三日目-17
嘘といえば山下さんだ。
先輩は疑っていたけど、話を聞いている分では足が動くという件は本当のように思えた。
こればかりは確証なんて得られない事だけど、僕は山下さんを信じる。
もし…もしもだ。山下さんが画策していた人間だというのなら、まみこちゃんを死に追いやる事は不可能。
疑いを持っていた先輩自身が、一夜ずっとあの子と過ごしていたからだ。
理屈で考えてしまうのならば、まみこちゃんという存在を消したところで僕らに与えられるのは精神的なダメージだけだ。
…多分まみこちゃんは本当に病気が悪化してあんな事になってしまったんだろう。
あの子を救えなかった事はいつまで経っても頭から消えることはないだろうけど、代わりに不可解な事実だけを残していってくれた。
それが消えたと言う事だ。
「…どう考えても意味が分からない」
まるで統一性のない不可思議な出来事の数々。
こんなものを統合して一つにまとめることなんて可能なんだろうか。
大きな事件と呼べるものがこれだけなら話は別だけど、他にも幾らでもおかしなところはある。
例えそれらを全部符合出来たとして、本当に見えるものが出てくるのか不安でならない。
唯の一件もそうだ。
何気ない会話の中に不可解なことが数多くあった。
空き地の件や駄菓子屋の件。
彼女はどこか僕たちとは違った雰囲気を持った人間だけど、それだけに僕らをからかっているんじゃないかと疑ってしまうようなところさえある。
正直唯は疑いたくない…。
彼女だって被害者なはずなんだ。
けど…彼女だけはまだ自分の言葉で語ってくれていない気がする。
水仙寺さんのようにこの現実を受け入れているようだし、だからなのかもしれないけど本心を聞けていない。
疑えば切りがないのも事実。
けど僕らは人の心なんて分からない。
本心では言えない事も、言葉で伝えただけじゃ完全に理解出来ない部分だって当然あるんだ。
誰にだって隠し事の一つや二つ、当然あるに決まってる。
「みんなも…僕の事を疑ったりしてるんだろうか」
不安が口を滑らせる。
誰も僕の事は疑ったような素振りは見せてはいないけど、内心は分かるはずもない。
「…いいや、今はそんな事を考えてる場合じゃない!いけないいけない…思考がズレてきてしまった」
あまりにも思い詰めて考え事をしていたからか、弱気な思考が浮き出て来てしまった。
僕は少し気分を変えるために屋上へと向かった。
屋上とを隔てる扉。
一般生徒でも許可なく出入りが可能なため、昼食時なんかはここを利用している生徒も多かった。
僕はその扉を開く。
「……………」
いつもなら開けた瞬間に風が吹き込んでくるはずなのだけれど、やはりそれはない。
「そうだ…この現象もおかしな事の一つ」
空気は存在しているはずなんだろうけど、風が吹かない。そして風を感じない。
動くものが居ないのだから当然風は吹かないという道理は分かるけど、人が居なくなったというのはたった三日前からの話だ。
天候だって変わっている。例え世界中から人が消えたとしても、そんな簡単に風が止むなんて事はありえないのだ。
歯車と同じで一度でも動けば他も一斉に動く、それと同じで簡単に全てが止まるものでもないだろう。
もしも完全…いや、体に感じられなくなるほど空気が穏やかになったのだと言うのなら、一体どれほどの時間が経ったのかと思えてくる。
僕は景色が見えるフェンスまで歩く。
一望出来る町の風景は、何も変わらない。
僕がいつも眺めていた景色そのものだ。
自動車すらも走らない道。誰も駆け回らないグラウンド。
音すら消えた世界で僕はここで一人ぼっちな存在だ。
「くそお…考えもまとまらなければ、ヒントらしいヒントも見つからない」
金網で造られたフェンスを軽く拳で殴る。
普段なら痛みなどない力加減だったけど、この前自分で自暴自棄になって怪我をした手だ。
その痛みで僕はその怪我の事を思い出した。
「あんなに酷く腫れていたはずなのに、もうほとんど治ってる。先輩の治療のおかげ…なのかな」
怪我の治り具合までおかしいと思う事はしなかったけど、痛みはしっかりと身に感じている。
何度も何度もこれが夢だったら…と考えたけど、この痛みが嘘ではないから嫌でも現実と認識させられてしまうのだ。




