三日目-16
僕はコンビニで食料を多めの調達して先輩と一旦別れる。
そして学校へと向かった。
学校という場所に何か予感があるわけじゃない。
けど自宅に帰っても今は何も得られない。
なら環境を変える事も必要だ。
学校へと続く坂道。
今は自転車があるため、きついと感じていたこの坂も随分楽に移動が出来る。
途中バッテリーが切れてしまったが、この前予備として先輩が渡してくれたものを持っていたために事無きを得た。
時刻は昼を回っている。すでに午後2時を過ぎていた。
僕は校庭のグラウンドに自転車を止めて、見学用のベンチに腰を下ろす。
そこで持ってきたサンドウィッチを手に、誰も居ない校庭を見渡していた。
「この現状になってからもう三日目か」
人が消えた。それも跡形もなく。
形跡…痕跡を残さずに消える、もしくは移動するなんて可能なんだろうか。
残された僕らは誰一人としてその事に気付かなかった。
世界はこんなにも静かだというのに。
不可解な音でもすれば、幾ら夢現だったとしても気付かないほうがどうかしている。
これはもう現実的に考えられない事だ。
親友である眞也の家に立ち寄ったときの事。
眞也の部屋は僕が知っている光景そのままだった。
けど他の部屋は空っぽだった。
それはまるで夜逃げしたかのよう。
家具なんかが綺麗サッパリ持ち出された…いや、最初から存在さえしていなかった様子。
山下さんの話。
あの人は自分の家が三年余りも空き家だったと言っていた。
それにも関わらず家屋に痛んだ様子も埃に塗れた様子もないと驚いていた。
誰かが手入れをしてくれたというなら話は別だったけど、身内の居ない山下さんの家を元のまま保ち続ける事を望む人なんて居るはずがない。
僕はサンドウィッチを平らげ、紙パックのジュースを飲み干した。
そして自分の教室に移動する。
音のない世界。
扉を開く音が妙に大きく響く。
予想を裏切らず、教室内にも誰も居なかった。
この教室の私物の件。
先輩から貸して貰った例のノートを見るまでもなく、僕はしっかりとその事を覚えている。
僕にだけ関連ある人間の物だけがここには残されている。
これは人為的なものと考えるのが妥当なんだろう。
先輩も同じだったが、僕とは少し違って知っている人間の私物も消えていたらしい。
僕と違って交友関係も広そうな先輩なら、見知った人間が把握しきれないのも無理はないと言える。
この不思議な一件は妙に人間臭いのだ。
僕は窓を開けて町の様子を見てみる。
ここから見る景色に変わりはない。
窓際の席でいつも眺めている光景と同じだ。
隣町の出来事を思い出してみる。
…まみこちゃんと水仙寺さん、あの二人と出会った場所だ。
水仙寺さんは人が居なくなった事を喜び歓迎していた。
自分だけの世界を手に入れたと、そう思っていたのだろう。
実際僕らが最初に会った時は、敵視したような感じだったし。
欲しい物を欲しいだけ手に取り、欲求を満たす。
それは自己満足なんだろうけど、僕らだって今や食べる物は彼女と同じ事をしている。
僕らは生きるためだと都合の良い解釈をしていたけど、水仙寺さんの事を決して責められるものじゃない。
みんな同じなんだ。
そうでもしなければ食べる事が出来ない。
だから水仙寺さんは人間らしい事を平然とやっていただけに過ぎない。
僕らは一人では無力なんだ。
先輩は怒っていたけど、人には色々な個人の考えってものがある。
「僕らも、水仙寺さんに町の外へ連れて行って貰えば…他にも何か分かる事があっただろうか」
まみこちゃんは出会ったそのときから体調は良くなかった。
それでも元気に走り回り、僕らを気遣えるような年齢じゃないし、あの元気さは空元気というわけでもなかっただろう。
喘息か何かの持病でも抱えていたんだろうか…。
今となってはそれを聞く事も叶わなくなった。
けど先輩はまみこちゃんの体が『消えた』と言った。
遺体が残らなかった…と。
これは現実的に考えられる代物じゃない。
先輩が嘘を吐いているとも思えないし、そんな嘘を吐いて自分を保護にしようとしているなんてのは、あのショックで打ちひしがれた様子を見ていれば明らかに違う。




