三日目-10
薬局に辿り着くと僕は手当たり次第に薬を探した。
やはり強い薬はなかったけど、安定剤の部類と言える安眠剤というものが置いてあったのでそれを手に取る。
取説を見ると気分を落ち着かせ睡眠を誘う薬のようだ。
多分、これで大丈夫…だろう。
それを何個か持ち帰り、コンビニへと戻る。
先輩が早まった真似をしていないか心配だったけど、杞憂で済んだようだ。
項垂れたようにして座り込んでいる。
「山下さん、これでいいでしょうか?」
「安眠剤か…うむ、こんなものでもあるないでは大違いだ。睡眠を促すものだが精神を沈める効果もあるし十分じゃ」
「先輩…」
疲れ切って精も根も尽き果てた。そんな言葉が合ってしまうくらい疲弊した様子。
僕は水のペットボトルと薬を先輩に渡す。
最初は要らないと言って何度も突っぱねたけど、僕は無理矢理にでも薬を飲ませた。
落ち着いている状態ではあるから薬は必要なかったのかもしれないけど、やっぱり先輩には早く元気になって欲しかった。
「浩人君」
「はい、なんでしょうか?」
山下さんが申し訳なさそうに僕の名を呼んだ。
「…本当にすまなかった」
「いえ…山下さんのせいじゃないですよ。誰のせいでもないんです…だから自分を責めないでください」
「すまん…」
山下さんは心底傷心した様子だった。
孫が出来たようだと大喜びしていたんだもんな…悲しいわけがない。
あんなに…昨日まであんなに元気に走り回っていたのに。
何でこんな事になってしまったんだろう。
「…うぐっ!」
「山下さん!?」
突然山下さんが片膝を突いて悲痛な表情を曝け出した。
「どうしたんですか!まさか…先輩に…」
「いや、違う!…さっきも言ったが昨日から妙に背中が痛むんじゃよ…けど大丈夫じゃ」
口では虚勢を張るように大丈夫と連呼しているが、その顔は本当に辛そうだ。
「座っていたほうがいいですよ!無理をしないほうが賢明です。そうでなくても病み上がりなんですから」
「だがな…私はまみこちゃんの遺体を…見届けてやりたいんじゃ。病院へ行かねば…」
「けどそんな体じゃ…ってまてよ?」
さっき先輩はまみこちゃんが消えたって言ったはず。
あれはどういうことなんだ?
「山下さん。今日はやめておきましょう。…先輩もおかしな事を言ってましたし、今は自分の体を大事にしてください」
「浩人君…ありがとう。けどな、仁君だけにこんな辛い思いをさせるわけには…」
「先輩は言ってました。まみこちゃんは消えたのだと…」
「それは…仁君が錯乱して言っただけじゃろう」
「いえ…山下さんは分からないかもしれませんが、僕には先輩が嘘を言っているようには思えません」
そうだ。いくらまみこちゃんが死んでしまったとはいえ、ここまで錯乱するなんて常識外の事もあったからに違いない。
確かにまみこちゃんの事は悲しいし、やるせなさだけが残っている。
けれどおかしな出来事は今に始まったことじゃない。だから先輩の言っている事も多分…本当の事なんだ。
「そんな馬鹿な…人が消えてしまうなどど、ありえることではない!」
「…では聞かせてください」
僕は一呼吸を置くと、山下さんに向けて目を真っ直ぐに見つめる。
「山下さんは、本当に下半身不随…だったんですよね?」
「あ…ああ、そうじゃ。だがそれとこれとは…」
「それが狂言…嘘って事は誓ってありませんか?」
「浩人…君?」
「答えてください」
「…うむ、信じて貰えるかは分からん。だがこれは本当のことなんじゃ…」
言葉に覇気はなかったけど、山下さんは目線を逸らさなかった。
多分…嘘は言っていない。
「だったら先輩の言った事も理解出来るでしょう?僕が確かめたかったのはそういう事ですよ」
「理屈で片付けられない非常識を、すでに私は認めている…か。確かに…仁君の話も、嘘という言葉では片付けられる事柄ではないの…」
「それが分かって貰えたなら今は無理しないでください。山下さんだって僕らの立派な仲間なんですから…」
「浩人君…」
山下さんは急に涙を流した。
責任感というものから開放されたからなのか。
大人とか子供とか関係ない。大切だったものを失ったから流される涙。
子供のようにむせび泣いていた。
「まみこちゃんや…すまん…すまんかった…」
「…山下さん」
僕は泣き崩れる山下さんを見ていられず背を向けた。
今貰い泣きをしてしまってはいけない。今僕がここで泣いてしまうわけにはいかないんだ。
僕はこみ上げてくるものを必死で堪えた。
一人にしておいてあげよう…。
僕はもう一人蹲ったままの唯の元へ歩み寄る。
「……………」
「唯、大丈夫かい?」
顔を膝で埋めているため表情は見えない。
けど小さく彼女は頷いていた。
話はちゃんと聞けているようだ。
「…まみこ…ちゃんは、本当に…死んじゃった…の?」
「ああ…多分」
「…そう」
「悲しいかい?」
「…うん」
僕らがまともにあの子と触れ合っていたのは一日にも満たない時間だっただろう。
けどここに居るみんなは全員心を痛めている。
もちろん僕だって同じだ。
僕らは歴とした『仲間』だったんだ。
小さい子供だからとか関係ない。
それだけ僕らがあの子を必要としていた証拠だろう。
「唯、今日はもう休んだほうがいい。立てるかい?」
「…大丈夫」
「家まで送るよ」
僕は手を取って立たせる。
唯はいつも無表情だったけど、それでも明らかに沈んでいるというのがその表情から見て取れた。
僕は先輩を見る。
安眠剤が効いているのか体操座りをして顔を埋めたまま動かない。
ひょっとして眠っているのかもしれない。
山下さんは顔を両手で覆って座り込んだままだ。
「唯、行こう」
「…ありがとう浩人」
僕はコンビニに二人の男を残したまま、その場を去った。




