逃げてきた跡
第87回 逃げてきた跡
前の探索で使った正面経路へ戻ったとき、最初に確認したのは奥ではなく後ろだった
大空洞の下へ降りるために固定した縄
割れ目を越えるために整えた足場
帰る方向を示す二重の結び目
壁際に残した石積み
どれも残っている
足場の一部には小さな石が落ちていたが、通れなくなるほどではない
ローデンがしゃがみ込み、土と岩の境目を確かめた
「ここだけ直す」
俺は隣に立った
「《土成形》使うか」
「少しだけ」
言われた場所に手を向ける
大きく変えない
崩れかけている端を寄せ、足を置ける幅だけ戻す
《土成形》
土と細かな岩がゆっくり動く
前なら、通れればいいと思って広く固めていたかもしれない
今はローデンの指示通り、必要なところだけだ
「これでいい」
ローデンが一度踏んだ
体重をかける
問題ない
「奥ばっかり見る前に、帰る道を見る」
ダリオが言った
「分かってる」
「ならいい」
同じことを何度言われても、たぶん必要なんだろう
大迷宮の中では、帰りに同じ道が使えるとは限らない
小さな崩れ
魔物
魔力の変化
来た時にはなかったものが、帰る時にはある
だから一度使った道でも確認する
その積み重ねで、俺たちは前より深いところまで来られるようになった
正面経路の手前には、少し広くて足場の安定した場所がある
今日はそこを最初の安全確認地点にした
荷物を置くほど長く留まるつもりはないが、何かあれば一度戻れる
エナが一人ずつ顔を見る
俺
ルッカ
ダリオ
ローデン
ミラ
最後に自分の荷物を確認した
「問題ない」
「なら行こう」
ダリオが先へ向く
俺も《魔力探査》を広げた
前に感じたものは、まだ奥にある
大きい
ただし形は分からない
一体の魔物だと断定できる反応ではない
広い範囲で魔力が濃くなっていて、その中にさらに強い場所がある
そんな感じだ
今日はそこへ近づく
でも、そこだけを見るわけじゃない
前の探索で見つけた痕跡
奥側から浅い側へ向かっていた大型らしい爪痕
小型、中型の足跡
それがどこから来ているのか
ルッカはそちらを追う
俺たちは正面経路へ入った
前の探索より早く進める
一度通ったからだ
壁沿いに強く感じた魔力の流れも残っている
俺は歩きながら探る
やはり奥方向
ただ、一本の川のように流れているわけではない
強くなる
弱くなる
また強くなる
途中で横から別の流れが混じる
「前より濃い」
俺が言うと、ミラがすぐ聞いた
「同じ場所で」
「だいたい同じ場所」
「どれくらい」
「説明しにくい」
「感覚でいい」
俺は少し考えた
「ここだけなら、前より少し強いと思う」
「少し」
「うん、急に変わった感じじゃない」
ミラが記録する
俺は続ける
「ただ、奥から来てる流れが全部強くなってるかは分からない」
「分かった」
こうやって一つずつ残していく
前の探索
今回の探索
次の探索
違いが重なれば、変化なのか、最初からそういう場所なのかが見えてくる
俺一人の記憶だけなら、たぶん途中で混ざる
正面経路を進んでしばらくすると、ルッカがしゃがんだ
前に見た大型の爪痕がある場所だ
「増えてる」
「何が」
「小さい跡」
俺も見る
分からない
前の探索でもいくつかあった気がする
でもルッカは少し先へ行き、またしゃがんだ
「こっちも」
「新しい」
「うん」
「向きは」
ルッカが奥を見る
それから俺たちが来た方向を見る
「外」
また浅い側だ
「何体くらい」
「分からない、でも一つじゃない」
「種類は」
「違う」
ルッカは指を使って跡を分ける
細い爪
丸い足
少し大きいもの
俺にはどれも傷にしか見えないが、ルッカには違いがあるらしい
「一緒に動いたのか」
ダリオが聞く
「分からない」
「時間は近い」
「近いのもある」
全部同時ではない
でも複数の種類が、同じ方向へ向かっている
偶然というには、だんだん数が増えてきた
「前から出てきてる痕跡ばかりだな」
俺が言う
ミラが記録を見返した
「浅い区域でもあった」
「中層も」
「うん」
「ここでも」
「そう」
一つだけなら気にしなかった
二つでも偶然かもしれない
でも場所を変えて
深さを変えて
種類を変えて
それでも方向が同じなら、意味がある
「逃げてきたのかな」
俺が言うと、ルッカはすぐ首を振った
「まだ分からない」
「移動してるだけかもしれない」
「うん」
「でも、普通の移動なら」
俺は言いかけて止めた
普通が分からない
森の魔物なら、ルッカがある程度判断できる
大迷宮の深部にいる魔物について、俺たちは知らないことの方が多い
「決めつけない方がいいな」
「うん」
それでも、頭の片隅には残る
奥から浅い側へ
何度も
何種類も
どうしてだ
先へ進む
経路は少しずつ下っていた
急ではない
でも長い
歩いているうちに、最初の安全確認地点より確実に低いところへ来ている
ローデンは何度も壁と床を見る
一度、右手を上げた
「止まれ」
俺たちは止まる
「前、左側」
見る
何もないように見える
「何がある」
「床」
ローデンが小石を投げた
左側の床に落ちる
次の瞬間、一部が沈んだ
大きくは崩れない
でも表面だけが薄く残っていたらしい
「穴か」
「下に空間がある」
俺も沈んだ部分を覗く
細長い空洞
深さはそれほどでもないが、落ちたら足を痛めるくらいはある
「右を通る」
ダリオが言う
ローデンが安全な幅を確認し、順番に進む
一人
二人
俺の番
右側へ寄る
足元を見る
ローデンが踏んだ場所
そこへ足を置く
問題ない
全員が越えた後、戻る時に分かるよう目印をつけた
「ここ、前からこうだったのか」
俺が聞く
ローデンが振り返った
「分からない」
「最近崩れた可能性もある」
「ある」
「魔力と関係あると思う」
「分からない」
それもそうだ
何でも異変につなげるのは簡単だ
でも、簡単だからこそ危ない
ただの古い空洞かもしれない
昔から薄かった床が、たまたま今沈んだだけかもしれない
記録だけして進む
少し先で、道が二つに分かれた
一方はそのまま緩やかに下る
もう一方は右へ曲がり、狭くなっている
俺が探る
右側には小さな反応がいくつか
正面は魔力が濃い
「匂いは」
ダリオが聞く
ルッカは両方を確認した
正面で長く止まる
「いっぱい」
「種類」
「混ざってる」
「右は」
「少ない」
「外向きの跡は」
ルッカは正面の床を見る
「こっち」
俺たちは正面を選んだ
理由は単純だった
今追っているものがある
痕跡
魔力
どちらも正面へ続いている
狭い右側は、帰りに余裕があれば入口だけ確認することにした
しばらくすると、空気が変わった
温度ではない
匂いでもない
俺にだけ分かるもの
周囲の魔力が急に薄くなった
「待って」
足を止める
「何だ」
ダリオが振り返る
「ここ、薄い」
「魔力」
「ああ」
さっきまで濃かった
それが急に弱くなっている
俺は後ろへ一歩戻る
濃い
前へ出る
薄い
境目がある
完全に線ではない
でも数歩で明らかに変わる
「おかしい」
「前にもあった」
ミラが聞く
「ここまで急なのは覚えてない」
俺は右
左
上
下
探る
薄い範囲は道全体に広がっている
さらに奥へ少し続く
その向こうで、また濃くなっている
「なくなってるわけじゃない」
「吸われてる」
「それも分からない」
俺は集中する
薄い
でも動きはある
周囲の魔力がどこかへ引かれているようにも見える
ただ、流れが細かく乱れていて追い切れない
「少し先でまた濃い」
「何かあるか」
「反応はない」
ダリオがエナを見る
「セイジの状態は」
エナが俺へ近づく
「頭痛」
「ない」
「気持ち悪い」
「ない」
「息苦しい」
「ない」
「魔法は使える」
俺は試しに、ごく小さな《水球》を作った
手の上に水が集まる
いつも通り
ただ、周囲から魔力を拾う感覚が少し違う
「使える」
「変な感じは」
「少しあるけど、発動には問題ない」
水を消す
「進める」
エナが言う
ダリオはすぐ進まず、俺たち全員を見た
「短く抜ける」
「分かった」
薄い区域を進む
十歩
二十歩
魔力が少ないというだけで、身体が急に弱くなるわけではない
でも俺には妙な感覚がある
いつも周りにあるはずのものが少ない
森で音が急に消えたときに似ている
三十歩ほど進んだところで、魔力が戻り始めた
その次の瞬間
一気に濃くなる
「うわ」
思わず声が出た
「何」
ルッカが振り返る
「今度は濃い」
薄い区域を抜けた直後
壁
床
空気
全部に魔力が満ちている
探査を広げると、頭の中へ一度に情報が入りすぎた
俺はすぐ範囲を狭める
「大丈夫か」
エナが聞く
「大丈夫、探査広げすぎた」
「痛い」
「痛くない」
「ならいい」
ミラが後ろを見た
「薄い場所の後に濃い場所」
「そう」
「流れは」
俺は少しずつ探る
「奥から来てるのもある、横からもある」
「一定じゃない」
「全然」
前より明らかに乱れている
薄い
濃い
偏る
流れる
また薄くなる
大迷宮の魔力がもともとこういうものなのか
それとも今だけなのか
まだ分からない
でも、少なくとも浅い場所ではこんな変化はなかった
「深くなるほど強いな」
俺が言う
ミラが顔を上げた
「異常が」
「変化が」
言い直した
異常かどうかはまだ決められない
「魔力の濃淡と流れの変化は、深くなるほど大きいと思う」
「前の記録とも合う」
ミラが紙を確認した
「浅い場所は変化が小さい」
「中層は増えた」
「今はもっと大きい」
「偶然じゃなさそうだな」
ダリオが言う
誰も反対しなかった
原因は分からない
でも傾向は見えてきた
深い側ほど、魔力の状態が安定していない
そして魔物は、そこから浅い側へ向かっている
二つが関係しているかはまだ分からない
でも同じ方向に重なっている
さらに先へ進んだ
道がまた広がる
天井も高くなる
完全な空洞ではないが、六人が散らばって動けるくらいの幅はある
そこでルッカが急に走った
「止まって」
前方
床一面
痕跡がある
俺にも分かるほどだった
引っかき傷
足跡
割れた石
壁の擦れ
何かが何度も通った跡
一種類じゃない
「多いな」
俺は思わず言った
ルッカは返事をしない
床を確認している
右
左
中央
少し先
戻る
また見る
時間をかける
俺たちは待った
こういう時は邪魔しない
やがてルッカが立った
「全部じゃないけど」
「うん」
「多いの、外向き」
「奥からこっち」
「うん」
ルッカが奥を見る
「大きいのも、小さいのも」
ミラが近づく
「同じ時期」
「違う、古いのと新しいのある」
「何回も」
「たぶん」
一度だけ大量に通ったわけではない
何度か
違う時期に
違う種類が
奥から出てきている
「これはさすがに、普通の移動だけじゃないかもしれないな」
俺が言った
ルッカは今度は否定しなかった
「逃げた跡、ある」
その言葉で空気が少し変わった
「分かるのか」
ダリオが聞く
「走ってる」
ルッカが一つの痕跡を指す
「こっちは滑ってる、こっちはぶつかってる」
壁の傷
床の削れ
方向が乱れている
「急いでた」
「何から」
俺が聞く
ルッカは首を振る
「分からない」
当然だ
痕跡だけで、後ろにいたものまでは分からない
「全部が逃げたわけじゃない」
「うん」
「でも逃げた個体はいる」
「いる」
ここで初めて、逃げてきた跡が確認できた
移動
ではなく
逃走
奥から浅い側へ
その事実だけでも大きい
「ミラ」
ダリオが呼ぶ
「残せるか」
「残す」
ミラが痕跡の位置を記録する
俺はその間、奥へ探査を伸ばした
濃い
さらに奥
大きな反応
前より近い
でもその手前にもいくつか魔力反応がある
三つ
四つ
いや、動いている
「来る」
俺が言った
全員がすぐ動いた
「数」
「四、たぶん」
「大きさ」
「小さいのが三、中くらい一」
「方向」
「こっち」
ダリオが前へ出る
ローデンは左右を見る
「左広い、右は足場悪い」
「左へ寄せる」
ダリオが決める
エナとミラが後方へ下がる
ルッカは中央より少し右
俺は左後方
反応が近づく
速い
ただ、俺たちを狙っているような動きじゃない
一直線
「待て」
俺は言った
「こいつら、こっちに来てるんじゃない」
「何」
「俺たちを避けてない」
普通ならこちらに気づけば動きが変わる
襲うか
止まるか
逃げるか
でも四つとも真っ直ぐ来る
「奥から逃げてる」
ルッカが言った
次の瞬間、暗闇から最初の一体が飛び出した
小型
細長い身体
俺たちを見る
それでも止まらない
俺たちの間を抜けようとする
「通す」
ダリオが叫んだ
全員が少し開く
一体目が走り抜ける
二体目
三体目
同じ
こちらへ攻撃しない
ただ奥から離れようとしている
「最後、大きい」
俺が言う
中型の反応だけは少し遅い
来た
四足
前脚が太い
頭に短い角がある
身体の横に傷
血もついている
俺たちを見る
低く唸る
「こっちは止まる」
ダリオが構える
魔物も止まった
逃げたい
でも前に俺たちがいる
そう見える
「横、開ける」
ダリオが少しずつ位置をずらす
俺も下がる
ルッカも壁側へ寄る
通れる幅を作る
魔物は動かない
こちらを見る
奥を見る
またこちら
その時
奥のさらに先で、何かが響いた
音なのか
低い振動なのか
分からない
空気がわずかに震える
同時に周囲の魔力が揺れた
一瞬
本当に一瞬だけ
濃い魔力が押し寄せるような感覚
魔物が跳ねた
俺たちへの警戒を忘れたように走り出す
開けた横を抜ける
速い
そのまま浅い側へ消えていった
俺たちは追わなかった
誰もすぐには口を開かなかった
「今の」
ミラが最初に言った
「感じた」
俺はうなずく
「魔力が動いた」
「前の大きな変動と同じ」
「同じとは言えない」
俺はそう答えた
でも似ていた
前に感じた、一時的な大きな魔力変動
規模は今回の方が小さい
距離のせいかもしれない
現象そのものが小さいのかもしれない
分からない
「方向は」
ダリオが聞く
俺は奥を見る
「奥」
「かなり深い側」
「うん」
ルッカは、今の魔物が走り去った方ではなく、奥を見ている
「怖がった」
「今の変化に」
「たぶん」
これはルッカの判断だ
でも説得力はある
俺たちの前で止まった魔物が、奥から何かを感じた直後に警戒より逃走を選んだ
最初の三体も止まらなかった
俺たちがいても、奥から離れることを優先した
「逃げてきた跡だけじゃないな」
俺が言う
「実際に逃げてきた」
ミラが記録する手を止めずに言った
「少なくとも今の四体は、奥側から浅い側へ急いで移動した」
「最後の一体は、奥の魔力変化の後に逃走を再開した」
「そう」
そこまでなら事実だ
何から逃げているかは分からない
魔力変化そのものを恐れたのか
その原因を恐れたのか
別の何かがいるのか
まだ何も決められない
「進むか」
俺はダリオを見る
ダリオはすぐ答えなかった
エナを見る
「状態」
エナは俺から順に確認する
俺
問題ない
ルッカ
問題ない
ダリオ
問題ない
ローデン
問題ない
ミラ
問題ない
「続けられる」
次にローデンを見る
「先」
ローデンは前へ行かず、その場から床と壁を見る
「ここまでは安定してる、奥は見ないと分からない」
ミラが記録を確認する
「戻る時間はある」
ルッカは匂いを取る
「奥、いっぱい」
「魔物」
「古い匂いも新しい匂いもある」
最後に俺だ
探査
近くに大きな反応はない
奥にはある
ただ、まだ距離がある
「少しなら進めると思う」
ダリオはうなずいた
「次に休める場所を見つけたら止まる」
それで決まった
俺たちは進んだ
さっき魔物が飛び出してきた道
床には新しい痕跡が残っている
逆向きにたどる
逃げてきた方向へ
なんだか変な気分だ
普通なら、逃げてきたものがいるなら逆へ行く
俺たちはその元を調べに行く
ただし、無理はしない
何があるか分からないからこそ、少しずつ
道はさらに下がった
魔力はまた濃くなる
今度は急な濃淡ではなく、全体が少しずつ上がっていく
俺は探査を広げすぎない
必要な範囲だけ
周囲
前
足元
奥
同時に全部を細かく見ようとすると疲れる
《多重並列制御》があっても、同時に細かく見れば負担は増える
俺は魔力を見る役目を続ける
ルッカは痕跡
ダリオは前
ローデンは地面
エナは俺たち
ミラは記録
しばらく進んだところで、ローデンが止まった
「ここなら休める」
左側に少し引っ込んだ場所がある
上から張り出した岩
床は平ら
一本道から少し外れているので、通行する魔物がいても正面からぶつかりにくい
「崩れない」
「今見える範囲では」
「十分」
ダリオが決めた
そこを臨時の休息地点にする
荷物を完全に広げるほどではない
でも座れる
水が飲める
状態を確認できる
戻る時の目印にもなる
ローデンと俺で入口付近を少しだけ整える
大きく変えない
避難場所にできる程度
ルッカは周囲の匂いを確認する
「ここ、あまり通ってない」
「最近」
「うん」
「なら使えるな」
俺は壁際に座った
水を飲む
思っていたより喉が渇いていた
エナが来る
「疲れ」
「少し」
「魔力」
「まだある」
「頭」
「大丈夫」
「手」
出す
震えていない
「休めば問題ない」
エナが言う
俺はうなずいた
ダリオも座る
ローデンはまだ壁を見ている
ミラは紙を広げている
ルッカは入口近くに座ったまま奥を見ていた
「今日、かなり増えたな」
俺が言うと、ミラが顔を上げた
「情報」
「ああ」
魔力の濃淡
偏った流れ
複数種の外向きの痕跡
逃走した跡
実際に奥から逃げてきた四体
奥側で起きた一時的な魔力変化
一つずつなら、意味は分からない
でも同じ方向に積み重なっている
「深い方で何か起きてる」
俺は言った
今度は誰も否定しなかった
原因は分からない
何があるかも分からない
それでも、異変の方向だけはかなり絞れてきた
浅い側から見ていた時は
奥かもしれない
だった
今は違う
俺たちは実際に深く入り
深くなるほど魔力の変化が大きくなるのを見た
奥から浅い側へ出てくる痕跡を見た
逃げてくる魔物そのものも見た
「ここから先だな」
ダリオが言った
「たぶん」
俺は奥を見る
臨時休息地点の向こう
道はさらに続いている
探査の先には、あの大きな魔力反応がある
近づいている
でもまだ遠い
その間にも魔力の流れは乱れている
「次は、あれにもっと近づく」
俺が言うと、ダリオがすぐ返した
「状態がよければな」
「分かってる」
「ならいい」
ルッカが小さく笑った
「また言われてる」
「お前も言われる側だろ」
「私は言われない」
「勝手に匂い追って先行こうとするだろ」
ルッカが黙った
図星らしい
少しだけ空気が緩む
こんな場所でも、いつも通りのやり取りができる
それだけで身体の力が抜ける
俺は背中を岩につけた
冷たい
でも落ち着く
ここは家じゃない
休むために見つけただけの場所だ
だから長くいる必要はない
調べたら帰る
帰って休む
また来る
その繰り返しでいい
奥に何があるとしても、一度で全部知る必要はない
ただ今日、はっきりしたことが一つある
魔物たちは、ただ浅い方へ広がっているだけじゃない
少なくとも、その中には
奥から逃げてきたものがいる
そして俺たちは今
そいつらが逃げてきた方向へ向かっている




