after20
季節は二十四気で言うならば白露。もう秋。
今では日付を知るものは時計店跡で拾ったカレンダー付きのアナログ時計だけだ。
あれからたった二ヶ月。
僕からしてみればもう一年は経った気でいる。
時計の針は変わりなく刻一刻と秒針を刻んでいるのに、とても長く感じてしまっていた。
毎日変わり映えのしない日常だからだろうか。
やはり空には飛行機は飛ばない。
助けも来ない。
これはまるで遭難者だ。
気弱になった僕を、唯は励ましてくれた。
唯は前向きだ。
僕が居るから大丈夫だといつも言ってくれている。
しっかりしなくちゃ駄目だ。
立秋。
僕は体を壊した。
風邪をこじらせてしまったのか、高熱を出して起き上がれない。
町へ繰り出し唯が薬を持って来てくれて、付きっ切りで看病してくれた。
唯が居てくれなかったら僕はどうなっていたんだろう…。
程なくして風邪は治ったけれど、病気に対する恐怖感を覚えた。
もしもどちらかが大病で倒れてしまったら…。
そんな事を彼女に言うと、笑って『大丈夫だよ』と返してきた。
そういえば唯は動けるようになってから初めて町へと繰り出したのだけれど、そのことに対して僕には何も言わなかった。
彼女は…平気だったのだろうか。
いや…心配かけまいと我慢してるだけなのかもしれない。
ここのところずっと唯の世話になってばかりだ。
夏場は公園の池で身を清めるかのように体の汚れは洗い流せていた。
けどもう水温も随分冷たく感じる。
風呂の問題も考えないといけなくなってきた。
さすがに水のままでは風邪を引いてしまう。
次から次へと問題は湧いてくる。
僕はドラム缶で簡易風呂を作った。
燃料となる燃やすものが余りないため、一時凌ぎにしかならないかもしれない。
唯は普通に歩けるようになった。
今ではもう不自由さなんて感じさせない。
しっかりとした足取りで大地を踏みしめている。
戻っていないのは後は体力だけだろう。
今の唯なら一人でも大丈夫だ。
僕は行動範囲を広げた。
あの世界では異色を放っていた隣町。
そこへ足を踏み入れる事は許さないとでも言うように橋は崩れ落ちていた。
勿論電車なんかも運行しているはずもない。
線路も壊れ、例え動かせたとしても無意味だ。
どこへ足を赴かせようと飛び込んでくる景色に懐かしいものはなかった。
今では当たり前になった風景だけがどこにでも存在している。
生存者らしき人も見当たらなかった。
…当然だ、あれから数ヶ月も経っているのだから。
生き延びた人が居たような痕跡も何一つ見つけられなかった。
やはりこの町には僕ら二人しか生存者は居なかったようだ。
重い帰路の足取り。
明日になれば何も変わらない日常がまたやってくる。
このままずっと、この町で過ごさなければならないのだろうか。
小雪に差し掛かった。
肌寒さを強く感じる。
早めに暖を取る方法を考えておかないと取り返しの付かない事になりそうな気がした。
しかしあれからずっと世界に変化はない。
何も変わらない。
一つだけ変化があったとすれば、町で大量に湧いていた蟲がようやく消えたということだけだ…。
大雪と呼ばれている節気。
もう冬の到来だ。
じっとしていると寒さで震えが来てしまうほどだった。
使い捨てカイロや無事な衣類を着込み、僕らは簡易住居からあまり出なくなっていた。
僕が沈んでいると毎回のように唯は励ましてくれる。
けどこのまま冬を越したとしても、その先にあるものは何もないだろう。
食事も同じものばかりで完全に飽きが来ている。
それにもう近場で食べられそうな物が少なくなってきている。
こんな事は考えてはいけないのだろうけど、正直もう限界が近かった。
自分たちで作物を作る事も出来ず、燃料を生み出す事も叶わない。
暖を取るために集めた薪も底を突く。
僕らは毎夜、お互いに抱き合って眠った。




