三日目-2
「眞也…」
友人眞也の自宅前に僕は居た。
消えた親友の一人。
今頃どうしているのだろうか?
僕の足は玄関へと向いていた。
扉を開けようとすると、それは難なく開いた。
鍵が掛かっていない。
躊躇うことなく家の中に入って行く自分の足。
玄関には靴がなかった。
僕はその綺麗に片付けられた空間に、自分の靴を脱ぎ上がりこむ。
「ここが眞也の部屋」
何度も遊びに行ったこともある。だから中はどうなっているか知っている。
けどそのドアを開ける事を少し躊躇ってしまう。
まさか親友がベッドで倒れているんじゃないか。
「そんな事…あるはずがない」
僕は決意してそのドアを開けた。
中は想像通りの風景が広がっていた。
前に遊びに行ったときとなんら変わりはない。
大きなテレビと高価なゲーム機。いつもそれで遊んでたっけ。
好きなプロ野球選手のポスターと、アニメキャラのタペストリー。
そんなものが壁一面に貼られている。
僕は安堵した。
けど少しだけおかしな部分に気付く。
部屋が綺麗すぎるのだ。
いつも服や物なんかが散乱していて、『片付け』とは無縁な不精な男。
その部屋が小奇麗と表現するに適した空間になっている。
床には何も余計なものが転がってはいなかった。
「眞也…どこへ行っちゃったんだよ…。元気だけが取り得のお前だったのに」
親友のプライベートな空間。
さすがに友達とはいえ、棚や引き出しを開けるという無粋な事は出来なかったので退出する。
「…はぁ」
ドアを背に僕は一息吐いた。
こんな事をしていても無意味だと自分でも分かってはいるんだ。
けれど確かめて行かなくては何も始まらない。
現実を…直視して行かなきゃ何も得ることは出来ないし、受け入れて行かなければ真実には辿り着けない。
僕は一階へと降りた。
何気なしに他の部屋に入ってみる。
自分の家には手掛かりがなかったけど、他の家ならば…。
「え…」
眞也の家のリビングに入った僕は足を止めた。
そこには何もなかった。…なかったのだ。
家具と呼べるもの一切が!
「どうなってるんだ…」
確かにリビングに入ったことはないから分からなかったけど、物が一つも置いてないなんて…ありえるのか?
台所に行ってもガスコンロや水道もない。
存在するのはただの真っ白な床だけだった。
完全に人が住んでいないという証。
これはまるで夜逃げしたかのような…。
他の部屋も見回ってみるが当然と言わんばかりに何もなかった。
「いや…いやいやいや!眞也の部屋だけは普通に物が置いてあった…そんなはずはない!」
もう何がなんだか分からない。
言い様のない恐怖が全身を貫く。
まさか、この町の人たちは自分たちの町を捨ててどこかへ行った…とでも言うのか?
僕が寝ている数時間の間に。気付かれないように。
「いや…眞也が…僕を騙して隠していたとしたら…」
目眩がした。
町ぐるみで僕らだけを出し抜いて消えたと演出したとでも言うのか!
馬鹿にしてる!
いや、馬鹿なのは僕のほうなのかもしれない。
落ち着け…冷静に考えろ!
自分の家族だって消えたのは同じなんだ。そんな騙していた、隠していた兆候なんてこれっぽっちも見えなかった。
「分からない…分からないよ…」
考えたところで糸口すら掴める気なんてしなかった。
僕は眞也の家を飛び出す。
とにかくもうあの家には近付きたくない。
誰でもいい…誰か、僕の前に姿を現してくれ!
僕は駆けた。
自分の足音だけを打ち鳴らすコンクリートの音だけ発しながら。
やがて僕は公園に居た。
息を切らせて肩で呼吸をしている。
膝に手を突きながら顔を上げる事が出来ない。
きっと全速力だったのだろう。自分でも気付いてさえいなかった。
呼吸を整え顔を上げるとそこに広がっていたのは大きな池だった。
「ここは…唯と出逢った…」
なんの気なしに首を右へと傾けた瞬間、僕の心臓が跳ねた。
視線は『そこ』に向けて釘付けになったのだ。
「居た…」
僕の足は再び活力を取り戻し稼動した。
「唯っ!」
「浩…きやっ!」
何も考えてはいられなかった。
僕の二つの腕は彼女の背中を包み、その温かさを感じている。
「浩人!?」
「唯…唯っ!」
彼女の表情は見えない。
けどそんな事はどうでも良かった。
後で叩かれてもいい、突っぱねられてもいい。
それでも僕はこの喜びを自分自身に伝えてあげたかった。
「どう…したの?」
僕は口を開かない。いや、開けないのだ。
返事をしたいのだけれど、言葉が上手く喉から上がって来ない。
嫌がっているだろう唯は何故か僕の体を引き剥がそうとはしなかった。
「浩人…」
唯は僕の背中に腕を回す。
そしてその背をゆっくりと撫でてくれる。
「浩人の体…温かい…ね」
「唯…」
僕らはそのまま数分抱き合ったまま池の畔で過ごしていた。




