三日目-12
コンビニから徒歩で十五分程の距離。
木造の古い家。
塀まで木の柵で覆われていて、完全に昭和時代から建っているといった印象の家だ。
大分ガタが来ているらしく、玄関の扉も立て付けが悪く開くのに苦労した。
今時横開きの玄関なんてそうは見ない。
僕は山下さんを寝室に連れて行くと、敷いてあったままの布団へ寝かせた。
「ありがとう」
「いえ、山下さんも無理せず自分の体の事も気遣ってください」
「はは…頭が下がる思いじゃな…」
僕は正座をして山下さんの枕元に座った。
質素で貧しい印象を受ける寝室内。和室なためか床は当然畳だ。
しかし部屋には無駄なものが何も置かれてはいない。
唯一あるのは大きな仏壇だけだ。
「大丈夫ですか、痛みは?」
「ああ…大丈夫じゃよ。神経痛か何かじゃろうか?よう分からんが、いきなり激しい痛みが昨日から続いての…」
「昨日無理したからじゃないんでしょうか?」
「いや…歩くには歩いたが、背中など痛めた覚えもないわい。時間と共に痛みが増しよるが、大丈夫じゃわい、はっはっはっ」
山下さんは表情こそ平常を保っていたけど、実際相当辛いのではないだろうか。
「仁君は大丈夫じゃろうか」
「先輩ならきっと大丈夫ですよ。普段は凄く頼りになるし、今はまだ自分で責任を負ってしまってるんだと…思います。そういう人だと思うから」
「なるほどな…彼は誰よりも責任感が強そうじゃ。全部一人で抱え込まなければいいのじゃが…」
「心配要りませんよ!僕も先輩の力になるつもりですし、絶対立ち直らせてみせます」
「君たちは良い友達なのじゃな」
「ええ…まだ出会って三日ですけど、先輩とはもう旧知の仲みたいな感じですから」
僕は笑って見せた。
自分で思っているだけで先輩の方は違うかもしれない。
けど僕の言葉は本心から出た言葉だ。
先輩とはずっと上手くやっていける。そんな自信もあった。
「…山下さん。聞いていいですか?」
「何をじゃ?…遠慮は要らん、何でも聞いてくれ」
「その足…本当に違和感もなく動かせるんですか?」
「ああ…その話か。うむ、今までずっと頭で思っていても動かせなかったのが半身不随という怪我じゃ。けど今はその頭で思った通りに足は動く」
「完全に怪我が治っていると。なら痛みとかはどうなんです?」
「元々怪我自体は治っているのでな、この足なら痛みは感じてもおかしくはないはずじゃ。だが不思議と痛みだけは感じないの。つねっても叩いても麻痺したときのままのものじゃよ」
痛覚はない…か。
また一つ、山下さん自身から『不思議』という言葉を聞けた。
「なるほど、痛みは感じないけど動かすことは出来る…と」
「そうじゃな…考えてみれば君が疑うのも無理はない。こんなものはなった当人しか判断は出来ないものじゃからの」
「すみません…」
「じゃが動くのも不思議な話じゃが、リハビリもなしですぐに歩けたことも不思議じゃよ」
「そうですね、何故なんでしょう」
「普通は三年も筋肉を使っていなければ、間接部分も硬直していてとてもじゃないが膝が曲がらんはずなんじゃ」
「そういえば…!筋肉って一週間も使わないともう硬くなってしまうんですよね」
「うむ。じゃが私の膝は曲がる。まるで最初から硬直などしていなかったようにな…。私は車椅子の訓練もしていなかった。じゃから医者も膝を曲げるリハビリを勧めてはこんかった。曲がるはずがないんじゃよ…こんなに簡単にの」
「……………」
山下さんの体は自分の体ではないのだろうか?
そんな事さえ思い浮かべてしまう。
山下さんの事に関しては、全てが不可思議で常識から掛け離れている事ばかりだ。
自身が『奇跡』と言ってしまっていたのも頷ける事柄だ。
「山下さんはここ数日でおかしな体験や、他に不思議と思った事はありませんでしたか?」
「体験…か。墓参りに出掛けただけで、他はどこにも出歩いていなかったからの。しかし不思議と言えばこの家の事なんじゃが…」
「き…聞かせてください!」
「う…うむ。この家は妻が亡くなってから三年くらい空き家同然だったはずなんじゃ。私も病院で入院したっきりじゃったからの。浩人君はこの部屋を見て気付く事はないかの?」
「え?そう…ですね」




