三日目-8
あれから二時間が経過した。
僕は今コンビニ前へと戻り、力なく座り込んでいる。
山下さんの姿は結局見つからなかった。
どこをどう捜しても、あの人は居なかったんだ。
こんなときになんだって携帯は使えないんだろう、何だって医者が消えてしまったんだろう。
たら、れば。そんな無意味な事ばかりが脳内に羅列している。
先輩はどうしただろう。まみこちゃんは無事だったんだろうか。
気が気でならない。けど、臆病な僕は先輩だけに任せて今ここに居る。
自分で見に行く勇気もない。
唯もずっと無言を貫いたままだ。場の空気を呼んでのことじゃあない。彼女も僕と同じ心境なんだ。
僕らは一言も会話をしていなかった。
どのくらいの時間そうしていたのかは分からない。
ただその空気を打ち破ったのは、暢気な口調で話しかけてきた人物によるものだった。
「おぉ、お前さんがた、ここにおったのか。真っ先に来て正解だったようじゃな。夕べから何故か背中が痛くてのう…どうなってしまったんじゃ」
「山…下さん」
「どうしたんじゃ…その顔は」
何を口にすればいいのか分からない。
自分でも整理が出来ないんだろう。
けれど僕は事実を伝える。
どんな顔をしながら言葉を口にしたのか想像も出来ない。
「なんじゃ…と?」
「…今、先輩が病院に行っている…はずです」
「馬鹿な…昨日あれだけ元気だったまみこちゃんが…」
「今からでも遅くないです、行きましょう…病院へ」
「ああ、分かった!すぐに向かおう」
「唯は…どうする?」
僕は押し黙ったままの唯に尋ねてみる。
このまま彼女だけ無視して行く訳にもいかない。
「私は…いい。ここに…居る」
「そっか…じゃあ僕らだけで行って来るよ。留守番、頼むよ」
「……………」
唯は返事をしなかった。
目も合わせようとせず下を向いている。
「唯ちゃん…」
山下さんはしばらくの間動こうとせず、そのまま唯を見つめていた。
どうしてそんな事をしているのか、僕にはそれが分かった。
だからもう、山下さんを責めることなんて出来ない。
「じ…仁君!」
「先輩!?」
山下さんの声で振り返ると、確かに瀬上先輩の姿が見えた。
けれど何故か自転車ではなく徒歩だ。
「先輩!まみこちゃんは…まみこちゃんはどうだったんですか!」
駆け寄ろうとする僕の肩を突然山下さんが強く掴んだ。
「いたたっ…山下さん何を…」
山下さんは無表情なまま、首を横に振った。
意図を読めとでも言うのだろうか。
僕はゆっくりともう一度先輩を見た。
「っ!」
なんてことだ。
精気のない顔。
先輩の表情はまるで死人のようだ…。
ふらふらと覚束ない足取り。
自分で歩いているといった自覚さえないようにも見える。
そんな様子を探るよりも、戻って来たのは…先輩一人だけじゃないか…。
「そんな…」
先輩は僕らの前まで歩いて来たかと思うと、目と鼻の先まで来てようやく僕らの存在に気付いたようだった。
「あー…浩人かー」
「せん…ぱい?」
「仁君」
「ん~?はははっ、あの子なら…死んだよ」
絶望の言葉。
僕の目の見開いているというのに、真っ暗な闇に包まれた。
まるで目を何かで貫かれたような感覚。
痛みも何もない、けれど見えない何かに打ちひしがれた感覚。
僕の二つの膝はいつの間に崩れてしまったのか、冷たいアスファルトの上にあった。




