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一日目-5

保健室に着くと先輩は慣れた手つきで僕の怪我を治療してくれた。

消毒をした後ガーゼをあてがい擦り傷に効く塗り薬を塗ってくれた。その後綺麗に包帯を巻いてくれる。

簡易治療と言ってはいたけれど、僕が自分でやるよりも遥かに上手だった。

無駄がないようにも見えたし、本当に頼りになる人だ。

やっぱりこうやって何人もの運動部の後輩に治療とかしてるんだろうなぁと思える。

保健室では会話らしい会話もせず、治療が終わるとすぐに先輩の教室に向かった。


先輩のクラスは僕の上の階にある三年D組。

運動部と言っていたからてっきり離れにあるスポーツ科だと思っていたけど、僕と同じ一般科とのこと。

陸上の推薦で入って来たわけではなく、高校に入ってから自分で陸上部に入ったとのことらしい。

中学まではサッカー部だったらしいけど、どうにも向かなかったと足が速い特徴を活かしての転向らしかった。

僕ときたら中学は文芸部である書道部。

書道に興味なんてなかったけど部員も少なくて活動がほとんどなく、幽霊部員でも怒られることがなかったから入ったまでのこと。

強制だったから入ったけれど、そうじゃなかったら確実に帰宅部だったはず。

この高校では部活は任意なので当然何も入らず、自堕落な高校生活を満喫していた。


教室に着くと先輩は早速自分や知り合いの机やロッカーを調べ始める。


「先輩、どう…ですか?」


「ああ…どうやら浩人の言ったことが全部当て嵌まった感じだよ」


先輩はそう言うと適当な机に腰を下ろした。

表情は若干曇っている。

さすがにこの事態を目の当たりにしてしまえば、そうなってしまってもしょうがないことだろう。


「やっぱり…ということは僕だけじゃなくて先輩も何か罠に掛けられているかも…ってことですか」


「う~ん…正直罠とかそういった類じゃないとは思いたいけど、さすがにここまで身近な人間だけ特定してのやり口。徹底されてる分気味が悪すぎるな」


「そう…ですよね」


「ただ狙ってやったにしろ意図が分からないというか、こんなことをしても何も意味がないということだな。ただ少しだけ不可解な部分もあった感じはある」


「不可解な部分?それってどんなことなんです?」


「俺の場合知り合いは知り合いだが、数人私物が消えてるやつのもいた。全員を把握してやってないってことだ」


「ええ?」


「なんというか悪く言えば適当…だな。確かにまったく親しくないって思えるやつは一人も残ってはなかったけど、それでも多少は親睦あるやつのでも消えてるのがあった」


「それってつまり、故意にやったとしても粗があるってことですよね?」


「そういうことだな。誰かが故意にやったとして、ここまで徹底してるくせに若干のミスがある。完全に俺のことを把握してないってことだ」


「ますますもって意味がわからなくなりましたね」


「ああ…そもそもこんな行為には意味がなさすぎるし、メッセージ性すら感じないな。やったのが人ならただの馬鹿だ」


「相手に気付かせるべきものが欠落している、そういうことなんですよね?」


「そうそう、単純に怖がらせる事だけが目的なら何か別の物を残すか、あるいはこの私物に何か細工があってもおかしくない」


先輩の言うように確かに僕が見た物にも何もおかしな部分はなかった。

眞也はいつも机の中に教科書を仕舞ったまま帰るから残ったままだし、だからと言ってその教科書を開いたりしたけどおかしなところもなかったはず。

僕の知らない物が入っていたわけでもないし、武治の机も同様だ。


「ひょっとしてこれは僕たちを錯乱させるためのものでしかないのかな」


「そう考えてもいいのかもしれないな。多分深い意味もないだろうし、これについてはあれこれ掘り下げて考える必要もないとは思うよ」


「そうですね。でもそう考えたら少しだけ気が楽になったかも」


「はははっ、確かにそうだな。あんまりネガティブな考えばっかりしてるのも駄目だし、少しは気楽な考え方しないと滅入る」


「とりあえずは後でノートにまとめておいて、他のことを調べましょう」


「名案だな。それと…」


先輩は少し言い淀んだ。

僕から目線を外していたけど、すぐに視線を戻す。

何か言い辛そうな感じだった。


「あの…」


「浩人。これは多分俺の憶測だけど、あながち憶測だけで済むものでもないと思ってる。だから言わせてもらうよ」


少しばかり雰囲気を変え、凄く真面目な顔つきになっていた。


「多分俺たちの他にも必ず人は残っている」


「え!それって本当ですか!」


「ああ、確信ではないけどさ、今の俺にははっきりと分かるよ。何故かは浩人、お前が居たからだ」


「はい?」


サッパリ意味の分からない切り返しに、思わず僕は素の言葉が出てしまった。


「あれだけ大勢居たはずの町の人が跡形もなく消え、探しても見つけられなかった。それで実際半分は諦めていたんだ。けどさ、お前がここに居た」


「僕…が?」


「そうさ。こうやって実際俺とお前は出逢えたんだ。まあ…男と男だしこういった言葉を使うのもアレなんだが」


先輩はそこで真面目な表情を崩して苦笑いへと変えた。

確かにそんなこと言えば照れてしまうのも分かるけど。


「これが例え意図されたものだとしても、こうして二人がこの町に居る。これって偶然じゃないよな、それに不自然にも感じるんだ」


「そう言われれば…。妄想と言われるかもしれませんけど、こういうのって漫画とかゲームでも大体一人ぼっちですもんね」


「例え的にはそんな感じだ!話してみても個人的な接点といえばこの学校に通っていることだけ。それに初対面だったし、この私物の件に関してもお互いに共通性がない」


「そう!これには共通性はないですよね」


「この学校限定で縛られているのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ただ不可解なことばかりでも『俺は一人じゃない』ってことが確認できた。ってことは他の人間も十分に存在する『可能性』があるってことだよな」


「確かに!」


「感覚で思ってるだけだがこの理屈が正しいなら捜せば必ず見つかる。そんな気がしてならないんだよ」


「同じ境遇の人間が他に居た。共通性というものを考えれば、他に同じ身の上の人が居たとしてもそれはまったくおかしな話じゃないです」


「うん、俺の言いたいことはまさにそれなんだ」


先輩は頭も切れるし凄いと思える。

自分一人じゃこんなことまで考えられなかっただろう。


「お互い早朝にこの現象を体験したけど、捜したと言っても全部が全部じゃない。こんな短時間で捜せる場所なんてたかが知れているしな」


「ええ、町の全部を捜したわけじゃないですもんね。こんな状態だし僕らの他にも同じように捜し回ってる人がいるかもしれない」


「諦めたら駄目…なんだよな。無音状態だから声を上げたって、届く距離なんて範囲もたかが知れてる。遠く離れた相手が気付くはずもないし、同じようにこっちも気付きようがない」


「ということは先輩はこれからその人捜しをするつもりですか?」


「当然そのつもりだよ。仲間がいるなら多いにこしたことはない」


「仲間…」


「バスや電車だって動いてないし俺たちは簡単にこの町から簡単に出ることは出来ん。だからこの町から調べるしかないんだよ。二人居たってだけでも心強いことだが、情報を集めるためにも他に人がいるなら、なんとしても捜して情報を集め易くしなきゃならない」


「通信物が全部駄目になってる今じゃ、自分らの足で探していく他ないですもんね。その意見賛成です」


「町の外がどうなってるのかは分からないけど、ここだけこんなことになってるのならとっくに誰かが来ていてもおかしくないしな」


「そういえばそうですね。ってことは他の町でも同じようなことが…?」


話の流れでお互い気付いたことだが、これはこの町だけに限ったことじゃないのかもしれない。

実際かなりおかしなことになっているんじゃないだろうか。

少しだけ浮かれ気分になっていたけど、それはすぐに沈んでいってしまった。


「その線は濃厚だろうな…。こんなことが起きていればすぐ違和感に気付いて誰かが駆けつけてくる。それすらないのはこの町だけに限ったことじゃないということだろう」


「通信が遮断されているからヘリとかそういうもので誰かが捜索しに来てくれてもおかしくないですよね。あれから結構時間経っているし、普通ならもう着ていてもおかしくない」


「…いかん。この話題はひとまずここでやめておこう。悪い、折角気分が盛り上がっていたのに余計な事実が浮かんできてしまった」


僕の顔色が変わっているのに気付いてしまったのか先輩は話を切ろうと言い出した。

飛躍しすぎた話だが実際そうなんじゃないかと思うと怖くなってしまったのだ。

確かに僕らはとんでもない事に巻き込まれ、直面しているのは間違いない。

この町だけの出来事だと当たり前のように考えていたけど、実際はもっと危惧なきゃならない現実なのかもしれないのだ。


「憶測だけで町の外のことは今考えないほうがいいだろうな。今はまず自分たちが置かれた状況を把握することだ」


「はい…」


「しっかりしろ浩人!この状況はしばらく続くかもしれないんだ。お前が沈んでちゃ何も始まらないぞ」


「すみません…」


「不安になるなよ。俺たちはお互い助け合って行くしかないんだ。お前にもしっかりしてもらわないと」


先輩は肩を掴み、必死で励ましてくれる。

自分だって不安なのは変わらないだろうに。

余裕の表情は消えている。

そうだ、僕がしっかりしなきゃ。

先輩に迷惑ばかりかけてはいられない。


「大丈夫です。心配おかけしてすみません。でも僕も頑張りますから!」


「その意気だ!他にも仲間が見つかれば不安は少なくなっていく。見つかれば見つかる程、大きい力にもなるし助けにもなるはず。だからまずは捜そう、俺たちの仲間を」


「はい!!」


僕は力強く返事を返した。

人前でこんなに大きな声を出したのはいつ以来だろうか。

モヤモヤした不安はほとんど遠くに吹き飛んでいった。

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