三日目-9
頭を抱えたまま座り込んでいる瀬上先輩。
膝に顔を埋めたまま微動だにしない唯。
その様子を無言で見詰め続ける山下さん。
僕は脱力したままその場にへたりこんで、足に力すら入れることが出来ない。
重苦しい雰囲気。
先輩が黙り込む前に放った一言が、全てを闇に包んだのだ。
やがて僕の前に立つようにして先輩との間に割り込む影が見えた。
「山下…さん」
僕の方を向いているわけじゃなかった。その顔は先輩の元へと向けられている。
「仁君…すまなかった。私が…私がもっと早くここに来ていれば…」
山下さんの謝罪の言葉。
それを聞いてかようやく先輩は顔を上げた。
「っ!」
その顔はもう言葉になんて出来なかった。
全てを憎んだような表情。
目付きは鋭くまるで刺すようとはこういう事を言うのだろうか。
睨むといった表現だけでは事足りない。
これは…殺意だ。
「仁君…すまない…」
「あぁ!?…今更何謝ってんだよ…」
「許してくれなどと言うつもりはない。私は君たちに協力すると言っておきながら、協調性に欠ける行動を取ってしまっていた…」
「そうさ…俺言ったよなぁ?助け合うためにこうやってグループにしたってよぉ!?」
もう聞いていたくない。
そう思えるほどのドスの効いた声。
その声だけで人を殺傷してしまうんじゃないか。
これがあの先輩だなんて信じられるはずがない…。
「なのにアンタは毎度何だ…?昨日もそんで今日も…だ。大事なときに限っていねえ…。アンタなんだろう?俺たちをハメて何か企んでいるってのはよぉ!!」
いきなり組みかかるように山下さんの襟首に掴みかかった先輩。
これはまずい。
僕はその現場を見てようやく立ち上がることが出来た。
そうだ、こんな事止めなくちゃ行けない!
「先輩!止めてください!」
「浩人は黙ってろ!!こいつが…全部コイツが企んでるんだ!!」
「いいんだ…浩人君。仁君の好きにさせてやってくれ…これは私が原因で起こした…ようなものだ」
「何を言っているんです!そんなの許せるはずがないじゃないですか!山下さんまで自暴自棄になったら…僕らはこれから一体どうしたらいいんですかっ!!」
山下さんは目を合わさない。
それは僕じゃなく先輩に対してのことだ。
「先輩も…いい加減にしてください!山下さんがそんな事するはずがないって自分でも分かってるはずでしょう!」
「うるせぇ…浩人…お前もグルだったのか?みんなで俺を…ハメて面白がってんだろ!!」
「せっ…先輩…!」
「あの子は…苦しんで死んでいった…。れだけじゃない…それだけじゃないんだよっ!!」
先輩は自分で肩を抱くようにして再び蹲った。
怯えている?何故…?
「確かに…あの子は息を引き取った…。けどさ、けどなぁ!!あの子の体…透明になっていって…消えちまったんだよ!!」
「消えた!?まゆこちゃんの体が…!?」
「仁…君。それはどういう…」
「知らねえよ!俺だって分からねえんだ!けど死体も残らずに…消えちまったんだよ!」
先輩は頭を抱えて突然叫び出した。
「いかん…浩人君。薬局に行って神経安定剤を持って来てくれんか!このままでは仁君が…」
「精神安定剤…それは薬局なんかにあるものなんでしょうか?」
「劇薬類は当然薬局にはないが、類似したものならある!気分を落ち着かせるものなら何でもいい」
「わ…分かりました!すぐ行って来ます!」
すぐに自転車に乗って僕は走り出そうとする。
呻いている先輩を抱えるようにして付き添う山下さん。
「山下さん…先輩をお願いします」
「うむ」
「それと…馬鹿な事は考えないでください。くれぐれも…」
「…ああ」
僕は不安を解消しきれないまま薬局へと走った。




