必要なものから
第89回 必要なものから
臨時休息地点で十分に休んだあと、俺たちは来た道を戻った
あれほど大きく揺れていた周囲の魔力も、時間が経つにつれて少しずつ落ち着いていた
落ち着いたといっても、浅い場所と同じになったわけではない
《魔力探査》を狭い範囲だけ使えば、壁や床の中を走る魔力はまだ濃く、場所によって流れ方も違う
ただ、俺の手に出ていた震えは消えていた
エナにも何度か確認された
「もう大丈夫」
「手」
言われる前に差し出す
エナが指先を見る
「震えてない」
「だろ」
「疲れは」
「あるけど、普通」
「頭」
「痛くない」
「気持ち悪くない」
「ない」
ようやく納得したらしく、エナが手を離した
「次に同じのが来たら、もっと早く休む」
「分かった」
「本当に」
「分かったって」
横でルッカが笑っている
「セイジ、毎回言われる」
「お前もだぞ」
「私は元気」
「元気だから先に行くのが問題なんだろ」
「行かない」
「今は、だろ」
ルッカは答えなかった
たぶん図星だ
ダリオが前方を見ながら口を挟む
「二人とも、話すなら歩きながらにしろ」
「もう歩いてる」
「なら前を見ろ」
正しい
俺たちは探索を再開していた
完全に一度外へ戻ったわけではない
深部で確保した場所を利用し、状態を確認しながら少しずつ進んでいる
ただ、前に大きな魔力変動を受けた場所へ、そのまま戻るつもりはなかった
ローデンが帰路を確認し、ミラが記録を整理した結果、途中で見つけた別の経路から同じ深い方向へ回れる可能性があった
前に入らなかった横道だ
入口は狭く、匂いは多い
でも最近の通行はそれほど多くない
正面の深い経路より安全だとは言えないが、少なくとも同じ場所へ真正面から戻るよりは情報が増える
ダリオが選んだのは、そちらだった
「ここ」
ルッカが止まる
前に記録だけして通り過ぎた横道
岩の影に半分隠れ、入口は狭いが、奥は少し広がっている
俺が探査を向ける
「近くに大きいのはいない」
「小さいのは」
「二つ」
「動いてる?」
「ほとんど動いてない」
ダリオが入口を見る
「中で寝てる可能性は」
「ある」
「避けられるなら避けたいな」
ルッカが匂いを確認する
「こっちは古い」
「二つとも?」
「たぶん」
俺の探査でも、小さな魔力反応が二つある
それ以上は分からない
「入る」
ダリオが決めた
ただし、武器はすぐ使える状態にする
俺も攻撃魔法をすぐ組めるよう、魔力を整える
狭い入口を一人ずつ通る
中へ入ると、思ったより広く高さもある
ただ、形が悪い
岩が何本も柱のように立ち、視界を遮っている
「嫌な場所だな」
俺が言うと、ローデンもうなずいた
「上は安定してる」
「そこじゃなくて」
「見えない方か」
「そう」
敵がいれば隠れやすい
俺の《魔力探査》があるから多少は反応を拾えるが、それでも岩の周囲に濃い魔力が流れていて位置がぼやける
「二つ、右奥」
俺は位置を伝える
ダリオが少し速度を落とす
ルッカが前へ出て、鼻を動かし、耳を立てる
「動かない」
「寝てる?」
「たぶん」
「通れるか」
ルッカは左側を見る
「こっち」
俺たちは反応から距離を取って進んだ
わざわざ起こす必要はない
岩柱の間を抜け、奥へ向かう
しばらく進んだところで、ルッカが振り返った
「起きた」
俺も気づいた
二つの反応が動く
こちらへは来ない
逆方向、さらに奥へ向かっている
「逃げたか」
「分からない」
ルッカの答えはいつも通り慎重だ
俺たちに気づいて離れただけかもしれない
それなら普通だ
追わない
そのまま進む
横道は緩やかに下っていた
正面経路ほど魔力は濃くない
ただ、左右の壁から細い流れが何本も合流している
「ここも下へ行ってる」
俺が言うと、ミラが記録する
「前の経路ほど強い?」
「弱い」
「でも方向は同じ」
「今見える範囲では」
細い流れが集まりながら奥へ向かう
俺は歩きながらその動きを追った
さっきまで、濃いとか薄いとか、流れがどちらを向いているかばかり見ていた
でも今は少し違う
何本もあり、それぞれ太さも強さも違う
途中で交わるもの、離れるもの、岩の中へ消えるように感じるものもある
それでも大きく見れば、深い側へ向かっている
もし本当にどこかへ集まっているなら、その先には何があるんだろう
そう考えたところでやめた
答えを先に作っても仕方ない
見るまで分からない
道はさらに広くなった
前方に少し開けた場所がある
ルッカが足を止めた
「匂い、多い」
「新しい?」
「うん」
俺も探査を広げる
反応が増える
一つ、三つ、五つ
さらに奥にもある
「多いな」
ダリオがすぐ周囲を見る
「こっちに来る?」
「今は来てない」
「種類は」
「分からない」
ルッカが床を見る
「行ったり来たりしてる」
「最近も?」
「うん」
今までとは少し違う
浅い側へ向かう痕跡ばかりではない
ここでは複数の方向が混ざっている
「生息場所に近いのか」
俺が言うと、ルッカは少し考えた
「そうかも」
断定はしない
ダリオが前を見る
「避けられる道は」
ローデンが左側の岩壁を確認する
「細いけどある」
「通れる?」
「六人なら」
「退路は」
「同じ道を戻れる」
それなら無理に中央へ入る必要はない
左の細い道へ回る
足場は悪くない
ただ、一部で壁がせり出しているため、一人ずつ通る
俺が三人目に入ったところで、探査の反応が動いた
「待って」
前のダリオとルッカが止まり、後ろも止まる
「中央のやつ、一つこっち来る」
「気づいた?」
「たぶん」
速くはない
でも確実に近づいている
道が細い
ここで戦うのはまずい
ダリオも同じ判断だった
「前へ抜ける」
俺たちは急いだ
走らない
足場を確認しながら速度だけ上げる
細道の先には少し広い場所がある
ローデンが出た瞬間に左右を見る
「ここなら動ける」
全員が抜ける
最後のミラまで出た
その直後、岩の向こうから大きな音がした
何かが壁にぶつかったような音だ
俺が反応を見る
一つだったものが二つに増える
「二体」
「来る?」
「一体は速い」
ダリオが武器を抜く
ルッカが右へ寄る
ローデンが地面を見る
「中央は平ら、左は少し高い」
「エナ、ミラ、左」
ダリオの声で二人が移動する
俺は後ろへ少し下がった
最初に出てきたのは小型だった
身体は細く、脚が長く、頭が低い
速い
俺たちを見るなり、そのまま横へ回ろうとする
「右」
ルッカが叫ぶ
俺は手を向ける
攻撃する
そう考えた瞬間、一度止めた
速い
必要なのは威力じゃない
まず動きを落とす
《土成形》
小型魔物が踏み込む直前、前脚側の地面を浅く崩して形を変える
完全には止まらない
でも踏み込みが乱れ、速度が落ちた
「今」
ダリオが距離を詰める
剣が入る
浅い
魔物が身体をひねって逃げる
追わない
その後ろから二体目が出た
大きい
前に見た岩のような背中の魔物より、さらに厚い
四足で首が短く、身体全体を硬い外殻のようなものが覆っている
「硬そう」
俺が言った瞬間、小型が再び来た
今度は横から
「セイジ」
ルッカの声
俺は振り向かず、探査で反応の位置を取る
《風圧》
吹き飛ばすほど強くしない
進行方向だけずらす
小型の身体が流れ、ダリオから離れた
ルッカがその間へ入る
「こっち」
注意を引きつける
大きい方は真正面から来た
ダリオが受ける姿勢になる
「受けるな」
ローデンが叫んだ
「床」
見る
大きい魔物の少し先に亀裂がある
重いものが乗れば危ない
「右へ」
ダリオが直前で避ける
魔物がそのまま進み、亀裂を踏む
音が変わった
床が沈む
完全には落ちない
前脚だけが一段下がり、体勢が崩れた
「今だ」
俺は攻撃魔法を選ぼうとする
《火槍》
《水槍》
《風刃》
どれが一番強い
そう考えかけて、違うと思った
背中は硬い
外側を削る必要はない
今必要なのは、動けなくすること
「ローデン、あそこ、寄せていいか」
俺が沈んだ床の周囲を指す
ローデンが一瞬見る
「右側だけなら」
《土成形》
崩れた土と岩を寄せる
魔物の前脚の周囲へ回し、押し潰すのではなく抜けにくくする
魔物が暴れる
地面が揺れる
完全には固定できない
でもすぐには抜けない
「小さい方先」
ダリオが言った
俺もうなずく
硬い大物を倒すより、自由に走る小型を先に処理した方がいい
ルッカが追われている
速い
ただ、ルッカも動きが速い
敵の突進を避け、岩を使い、こちらへ向きを変える
「次、左」
ルッカが言う
俺は構える
小型が曲がる
一瞬だけ横腹が見える
必要なのは速度
《風刃》
短く
狭く
一枚
横腹へ入る
魔物の動きが鈍る
ダリオが追いついた
剣が入る
一体目が倒れる
その間に大きい方が前脚を抜いた
土と岩が弾ける
「来る」
今度は怒っている
こちらへ一直線
でも速くはない
硬い
重い
それなら
「前に出すぎるな」
ダリオが俺を止める
「分かってる」
俺は動きを見る
外殻、脚、腹、首
どこも厚い
《火槍》なら削れるかもしれない
でも何発必要になる
それより、体勢を崩せばダリオが狙える場所が出る
「ルッカ、回れるか」
「右」
「右へ向かせて」
ルッカが走る
魔物の横を通る
魔物が頭を振って追い、身体が回る
俺は反対側へ少し移動する
「もう少し」
ルッカがさらに外へ
魔物の後脚が見えた
関節
外殻の切れ目
広く壊す必要はない
「そこ」
《水槍》
威力を上げすぎず、細く
外殻の隙間へ
完全には貫かない
でも魔物が脚を引いた
動きが変わる
「右後ろ弱った」
俺が言う
ダリオが位置を変える
魔物が向きを戻そうとする
その瞬間、右後脚が遅れる
体勢が崩れる
「首下」
ルッカが叫んだ
俺には見えていなかった
身体が傾いたことで、首の下側が出た
ダリオが入る
剣が深く入った
魔物が暴れる
俺は次の魔法を作る
今度は止める必要はない
一点へ押し込む
《火槍》
首下の傷へ
火が走る
魔物の巨体が倒れ、床が揺れた
しばらく誰も近づかない
ルッカが動きを見る
俺は探査する
反応が弱くなる
「終わった」
ダリオが武器を下げた
俺も魔力を解く
エナがすぐ来る
「怪我」
「俺はない」
「聞いてない」
まずダリオ
腕、肩、脚
問題なし
次にルッカ
擦り傷が一つある
「これ」
エナが腕をつかむ
「岩」
「いつ」
「避けた時」
「痛い?」
「少し」
洗って薬
大きな傷じゃない
それでも処置する
俺も見られる
「魔力」
「使ったけど、まだ平気」
「手」
問題ない
ローデンとミラも確認し、全員動ける
「今の二体、同じ場所にいたのか」
俺が聞く
ルッカは倒れた魔物と、来た道を交互に見る
「分からない」
「一緒に襲ってきたようには見えなかった」
ダリオが言う
「小さい方が先、大きい方は後」
「それぞれ別に動いてた可能性もあるな」
ミラが記録する
「同時に来たことだけ残す」
それでいい
一度の戦闘で関係まで決める必要はない
ローデンは崩れた床を見ていた
「帰り、ここ通らない方がいい」
「崩れた?」
「まだ広がる」
俺たちが戦ったせいでもある
大きな魔物の重さ、《土成形》、魔物自身の動き
全部重なった
「別の道」
ローデンが右側を見る
「少し回れば戻れる」
ダリオが確認する
「印つけろ」
帰る時に間違えないようにする
戦闘後、少し休む
俺は壁際に座り、水を飲んだ
さっきの戦いが頭に残っている
強い魔法を選ぶ場面は少なかった
最初の小型には《土成形》
次に《風圧》
それから《風刃》
大きい方には《土成形》《水槍》《火槍》
種類は多い
でも適当に使ったわけじゃない
速いから動きを落とす
向きを変える
隙間を狙う
最後に倒す
一つずつ必要なことが違った
「何考えてる」
ルッカが横から覗く
「戦い方」
「さっきの?」
「うん」
「勝った」
「勝ったけど」
俺は手を見る
魔法は増えた
使える属性も増えた
強い魔法もある
前に作った火と風の複合魔法だってある
でも、何でも一番強いものを撃てばいいわけじゃない
さっきの細道で、速い小型へ大きな火力を使っていたら外したかもしれない
硬い大物へ正面から撃ち続けていたら、魔力を余計に使ったかもしれない
必要だったのは、止めること、ずらすこと、体勢を崩すこと、狙える場所を作ること
そして最後に、そこへ必要な威力を入れること
「魔法って、先に選ぶんじゃないのかもな」
俺が言うと、ルッカが首を傾げた
「何」
「いや」
説明しようとして少し考える
「《火槍》を使う、と決めてからどう当てるか考えるんじゃなくて、まず何が必要か考える」
「止める」
「そう」
「倒す」
「それも」
「逃がす」
「場合によっては」
ルッカがうなずいた
分かっているのか分からない
でも俺の中では少し整理された
今まで魔法を研究する時、既にある魔法を見ていた
《火弾》をどう変えるか
《火槍》をどう安定させるか
火と風をどう一つへまとめるか
構造を分け、つなぎ、変える
それでかなりできることは増えた
でも戦闘では、魔法の名前から始まっていない
必要な結果が先にある
止めたい
押したい
切りたい
貫きたい
守りたい
そこから、今持っている中で合うものを選んでいる
「セイジ」
ミラが俺を見ていた
「今の話、もう一回」
「聞いてたのか」
「聞こえた」
「大した話じゃないぞ」
「いいから」
仕方ない
俺は今考えていたことを簡単に話した
魔法を先に決めるのではなく、必要な結果を先に見る
そこから合う魔法を選ぶ
ミラは少し考えた
「古い資料にも似た考え方はある」
「マギアコードの?」
「近い」
その言葉で、俺は姿勢を直した
ミラが持っている古い資料
完全には読めていない
分からない部分も多い
でも今までに何度か、俺の魔法研究と重なる考え方が出てきた
「何て書いてた」
「そのままじゃない」
「うん」
「既存の術を選ぶ者と、必要な作用から構造を見る者は違う、みたいな記述」
「必要な作用」
「解釈が合ってるかはまだ分からない」
「でも似てるな」
「似てる」
俺はしばらく黙った
今すぐ何か新しい魔法を作ろうとは思わない
そんな必要もない
今の魔法で十分戦えている
でも考え方としては残った
魔法から始めない
必要なものから考える
それだけだ
「休憩終わり」
ダリオが立ち上がる
俺も立った
「行ける?」
エナを見る
「今なら」
いつもの答え
それで十分だ
さらに奥へ進む
さっきの生息場所らしい区域を回り込んだ先から、魔物の反応が増え始めた
一体、二体
離れたところに三体
これまでより密度が高い
ただ、妙だった
一定の場所に落ち着いていない
動き、止まり、急に方向を変え、別の反応と近づいては離れる
「落ち着いてない」
俺が言う
ルッカもうなずく
「匂いも混ざってる」
「縄張りは」
「分からない」
少し先で、突然鳴き声が響いた
低い声に続いて甲高い声
何かが争っている
「前」
俺が探査を向ける
二体
いや三体
戦っているような動き
その近くには別の反応もある
「避けるぞ」
ダリオが言う
ローデンが右を確認する
「こっち通れる」
遠回り
それでいい
戦う必要がないものとは戦わない
右へ回る
ところが途中で、別の反応が近づいた
速い
「右奥から二」
俺が伝える
「戻る」
ダリオが言う
後ろでは、さっきの三体が動いた
こっちへ来るわけではないが、元の道に近づいている
「挟まれる」
ミラが言った
「左」
ローデンが指した
大きな岩が並び、その間に狭い空間がある
「六人入れる?」
「逃げ道は」
「奥に一本」
「入る」
俺たちはそこへ移動した
このまま魔物同士が通り過ぎるなら、それでいい
探査を続ける
右から小型二体が速い速度で近づいている
さっき争っていた三体のうち、一体もこちら側へ動く
中型
残り二体は別方向だ
「三体来る可能性」
「迎える」
ダリオが決める
ここは入口が狭い
一度に来られる数を減らせる
ローデンが地面を見る
「入口右側、崩せる」
「塞ぐ?」
「全部はやめろ、帰りに使う」
「半分」
俺は《土壁》を出す
入口の右側だけ
幅を狭め、通れる場所を左へ寄せる
そこへ最初の小型が来た
脚が細く、速い
その後ろにもう一体
「一体ずつ」
ダリオが前へ出る
一体目が飛び込む
俺は撃たない
狭い
ダリオが剣で受け流す
ルッカが側面へ回り、小型が向きを変える
その瞬間、
「次来る」
二体目
必要なのは入口を止めること
《風圧》
二体目だけを押し戻す
一体目はダリオとルッカが処理する
短い声
一体目が倒れる
二体目が再び入る
「左足」
ルッカが言う
少し傷がある
俺は狙う
《水槍》では強すぎる
必要なのは動きを止めること
《土成形》
踏み込む直前の足元を小さく崩し、形を変える
魔物がつまずく
ダリオが仕留める
「三つ目」
中型が来る
でも入口まで来る前に止まった
こちらを見る
倒れた二体を見る
後ろを見る
迷っている
「来ないなら撃つな」
ダリオが言う
俺もそのつもりだった
中型魔物は低く鳴き、後ろへ下がる
そのまま別方向へ走った
追わない
「終わり」
俺は探査を広げる
近くに反応なし
土壁をすぐには消さない
エナが負傷を確認する
誰も怪我なし
戦闘は短かった
「さっきから変だな」
俺が言う
「敵が?」
ダリオが聞く
「魔物の動き」
ルッカが入口の外へ出て、匂いを見る
「混ざってる」
「普段なら一緒にいない?」
「たぶん」
「縄張りが崩れてる」
「そこまでは分からない」
そうだった
言い切りすぎた
ただ、少なくとも違う種類の魔物が近い範囲を不規則に動いている
争っているものもいる
同じ方向へ逃げるものもいる
今まで使っていた場所から外へ出た個体が増えているなら、こういうことも起きるのかもしれない
「奥へ行くほど、まとまりがない」
ミラが記録を見る
「浅い側では移動の結果が見えていた」
「ここでは途中を見てる」
俺が言う
「可能性はある」
ミラはそう答えた
深いところから何かが押している
そう考えれば簡単だ
でも、まだ何かは分からない
魔力の変化だけで魔物が移動したのか
もっと直接的なものがいるのか
両方なのか
原因は一つなのか
そこまでは分からない
ただ、ここにいる魔物たちの動きが乱れていることは見える
土壁を必要な分だけ崩し、俺たちは先へ進んだ
道は広くなったり狭くなったりを繰り返す
そのたびローデンが足場と天井を見る
途中、一か所だけ進めない場所があった
天井から大きな岩が落ち、通路の半分以上を塞いでいる
「どかせる?」
俺が聞く
「やめた方がいい」
ローデンは上を見る
「これが支えてる可能性ある」
「動かしたら崩れる?」
「かもしれない」
なら触らない
脇に人一人ずつ通れる隙間がある
そこを使う
俺が最後から二番目に通り、ローデンが最後
全員抜けた
その先で、魔力の感じがまた変わった
濃い
でも乱れが少ない
「ここ、ちょっと違う」
俺が足を止める
「弱い?」
「濃さは同じくらい、流れが静か」
ミラがすぐ記録する
俺は周囲を探る
大きな反応はない
小さな反応もかなり遠い
「魔物も少ない」
ルッカが匂いを取る
「最近、あまり通ってない」
「休めそうか」
ダリオが聞く
ローデンが周囲を見る
右側に岩壁
左側は少し低くなっている
奥は狭い袋状の空間だ
天井に目立つ亀裂はなく、床も安定している
「奥なら」
「入口は一つ?」
「うん」
「中から外見える?」
「見える」
「決まりだな」
俺たちは袋状の空間へ入った
完全な安全なんて大迷宮にはない
でも、今確認できる範囲では使いやすい
入口が狭く、中は六人が座れる
天井と床も安定し、周囲の魔力も比較的静かで、近くの魔物反応も少ない
新しい安全確保地点にするには十分だった
ローデンが戻る方向、入口、危険な側が分かるように目印をつける
ミラは今までの経路を記録へ追加する
ルッカは周囲の匂いをもう一度確認する
エナは全員の状態を見る
ダリオは入口から先の通路を確認する
俺は座る前に《魔力探査》を奥へ向けた
遠く
さらに下
あの大きな反応はまだある
前より少し近い
ただ、その手前に魔物の反応が多く、まとまりがない
動きもばらばらだ
そして、そのさらに奥では複数の魔力の流れが深い側へ寄っている
前より分かる
完全な形は見えない
そこから別の流れが戻るように見える場所もある
何らかの変化がある
それ以上はまだ言えない
俺は探査を切った
「どう」
エナが聞く
「魔力?」
「違う、疲れ」
「ああ」
「少し」
「休む」
「そのつもり」
壁際へ座る
ルッカが隣に来た
「今日いっぱい戦った」
「避けた方が多いけどな」
実際、戦わずに通した魔物もいる
争っているものは回り込んだ
近づかなかったものは放っておいた
それでも何度か戦闘になった
今までより魔物同士の位置が読みにくい
「必要なものから」
ルッカが突然言った
「何が」
「さっき言ってた」
「ああ」
覚えていたらしい
俺は少し笑った
「そうだな」
今日の戦いで、何度もそうした
強い魔法を選ぶんじゃない
必要な結果を見る
止める
ずらす
狭める
弱い場所を作る
最後に倒す
それぞれに合うものを選ぶ
今はまだ、持っている魔法の中から選んでいるだけだ
それで困っていない
だから、それ以上を考える必要もない
少なくとも今は
ただ、ミラが言った古い資料の言葉は残っている
必要な作用から構造を見る
俺が今までやってきたのは、既にあるものを深く知ることだった
分解して、変えて、組み直す
二つの属性を一つの構造へまとめるところまで来た
その先に何があるのか
まだ分からない
今ここで答えを出す必要もない
「セイジ」
ダリオが入口から戻ってきた
「先は下ってる」
「魔力もそっち?」
「明日は」
「状態見てから」
俺が先に言うと、ダリオが少しだけ笑った
「分かってきたな」
「毎回言われてるからな」
「言われなくても分かれ」
「努力する」
エナが横から言った
「努力じゃなくて守る」
「はい」
ルッカがまた笑う
ローデンは聞いていない
目印を固定している
ミラも記録を書いている
いつもの感じだ
大迷宮のかなり深い場所まで来ているのに、六人でいると妙に変わらない
目の前には、さらに下へ続く道がある
その先では魔力が集まり、魔物の動きが乱れ、今までより強い何かが待っているかもしれない
でも今は進まない
今日進んだ分を確かな道にする
休める場所を作り、戻る道を残し、見たことを記録する
そうしてから、その先へ行く
俺は岩壁に背を預けた
魔法のことも、異変のことも、奥にある大きな反応のことも、まだ答えはない
ただ、今日一つだけ頭の中に残った考えがある
何を使えるかから考えるんじゃない
何が必要なのか
そこから考える
今は戦い方の話にすぎない
それで十分だった
俺たちはまた一つ、奥へ進むための場所を作った




