届かない一撃
第94回 届かない一撃
次にノクスヴァルムのいる場所へ向かう時、俺たちは最初から戦うつもりで大迷宮へ入ったわけではなかった
ただ、前に見た時より危険になる可能性は全員が理解していた
巨大な身体、高密度の魔力、身体の外側まで巡る強い魔力、そして周囲へ広がっただけで俺の《魔力探査》を一度崩した圧
あれが俺たちを狙った攻撃だったのかは、まだ分からない
けれど、次に近づいた時も同じことが起きるなら、今度は観察だけで終わらないかもしれない
だから準備は変えた
荷物を増やしたわけではない
むしろ、逃げる時の邪魔になるものは減らした
エナは救護用品を取り出しやすい位置へ分け、ダリオは武器と縄の位置を確認し、ローデンは細い杭と短い縄を持ったまま、深部で使える足場と退路をもう一度確認するつもりらしい
ミラは古い資料の写しを必要な部分だけに絞り、ルッカはいつも以上に身軽だった
俺も空間収納の中を整理した
布、縄、救護用品、小型の工具、水、食料、回収したノクスヴァルムの鱗
鱗は持っていくか迷ったが、ミラが資料との比較に使えると言ったのでそのままにした
「確認するだけで終わればいい」
第二水場を出る前、ダリオが言った
「そうしたい」
俺も本気でそう思う
「向こうがこっちを見ても、近づいてこないなら下がる」
「うん」
「吠えたら」
「下がる」
「魔力が集まったら」
「もっと下がる」
「飛んだら」
ルッカが聞く
俺は少し考えた
「かなり困る」
「答えになってない」
「飛ばれたら通路じゃ逃げにくいだろ」
「だから困る」
「お前も答えてないぞ」
ダリオが小さく息を吐く
「飛ばれたら、その場で判断する」
それが一番正しい
見たことがない動きまで決めておくことはできない
俺たちは大迷宮へ入った
浅い区域では大きな変化はなかった
中層へ進む途中、外向きの痕跡をいくつか確認したが、新しいものと古いものが混ざっている
深部へ近づくにつれて魔力の変化が大きい場所は増えたが、以前のように単純に奥へ向かう流ればかりではない
右から左へ抜ける流れもあり、床近くで浅い側へ戻るものもある
迷宮核へ近づく区域では、奥へ向かう流れが強い場所がいくつかあった
「昨日と同じじゃない」
ミラが記録を見ながら言う
「うん、この辺は少し違う」
俺は周囲へ《魔力探査》を広げすぎないようにしながら答えた
「奥へ行くのが増えてるところもあるけど、戻る流れも前より強い場所がある」
「時間で変わってる」
「たぶん」
そこまでしか言えない
同じ場所を何度か通っているから違いは分かる
でも、何が変化させているのかはまだ分からない
迷宮核のある大空間へ着く
入口で一度止まり、ローデンが右側の床と目印を確認する
崩れた場所はない
目印も残っている
ルッカは中央ではなく、奥側の匂いを取っている
「いる」
「ノクスヴァルム」
「同じ匂い」
ミラが確認する
「動いてる感じは」
ルッカは少し時間をかける
「前より強い、でも匂いだけじゃ動きは分からない」
俺も奥へ探査を伸ばす
巨大な魔力反応
ある
前よりはっきりしている
場所が変わっただけかもしれない
ただ、内部の魔力は前より大きく動いているように見える
「反応はある、内部の魔力の動きも大きい」
「覚醒」
ミラが聞く
「そこまでは分からない」
「分かった」
迷宮核の近くを通る
今日は構造そのものを調べるために来たわけではない
それでも通り過ぎる時、魔力の流れが目に入る
外から入るもの
内側を通るように見えるもの
別方向へ出るもの
奥へ向かうもの
前に比べて奥へ流れる量が多いように見える瞬間もあれば、逆向きが強くなる瞬間もある
迷宮核周辺の流れはやはり一定ではない
「止まらない」
ダリオが言う
「今日は奥」
俺たちは迷宮核を回り込み、その先へ進んだ
前に見つけた爪痕
鱗を拾った場所
巨大な身体を初めて見た岩陰
そこへ近づくにつれ、周囲に漂う魔力の圧が強くなる
今度は探査を狭く保つ
必要以上に触れない
「ここから」
ローデンが岩壁の張り出しを指す
前と同じ位置
ただし今日は、さらに退路を確保するため少し手前にも目印を追加する
右側には大きな岩塊
左側には比較的広い床
後方へ戻れば曲がり角
さらにその先に狭い通路
「戦うなら」
ローデンが小声で言う
「左へ広がりすぎない方がいい」
「理由」
「奥側の床に亀裂が多い、右は岩壁が近い、中央付近が一番動きやすい」
「逃げるなら」
「後ろ」
「飛ばれたら」
ローデンは上を見る
天井は高い
「岩陰だけじゃ足りない」
それも分かった
ダリオが全員を見る
「見るだけ」
俺たちは岩陰へ近づいた
前と同じ位置から少しずつ覗く
ノクスヴァルムはいた
前より頭が高い
伏せたままではない
前脚へ力を入れ、上半身を起こしている
暗い紺から黒紫の鱗
折り畳まれた大きな翼
長い尾
後ろへ流れる角
一つの頭
資料と照合した特徴は変わらない
目は開いていた
最初に見た時と違う
俺たちを見ているかどうかは分からない
頭の向きは少し横
でも目は開いている
「起きてる」
ルッカが息を抑えたまま言う
「少なくとも目は開いてる」
俺も同じように返す
ノクスヴァルムの体内を巡る魔力は強い
胸
腹
四肢
首
頭
大きな流れが全身を移動している
身体の外側にも高密度の魔力がまとわりついている
前より輪郭を追いやすいのは、近いからだ
だからといって物理的な身体の細部まで魔力だけで分かるわけではない
目で見る
探査は魔力だけ
混ぜない
「少し下がる」
ダリオが言った
俺たちは岩陰の奥へ半歩戻る
その時だった
ノクスヴァルムの頭が動いた
ゆっくり
こちらへ
俺たちが隠れている岩の方へ
ルッカの身体が固まる
「気づいた」
「匂い」
「たぶん」
俺の探査でも、ノクスヴァルム内部の魔力が変化した
胸側へ集まる
まだ喉までは行かない
「魔力動いた」
ダリオへ伝える
「撤退」
迷わない
俺たちは岩陰から離れる
刺激しないよう走らず、でも速度は上げる
数歩
ノクスヴァルムの頭がさらにこちらへ向く
目が合った
たぶん
その瞬間、身体の内側で魔力が一気に胸へ集まり始めた
「来る」
俺が言うより早く、ダリオが叫ぶ
「走れ」
今度は走る
後ろから低い音が響いた
咆哮というより、空間全体が震えたような音
次の瞬間、周囲の魔力が押し寄せる
前に受けたものと似ている
でも強い
俺の《魔力探査》の外側が一気に崩れる
完全には切れない
狭くしていたから耐えた
それでも魔力の流れが荒れる
「右」
ローデンの声
俺たちは大きな岩塊の裏へ滑り込む
その直後
轟音
岩の表面が揺れる
何かが当たった
俺は見ていない
魔力も乱れて分からない
「全員」
ダリオ
「いる」
エナ
「いる」
ルッカ
「いる」
ミラ
「いる」
ローデン
俺も返す
「いる」
「何が来た」
ダリオが聞く
「分からない、魔力が強すぎた」
「見た」
ルッカが言う
「何」
「光みたいなの、口から」
ミラも見ていた
「濃い魔力の塊に見えた」
「こっちを狙った」
「岩に当たった」
今のは攻撃
初めて確定できる
ノクスヴァルムはこちらを認識し、少なくとも一度は俺たちのいる方向へ魔力を放った
「撤退」
ダリオが言う
俺たちは岩陰から後方へ動く
だが、ノクスヴァルムの足音が響いた
一歩
大きい
二歩
近づいている
「追ってる」
ルッカが言う
今度は迷わない
敵意という言葉まで使う必要はない
でも少なくとも、俺たちを認識したあとで攻撃し、近づいてきている
戦闘になる
「止めないと帰れない」
ダリオが通路を見る
「狭いところまで追われる方が危ない」
ローデンも同意する
「ここで距離作る」
広い空間
岩
退路
今ならまだ動ける
「戦う」
ダリオが言った
俺はうなずく
「分かった」
ノクスヴァルムが岩の向こうから姿を現す
立ち上がると、前に伏せていた時よりさらに大きい
翼はまだ閉じたまま
頭が高い
こちらを見ている
「ルッカ、動き」
「見る」
「ローデン、足場」
「右側安全、左奥は亀裂多い」
「ミラ、資料」
「出してる」
「エナ」
「全員見る、セイジは魔力使いすぎない」
「了解」
ダリオが前へ
俺は少し後ろ
ノクスヴァルムが一歩進む
床が震える
「最初は止める」
俺は魔法を選ぶ
必要なのは攻撃じゃない
距離
《土壁》
地面から壁を立ち上げる
ノクスヴァルムの正面ではなく、少し右
進行方向をずらすため
壁が上がる
ノクスヴァルムは止まらない
頭を少し下げ、そのまま肩でぶつかった
破壊音
《土壁》が砕ける
一撃
「強い」
分かっていたつもりでも、見ると違う
「左へ寄せる」
ダリオが叫ぶ
俺は《風圧》
頭部ではなく前脚側へ斜めから
風がぶつかる
ノクスヴァルムの動きがわずかにずれる
止まらない
でも進行方向は少し変わった
ダリオとルッカが左右へ分かれる
追わせる
ノクスヴァルムの首がダリオ側へ向く
「来る」
ルッカ
尻尾
長い尾が床を払う
「下がれ」
ダリオが飛ぶ
尾が岩を叩く
破片が飛ぶ
ローデンが俺の肩を引く
一歩遅ければ当たっていた
「助かった」
「前見ろ」
ノクスヴァルムが向きを変える
遅くない
あの巨体で
むしろ速い
「脚狙う」
俺は《水槍》を作る
胸や頭ではない
まず動きを止めたい
前脚の関節
目で位置を見る
魔力は補助
放つ
《水槍》が当たる
水が弾ける
ノクスヴァルムの脚はほとんど動かない
「通った」
ルッカが聞く
「分からない」
当たったのは見えた
でも傷ができたかは分からない
ノクスヴァルムはそのまま踏み込む
影響があるようには見えない
「もう一度」
今度は《火槍》
同じ場所
赤い槍が飛ぶ
直撃
炎が広がる
鱗の表面を舐める
ノクスヴァルムが首をこちらへ向けた
傷
見えない
「効いてない」
ダリオが言う
「少なくとも止まってない」
俺は言い直す
攻撃が完全に無効とはまだ決めない
でも、見える傷も動きの低下もない
資料にあった高い防御
現物でも強い可能性が一気に高くなった
ノクスヴァルムの口が開く
胸側の魔力が動く
「集まる」
俺が叫ぶ
「岩へ」
全員が散る
胸
喉
魔力が上がる
その時、目で見えた
胸部の鱗がわずかに動いた
広く開くわけではない
重なっていた鱗の一部が呼吸とは違う動きで少し浮く
「胸」
ルッカも見た
「鱗動いた」
次の瞬間、喉の奥が暗く光る
ノクスヴァルムが頭を振る
魔力の奔流
さっきよりはっきり見えた
濃い
線ではない
太い流れ
ダリオ側へ
「下」
ローデンが叫ぶ
ダリオが低く転がる
魔力が後ろの岩壁へ当たる
音
衝撃
岩が削れる
「ダリオ」
エナが走る
「当たってない」
「腕」
「擦っただけ」
エナが確認
動ける
「続ける」
ダリオが立つ
俺はノクスヴァルムを見る
胸部の鱗は元へ戻っている
「今の見た」
ミラが言う
「見た」
「資料の集中」
「同じ動きに近い」
「防御は」
俺は分からない
魔力の流れ
攻撃前
胸から喉へ集中
その瞬間、全身を覆っていた魔力の一部が胸側へ寄ったように見えた
でも本当に防御が薄くなったかは、まだ攻撃していない
「次、同じ動きしたら胸を見る」
ダリオが決める
「攻撃する」
「確認できるなら」
俺はうなずく
ノクスヴァルムが前進する
今度は口を閉じたまま
前脚
爪
ダリオへ
「右」
ルッカが先に叫ぶ
ダリオがかわす
爪が床を抉る
俺は《土成形》を使う
爪が入った場所ではない
その一歩先の土と岩を寄せ、浅い盛り上がりを作る
形を変えるだけ
ノクスヴァルムの次の踏み込み位置
大きな足が乗る
わずかに姿勢が崩れる
「今」
ルッカが左へ走る
ノクスヴァルムの首が追う
ダリオが反対側へ
二人が向きをずらす
俺は《風圧》で補助
首の向きがさらに遅れる
「やれる」
ダリオが言う
倒せるという意味じゃない
動かせる
誘導できる
それだけでも大きい
ローデンが後ろから叫ぶ
「中央より右へ」
「理由」
「左は割れてる、尾で崩れたら退路塞がる」
「了解」
俺たちはノクスヴァルムを少しずつ右側へ誘導する
完全に思い通りではない
一歩間違えれば押し潰される
それでも、ダリオが前で動き、ルッカが首と尾の動きを見て先に声を出す
俺は止めるより方向をずらすことを優先する
《土壁》を正面に出しても壊される
なら壁そのものを盾にするのではなく、進む場所を狭める
右に一本
左に低い一本
ノクスヴァルムが広い方を選ぶ
ダリオがそこへ誘導する
「使える」
俺が言う
「壁を止めるために使うんじゃない」
「道」
ローデンが返す
「そう」
必要な作用
倒すためだけが魔法じゃない
今までと同じ
ただ相手の規模が違う
ノクスヴァルムが急に頭を上げた
ルッカが叫ぶ
「胸」
俺も見る
魔力集中
さっきと同じ
胸から喉へ
「来る」
ダリオが退避方向を指す
俺は逃げながら胸部を見る
鱗が動く
今度ははっきり確認できた
同じ場所
複数枚
ほんのわずか
その隙間
《魔力探査》を細く向ける
物理的な中身は分からない
でも魔力反応が強い
胸側の集中
喉へ向かう流れの起点に近い
「そこ」
俺は言う
「何」
ミラ
「胸に魔力が集まってる、鱗が動いた場所の奥側に強い反応」
「弱点」
「まだ分からない」
言い切る
「撃つ」
ダリオが聞く
「一回」
「合わせる」
ノクスヴァルムが口を開く
魔力がさらに集中
俺は火と風の複合魔法を組む
一つの起動
一つの構造
火と風の経路を同じ内部へ
射出
狙いは胸
鱗がわずかに動いたところ
「今」
ルッカの声
放つ
火と風が一つの魔法として走る
ノクスヴァルムの胸へ
直撃
同時にノクスヴァルムの口から魔力が放たれる
俺たちは散る
轟音
二つの魔力が空間を揺らす
俺は転がりながら胸を見る
炎と風が消える
ノクスヴァルムの身体がわずかに後ろへ動いた
本当に動いた
「効いた」
ミラが言う
「少し」
俺も見た
鱗
傷
浅い
黒紫の表面に細い跡
でも貫いていない
その奥の強い反応にも届いていない
ノクスヴァルムが低く唸る
今までとは違う
こちらを見る
「来る」
ダリオが叫ぶ
ノクスヴァルムが突進する
速い
俺たちは散開
ローデンの指示で右側へ
尾
爪
頭
一つずつ巨大
《土壁》
一枚
ノクスヴァルムの進路横へ
向きを少しずらす
次
《風圧》
ダリオの前から外す
それでも近い
ノクスヴァルムの肩がダリオへ当たりかける
ルッカが横から石を投げる
頭が動く
ほんの一瞬
ダリオが抜ける
「助かった」
「あと」
ルッカが尾を見る
「来る」
今度は俺の方
長い尾
避ける
間に合わない
《土壁》
正面ではなく斜め
尾が当たる
壁が壊れる
勢いが少し落ちる
それでも破片が飛ぶ
肩に当たる
痛い
「セイジ」
エナ
「動ける」
「下がって」
「まだ」
「下がれ」
強い
俺は従う
エナのところへ
肩
血は少し
皮膚が切れただけ
「骨」
「大丈夫だと思う」
「私が見る」
触る
動かす
痛い
でも動く
「軽い、続けられる」
「ありがとう」
《治癒》を自分に使うこともできる
エナが止めないので傷へ使う
淡い光
痛みが少し引く
完全に消す必要はない
「戻る」
俺は前へ
ノクスヴァルムはダリオとルッカを追っている
ローデンが位置を指示
「奥へ行かせるな」
迷宮核側
その方向へ押し戻したら危ない
今の戦闘でどれだけ魔力が乱れるか分からない
迷宮核を巻き込むような攻撃も避けたい
「右へ」
ダリオが叫ぶ
俺は《風圧》
方向だけ
ノクスヴァルムの頭が少しずれる
ルッカが反対側へ
誘導
巨体が回る
「もう一度胸を確認したい」
俺が言う
「できる」
ダリオ
「時間作る」
ミラは資料を見ている
「魔力放出、同じなら胸から喉へ」
「分かった」
ローデンが周囲を見る
「後ろの岩、使える」
大きな岩塊
「壊す」
「違う、回り込ませる」
なるほど
障害物として使う
ダリオが先に走る
ノクスヴァルムが追う
岩を挟む
巨体は直進できない
少し回る
時間ができる
ルッカが頭の動きを見る
「来る」
胸へ魔力集中
三回目
今度は俺も余裕を持って見る
身体外側の魔力
全身を覆っていた流れの一部が胸へ寄る
完全に消えるわけではない
脚
背
翼
頭
まだ高密度の魔力がある
ただ胸周辺だけは変化が大きい
鱗
またわずかに動く
「同じ」
俺が言う
「三回」
ミラ
「胸の鱗も」
「同じ場所」
ルッカ
「中の魔力」
《魔力探査》
強い反応
胸の奥側
正確な物理位置は分からない
でも魔力集中点としては分かる
「ある」
「撃つ」
ダリオ
「今度は別の魔法」
火+風では浅い傷
なら《水槍》
一点
細い
集中
放つ
胸へ
鱗の隙間が見える瞬間
当たる
水の槍が弾ける
ノクスヴァルムの身体が少し動く
でも貫かない
鱗に新しい跡
さっきより浅い
「火風の方が強い」
俺が言う
「でも通らない」
ダリオ
「今は」
訂正する
「今使った範囲では通ってない」
ノクスヴァルムが魔力を放つ
今度は横へ薙ぐ
頭の動きで分かった
「伏せろ」
ルッカが叫ぶ
全員低くなる
濃い魔力が上を通る
岩壁に当たる
石が落ちる
ローデンが天井を見る
「ここ危ない」
「移動」
ダリオ
俺たちは広い側へ
ノクスヴァルムが追う
完全に戦闘になった
もう観察だけではない
それでも分かったことは増えている
胸から喉へ魔力を集める動作
同じ現象を三回確認
その時、胸部の鱗がわずかに動く
身体外側の魔力循環も変化する
鱗の奥側には非常に強い魔力反応が集中する
攻撃を二種類当てた
火+風複合魔法
《水槍》
どちらも届いた
どちらも完全には弾かれていない
火+風では浅い傷
水槍ではさらに浅い跡
でも貫通しない
柔らかい場所ではない
むしろ硬い
「弱点じゃないな」
俺が言う
ダリオが走りながら返す
「でも狙う場所」
「そう」
弱いから狙うんじゃない
変化があるから
魔力が集まるから
何かが起きる場所だから
そこへ届けば、意味があるかもしれない
「次どうする」
ミラ
俺は自分の魔法を考える
《火槍》
《水槍》
《風刃》
火+風複合魔法
どれも一点へ撃てる
でも今見た限りでは、胸の鱗を抜けない
もっと威力を上げる
単純に
それでいいのか
ノクスヴァルムの身体全体へ大きな魔法を撃てば、周囲への被害も増える
迷宮核も近い
足場
退路
仲間
広範囲に吹き飛ばすような攻撃は使いたくない
必要なのは
一点
狭く
深く
そこまで考えた瞬間、ノクスヴァルムの翼が開いた
「翼」
ルッカ
巨大
空間が狭く感じる
羽ばたく
風
いや、ただの風だけではない
魔力が混ざる
俺の魔法構造がざらつく
「飛ぶ」
ダリオ
ノクスヴァルムの身体が浮く
完全に高くは上がらない
でも前脚が床から離れる
「岩陰」
ローデンが指す
俺たちは散る
ノクスヴァルムが低く飛ぶ
巨体が頭上を越える
尾が遅れて来る
ルッカが先に避ける
ダリオも
ミラ
ローデン
俺
エナ
全員抜ける
着地
床が揺れる
「退路側」
ローデンが叫ぶ
まずい
ノクスヴァルムが俺たちと帰路の間に入った
「回す」
ダリオ
「左は駄目」
「右」
ルッカが匂いではなく動きを見る
頭
前脚
尾
翼
「右向く」
ダリオが左へ見せる
ノクスヴァルムの頭が追う
俺は《風圧》
反対側から押す
巨体はほとんど動かない
でも首の向きが遅れる
ダリオが抜ける
ルッカも
ミラ
ローデン
エナ
最後に俺
ノクスヴァルムの爪
近い
《土成形》
足元の岩を寄せ、低い隆起
爪の着地点を少しずらす
巨体の重みで隆起が崩れる
でもその一瞬で抜ける
「通った」
ダリオが叫ぶ
帰路側へ戻れた
「撤退する」
エナが言う
俺もそう思う
今のまま続ければ、誰かが大きな怪我をする
「一度戻る」
ダリオも決めた
ノクスヴァルムはまだこちらを見ている
追ってくる可能性
「目を切るまで誘導」
ダリオ
俺たちは通路へいきなり逃げ込まない
狭い場所で追いつかれたら終わる
広い場所で距離を作る
ローデンが岩の配置を見る
「中央の大岩まで」
「使う」
「その裏で方向変える」
ダリオがうなずく
走る
ノクスヴァルムが追う
また胸へ魔力が集まる
「来る」
もう見慣れたくない動き
でも今度は対応できる
「右」
ルッカが頭の向きを見る
全員左へ
魔力の奔流
岩を削る
胸の鱗
開く
強い反応
一瞬
俺は撃たない
今は逃げる
攻撃できるから攻撃するんじゃない
必要がない
距離
それだけ
大岩の裏
方向を変える
ノクスヴァルムの視界から外れる
足音
近い
でもすぐには追ってこない
「止まった」
ルッカが匂いと音を確認する
俺も魔力反応の方向だけを見る
巨大反応は動いている
でもこちらへ一直線ではない
「まだ来るかも」
ダリオ
「通路へ」
俺たちは後退する
狭い通路
目印
迷宮核側へ
ノクスヴァルムは追ってこない
少なくとも今は
迷宮核の近くまで戻ると、俺は探査をさらに狭くした
周囲の魔力が乱れている
戦闘の影響か
ノクスヴァルムの魔力放出の影響か
迷宮核側の流れの変化か
全部か
分からない
「止まらない」
ダリオ
俺たちは大空間を抜ける
安全確保地点まで戻る
そこで初めて座った
エナが全員を見る
ダリオ
軽い擦り傷
ルッカ
問題なし
ローデン
手の甲に小さな切り傷
ミラ
問題なし
俺
肩の傷
《治癒》済み
エナ自身
問題なし
重大な負傷はない
それだけで十分だった
「疲れ」
エナが俺を見る
「かなり」
「魔力」
「まだある、でも使った」
「今日は終わり」
「うん」
誰も反対しない
ダリオが水を飲む
「追ってこなかった」
ルッカ
「今は」
「理由」
「分からない」
「縄張り」
「それも分からない」
俺たちは一度黙る
今回初めて、ノクスヴァルムが俺たちへ明確に攻撃した
こちらを認識
頭を向ける
魔力放出
追跡
爪
尾
低い飛行
少なくとも戦闘になった
「敵意」
ミラが言う
「今の戦闘中は、俺たちを攻撃対象としてた」
俺が答える
「人間社会に対しては分からない」
「うん」
「外へ出る意思も」
「分からない」
そこは分ける
俺たちを攻撃した
だから人間社会を襲う
ではない
「防御」
ダリオが俺を見る
「実際に撃った」
「火+風の複合魔法で浅い傷、《水槍》ではさらに浅い跡」
「鱗」
「硬い」
「魔力防御」
俺は思い出す
胸以外
全身を覆う魔力
「少なくとも外側に高密度の魔力がある、攻撃がそこへ当たる時に抵抗がある感じはした」
「資料と」
ミラ
「一致する部分は増えた」
でも資料が正しいから実個体もそうだ、ではない
今は攻撃した
実際に通りにくかった
そこまで確認できた
「胸」
ルッカが言う
「三回」
「魔力集中」
「三回見た」
「鱗」
「同じ場所が動いた」
「中」
俺は少し考える
「物理的に何があるかは分からない、でも魔力反応はそこへ集中してた」
「攻撃」
ダリオ
「二回」
「通った」
「表面までは」
「中までは行ってない」
ローデンが聞く
「もっと強く撃てば」
「分からない」
単純に火力を増やす
できる
でもどこまで
それに大きくすればいいわけじゃない
「広げたくない」
俺は言う
「迷宮核が近い」
ローデンがうなずく
「足場も」
「みんなもいる」
「なら狭く」
ミラが言う
「一点」
その言葉
俺の中で引っかかる
一点
必要な作用
止める
逸らす
崩す
狙う
今必要なのは何か
ノクスヴァルム全体を吹き飛ばすことじゃない
あの胸の一点へ
今より深く
今より強く
でも周囲を壊さず
魔力圧に乱されても構造を保って
通す
「今の魔法で」
ダリオが聞く
俺は答えるまで少し時間がかかった
《火槍》
《水槍》
《風刃》
火+風複合魔法
どれも使える
どれも強い
でも今日の結果
「足りない」
初めてはっきり言った
「今ある使い方のままじゃ、あそこを抜けないと思う」
「強くする」
ルッカ
「単純に大きくするだけだと、周りも巻き込む」
「じゃあ」
俺はすぐ答えられない
必要なのは分かる
一点
高い密度
乱されない構造
放つまで維持
それでも、どう作るかはまだない
「帰って考える」
エナが俺を見る
「今日は考えすぎない」
「分かってる」
「本当に」
「今は整理だけ」
「それを考えるって言う」
「少しだけ」
エナの目が細くなる
「帰ってから」
「はい」
ルッカが笑う
ダリオも少しだけ笑った
緊張が抜ける
でも問題は残る
ノクスヴァルム
胸から喉へ魔力を集める
その時、胸部の鱗がわずかに動く
同じ現象を複数回確認した
内部側には非常に強い魔力反応が集中する
でもそこは柔らかくない
火+風複合魔法でも表面へ浅い傷
《水槍》ではさらに浅い跡
なら
もっと必要なものがある
今ある魔法を選ぶだけでは足りないかもしれない
その考えが浮かぶ
まだ形はない
名前もない
魔法ですらない
ただ
何が必要か
そこだけは、前よりはっきりしていた
一点へ通す
それだけだ
俺たちは休息後、さらに浅い側へ戻った
迷宮核を通る魔力は、戦闘前より大きく乱れているように見える時間があった
ただし、それが俺たちの戦闘によるものか、ノクスヴァルムの魔力放出によるものか、迷宮核側の変化によるものかは分からない
ミラも同じ認識だった
「時間は重なってる」
「原因はまだ」
「うん」
そのまま大迷宮を出る
外へ出た時、ルッカが大きく息を吸った
「戻った」
「まだガルディアまであるぞ」
「外」
「それはそう」
今日はいつも以上に外の空気が軽く感じる
ガルディアへ報告する内容は多い
ノクスヴァルムがこちらを認識し、攻撃したこと
魔力を胸から喉へ集め、濃密な魔力を放つこと
その際、胸部の鱗がわずかに動く現象を複数回確認したこと
胸側へ魔力が集中すること
火+風複合魔法と《水槍》を実際に命中させたこと
どちらも表面を完全には突破できなかったこと
ノクスヴァルムが爪、尾、翼を使って接近戦でも非常に危険であること
ただし、大迷宮外へ出ようとする行動や、人間社会を狙う意思は確認していないこと
全部分けて話す
「次も行く」
報告後、ダリオが俺に聞いた
「行く」
答えは決まっている
「今のままじゃ倒せない」
「倒す必要があるか」
その問いには少し迷った
今日、俺たちは攻撃された
追われた
帰路を塞がれかけた
ノクスヴァルムの魔力は迷宮核側の流れと干渉し続けている
でも、だからすぐ倒すべきだと決めるのも違う
「次に行って、状況を見る」
「また攻撃されたら」
「今度はもっと厳しい」
「なら準備する」
ダリオはそう言った
俺も同じだ
第二水場へ戻ったあと、誰も長く話さなかった
疲れている
俺も疲れていた
それでも、水を飲みながら頭の中では今日の一撃を何度も思い返していた
火と風
一つの構造
命中
浅い傷
足りない
《水槍》
細い
速い
一点
それでも浅い
必要なのは何か
もっと大きい火力じゃない
もっと広い破壊でもない
あの一点へ届くためのもの
そこへ通すまで崩れないもの
俺は立ち上がる
ルッカが見る
「帰る」
「うん」
岩陰拠点へ戻る道では、魔法のことを考えないようにした
今考えても、疲れた頭で同じところを回るだけだ
家へ着く
入口
寝床
棚
いつもの場所
ルッカが先に入る
俺も続く
座った瞬間、身体が重くなる
今日は戦った
あの巨大な竜と
倒せなかった
でも逃げ切った
六人とも戻った
それでいい
今日は
食べて
休む
明日
もう一度考える
今ある魔法では届かなかった一点へ
何が必要なのかを




