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三日目-15


「先輩だって気付いてるはずですよ。どうしたらいいかなんて分かるはずがないって事。そんな答え…僕にだって分からない」


「くっ…」


「…まみこちゃんは死んでしまったんだ。居なくなってしまったあの子に…どうやって許して貰う気なんですか?責任を取ると言ってもどうやって?しかも居なくなったあの子に何をどう見せるって言うんですか?」


「俺は…俺は…!!」


先輩の腕から力が抜けていくのを感じる。


「僕だってまみこちゃんが居なくなってしまったんだ。悲しくないわけ…ないですよ」


「浩人…」


「けど今は泣いてなんか居られないんだ…。僕らはこの現実と向き合って行かなくちゃならない。だから…僕は先輩にも早く立ち直って貰わないと困るんです」


「お前…」


「先輩だって大切な仲間なんですよ。自分でそう言ってくれたじゃないですか…。頼りにしている先輩がいつまでもそんなだったら…僕は一体誰に頼ればいいんですか!?ここにはもう…僕らだけしか居ないんですよ…」


僕にとって一番頼れるのは間違いなく瀬上先輩しか居ない。

そんな人が自暴自棄になった姿なんて見ていたくない。


「僕はまみこちゃんの事を忘れろだとか、責任を感じるなとまでは言いません…。けど、それを重荷に感じて苦しむ仲間を…放っておけるわけもないでしょう」


「…悪い。俺が…取り乱しすぎた…」


「いえ、先輩がそうやって悩むのも分かります。だから謝る必要はないですよ」


「すまない…俺の気が動転しすぎていたんだ…」


やっと、いつもの先輩に戻ってきた気がした。

僕は少しだけほっと胸を撫で下ろす。


「僕の方こそすみませんでした。でも先輩が沈んだままだと…僕も、みんなも辛いはずです」


「…そうだな。俺、山下さんにも酷い事言っちまった…」


「大丈夫ですよ。山下さんは怒ってなんかいません。むしろ心配していましたよ?」


「そうか…くそっ!俺ってやつは…」


別の理由で先輩は再び苦悩を始めたけど、いつもの先輩に戻ったのなら心配はないだろう。


「明日、謝りに行きましょう。山下さんなら絶対に許してくれるはずですから。もちろん僕も一緒に行きます」


「…ああ、すまないな」


「あと先輩。落ち着いてくれたようなので話しますけど、まみこちゃん…本当に死んでしまったんでしょうか?」


「何!?どういうことだよ!?」


「ちょ…落ち着いてくださいってば!これは先輩が自分で言った事ですよ?まみこちゃんの体が…消えたって」


「…そうだ。あの子の体…消えたんだよ」


「落ち着いて、ゆっくり聞かせてください」


「ああ。あの子は呼吸器を捜してる最中に…息を…引き取った。それで俺は咄嗟にAEDでの心臓ショック療法を思いついた。浅知恵だけど、もうそれしか手はなかったんだ」


「…それで?」


「俺が機械を手にまみこちゃんの元に戻ると、あの子の体が…なんかどんどん薄くなって行ってたんだ…。最初は目の錯覚なのかと思った。けどな、寝かせてたベッドまでもが体を突き抜けて透き通って見えてきた…呆気に取られて機械を使う事も出来なかったんだ…」


「人の体が透けていくなんて…どう考えてもおかしい」


「俺が呆けている隙に、まみこちゃんの体は完全に消えちまっていた。俺はもう何が何だか分からなくなったんだ…それでそこからの記憶があんまりない…」


先輩は見た事体験した事を切実に語ってくれた。

そのときの記憶で光景が蘇るというのに…。


「その話が本当なら、まみこちゃんは死んでしまったとは言えないかもしれないって事ですね…。僕の勝手な思い込みかもしれませんが」


「確かにあの子の体は存在ごと消えた。けどその直前に息を引き取ったのも事実だ…」


「…先輩。僕らは多分、自分らに都合の悪い出来事や話は考えないようにして、都合の良いように解釈してきました。それは先輩も同じですよね?」


「そう…なのかもしれないな。ありえない事は見て見ぬフリをしていたのかもしれない」


「だからもう逃避するのはやめましょう。この状況は明らかにおかしい…現実とは掛け離れているんですよ」


僕は…汚い人間なのかもしれない。

こうやって先輩を同じ土俵に連れ込もうとしている。

自分一人だと怖いから…逃げ出したくなるから、先輩という仲間を引き入れる事によってそれを和らげようとしている。

けど、それでもいい。

僕は…僕らはいずれは向き合わなければならない事なのだから。


「俺たちはあの日から、何かが狂ってしまった」


「そうですね…あの日、目覚めた瞬間から」


「これは夢なのか…もしくは何者かが画策している事なのか」


「今言える事はそのどちらか、という線が濃厚かもしれません」


「はは…どっちにしたって、認めたくねえ現実だな」


「そうですね…どちらにしても悪い冗談ですよ」


現実的に考えるのか、非現実的に考えるのか。

このカラクリを知ることこそ、最終的に人が消えた理由にも繋がるはずだ。

ただその糸を手繰り寄せるためには容易な事じゃないような気もする。

夢だと過程するならば、僕らが痛みや味覚を鮮明に味わえる事に違和感が生じる。

現実だと過程するには余りにも不可解な事が起き過ぎている。

今の段階では八方塞がりだ。


「今日はこんな事が起きたばかりです。難しく考えていくのは明日からにしましょう」


「いいのかそんなんで?」


「先輩だって精神的に疲れてるはずですよ。いや、違うな。僕が正直少し休みたいかも…」


「ははっ、素直だな。けど、お前の言う通りだよ」


先輩はようやく少しだけ表情に綻びを見せてくれた。

でも、今あれこれ考えたところですぐに結論なんて出るはずもない。

そもそも見つけられる保障だってないんだ。

けど整理をしていけばきっと…。

今何が起きているのか、僕は…必ず突き止めてみせる。


「頭の整理が多分必要になります。だから今日は先輩も休んでください。精神的に参ってしまったらそれこそ駄目だと思いますから」


「…ああ。そうだよな」


「僕は今日学校に泊まろうと思っています。あそこならもう少し手掛かりが見つかるかもしれないし」


「学校か。町の様子を見るには格好の場所でもあるからな。見晴らしもいいし」


「はい。多分僕は自分の教室か屋上なんかに居ると思います。何かあったらそこに来てください」


「分かった。またおかしな事見つけたらそこに行く」

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