二日目-5
僕らはやっとの思いで集合場所であるコンビニに戻った。
先輩から借りたノートに今日の出来事を書き込んでおく。
焦りから安心に変わると、僕らは二人揃って溜め息を吐き出した。
それは長い長い溜め息だった。
しばらくすると唯が現れた。
のんびりと歩いてまるで自分だけは蚊帳の外といった具合に、緊張感すらない雰囲気を漂わせている。
僕らの暗い表情を見るなりいきなり『お腹痛いの?』だもの。
本当にマイペースだ。
けどそれだけに安心してしまう僕が居た。
唯にはすぐにまゆこちゃんを紹介する。
彼女は人見知りをしないからか、すぐに唯にも懐いたようで安心することが出来た。
疲れたのか今はコンビニの壁を背に、眠ってしまったようだけど。
「さて、俺たちも飯でも食うか」
「そうですね。けどコンビニ弁当ばかりで飽きませんか?」
「確かに飽きてはきた。けど今はもう動く元気がないし、今回は我慢して食おう」
「…それもそうですね」
「コンビニのお弁当…おいしいよ?」
「ああ、分かってるって」
先輩は唯のペースに付き合う気がないのか、すぐに流して店内に入って行く。
唯と居ると妙な安心感はあるけど、今は確かに付き合う気にはなれない。
僕も先輩に続くように中に入ったけど、唯も退屈なのか後に続いた。
「おい浩人」
「はい、どうかしたんですか?」
中に入るなり先輩が呼びかけてくる。
「この弁当…確か食い切らなかったか…?山下さんも食ってた気がするんだが」
「これって彩り弁当ですよね」
何気なしにコーナーを見回していると、明らかにおかしな違和感に気付いた。
「弁当とかが全部補充されてる…」
「まさか!そんなわけ…って何だこりゃ!日付けまで最近になってるぞ」
「ええっ!?そんな馬鹿な!」
僕たちは全部の弁当の日付を見て回った。
しかし日付は今日の午前3時の入荷時間となっている。
つまりその時間に補充されたという事だ。
「どう…なってんだ…。次から次へと…もう訳がわからねぇ」
「誰が補充したっていうんだ…」
僕らは弁当を手に持ったまま唖然としていた。
すると唯が僕の背後から覗き込んできたかと思えば、いきなり意味の分からないことを口走った。
「お弁当…毎日補充されてるよ…」
その言葉で僕らは更に放心状態にと陥った。
僕らは空調の効いた店内で座り込み弁当を食べている。
すぐに言葉の真意を確かめたかったけれど、相手はこの唯である。
そうそう上手く行くはずもなく、僕ら二人は顔を見合わせては相談しながら質問していた。
「それでどういうことなのか知ってるなら教えてくれないか?」
「…私、それしか知らない」
「でもさ、じゃあ誰が補充したのか…それも分からないっていうのかい?」
「いつもここ…に来る度に、同じ物が補充…されてる。他のことは…私知らない」
「う~ん…」
僕ら以外誰も居ないはずの町。
そもそも補充云々言う前に、誰がこの弁当を作っているのか。
唯が嘘を言ってるようにも見えないし、嘘を吐いているとも考えられなかった。
「おね~ちゃん!」
「まみこ…ちゃん。うん、今行く…」
「あ!ちょっと唯!!」
僕が止めるのも聞かずに唯はまゆこちゃんの元へと行ってしまった。
というかもう目が覚めたのか?元気だ…。
「先輩…どう思います?」
「俺に振るか?分からん、俺に分かるはずもないよ」
「ですよね」
「しかしこの弁当、急に美味いと思えなくなったな」
「あ…それは確かに…」
僕らは溜め息混じりに箸を下げた。
急に得体の知れない物を食べているんじゃないか?という疑念が湧いたのだ。
味は変わらない、別に毒が入ってるわけでもない。
けれど正直気分が良いものではなかった。
「はぁ~…何だか今日もすでに色々ありすぎて気が休まる暇がないな」
「そうですね…何があったとしても昨日ほどの衝撃というか…おかしな事起こるはずがないと思ってました」
「まさかとは思うが、厚川のやつが俺たちをハメようとしてるんじゃないだろうな…」
「それはない、と思いますよ。だってこの事を僕らに伝えたのって唯の口からですし」
「分からないぞ?この中の誰かが俺たちをハメて弄んでいるのかもしれん。さっきの隣町のことだって何か仕掛けが…」
「そんなまさか…ははは」
先輩はこの空気を変えたくて冗談で言ってるんだろうな。
けど…そんな事言われたら疑わしく思えてきてしまう。
唯はコンビニの外でまゆこちゃんの相手をして無邪気に遊んでいる。
どっちが子供か分からない感じ。
けどあの唯に限って…。
「浩人?」
「ええ、なんでしょ?」
「山下さんがどこへ行ったのかってのは知らないか?まだ帰って来てないようだが」
「そういえばそうですね。山下さん、どこへ行ってるんだろう?大切な用事って言ってましたけど」
「帰ってくる時間も聞いてないし、今日はまだ誰も姿を見ていない」
「先輩?」
「考えすぎ…だよな」
先輩は髪の毛をぐしゃぐしゃにして掻き毟った。
確かに山下さんにはおかしなところが多い。
治るはずのない半身不随、リハビリさえせずに動かせ歩けたその足。
僕らが体験した不思議な現象の場に、あの人の姿はなかった。
けどそれは先輩の考えすぎとしか思えないんだ。
唯と同じで僕らを何かしらの理由で驚かそうとでもしているなら、わざわざ怪しいと思えるようなことを言ったりしないはずだし。
でも考えてみれば、ひょっとしたら山下さんの怪我は嘘だったのかもしれない。
けれどそれを確かめる術なんて僕らにはないんだ。
病気なんてものは僕らは医者でも何でもないし、本当か嘘かなんて外傷以外確かめようがない。
仮に嘘だったとしても僕らに危害を加える為に欺いたとは到底思えないし…。
だから今回の事と結び付けるのは早計だと思えた。
そもそも初対面の僕らを驚かせようとする理由もそうだけど、あんな大掛かりな事…例え一人じゃなかったとしても出来るはずがない。
「ええ、考えすぎですよ!山下さんが僕らをどうこうしようとか、まず理由も分かりませんし、そもそもあんな事しても意味もないでしょう?」
「うーん、そうなんだよなぁ」
「僕らをハメて喜ぶ人間なんて、仮に居たとしても知人か身内くらいですよ。そんな人…もうここには居ませんし」
「…隠れている、って線はないか?いや…あるわけないか」
「先輩。隣町のあれは気のせい…だったんですよ。きっと僕ら疲れていたんです。だからあまりネガティブな事を考えないようにしましょう」
「そう…だな。仲間を疑ったところでしょうがないし、山下さんスマン!」
先輩は居もしない山下さんに向けて手を合わせ謝った。
「とりあえずは帰ってきたら、山下さんにはどこに行っていたかだけ確認しておきましょう」
「それで十分だよな。よし、飯食っちまおう」
僕らは勢いで残りの弁当をかき込んだ。




