after21
冬至が訪れる。
本当ならもうすぐ一年の終わりだ。
町はクリスマスムードに染まり、すぐに正月の準備へと移り変わるのだろう。
それはすでに過去の風習だ。
僕らは今でも冷たい風を受けないように家の中で蹲っている。
時に食料を探しに行き、そして暖を取るための燃料を探す。
それだけで一日が暮れて行く。
それでも、唯は幸せそうだった。
こんな世界でも。
こんな日常でも。
こんな僕しか居なくても。
彼女はどんどん僕の中に入って来た。
そして僕もそれを望み、受け入れた。
その日初めて僕らは本当の意味で結ばれる事になった。
寒さで身を震わせても、いつもその暖かさを分け与えてくれる人がいる。
辛くても、その笑顔で救ってくれる人がいる。
寂しさで身を焦がしても、いつも傍に居てくれる人がいる。
繋いだ手はいつも温かかった。
僕は最初に誓っていたはずだ。
この人を守りたい…と。
こんな場所で、何もしないまま居るなんて…それは堕落であり放棄だ。
僕はそう思い立った日から、再び動く事を決意した。
先輩や山下さんとした約束。
やりもしないうちに投げていては二人に叱られてしまうよね。
どれだけ意味がなかろうと、僕は僕らしく最後まで足掻こう。
大寒を過ぎ、立春が近づいてきたある日――。
僕の体を跳ね起きさせるだけの事件が起こった。
早朝、それは突然やってきたんだ。
「これは…音。音だ!!」
隣で眠っている唯を起こす事もせず、僕は外へ飛び出した。
小さいがローターを回す音。
それはヘリの音だった。
まだ陽が昇りきらないような時間。
東の空からそれは聞こえてきた。
「間違いない、あれはヘリの音だ。人が…人が居たんだ。助けが…」
僕は駆けた。その方向に向かって。
空は雲が覆っていて薄暗いまま。
早く太陽昇ってくれ!
その方向へと走るにつれ、耳に届く音は近くなってくる。
僕の期待は高まった。
今ではこの残骸だらけの道で走る事も慣れた。
下を見ずとも全速力に近いスピードで走れる。
やがて見えてきた黒点。
それは間違いなくヘリの姿だった。
「おーい!!ここだ!!僕らはまだ…ここで生きているんだ!!」
大きく手を振りながら位置を示す。
「ここだ!ここに僕は居るんだっ!!」
音はだんだんと近づいてくる。
僕は祈るような気持ちで大声を出し続けた。
けれどそんなものは無かったかのように、無情にもヘリは気付くことなく僕の真下を通り過ぎた。
「くそっ…!」
諦めない。
ここで諦めたら…もう二度とこんなチャンスはないかもしれないんだ。
僕は後を追うように走った。
どれだけその姿が遠退こうと、声を出し続け走り続けた。
「はぁーっ…!はぁーっ!」
吐息が真っ白な煙となって宙を舞う。
僕は膝に手を当てて息を切らした。
「…くそぉ」
駄目だった。
どれだけ声を出そうが後を追おうが、人の足と空を飛ぶものでは追いつけるはずもない。
上空からじゃ人一人に気付くなんて難しいのだろう。
ヘリにしては低速だったような気もするが、発見して貰えなかった。
「助けが…助けが来てくれたと思ったのに」
途方に暮れた。
あのヘリに乗っていた人たちは救助に来てくれたのかどうかは別として、気付いてさえ貰えれば保護して貰えたかもしれないのに。
僕はその場に座り込んだ。
もう歩く力も残ってない。
「気付いて…気付いてされ貰えてれば」
悔やみの言葉だけが口から零れる。
今更そんな事を言っても無意味なだけと分かっている。
けれどそれを止められない。
だがそれでも唯一の希望は見えた。
「人が…僕ら以外に人が存在していた」
そうだ。生存者はちゃんといたんだ。
僕らは世界に取り残された訳じゃない。
こんな事で塞ぎこんでなんて居られない。
不安だったその一つが今希望に変わったんだ。
「助けは…必ず来る」
そうさ、負けてなんていられない。
僕は足掻く。
絶対にこの世界に屈したりなんてしない。
僕は立ち上がった。




