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流れの中心

第92回 流れの中心


大空間の入口まで戻ってきた時、最初に確認したのは中央に見える構造ではなく、足元と退路だった


前にここまで来た時は、入口から中を見ただけで引き返した


淡い魔力の光が流れる広い空間、その中央付近にある不自然な構造、そしてさらに奥から感じる別の大きな魔力反応


あの時点では、それ以上進まなかった


今は六人とも休息を取っている


俺の身体も魔力も問題ない


戻るための目印も、ここまで全部確認してきた


だから今日は中へ入る


ただし、中央へ一直線には進まない


「まず右側から見る」


ダリオが空間全体を見ながら言った


「中央は避ける」


ローデンも同意する


入口から見ても、中央付近の床は周囲と少し違っている


大きく割れているわけではないが、細い亀裂が何本も走り、その間を淡い魔力光が流れている


前に見た亀裂区域より明るい


光源があるというより、魔力そのものが視認できるほど濃くなっているように見えた


俺は《魔力探査》を必要な範囲だけ広げる


空間はかなり大きい


入口から反対側の壁まで、一度に細かく見るのは難しい


中央の構造付近だけでも、周囲の魔力が濃すぎて輪郭がぼやける


「近くに魔物は」


ダリオが聞く


「入口付近にはいない、右側も今は大きい反応なし」


「左」


「小さいのが一つ、かなり離れてる」


「奥」


俺は少し集中する


中央の構造とは別


さらにその先に、あの大きな反応が今日もある


「ある、前と同じ方向」


「近づいてる」


ルッカが小さく言った


「匂いか」


「うん」


ルッカは空間の奥を見たまま鼻を動かしている


「大きい匂い、前より分かる」


「中央のあれからじゃない?」


「違うと思う」


それなら、俺が魔力で感じている二つの反応が別に見えることとも合う


ただし、まだ同じ対象を感じているとは限らない


俺たちは右側の壁沿いへ進んだ


ローデンが先に床を見る


ダリオが少し前


俺とルッカがその後ろ


エナとミラが続く


床は見た目より安定している


一部に細い亀裂はあるが、ローデンが確認した範囲では、踏んだだけで崩れるようなものではない


それでも中央寄りには行かない


壁沿いを選び、一定の距離ごとに目印を置く


空間が広いと、入口が見えていても方向感覚を失いやすい


特に中央付近の魔力光が強く、暗闇の中ではそればかり目に入る


「ここ」


ローデンが止まった


床に一本、太い亀裂がある


幅は狭く、飛び越える必要もない


ただ、その中から魔力が上がっている


俺にははっきり分かった


「下から来てる」


ミラがすぐ記録を出す


「強い?」


「今いるところでは結構強い」


俺は亀裂に触れず、探査だけを向ける


下方向へ少し伸ばし、さらに追う


魔力の流れがある


かなり深い側から来ているように感じるが、途中で周囲の濃い魔力と混ざり、追えなくなる


「どこから」


「分からない、かなり下から上がってるように見える」


「中央へ向かう?」


俺は流れを追う


亀裂から上がった魔力は、そのまま空気中へ散るわけではない


床に沿って中央方向へ少しずつ寄っていく


「中央側」


ミラが言う


「うん」


「前に見た流れと同じ?」


「方向は」


そこまで言ってから、俺は別の亀裂を見る


今度は逆だった


中央側から外へ流れている


「いや、全部じゃない」


「戻るのもある?」


「ある」


少し進むと、また別の亀裂があった


そこでは中央へ向かい、さらに先では外へ流れている


「往復」


ミラが小さく言った


「そう見える」


「循環?」


「可能性はある」


前よりずっと分かりやすい


ここには魔力が集まっている


同時に出てもいる


一方向に吸い込んでいるだけではない


中央付近を通り、別の方向へ流れていくものがある


「中心みたいだな」


俺が言うと、ミラはすぐ返さなかった


少しだけ中央を見ている


「資料にある」


「何が」


「こういう場所」


「名前は」


ミラはまだ言わない


紙を取り出し、以前から持ってきている古い資料の写しと照らし始めた


「近くで確認してから」


それでいい


今見えているものだけで名前を決める必要はない


俺たちはさらに右側を回った


中央の構造へ少しずつ近づく


距離が縮まると、形も見えてきた


最初は岩の塊にしか見えなかった


でも違う


周囲の岩盤とつながっている部分もある


それでも、自然にできた岩だけとは思えない形をしている


大きな塊が一つあるわけではなく、複数の層や幾つもの筋、盛り上がった部分があり、その間を魔力が流れている


表面は石に近い


ただ、一部には結晶のような質感もある


光っているのはその結晶だけではない


構造全体の内部を魔力が通っている


「作ったもの?」


俺が聞く


ローデンが首を振った


「分からない」


「自然にできる形じゃないように見えるけど」


「自然でも変な形はできる」


「だよな」


構造の専門はローデンだ


俺が見た目だけで決めない方がいい


ローデンは少し近づき、床と構造の接続部分を見た


触れない


上と横も確認する


「岩盤と一緒になってる」


「後から置いた感じじゃない?」


「少なくとも、今見えるところでは」


「動かせそう?」


「やめろ」


「聞いただけ」


「動かすな」


言われなくても動かさない


ここまで魔力が集まっているものに《土成形》なんて使う気はない


何が起きるか分からない


中央から少し離れた位置で止まる


俺は《魔力探査》を細くする


広く見るより、一つの流れを追う


右側の床から来た魔力が中央へ入り、構造の外側を通って一部が内部へ入る


そこで分かれ、一方は下へ、一方は反対側へ向かい、さらに別の流れと合流する


「中を通ってる」


「構造の?」


ミラが聞く


「うん、全部じゃないけど」


「外を通るものも?」


「ある」


「それから」


俺は少し待つ


流れを追う


構造を通った魔力の一部が左側の床へ向かい、別の一部は奥側へ、さらに下方向へ流れるものもある


「ここからまた出てる」


ミラが資料を見る


「それなら」


言葉が止まる


「何」


「もう少し」


慎重だ


俺も助かる


前なら、資料と似ているだけで何かを確定したくなったかもしれない


今は実物が目の前にある


見ればいい


中央付近を一周するように進む


完全には回らない


奥側まで行くと、さらに大きな魔力反応へ近づきすぎる


まず手前側だけ


ルッカはずっと床を見ていた


「痕跡ある」


「魔物?」


「うん」


「多い?」


「昔のは」


ルッカが少し離れたところを指す


「多い」


「新しいのは」


「少ない」


中央の構造近くには古い痕跡がある


大小さまざまで、種類も複数らしい


でも新しいものは少ない


「前はここを通ってた?」


俺が言う


「たぶん」


「最近減った?」


「そう見える」


また一つ、最近の変化らしいものが増えた


ただし、この構造そのものが危険だから減ったのか、さらに奥の何かを避けているのか、魔力環境が変わったからなのかはまだ分からない


「奥向き」


ルッカが別の痕跡を見つける


「新しい?」


「中くらい」


全部が外向きじゃない


ここでも奥へ向かうものはいる


俺は少し安心した


大迷宮全体が一方向に逃げているわけではない


そう単純じゃない


中央構造の右奥側まで来たところで、周囲の魔力が少し揺れた


前のような大きな変動ではない


小さい


でも近いからよく分かる


中央へ流れ込む量が一瞬増え、構造内部の魔力が強くなる


淡い光も少し強くなった


その後、外へ出る流れも増えた


「今」


ミラも見えていたらしい


「光、強くなった」


「魔力も」


「入った?」


「うん」


「その後出た」


「そう」


ミラは資料を開いたまま、中央の構造を見る


「かなり似てる」


「何に」


今度は答えた


「迷宮核」


俺は聞き慣れない言葉を頭の中で繰り返した


「迷宮核」


「古い資料にある、大きな迷宮の深部で魔力循環に関わる中心構造」


「これが?」


「可能性が高いと思う」


まだ言い切らない


俺は構造をもう一度見る


魔力が集まり、内部を通り、分かれ、外へ出る


下や奥へ流れるものもある


「中心構造ってことは、迷宮全体を動かしてる?」


「そこまでは書いてない」


ミラがすぐ訂正した


「魔力循環に関係する、という記述」


「全部を制御するわけじゃない?」


「少なくとも、私が読んだ範囲ではそういう意味じゃない」


「生きてる?」


「そういう記述もない」


「意思があるとか」


「ない」


ミラは資料の文字を指で追う


「装置という言い方も少し違うかもしれない、構造、機構、中心部、その辺り」


「じゃあ、迷宮核って名前だけで、何でもできるものではない」


「そう」


俺は少しほっとした


名前だけ聞くと、大迷宮そのものの心臓みたいなものを想像した


壊したら全部終わる


止めたら迷宮が死ぬ


そんなもの


でも資料にはそこまで書かれていない


「今見えてる動きとは合う」


俺が言う


「魔力が入って出てる」


「それと、深部側の循環に関係している可能性」


「周りが乱れてる」


「それも確認できる」


ミラが構造の周囲を見る


「資料にある正常な状態がどんなものか、細かくは分からない」


「比較できない?」


「完全には」


「でも今は安定してないように見える」


俺は周囲の流れを見る


同じ場所から同じ量が一定に出ているわけじゃない


強くなったり弱くなったり、逆向きが増えたり、一部が急に奥へ引かれたりする


少なくとも俺が魔法を扱う感覚では、整った流れとは言いにくい


「不安定」


ミラが言う


「そう表現していいと思う」


「原因は」


「分からない」


そこは変わらない


迷宮核


名前と役割の一部は見えた


でも、なぜ周囲の魔力が乱れているのかは分からない


「壊れてる?」


俺が聞く


ローデンが首を振った


「見た目では分からない」


「亀裂は」


「あるけど、構造そのものの亀裂か岩盤の亀裂か判断できない」


俺は探査を中へ向ける


全部は見えない


魔力が濃すぎる


表面近くは追えるが、深い部分へ入ると反応が重なって形を失う


「俺も分からない」


「なら触らない」


ダリオが言った


当然だ


原因が分からないものを壊す理由はない


むしろ、これだけ魔力が通っているなら、下手に触れない方がいい


「ここを調べれば異変が止まる」


俺が言いかけると、ミラが俺を見る


俺は自分で止めた


違う


まだそこまで分かっていない


「異変と関係してる可能性は高そうだけど、原因とは限らない」


「うん」


ミラがうなずく


「迷宮核の周辺が不安定なのは事実として見える」


「それが最初なのか、何かに影響されてるのかは分からない」


「そう」


一つ進んだ


原因を見つけたわけじゃない


でも、大迷宮深部に魔力循環へ関係する中心構造があり、その周辺が不安定になっている


これは大きい


「もっと奥」


ルッカが言った


全員がそちらを見る


「匂い」


「強くなった?」


「うん」


俺も探査を向ける


迷宮核の向こう側


さらに深い方向に、あの大きな反応がある


近い


今までよりかなり近い


「中央を越えれば、あれに近づく」


ダリオが言った


「行く?」


俺は聞く


ダリオはすぐ決めない


まずローデン


「向こう側の床」


ローデンが中央構造を迂回する経路を見る


「左は亀裂多い、右奥なら行ける」


「帰路」


「同じ道」


「目印」


「増やす」


次にエナ


「状態」


全員を見る


俺の手、目、呼吸


ルッカの足


ダリオの肩


ローデン、ミラ


「今なら進める」


ミラは時間と記録を確認する


「戻る時間もある」


ルッカは、


「奥の匂いは強い、近くに別の魔物は少ない」


最後に俺


探査する


迷宮核周辺は濃い


その奥に大きな反応


近くに中型一つ


遠くに小型二つ


「近くに一体、でも今は止まってる」


ダリオがうなずいた


「迷宮核を越えて少しだけ」


決まった


俺たちは中央構造の右奥を回る


近くを通ると、光が強い


腕の産毛なんてないのに、皮膚がざわつくような感覚がある


魔力が濃い


自分の魔力を外へ出していなくても、周囲から圧がかかる


でも前に大きな変動を受けた時ほど荒れてはいない


「魔法は必要な時だけ」


ダリオが言う


「分かってる」


「探査も広げすぎるな」


今度はエナ


「分かってる」


「顔が広げそう」


「どんな顔なんだよ」


「する顔」


前にも聞いた気がする


ルッカが笑う


緊張が少し抜ける


迷宮核の反対側へ出る


そこで空間の形が変わった


奥へ向かって床が下がり、左右は岩壁


中央だけが広く開いている


遠くには別の空洞が見える


暗い


でもそこから強い魔力を感じる


「近い」


思わず声が小さくなる


今までの反応とは違う


近づいたからだ


一つのまとまりとして見え始めている


大きい


かなり大きい


動いているかどうかはまだ分からない


でも迷宮核とは別だ


周囲の魔力とは分かれた、一つの大きな反応として感じられる


「形」


ダリオが聞く


「まだはっきりしない、でも迷宮核とは違う」


「生き物?」


ルッカが聞く


「魔力だけじゃそこまでは分からない」


ルッカは前を向いたまま鼻を動かす


「大きい、生き物」


「分かる?」


「うん」


俺の探査では一つにまとまった巨大な反応


ルッカの匂いでは大きな生き物


方向も一致している


奥に巨大な生物がいる可能性はかなり高い


「今までの大型魔力反応」


ミラが言う


「これかもしれない」


「可能性は高い」


前に遠くから感じた大きな反応


何度も追ってきた


その方向と一致している


ただし、まだ姿を見ていない


同じものだと最終的に断定するには早い


「進む?」


ダリオが聞く


ルッカが首を傾げる


「匂い、動かない」


俺も探査する


「反応もほとんど動かない」


「寝てる?」


「分からない」


「近づきすぎるな」


エナが言う


それは全員同じ考えだ


俺たちはゆっくり進んだ


迷宮核から離れるほど、魔力の流れがまた変わる


さっきまで中央構造を通っていた流れの一部が、こちらへ向かっている


「こっちにも来てる?」


ミラが聞く


「うん」


「迷宮核から奥へ?」


「そう見える」


同時に、奥から戻ってくる流れもある


それだけなら今までと似ている


でも強い


特に奥側から戻る流れ


「待って」


俺は止まる


周囲の魔力とは違う


もっと強いものだ


奥の巨大な反応の周辺から、魔力が広がっている


「何」


ダリオが聞く


「奥の反応の周りから、外へ魔力が出てる」


「魔物が魔力を?」


「そこまではまだ分からない、でも反応の周辺から広がってるように見える」


普通の魔物にも魔力はある


強い魔物なら周囲に感じることもある


でもこれは規模が違う


反応の周囲へかなり広く、厚く広がっている


「迷宮核の流れとぶつかってる」


俺はさらに集中する


迷宮核側から奥へ向かう流れと、奥の巨大な反応の周囲から外へ広がる魔力


二つが重なり、そこで乱れる


一部は横へ流れ、一部は戻り、一部は迷宮核側へ押し返されるように見える


「これ」


俺は言葉を探す


「お互いに邪魔してるみたいに見える」


「迷宮核と奥の反応?」


ミラが聞く


「今見える範囲では」


その瞬間だった


奥の反応が強くなる


一気に


「下がれ」


俺が叫ぶのと、ダリオが動くのはほぼ同時だった


全員が壁際へ寄る


奥から強い魔力が広がる


圧


前に受けた大きな変動に近い


ただし今は距離が近い


魔力が空気を押すように迫る


俺の《魔力探査》が乱れる


自分の魔力まで揺さぶられる


「セイジ」


エナの声


「まだ平気」


でも集中は切る


探査を狭める


周囲だけ


次に、迷宮核側から強い流れが来た


さっきの魔力とぶつかる


目に見えるほど淡い光が揺れる


空間全体、壁の亀裂、床、迷宮核の方向が一瞬明るくなる


「戻る」


ダリオが即決した


反対しない


これは調べながら立っている場面じゃない


「全員いる」


「いる」


「ルッカ」


「いる」


「ミラ」


「大丈夫」


「ローデン」


「問題ない」


「エナ」


「いる」


俺たちは来た道を戻る


走らない


でも速い


足場を確認しながら迷宮核側へ向かう


魔力の圧は数呼吸で弱まった


完全には消えない


でも大きな揺れは終わる


「止まらない」


ダリオが言う


「中央を越える」


迷宮核の横へ戻る


そこでも魔力が大きく動いている


構造全体の淡い光が強くなり、内部へ流れ込むもの、外へ出るものが複数方向へ動いている


明らかに前より乱れている


「今の影響?」


俺が言う


「可能性」


ミラは走らずついてきながら答える


「断定しない」


分かってる


でも時間的には重なった


奥の巨大な反応が強まった


その直後、迷宮核周辺の流れも大きく乱れた


「戻る方向」


ローデンが右を指す


俺たちは目印に従う


大空間入口へ


そこまで戻ったところで一度止まる


壁と床に問題はない


エナがすぐ俺を見る


「手」


差し出す


震えていない


「頭」


「痛くない」


「息」


「少し速い」


「魔力」


「乱された感じはあるけど使える」


「使わない」


「今は使わない」


他の全員も確認する


新しい負傷なし


「もっと戻る」


ダリオが言う


「安全確保地点まで」


誰も反対しない


入口を離れ、裂け目状の通路を戻る


途中で弱っていた大型魔物の場所を通る


まだいる


動いていない


こちらを見るだけ


俺たちも近づかない


そのまま通過する


さらに戻る途中、壁の亀裂を通る細い魔力の流れも確認した


前に見たものだ


今は方向が少し変わっているように感じる


奥へ向かう量が減り、浅い側へ戻るものが増えている


「変わってる」


「今の変動の後?」


ミラが聞く


「少なくとも今は」


記録する


さらに戻る


最初の安全確保地点


そこで休む


座った瞬間、全身から力が抜けた


疲れた


戦闘していないのに


魔力を大きく使ったわけでもないのに


周囲の圧を受け続けるだけで疲れる


エナがもう一度見る


「休めば大丈夫」


「うん」


「次は」


ダリオが口を開く


「今日は戻る」


俺が先に言った


「そうする」


迷いはない


今日見るべきものは見た


「整理する」


ミラが紙を出す


休みながら、今分かったことだけを短く揃える


「中央の構造」


俺が言う


「迷宮核」


ミラがうなずく


「古い資料との照合と、実際の魔力流から、記録上はその名称で扱っていいと思う」


「役割は」


「大迷宮深部の魔力循環に関係する中心機構」


「全部を動かすものじゃない」


「そう」


「意思は」


「確認できない、資料にも人格を示す記述なし」


「今は」


俺は考える


「周りの流れが不安定」


「それは確認できる」


ミラが記録する


次は奥だ


「巨大な生物らしい反応」


「魔力探査と匂いの両方?」


「魔力探査では大きなまとまり、匂いでは生き物」


ルッカがうなずく


「姿は見てない」


「うん」


「名前も分からない」


「うん」


「反応の周りから強い魔力が広がってた」


俺が言う


「迷宮核側の流れと重なった」


ミラが続ける


「その後、大きな魔力変動」


「奥の反応が強くなってから、迷宮核周辺も乱れた」


「関係は」


ダリオが聞く


俺は少し考える


「ある可能性は高いと思う」


「どっちが先」


「分からない」


「どっちが原因」


「分からない」


そこが重要だ


迷宮核の不安定さが奥の巨大な反応と関係しているのか


奥の巨大な反応側から広がる魔力が迷宮核を乱しているのか


両方が互いに影響しているのか


別の何かがあるのか


まだ分からない


でも、別々だと思っていた二つが同じ場所で直接ぶつかっているように見えた


それだけでも大きい


「魔物が逃げた理由」


ルッカが言う


「これ?」


「可能性はある」


奥の強い魔力


大きな変動


迷宮核周辺の乱れ


その結果として深部の魔物が外へ移動している


そう考えると、今まで見てきた痕跡と合う


でも、まだ直接見たのは一部だけだ


「次は、あの反応を確認する」


ダリオが言った


「姿?」


俺はうなずく


「そこまで行けば、もう少し分かる」


「戦う?」


ルッカが聞く


ダリオは首を振る


「見るのが先」


「向こうが来たら」


「その時判断」


俺も同じだ


巨大な魔力だから敵


そう決める理由はない


魔物だから倒す


それも違う


まず、何なのか


何をしているのか


近づけば襲うのか


動いているのか


そこを見る


「今日は帰る」


エナが言った


「うん」


「研究しない」


「ここではしない」


「帰っても」


「今日はしない」


先に答える


エナは納得した


休憩後、浅い側へ向かう


帰路は比較的静かだった


途中、小型魔物を一体見つけたが、向こうが離れた


戦闘はない


大きな魔力変動もない


それでも俺は何度も後ろを振り返りそうになった


奥には迷宮核があり、そのさらに先に巨大な生物である可能性が高い反応がある


でも振り返っても見えない


なら前を見る


戻る道


ローデンの目印


ルッカの確認


ダリオの判断


エナの状態確認


ミラの記録


いつもの六人で、少しずつ浅い側へ戻る


袋状の安全確保地点まで戻ったところで、もう一度休む


「迷宮核」


俺は口にしてみる


ルッカが横を見る


「変な名前」


「俺が付けたんじゃない」


「核って何」


「中心みたいな意味」


「真ん中?」


「たぶん」


「じゃあ真ん中」


「資料の名前があるんだから迷宮核でいいだろ」


「長い」


「四文字だぞ」


「長くない」


自分で言ってから訂正している


疲れているらしい


俺は笑った


それだけで少し楽になる


ミラはそんな会話を無視して記録を整理している


しばらくして、こちらを見る


「セイジ」


「何」


「迷宮核を見てどう思った」


「どうって」


「魔法の構造として」


その質問に、俺は少し考えた


迷宮核は魔法なのか


それすら分からない


でも魔力の動きだけなら


「俺が作る魔法とは全然違う」


「どこが」


「大きすぎる」


それが最初


「それと、流れが一つじゃない」


入口や出口のように見える流れがあり、内部で枝分かれし、合流し、戻る流れまである


「俺の複合魔法より、ずっと多い」


「構造が?」


「そう見える」


「真似できる?」


「無理」


即答した


今の俺が触っていいものじゃない


「でも」


俺は少し考える


「考え方は面白い」


「何が」


「魔力が入って、内部で分かれて、別のところへ出る」


「それは」


「一つの魔法で一方向に撃つだけじゃない」


俺が普段使う攻撃魔法は分かりやすい


魔力を構造へ入れ、形を作り、放つ


迷宮核は違う


魔力が入り、内部を通り、複数へ分かれ、一部は戻りながら流れ続ける


「維持する構造」


ミラが言う


「そういう感じ」


ただし、これをそのまま魔法へ使えるとは思わない


規模も違う


目的も違う


そもそも迷宮核が人工的な魔法構造なのかすら分からない


「研究するなら帰ってから」


エナが聞いていた


「今日はしないって」


「念のため」


「しない」


本当にしない


今は頭の中に残すだけ


必要な作用から考える


それに続いて、必要な流れをどう維持するか


その考えが少し浮かんだだけだ


新しい魔法を作る話ではない


まだ必要もない


今必要なのは、次の探索で奥の巨大な反応を確認することだ


俺たちはさらに戻った


大空洞、割れ目、縄、中層


何度も通った道をたどる


深部から離れるほど、周囲の魔力が軽くなる


それだけで身体も楽になる気がする


大迷宮を出た時、ルッカが大きく息を吸った


「森」


「匂い違う?」


「全然」


俺にはそこまで分からない


でも空気が違うのは分かる


外があり、空があり、木と風がある


それだけで落ち着く


ガルディアへ戻る前に一度休み、そこで今日の情報をもう一度揃える


迷宮核


これが今日一番大きい


資料上の名称


役割の一部


周辺の不安定


そしてその先の巨大な生物らしい反応


「報告はどこまで」


俺が聞くと、ミラが答える


「確認したところまで」


「奥の生物が原因って言わない」


「言わない」


「迷宮核が壊れてるとも」


「確認してない」


「魔物が全部それで逃げてるとも」


「言わない」


よし


俺自身への確認でもある


大きなものを見つけると、そこへ全部つなげたくなる


でもまだ早い


ガルディアへ戻り、必要な報告をする


大迷宮深部で、古い資料に記された「迷宮核」と一致する可能性が高い構造を確認したこと


周辺に多数の魔力流があり、流入と流出の両方が確認できたこと


現在、その流れは安定していないこと


さらに奥に、巨大な生物である可能性が高い強い反応があること


その反応が強まった直後、迷宮核周辺の魔力流も大きく乱れたこと


ただし、両者の因果は未確定


それだけ


話していると、改めて今日見たものの大きさを感じる


森で小さな《火弾》を出して喜んでいた頃には、こんな場所に来るなんて想像もしなかった


でも、そのことを口には出さなかった


今は感慨より次だ


報告を終えたあと、ダリオが言う


「次は今日より危ない」


「奥の反応?」


「姿が見えるところまで行くならな」


「戦闘になる可能性もある」


「高い」


エナが俺を見る


「進化」


「しない」


答えは変わらない


これまでと同じようにLEVELが下がる可能性がある状態で、今進化する方が危ない


「今のまま行く」


「なら休む」


「分かってる」


ローデンも言う


「次、射線を見る」


「まだ戦うって決まってないぞ」


「戦わなくても逃げる道に必要」


「なるほど」


巨大な生物である可能性が高い反応がある


それだけでも空間の使い方は変わる


どちらへ逃げるか


どこなら隠れられるか


崩落させずに動けるか


戦う前から必要なことがある


ルッカは一言だけ


「匂い覚えた」


「次は分かる?」


「たぶん」


それで十分


ミラは資料を抱えている


「私も調べる」


「迷宮核?」


「それと、奥の大型魔力反応に似た記録」


「名前とかあるか」


「分からない」


「無理に決めなくていい」


「分かってる」


次の探索までに何か見つかるかもしれない


見つからないかもしれない


どちらでもいい


俺は岩陰拠点へ帰る


ルッカと一緒に、いつもの道を通り、いつもの入口へ戻る


座った時、身体の疲れより先に中央で流れていた魔力を思い出した


集まり、分かれ、戻り、また流れる


迷宮核


大迷宮深部の魔力循環に関係する中心機構


それ自体が敵ではない


少なくとも、今日見た限りでは


壊す理由もない


むしろ今起きていることを知るために必要なものだ


そして、そのさらに奥にある巨大な反応


迷宮核側の流れとぶつかるほどの魔力


そこまで近づいた


次は姿を見る


何なのかを確認する


それから必要なら考える


俺は寝床へ入る前に、入口の外を一度だけ見た


森は静かだった


大迷宮の奥でどれだけ魔力が揺れていても、ここまで戻れば水の音と葉の音がある


ルッカが先に中へ入り、振り返る


「寝るよ」


「ああ」


俺も入る


今日は研究しない


STATUSも見ない


進化もしない


今は休む


次に奥へ行った時、あの巨大な反応の正体を自分の目で見るために

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