四日目-9
全て個々の記憶の蓄積によって作られた世界。
共有する事実を作らなければ本人以外に中身は見えない…いや創り出せない。
唯が言っていた駄菓子屋の件、空き地の件。それに見知らぬ人の住居。そしてコンビニの雑誌…。そのどれもが全部当て嵌まる。
現実の世界で見ていないものは、この世界で具現化することは叶わない。
願っただけで全てが叶う世界ならば、それこそ夢の世界だ。
そもそも夢は曖昧なもので、こんなにもはっきりと世界の輪郭を保てるはずもない。
ここはあくまでも僕らの記憶を介して忠実に再現された空間。
記憶に刻まれているものは無意識で映像を創り出せるが、存在しないものを意識して生み出す事は出来ない。
「だったら…俺たちはどうやったら元の世界に還る事が出来るんだ…」
「そればかりは…分かりません」
「それに消えた山下さんやまみこちゃん…。あの人たちはどうしてこの世界から消えた?」
「現実世界で何かが起こった。それが目覚めによるものだったのか、あるいは…」
「くっ…じゃあ俺たちがここに来させられた原因は!?何で俺たちは目覚めない!?俺たちが選ばれた法則性みたいなものは!!」
「それはもう少しで何かが見えそうなんです。けど僕らが共通しているこの世界に来たあの朝、現実世界で何かが起きた…それだけは間違いありません」
「はははっ…そういうことだったんだな。道理で他の人間が居ないわけだ…最初から俺たち以外存在していなかったんだからな。これがこの世界のカラクリってことか」
これで町の不可思議な事件については解決、とまでは言い切れないが確証のようなものは得る事が出来た。
辻褄が合うのだから他のケースを考えたとしてもほとんどが無駄だろう。
僕たちが知っているものだけは存在し、見た事もない場所なんかは存在出来るはずもなかった。
こんな法則があったのだから僕らにとっては『誰かが意図的に仕組んだ』と見えてしまっていてもおかしくはない。
「俺たちが行った事のない場所はさっき入った民家のように空っぽになっている。そして見た事のない場所に存在するものは誰かの記憶で創られたもの…って訳か」
「そういう事でしょうね。僕らの記憶の断片が町の輪郭をかろうじて見せているに過ぎないんだと思います」
「病院に機材がなかったり、見た事のない部屋でも存在していたのは山下さんによる記憶のせいだったって訳か…。あの人だってずっと寝たきりだったし病院内全部の施設を把握出来なかった」
「馴染み深い場所ほど、違和感に気付きにくいでしょう。細かな場所のものも把握してしまってるし…何よりそんなだから些細な事にも気付き易いと言えるでしょうが…」
自宅や学校なんかはまさにそれを体現してしまう場所だった。
毎日気にする事もなくその景色を目に、脳に焼き付けている。
僕は立ち上がると無造作に隣の部室の戸を開く。
そこには僕は知らないがちゃんと部屋の内部には空間があり、色んな物が置いてあった。
「けどしっかり見てみるとやっぱり不自然ですよね?」
僕は先輩に向き直りながら確認してみる。
その部屋はサッカー部だった。




