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深部の流れ

第88回 深部の流れ


臨時休息地点を出る前に、俺たちはもう一度だけ全員の状態を確認した


水は足りている


食料も問題ない


エナが見た限りでは、誰かが無理をしている様子もない


俺の魔力にもまだ余裕がある


ただし、さっき感じた大きな魔力の揺れが気になっていた


あれが何だったのかは分からない


でも、奥から浅い側へ逃げていった魔物が、その直後にさらに強く反応したのは見ている


ルッカも、少なくともあの中型の魔物が明らかに怯えたと判断していた


それだけでも、進む理由としては十分だった


もちろん、だから一気に奥まで行くという話ではない


「目印、ここにも増やす」


ローデンが壁際を見ながら言った


臨時休息地点は本道から少し外れている


帰りに急いでいたら入口を通り過ぎる可能性がある


俺は空間収納から布を一枚出した


「これでいいか」


「目立ちすぎる」


「暗いのに」


「魔物にも見える」


なるほど


俺には見つけやすい方が便利に思えたが、目立てばいいというものでもないらしい


ローデンは布を細く裂き、岩陰の内側へ結んだ


外からは目につきにくい


戻る方向から見ると分かる


「こう」


「俺だったら普通に外へ付けてた」


「だから俺がやる」


言い方は少し腹立つが、正しい


ルッカが横で笑っている


「セイジ、目印下手」


「お前まで言うな」


「前も変なところにつけた」


「覚えてたのか」


「覚えてる」


俺は覚えていない


たぶん、こういう違いなんだろう


俺が魔力の濃さを覚えているように、ルッカは匂いや痕跡や道を覚えている


準備を終え、俺たちは再び奥へ向かった


道は少しずつ狭くなっている


六人が横に並べるほどではない


ダリオが先頭、その少し後ろにルッカ、俺とローデンが続き、その後ろにエナとミラ


場所によって並びは変えるが、今はこの形が一番歩きやすい


《魔力探査》を広げる


前方、左右、足元、少し遠い位置


全部を同じ細かさで見るのではなく、必要なところだけ濃く探る


周囲の魔力は、臨時休息地点よりさらに強い


ここまで進む間にも、濃く感じる場所や変化の大きい場所が増えている


その一方で、流れは複雑だった


壁沿いに進むもの、下方向へ流れるもの、横から混ざるもの、途中で弱くなるものがある


俺は少し歩いてから止まった


「また何かあるか」


ダリオが振り返る


「魔力の流れ」


「変わった?」


「変わったというより、増えた」


「何が」


「方向」


俺は壁へ手を近づける


触らない


ローデンに怒られるからだ


「さっきまでは、奥へ流れてる感じが強かったけど、ここは奥から戻ってくる流れもある」


「往復してるのか」


「そこまできれいじゃない」


俺は探査を細くする


「奥へ行くのもある、横へ行くのもある、浅い方へ戻るみたいなのもある」


ミラが後ろから近づいた


「一つの流れじゃない」


「うん」


「循環しているように見える」


その言葉に、俺は少し考えた


「循環してるかはまだ分からない」


「そう見える部分がある」


「それならある」


ミラは記録する


俺は先へ進みながら、さっきの言葉を頭に残した


循環


確かに、一方向へ流れているだけではない


何かへ集まり、どこかから戻り、途中で別の流れとぶつかる


そんな動きがある


ただ、全体の形は見えない


今の俺の《魔力探査》で確認できる範囲には限界がある


迷宮全体をまとめて把握できるわけじゃない


「セイジ」


ルッカが呼んだ


少し先でしゃがんでいる


足元には、また痕跡があった


今度は一種類だ


細い脚、三本の爪、広い間隔


「走ってる」


ルッカが言う


「また逃げた跡か」


「たぶん」


「どっちから」


ルッカが奥を指した


「こっちから」


浅い側へ向かっている


「新しい?」


「前の四体より、たぶん少し前」


正確な時間までは分からない


それでも比較的新しいらしい


ダリオが前を見る


「奥に行くほど増えてるな」


「外向きがな」


俺はそう答えた


前までなら、それだけで何か大きなものが追い出していると考えたかもしれない


でも、今見えているのは結果だけだ


魔物が出てきている


逃げた痕跡もある


魔力の変化もある


調べるべき先は、まだ奥だ


俺たちは進んだ


しばらくして、道が急に広がった


空洞というほどではないが、これまでの通路よりかなり広く、天井も高い


床には大小の岩が転がり、壁の一部は黒っぽく変色していた


「止まれ」


ローデンが言う


俺たちは入口で止まった


「何かある?」


俺が聞く


「上」


見上げる


俺には普通の岩にしか見えない


ローデンは灯りを上げた


「割れてる」


よく見ると、細い亀裂が何本も走っている


「崩れる?」


「今すぐは分からない」


「通れる?」


「端なら」


ダリオが左右を見る


右側は亀裂の真下


左側は壁沿いで比較的安定している


「左」


決まるのは早かった


俺たちは壁沿いに進む


ローデンが一人ずつ通す


「そこは踏むな」


「次、右足」


「壁から離れるな」


俺も言われた通りに進む


身体能力だけなら、真ん中を一気に走り抜ける方が早い


でも何か落ちてきたら避けられるとは限らない


全員が無事に通れる方を選ぶ


最後のローデンが抜けた直後、小さな石が天井から落ちた


床で乾いた音を立てる


全員が止まる


次は落ちない


「戻る時も左」


ローデンが言う


「目印つける」


ミラが記録し、ルッカが戻る方向を確認する


俺は探査を周囲へ広げた


魔力の流れが、また変わっている


ここは強い


でも不安定だ


強くなったり、少し弱くなったりする


一定ではない


それが数呼吸くらいの間隔で揺れている


「また変だ」


「魔力?」


ミラが聞く


「うん」


俺は立ち止まったまま探る


強くなり、少し弱くなり、また強くなる


今度は横から流れ込み、次に奥へ引かれる


規則は分からない


ただ、一つ気づいた


「これ、場所だけじゃないかもしれない」


ダリオが振り返る


「どういう意味だ」


「前は、濃い場所と薄い場所があると思ってた」


「違う?」


「それもある、でも同じ場所でも変わってる」


俺が今立っている位置でも濃さが揺れる


数歩移動したからではない


時間が経つだけで変わる


「魔力そのものが動いてる」


ミラが小さく言った


「そう見える」


「記録できる?」


「変化の速さまでは正確に無理」


「分かる範囲でいい」


ミラが記録を始める


俺は同じ場所にしばらく立ち、周囲の魔力が強まり、少し落ち、また上がる変化を三度確認した


「繰り返してる」


「同じ間隔?」


「そこまでは分からない」


「方向は?」


「毎回違う」


ミラは書きながら眉を寄せる


俺も少し嫌な感じがした


魔力が濃いだけなら、この場所ではそういう状態なのだと考えられる


でも同じ場所で流れが変わる


しかも、ここまで進んでくる間に変化の大きい場所が増えている


少なくとも安定しているとは言いにくい


「ここで何か使うなよ」


ダリオが言った


「魔法?」


「ああ、必要な時だけにする」


「試すな」


「試さないって」


俺が魔力の変化を見ると、すぐ何かやってみたくなると思われているらしい


否定しにくい


前なら、本当に小さな魔法を一つ出して変化を見るくらいはしていたかもしれない


でも今は場所が悪い


何が起きるか分からないところで、わざわざ余計な刺激を入れる必要はない


先へ進む


しばらくして、ルッカが急に手を上げた


全員が止まる


「匂い」


「何の」


「たくさん」


「魔物?」


「うん、でも近くない」


ルッカは少し先へ行き、右側の壁際を調べた


そこには細い横道があった


俺なら見落としていたと思う


暗く狭く、岩の影に半分隠れている


「ここから出てる」


「何が」


「匂い」


俺も探査を向ける


横道の奥に小さな魔力反応がいくつかある


でも動いていない


「いる?」


「何体」


「分かりにくい、三つか四つ」


ダリオが前へ出る


「来る気配は」


「ない」


ルッカは匂いを取り続ける


「古いのも多い」


「通り道?」


「たぶん」


「今は使ってない?」


「新しいのも少しある」


判断が難しい


中へ入る理由はない


今追っているのは正面の深い経路だ


「印だけ残す」


ダリオが決めた


ミラが位置を記録する


横道は未確認


それで終わり


全部を見る必要はない


奥へ進むほど分岐は増える


一つずつ全部調べていたら、先へ行く前に日が何度変わるか分からない


今は目的がある


さらに進んだ先で、地面の様子が変わった


細かな砂のようなものが増え、足跡が残りやすい


ルッカがしゃがんだ


「多い」


まただ


今度は俺にも分かる


大小の足跡や爪の跡、何かを引きずった跡が残っている


ただ、前に見た場所と違って方向が一つではない


奥へ向かうものもあれば、浅い側へ向かうものもある


「こっちは行ってる」


俺が奥向きの跡を指す


「うん」


「戻ってるのもある」


「ある」


「普通に出入りしてる場所か」


ルッカは少し考えた


「前は、たぶん」


「前は?」


「古い跡、両方ある」


「新しいのは」


ルッカが一つずつ見ていく


時間がかかる


俺たちは待った


やがてルッカが顔を上げた


「新しいの、外向きが多い」


「やっぱりか」


「全部じゃない」


「でも割合が変わってる?」


「たぶん」


ミラが記録を見ながら言った


「古い時期には奥へ向かう痕跡も多い、最近は浅い側へ向かうものが増えている可能性がある」


「それなら、元々ここを使ってたやつらが出てきてるってことか」


俺が言うと、ルッカは首を傾げた


「ここを使ってたかは分からない」


「通ってた?」


「それなら」


言い直す


最近になって、奥から浅い側へ向かう動きが増えた可能性がある


そこまでなら、痕跡から言えそうだ


「何かの時期を境に変わってるかもしれない」


ミラが言う


「分かるのか」


「まだ分からない、記録を重ねれば」


「そっか」


俺たちが大迷宮へ入り始めるより前から異変は起きていた


森の魔物の分布が変わり、大型魔物の縄張りが空き、奥から浅い側への移動が増えた


今見ている痕跡が、その変化の途中を残しているなら、ここまで来た意味は大きい


少し進んだところで、俺は強い違和感を覚えた


前方に反応がある


大きくはないが、複数だ


「止まって」


四つ


いや、五つ


動いている


「来る」


「また逃げてくる?」


ダリオが聞く


「分からない、動きが遅い」


さっきまでの魔物とは違う


走っていない


まとまって進んでくる


ルッカが耳を立てる


「音ある」


俺にはまだ聞こえない


しばらくすると、石を踏む音がした


一つではない


「場所」


ダリオが周囲を見る


広くない


前に岩の出っ張りがあり、左側に少し広い場所がある


「左へ寄る」


全員が移動する


俺は探査を続ける


五体


大きさはばらばらだ


小さいものが二、中くらいが二、少し大きいものが一


でも変だ


互いに距離が近い


別の種類なら、普通はこんなにまとまるものなのか


分からない


暗闇の向こうから、最初の一体が見えた


細い身体、長い耳、四足


その後ろから、背が低く甲羅のような背中を持つ別の魔物


さらに後ろには角のある獣がいる


同じ種類ではない


「戦うか」


俺が小さく聞く


「まだ」


ダリオが答える


魔物たちは近づいてくる


でもこちらを見つけたところで動きが止まった


一体が低く鳴く


別の一体が後ろを振り返る


俺たちを警戒している


でも襲ってこない


ルッカが小声で言った


「怖がってる」


「俺たちを?」


「それもある」


「奥も?」


「うん」


ダリオが武器を下げないまま、少し横へずれた


「通路を開ける」


俺たちも動く


前にやったのと同じだ


完全には背を向けない


でも浅い側へ抜けられる幅を作る


魔物たちはすぐには動かなかった


最初の一体が一歩進んで止まり、また一歩進む


俺たちの横を通る


次、その次


一体ずつ抜けていく


最後の大きめの魔物だけが、長くこちらを見た


それでも攻撃しない


浅い側へ歩いていく


走ってはいない


でも戻らない


「これも逃げてる?」


俺が聞くと、ルッカは首を振った


「分からない」


「走ってないから?」


「それだけじゃない」


「じゃあ何」


「急いでるけど、疲れてる」


「分かるのか」


「歩き方」


俺は去っていく魔物を見る


確かに最後の一体は少し足を引きずっていた


「移動してるのは確か」


ミラが言う


「種類が違うのに一緒に」


「同じ場所から来たかは分からない」


また一つ、分からないものが増えた


でも、深い側から浅い側へ移動しているという流れは、もう何度も見ている


俺たちは魔物が十分離れるまで待った


それから進む


その先で、道がまた下った


今度は傾斜が強く、岩の床は滑りやすい


ローデンが先に確認する


「そのままは危ない」


「縄?」


「使う」


今までより短い距離だが、滑った時に止まる場所がない


俺とローデンで固定できる岩を探す


太い岩の柱


目立つ亀裂はない


ローデンが何度も確かめる


「ここ」


縄を固定する


ダリオが先に下り、ルッカ、ミラ、エナ、俺と続き、最後にローデンが下りる


下まで降りると、俺は一瞬立ち止まった


魔力が違う


この場所は上よりかなり濃い


「セイジ」


エナがすぐ気づく


「大丈夫」


「まだ聞いてない」


「顔見たら分かるだろ」


「分からないから聞く」


「魔力が濃いだけ」


「身体は」


「問題ない」


エナは俺の目を見る


手も確認する


震えていない


頭痛もない


息苦しくもない


「続けられる」


そう判断された


俺は探査を広げる


すぐに狭めた


広げすぎると周囲の濃い魔力まで一度に意識へ入ってくる


「この辺、かなり強い」


ミラが記録する


「さっきより?」


「かなり」


「流れは」


俺は慎重に探る


奥、横、下、上


複雑だ


でも、その中に一つ強い方向がある


「下」


「さらに下?」


「うん、それと奥」


魔力が流れている


いや


集まっているように見える


「ここから先、何か大きい」


「反応?」


ダリオが聞く


「前から感じてたやつが近い」


「形は」


「まだ分からない」


ただ、今までとは違う


遠くにぼんやりあったものが、少しだけ輪郭を持ち始めている


一つの点ではない


かなり広い範囲に反応があり、その中にもっと強いところがある


「一体の魔物?」


ルッカが聞く


「そうとは言えない」


「動く?」


「今のところ動いてる感じはない」


「匂いは」


ルッカは前を向き、長く嗅ぐ


「いっぱい」


「大きいの?」


「ある」


「前から感じてたやつ?」


「分からない」


それでいい


まだ見ていないものを、先に決める必要はない


進む


道の先で、また空間が広がった


今度は前の大空洞ほど大きくない


ただ、中央に不自然なほど岩が少なく、床が平らに近い


ローデンがすぐ止める


「入るな」


「何かある?」


「床」


またか


ローデンが入口側から床を確認する


細い線が丸く広がっている


「割れた跡」


「古い?」


「たぶん」


中央を囲むように亀裂がある


何か重いものが落ちたようにも、大きな圧がかかったようにも見える


でも原因までは分からない


「空洞みたいな危なさは?」


俺が聞く


ローデンは床を見たまま答える


「今見える範囲では違う」


俺は床そのものではなく、周囲の魔力を探る


「端を通る」


ダリオが決める


俺たちは右側の壁沿いへ進んだ


中央へ近づかない


途中で、俺は魔力の流れがおかしいことに気づいた


中央へ集まっている


いや、そこを通っている


「待って」


また止まる


「中央、魔力が集まってる」


ローデンが見る


「床と関係ある?」


「分からない」


俺は探査を集中させる


魔力が中央付近へ寄り、そのまま下方向へ流れていくように感じる


ただ、完全には追えない


さらに下方向へ意識を伸ばすと、途中で周囲の濃い魔力に混ざる


「下へ流れてる?」


ミラが聞く


「そう見える」


「さっきも下って言った」


「うん」


「同じ方向?」


俺は頭の中で位置を重ねる


今まで通ってきた場所


薄い区域、濃い区域、流れが奥へ向いた場所、横から混ざった場所、浅い側へ戻るように見えた場所


全部ばらばらに見えていた


でも、この区域へ入ってから下へ向かう流れが増えている


「全部じゃないけど、下に向かってるのが多い」


俺が言う


ミラが記録を見直す


「この区域に入ってから増えてる」


「そう思う」


「奥側ほど?」


「今見た範囲では」


一つの方向が見え始める


原因ではない


答えでもない


でも、魔力の動きそのものにも深い側へ向かう傾向がある


「セイジ」


ルッカが小さく呼んだ


声が違う


緊張している


俺はすぐ探査を前へ向けた


大きな反応


近い


さっきより明らかに近い


でも動いていない


その手前には別の反応が一つある


大きい


こっちは動く


「何かいる」


ダリオが武器を構える


「一体、こっちに来る」


「大きさ」


「大きい」


「前の二体より?」


「大きい」


足音が聞こえる


重い


一歩ごとに床へ響く


ルッカが匂いを取る


「前にない」


「知らない匂い?」


「うん」


ダリオが周囲を見る


「広さはある」


ローデンも見る


「左は岩、右は壁、後ろは戻れる」


「戦える?」


「足場は問題ない」


エナとミラが後ろへ下がる


俺も魔力を整える


まだ攻撃しない


相手が何か分からない


足音が近づく


暗闇から、巨大な身体が現れた


四足


肩が高い


黒灰色の皮膚


背中には太い突起


頭は低く、口が大きい


一見すると獣に近いが、俺が森で見たものとは全然違う


片方の前脚に傷がある


古くはない


「怪我してる」


エナが後ろから言った


「動ける」


ダリオが答える


魔物は俺たちを見る


止まる


低く唸る


俺たちも動かない


戦うなら、先に来る


そう思った


でも魔物は一歩後ろへ下がった


「逃げる」


ルッカが言う


「こいつも?」


「違う」


「何が」


「奥を見てる」


魔物は俺たちより、自分が来た方向を気にしている


俺も探査を伸ばす


奥の大きな魔力反応は動いていない


その周辺で、急に流れが強くなる


「来る」


俺は言った


「何が」


「魔力」


次の瞬間、周囲の魔力が大きく揺れた


さっきの小さな変化とは違う


壁、床、空気


周囲全部が一度に押されたような感覚


俺は反射的に探査を狭める


魔法構造まで乱されそうになる


何も発動していないのに、自分の魔力がざらつく


「下がれ」


ダリオが叫ぶ


俺たちは後退する


巨大な魔物も同時に動いた


俺たちへではない


横だ


壁際を、その巨体からは想像できない速さで浅い側へ抜けようとする


「開けろ」


全員が通路を空ける


魔物が走り抜ける


風が来る


石が跳ねる


それでもこちらへ攻撃はしない


そのまま見えなくなる


俺は奥へ探査を向けた


大きな反応


変わらない


いや


周囲の魔力が増えている


反応自体が大きくなったのか、周囲が濃くなっただけなのか分からない


「セイジ」


エナが呼ぶ


「大丈夫」


「顔」


言われて気づいた


少し息が速い


「魔力に押された」


「頭」


「痛くない」


「手」


差し出す


わずかに震えている


「休む」


エナが即座に言った


「まだ動ける」


「休む」


反論する前に、ダリオもうなずいた


「戻る」


「ここまで来て?」


「状態が変わった」


その一言で止まった


さっきまで進めた


今は違う


魔力が急に大きく変化し、俺の手に震えが出た


さらに巨大な魔物が奥から逃げてきた


進む理由より、戻る理由の方が多い


「分かった」


俺は従った


少し戻り、ローデンが安全だと確認した岩陰で休む


完全な休息地点ではない


でも短時間座れる


俺は壁に背を預けた


エナが手を取る


「震え、少し」


「自分でも分かる」


「魔力使わない」


「探査も?」


「必要ないならやめる」


そこまで言われると仕方ない


俺は《魔力探査》を止めた


急に静かになった気がした


もちろん音が消えたわけじゃない


でも、ずっと周囲を探っていた感覚がなくなるだけで、かなり違う


ルッカが俺の近くへ座る


「怖かった」


「俺が?」


「魔力」


「俺も」


正直に言う


あれは少し怖かった


魔物の強さではない


周囲そのものが変わる感じ


自分が立っている場所の魔力が、こっちの都合とは関係なく大きく動く


魔法を使う俺にとっては、地面が揺れるのと同じくらい嫌だ


ミラが記録を確認している


「今の変化、前に確認した大きな変動と似ている」


「似てる」


俺は答えた


「規模は?」


「分からない、距離が違う」


「方向は」


「奥」


「深い側?」


「うん」


そこまで


同じ現象だとは言えない


原因も言えない


ただ、似た魔力変動が同じ深い方向から来た


「巨大な魔物も逃げた」


ダリオが言う


「俺たちを無視して」


ルッカもうなずく


「怖がってた」


「何を」


「奥」


それはルッカの判断


俺もそう見えた


巨大な魔物は、俺たちより奥を警戒していた


そして魔力が揺れた直後、迷わず浅い側へ逃げた


「ここまで来ると、だいぶ絞れたな」


俺が言う


ダリオが俺を見る


「何が」


「方向」


原因じゃない


正体でもない


でも、どこを調べればいいか


それはかなりはっきりしてきた


「奥だ」


誰も否定しなかった


ただし、今すぐ行くわけではない


俺の手はまだ少し震えている


エナの判断も出ている


今日はここまでだ


「戻る」


ダリオが言った


「臨時休息地点まで」


「そこでまた確認する」


エナが続ける


ローデンは戻り道を思い出すように後ろを見る


「縄、割れ目、天井、全部確認する」


ミラは記録を閉じる


ルッカは立ち上がった


「帰ろう」


その言葉で、俺も立った


奥を見る


見えない


暗い


探査を使えば、あの大きな反応はまだ感じられるだろう


でも今は見ない


今日ここまでで分かったことは十分ある


ここまで見た範囲では、深い側で魔力の濃淡や変化が大きくなっている


同じ場所でも魔力が時間とともに変化する


流れは一方向ではない


それでも、この区域ではさらに下へ向かう流れが増えている


新しい痕跡では浅い側へ向かうものが多い


複数種の魔物が実際に奥から出てきている


そして巨大な魔物まで奥から逃げてきた


その直前には、奥から大きな魔力変動が来た


点だった情報が、少しずつ同じ方向へ並んでいる


まだ一本の線ではない


でも、次に見るべき方向はかなり絞れてきた


俺たちは来た道を戻る


最初にローデン


その後ろに俺


俺の状態を見やすいように、エナが近くへ来た


普段とは少し並びが違う


それでいい


今必要な形に変える


崩れかけた天井の区域は壁沿いを通る


砂の床、横道、縄を使った傾斜、目印


全部確認しながら戻る


来る時につけた印が、一つずつ見つかる


それを見るたびに、少し安心する


臨時休息地点が近づいた頃には、手の震えはほとんど消えていた


エナに見せる


「まだ少し」


「分かるのか」


「分かる」


俺にはもうほとんど分からない


「ここで休む」


今度は反論しない


臨時休息地点へ入り、全員で座る


水を飲み、少し食べる


長く話す必要はなかった


今日見たものは全員が見ている


細かい記録はミラが残す


俺は岩壁に背を預けたまま、目を閉じた


奥から来た魔力の揺れを思い出す


あれが何なのかは分からない


大きな魔物なのか


場所そのものなのか


何か別のものなのか


まだ何も見ていない


でも一つだけ、前より確かなことがある


森から追ってきた異変をさらに調べるなら、ここで終わりじゃない


次に見るべきなのはもっと下だ


俺たちが今日立った場所より、さらに深いところだ

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