after26
これは、罰だろうか。
それとも試練だとでも言うのだろうか。
食料も尽き追い込まれてはいたが、それでもほんの微かな希望の光が見えていたはずだ。
それが今、根底から崩れ、射し込んだ光を消し去ろうとしている。
多くの犠牲の元、僕らだけが幸せになることなど、赦されるべきではなかったのか…。
唯が、倒れた――。
高熱を出し、意識もおぼろげだ。
熱が下がる気配もなく、激しい嘔吐を繰り返している。
呼吸をするのも辛そうで、冷静に見ていられる状況じゃなかった。
これは明らかに風邪などという類の病気ではない。
元々体力もなく、免疫も薄い彼女。
ただでさえここのところは満足に食べるものもなく、栄養だって摂れていなかった。
無理が祟ればこうなることだって想定出来たはずだ。
なのに何故僕はそれを注意してやれなかった。
原因不明な病魔。
彼女はそれで苦しみ、もがいている。
こんな状態が長く続けば最悪の事態が訪れてしまう…。
「唯…唯っ!」
冷静になろうとしても、苦悶の表情を浮かべている彼女の姿を前にしてそれは無理だった。
頭では分かっていても抑える事が出来ない。
風邪薬なども当然飲ませた。
だが効く様子など微塵もなく、すぐに戻してしまう。
最も恐れていた事態が今現実に起こってしまっているんだ。
医者も居ない、病気の原因も分からない。正しい治療方も薬の処方の仕方も、材料だって満足にない。
僕は…どうしたらいい!?
今更どうでも良い事だが、一つだけ病気の心当たりはあった。
「これは…多分感染症か何かだ…」
絶望ごと吐き出すように僕の口からその言葉が漏れる。
多分、みんなを埋葬したときのことだ。
細心の注意はしていたはずだが、どこかに菌が付着して唯の体に入りこんでしまった。
ひょっとして亡骸の傍にたくさんいたネズミとかが原因だったかもしれない…。
けど、これだって正しいとは言い切れないんだ。
合っていたところで正しい治療法だって僕にはまったく分からない。
唯は熱い吐息を小刻みな間隔で吐き出す。
水さえも喉を通らないようで、唇の色も紫色に変わっていた。
「どうすれば…どうすればいいんだ…。いやだ…唯…。誰か…誰か唯を…助けてくれ…っ!」
「……と」
俯いて泣いていると、微かに唯の口から言葉が零れた。
僕の名前を…呼んでいる。
「唯!唯っ…大丈夫か!!何か…何か僕に出来ることは…」
唯は力の入らない手で僕の袖を掴む。
そして小さく首を振り、再び擦れるような声を出した。
『私なら大丈夫だから。心配しないで』
何が大丈夫なもんか!!
こんなときでさえ僕を気遣い、心配をかけまいとする。
唯は苦悶の表情を押し殺して必死で笑顔を取り繕った。
それはもう見ているだけで痛々しいくらいだ。
「…へい…き…」
「平気なわけがあるか!心配するななんて言わないでくれ…!唯のためなら僕は…僕は…」
袖を掴む唯の手から力が抜け床に落ちる。
「ゆ…唯!!そんな…」
僕はすぐに唯の手を取った。
まだ温かく脈もある。
どうやら意識を失ったのか眠ってしまったかのようだ。
一瞬全身の血の気が引いたけれど、唯はまだ大丈夫のようだ。
しかしこのままでは時間がない。
「くっ…」
このまま指を咥えているだけで現状が打破出来ないことくらい誰だって分かる事だ。
お前は何度そう考えた?
そうやって助かったかもしれない人を何人見殺しにした?
考えるよりも先に動く事だ。
それを先輩から教えられたじゃないか!
動け!求めるものが分からなくとも。
立て!行き先が分からなくとも。
今は冷静に状況を見つめている場合じゃない!
僕は立ち上がった。
そうさ…分からないのならば足掻いてでも答えを探し、見つければいい。
病気。まずはその症状の対処と治療の仕方を知ることだ!
僕は本屋の跡地へと走った。




