三日目-4
「唯。僕は正直…怖いんだ。この現状が…何で町から人が消えてしまったのか…」
「浩人…」
「どうなっちゃったんだ本当に。さっき僕の友達の家に行ったんだけどさ、家の中が空っぽだったんだ…それでもう訳が分からなくなって取り乱した」
「…混乱しちゃったんだ」
「うん。どこかおかしいんだよ…この町。唯は…おかしいとは思わないのか?」
「…私はこの静かな町が好き。ただ…それだけ」
「唯…」
彼女の答えは決まってそれだった。
僕と違って人が多く存在することを拒んでいるかのようにも感じる。
むしろこの状況を肯定的に考えている辺り、水仙寺さんと同じような考え方をしているのかもしれなかった。
「僕らは二日前この状況に置かれた。僕らが寝ている間、外で何が起きていたのか気付くこともなく人が消えたんだ。唯は…その部分で気付いたことはなかったかい?」
「…ううん。私も目が覚めたら…人が居なくなっていたから…。何が原因でこうなったとか…さっぱり分からない」
「唯も同じなのか…先輩も同じだったし、山下さんもあの様子では気付いた素振りもなかった。幾ら寝ているとは言え、誰にも気付かれずにあれだけの人間が町を離れられることって可能なんだろうか」
「…浩人。多分…町の人たちはもう…帰ってこない」
「何だって!?何でそんなこと…」
突然の唯の言葉に僕は声を荒げてしまった。
けれど彼女は驚いた様子もなく、池を眺めたままだ。
「浩人の言う…理屈とかは分からないけど、私にはそんな気が…する」
「駄目だよ」
「え?」
「諦めたら駄目だ!僕は信じてる!絶対…みんな帰ってくるって…」
「私は…帰ってこなくたって平気…。だって…この状況が…大好きだから」
「嘘だ!何でそんな事を言うんだよ…みんなと居るときの君は…楽しそうだったじゃないか!あれはそう思わせているだけの演技だって言うのかい!?」
「浩…人?」
僕はいつの間にか立ち上がって彼女の見下ろしていた。
許せないから怒っているわけじゃない、ただ唯の口からそんな言葉を聞きたくはなかったんだ。
「僕は先輩と居るときも…山下さんやまみこちゃんと居るときだって楽しいよ。そして唯…君と居るときだって凄く楽しい…嬉しい気分になるんだ」
「私は…」
「頼むからそんな事だけは言わないでくれよ…。僕らはあの日常に戻らなきゃいけない…こんな事態いつまでも放っておくわけには行かないじゃないか!」
唯は言葉を殺しているのか少し震えていた。
顔を沈めているため前髪で目が隠れ表情が見えない。
けど今は…唯がどんな事を思っていようと、自分の気持ちに嘘は吐けない。
「今はいいかもしれない。けど…近いうちに僕らはきっと大変な状況に追い込まれる。人ってさ、やっぱり一人で生きては行けないんだよ」
「それでも私…は…」
「僕らは助け合って行かなくちゃならない。本当に…人が戻ってこないのだとしたら…尚更だよ」
気まずい空気が流れる。
けど言っておくべき事は言わなければならない。
相手にしっかりと自分の意図を把握して貰わなければ、伝わることは永遠にないのだから。
「…同じなんだね…あの人たちと…」
「何…だって?」
「浩人も…自分が…大切なん…だ」
僕は絶句した。
違う…僕は…そんなんじゃない!
高ぶりそうになる声を必死で堪え、僕はその余分な感情を拳に籠めた。
落ち着け、唯だって本気で言っている訳じゃない。
ここで声を荒げても何も意味はないんだ。
「違う…違うよ唯」
「違わない…よ。浩人は…違うと思っていた…浩人だけは…」
「確かに、僕自身も大事だよ…それは否定したりはしない。けどね」
僕は唯の肩に触れた。
「唯の事だって心配なんだ。大切なんだよ…」
「…浩人」
「もしも…唯の身にも何か起こったら…僕はどうすればいいんだい?僕はどうしたらいいんだ!?居なくなったら…悲しいに決まってるじゃないか!だから僕は…」
言う事を躊躇っているんじゃない。
そんな事を想像したくないんだ。
みんなまで本当に居なくなってしまったら…なんて事、考えたくもない。




