!」
「もう時間がないんだ…俺はお前を責めるつもりも今更ねえ…。俺はただ…帰りたいだけなんだ!」
怯え泣きじゃくるだけで俺の言葉はまともに聞いていない様子だった。
こいつは…こうやって俺たちの同情を引いていただけなんだろう。
気弱なフリをしていれば…知らないフリをしていれば…全部有耶無耶に出来ると。
掴む手に力がこもる。
ギリギリを音を立て、厚川の細い手首を締め付けていく。
「…ヤダ…怖い…っ!せんぱ…やめ…て!いた…い!」
「俺たちが…俺が味わっているこの恐怖に比べたら…何が怖いって言うんだよ!」
「…知らない…ひっく…私…何も…しらない」
無理矢理手首を引き寄せ正面を向かせる。
厚川の顔は涙で濡れていた。
「…く!何故だ…何故俺たちを…こんな目に遭わせた…」
「わた…わたし…しらない」
泣きじゃくる厚川はただの子供そのものだった。
ただただ赦しを乞い、駄々をこねるように首だけを何度も振る。
ズキリと痛むわき腹…。
その痛みが俺の理性を逆撫でする。
「いい加減にしろよ…泣いて赦される問題じゃねえんだ。お前は知っていて俺たちに何も教えなかった…」
「…しら…ない…う…あぁ…」
「お前は…俺も、そして浩人も裏切った。知っていながら知らないフリをしていたんだ…」
「ひろっ…違う!わたし…私は…そんなこ…と…してない!」
「誤魔化すんじゃねえよ!お前が…お前がしっかりと話をしてくれていたら…まみこちゃんも山下さんも、あんな消え方をする必要がなかったんだ!」
「何で…わた…し…なの?わた…しは…ただ浩人に…会いに…」
「今は浩人は関係ねえ!お前はずっとここに居たのか!?」
こいつは演じていたんだ。
俺たちを陥れようと…何が目的かは知らないが、浩人が標的だったってのか…?
「答えろ!お前は俺たちがここに来た三日前よりも前に…この世界に居たんだろ!!」
「…う…あぁ…」
首を小さく縦に振った。
それは認めたという事だ。
浩人が言っていた仮説は正しかった事になる。
だったら話は早い。
後はどうすれば帰る事が可能なのか、この女の口を割らすまでだ。
それが力ずくだったとしても。




