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奥から来るもの

第83回 奥から来るもの


目を覚ました時、昨日感じた大きな魔力反応はまだ遠くにあった


《魔力探査》を狭く伸ばす


中層のかなり深いところまで来たせいか、周囲の魔力そのものが強い


遠距離は相変わらず見えにくい


それでも、昨日と同じ方向に大きな何かがいることだけは分かる


動いているのか


止まっているのか


そこまではまだ読めない


「いる?」


ルッカが聞いた


「ああ、たぶん昨日と同じやつ」


「近くなった?」


「分からない、背景が強すぎる」


近距離ならかなり正確に見える


でも遠くへ伸ばすほど、大迷宮そのものの魔力に埋もれる


《魔力探査》が強くなったからといって、全部見えるわけではない


むしろ奥へ来るほど、分からないものが増えている気がする


俺は探査を切った


「身体は?」


エナが来る


「問題ない」


「頭」


「軽い」


「昨日の火と風の後は?」


「もう残ってない」


「魔力」


「大丈夫」


エナは頷く


昨日、火と風の複合魔法が初めて実戦で成立した


一度だけではない


距離も角度も相手の動きも違う状態で、二回


一つの起動


一つの構造


一つの射出


そこまで確認できた


嬉しかった


今も嬉しい


でも、それで今日の危険が減るわけじゃない


全員で食事を取り、荷物を整理する


ダリオが地面に簡単な線を描く


昨日の休息地点


奥へ続く通路


大型の痕跡を見つけた場所


遠くに反応を感じた方向


「今日はここを見る」


ダリオが奥側を指す


「ただし、大きい反応へ突っ込むことが目的じゃない」


「避けられるなら避ける?」


ミラが聞く


「ああ、相手と地形次第だ」


「もし進路上にいたら?」


「戦うか戻るか、その場で決める」


ルッカも頷く


ローデンは周囲を見る


「昨日の場所より奥は、戻る道もまだ確認できてない」


「だから帰りの余力を残す」


ダリオの言葉はいつも同じようで、少しずつ重くなっている


奥へ行けば行くほど、戦って勝てるかだけでは足りない


帰れるか


そこまで含めて探索だ


俺たちは休息地点を出た


昨日最後に見た痕跡を追うわけではない


ただ、奥へ続く確認済みの方向が同じだった


最初の通路は狭い


片側は自然な岩壁


反対側は妙に平ら


途中から天井も平らになる


「また増えてるな」


俺が言う


ローデンが壁へ触れる


「直線が長い」


「自然じゃない?」


「自然でもこうなる場所はあるかもしれない」


「結局分からないか」


「分からないものを決める方が危ない」


正しい


少し進むと、その直線的な壁が途中で崩れていた


奥には自然な岩肌


作ったものが壊れたのか


自然な場所を削ったのか


そもそも別の理由なのか


判断できない


ミラが必要なところだけ記録する


さらに進む


道が下がる


一度大きく曲がる


その先で、ルッカが止まった


「糸」


最初、何を言っているのか分からなかった


ルッカが壁を指す


細い線


白くはない


暗い灰色


石の色に近い


指で触れようとすると、


「触らない」


ルッカが止めた


「硬い?」


「匂いある」


「魔物?」


「たぶん」


一本


二本


よく見ると、壁から壁へ何本も張られている


全部同じ高さではない


床近く


胸の高さ


もっと上


かなり細い


でも、少し光が当たると見える


ダリオがしゃがむ


「道塞いでる?」


ルッカは首を振る


「通れる隙間ある」


ローデンが周囲を見る


「切るな」


「何で?」


「壁側まで強く張ってる、引っ張った時に何が起きるか分からない」


ミラが資料を思い出したように顔を上げた


「こういう糸を使う大型の魔物、記録にあったかも」


「名前分かる?」


「まだ待って」


ミラは持っている紙を探す


全部の資料を持ってきているわけではない


自分でまとめた簡易記録だけ


「大型の蜘蛛型……中層の上位側で記録される……」


「蜘蛛」


俺は糸を見る


嫌な予感しかしない


「八つの目、硬い外殻……《八眼鎧蜘蛛》」


「それ?」


「特徴が合えば」


まだ本体は見ていない


だから確定はしない


「この糸、攻撃にも使うって記録だったと思う」


「硬い?」


「かなり」


ルッカが糸の近くを見ている


「新しい」


「どれくらい」


「かなり新しい」


全員の緊張が上がる


俺は《魔力探査》を前へ向ける


背景魔力


通路


さらに先


大きな反応


さっきより分かる


「近い」


「昨日の?」


ダリオ


「同じかは分からない、でも大きい」


「方向」


「前……少し上?」


自分で言って変な感じがした


上


天井側


ルッカがすぐ上を見る


糸がある


壁だけじゃない


天井にも張られている


「これ、上も通る」


「蜘蛛ならあり得るな」


俺たちは進む速度を落とした


糸を避ける


足元も見る


上も見る


前も見る


今までの魔物とは違う


足跡だけ見ればいいわけじゃない


床だけが移動場所ではない


少し進むと、糸が増えた


左壁


右壁


天井


奥の柱状の岩


そこから別の岩へ


道そのものが変えられている


通れないほどではない


でも、走れば引っ掛かる


回避する方向も限定される


「戦う場所として最悪だな」


俺が言う


「ここでは戦わない」


ダリオがすぐ決める


「戻る?」


「この先に広い場所があるかだけ見る」


ルッカが耳を澄ませる


俺も探査を伸ばす


大きな反応が少し動いた


「動いた」


「こっち?」


「横……いや、上」


次の瞬間、


天井の奥で音がした


かり


石を引っ掻くような音


ルッカが顔を上げる


「来る」


「戻る」


ダリオが即座に言った


全員向きを変える


走らない


糸がある


急げば引っ掛かる


来た道を戻る


その時、


後ろで何かが落ちた


いや


落ちたんじゃない


着地した


重い


床が震える


俺は振り返る


最初に見えたのは脚だった


長い


太い


節ごとに硬い外殻


次に身体


大きい


《晶殻巨蜥》ほど横へ長くはない


でも高さがある


八本の脚


そして頭部


目


一つ


二つ


もっと


灯りが反射する


「八つ……」


ミラが息を呑む


《八眼鎧蜘蛛》


たぶん間違いない


蜘蛛は床へ落ちた直後、すぐ壁へ移った


速い


身体の大きさと合わない


壁


天井


まるで地面と同じように走る


「戻れない」


ルッカが言う


蜘蛛は俺たちと帰路の間へ回り込もうとしている


「広い方へ」


ダリオが指示する


俺たちは奥ではなく、横へ伸びる通路へ入る


昨日見た時には進まなかった道


ローデンが先頭近くで床を見る


「中央」


全員中央へ


後ろから硬い音


蜘蛛が来る


「糸」


ルッカが叫ぶ


俺は反射的に横へ動く


細い何かが飛んできた


壁へ刺さる


糸


でも柔らかくない


張った瞬間、弦みたいに硬くなる


「当たったら切れる」


エナが言う


壁の表面に細い傷が入っている


「散らばりすぎるな」


ダリオ


「二人分くらいだけ間隔取れ」


密集すれば糸をまとめて受ける


離れすぎれば蜘蛛に各個で狙われる


その中間


蜘蛛が天井へ移る


上


探査


《魔力探査》


位置を見る


同時に足元


糸


右


左


仲間


「上、右寄り」


俺が叫ぶ


次の瞬間、蜘蛛が落ちる


前脚


刃みたいな先端


ダリオが避ける


床が抉れる


「近接も強い」


当たり前だけど、糸だけじゃない


俺は《火槍》


撃つ


蜘蛛の側面


命中


火が弾ける


外殻が焦げる


浅い


「硬い」


《風刃》


脚の関節へ


蜘蛛が跳ぶ


外れる


そのまま壁へ


「速すぎる」


ルッカは蜘蛛ではなく、周囲の糸を見ている


「次、左上」


「分かる?」


「糸張った」


蜘蛛が移動するたび、新しい糸が増える


足場


壁


天井


その張り方に偏りがある


ルッカはそこを読んでいる


「左上から来る」


本当に来る


俺は《土壁》


左側に低く出す


蜘蛛が落ちる


糸を吐く


土壁へ当たる


硬い糸が表面を削る


「土使う位置気をつけろ」


ローデンが叫ぶ


「右奥の柱は触るな」


見る


天井を支えているように見える細い岩柱


そこへ土魔法を撃って崩したら、俺たちまで危ない


「分かった」


蜘蛛が壁を走る


ルッカ


「後ろ」


俺は探査を切り替える


後方


反応


上


《火槍》


振り向いて撃つ


当たる


でも蜘蛛は止まらない


前脚が来る


《風圧》


身体全体を飛ばすほどではない


軌道を少しずらす


前脚が俺の横を通る


「セイジ下がって」


エナ


俺は二歩下がる


その瞬間、足が何かに引っ掛かった


糸


まずい


転ぶ


手をつく


硬い糸が脚へ食い込む


「動くな」


エナが来る


「切れる?」


「触り方間違えたら脚切る」


怖いことを平然と言う


ダリオとローデンが前を支える


ルッカが蜘蛛の移動を読む


ミラが、


「上、右から回る」


と叫ぶ


俺は脚を動かさず、


《火弾》


低出力


糸の俺から離れた部分へ当てる


糸が焦げる


切れない


「硬い」


「もう一回、同じところ」


エナ


《火弾》


二発目


糸が少し脆くなる


エナが布越しに持ち上げる


「今」


俺は脚を抜く


浅い切り傷


血は出ている


「動ける?」


「動ける」


「深くない、でも無理に踏み込むな」


治療する時間はない


布を巻く


それだけ


蜘蛛がまた天井へ


「セイジ」


ダリオ


「壁維持できるか」


見る


《土壁》は削られている


でも立っている


「できる」


「探査も」


「ああ」


《多重並列制御》


土壁


探査


二つ


さらに攻撃


《水槍》


三つ


撃つ


蜘蛛の腹側


当たる


外殻の薄そうなところ


反応が違う


蜘蛛が大きく身体を振る


「腹は少し薄い?」


俺が言う


ルッカ


「でも見せない」


すぐ壁へ張り付く


広い視野


八つの目


どこから近付いても見られる


ルッカが横へ回っても反応する


ダリオが正面へ出ても別の目が向く


単純に死角へ回るのは難しい


蜘蛛が糸を三方向へ飛ばす


「下がれ」


ダリオ


一本


左


一本


中央


一本


上から斜め


ミラが避ける


ローデンの腕を一本が掠めた


布が裂ける


血


「ローデン」


エナ


「浅い」


「見せて」


「まだ動ける」


「見せて」


戦闘中でもそこは譲らない


エナが短く確認


裂傷


深くない


止血


「腕は使える、でも同じところ当てないで」


「分かった」


蜘蛛が動く


ルッカが言う


「同じところ何回も使ってる」


「どこ」


「天井の奥、左から中央」


見る


糸が多い場所


蜘蛛がそこを通る


壁


天井


中央上


着地


また壁


「道決まってる?」


「全部じゃない、でも好きな場所ある」


これが大事かもしれない


完全に自由に動いているわけではない


糸


足場


張りやすい位置


身体を支えやすい場所


蜘蛛にも都合のいい経路がある


「ダリオ」


ルッカが声を上げる


「中央に下りる前、左上通る」


「次も?」


「たぶん」


ダリオが全体を見る


「試す」


蜘蛛が右へ


糸


壁


上


「来る」


ルッカ


「左上」


俺は探査


本当に左上へ移る


そのあと中央上


「中央へ落ちる」


ダリオが前へ出る


蜘蛛が落ちる


でもダリオは攻撃しない


ぎりぎりで下がる


蜘蛛が追う


前脚


一歩


二歩


ダリオが左へ寄る


蜘蛛の身体が向く


「狙いを俺へ固定する」


「危ないぞ」


「だから他を見るな」


まただ


全部やるな


俺は蜘蛛だけ見る


いや


俺が見るのは、


土壁


探査


攻撃


そして必要なら複合魔法


多い


全部を同時に持つと負荷が高い


「土壁まだ必要?」


俺がローデンへ聞く


ローデンは一瞬見る


「もう捨てろ、壁の後ろ使ってない」


解除


一つ減る


「探査」


ルッカが叫ぶ


「今は私が見る」


「分かる?」


「近いなら」


蜘蛛の動きはルッカが読む


探査も切る


二つ減った


残すのは攻撃


必要なら支援


蜘蛛がダリオへ向く


俺は《火槍》


撃つ


側面


当たる


外殻


浅い


二発目


同じ位置


少し欠ける


「効いてる」


でも蜘蛛がすぐ姿勢を変える


同じ場所を狙わせない


「外殻の継ぎ目」


俺は思い出す


《晶殻巨蜥》と同じではない


でも、硬いものが動くなら継ぎ目は必要だ


「ルッカ、開く場所見える?」


「脚の根元」


「どれ」


「前の二本、身体上げた時」


蜘蛛が前脚を振る


身体を持ち上げる


その瞬間、


外殻の一部がずれる


「見えた」


狭い


《晶殻巨蜥》の時よりさらに短い


しかも蜘蛛は速い


普通の高密度《火槍》を作って狙うだけでは間に合わない


複合魔法なら


速い


軌道も安定する


でも作る処理が多い


「次、そこで狙う」


ダリオ


「時間いる」


「作るまで持たせる」


俺は手を上げる


発動点


中心火


外側風


《多重並列制御》


火


風


発動点


射出方向


同時


《高密度魔力圧縮》


火の中心


昨日より高くする


強くしすぎれば風が崩れる


《精密魔力制御》


火の密度


風の流れ


左右差


一つずつ調整


蜘蛛が動く


ルッカ


「まだ開かない」


ダリオが前


ローデンが、


「その位置から撃つな」


と叫ぶ


「何で」


「後ろの柱」


俺の射線の先に岩柱


外したら当たる


崩れる可能性


「じゃあどこ」


「二歩左」


俺は魔法を維持したまま動く


二歩


発動点も移動


射出方向も変わる


火が揺れる


風が少し乱れる


崩れる


「くそ」


全部解除


蜘蛛が糸を吐く


俺は避ける


脚の傷が少し痛む


「セイジ」


エナ


「動ける」


「痛み増えたら言って」


「分かった」


一回目失敗


でも、狙う場所は分かった


もう一度


発動点


火


風


中心


外側


高密度


形


射出


蜘蛛


ルッカが見る


ダリオが誘う


ローデンが射線


ミラが後方を見る


エナが全員を見る


俺は魔法だけ


「左上」


ルッカ


蜘蛛が上がる


「中央」


移る


「次、落ちる」


ダリオが位置を変える


蜘蛛が落ちる


追う


身体を上げる


「今」


撃つ


複合魔法


一つの射出


速い


でも蜘蛛が身体を捻った


狙った継ぎ目から少しずれる


外殻へ直撃


大きく欠ける


蜘蛛が叫ぶ


効いた


でも抜けていない


「惜しい」


俺は歯を食いしばる


蜘蛛が怒ったように動きが速くなる


糸


三方向


四方向


「下」


ミラ


俺は跳ぶ


一本が足元


「上」


ルッカ


天井から蜘蛛


《風圧》


俺は自分の身体へ近いところで使う


落下位置をわずかにずらす


蜘蛛の前脚が肩を掠める


痛い


でも深くはない


「セイジ」


エナ


「浅い」


自分で分かる


服が裂けた


血は少し


今止まるほどではない


「続ける」


ダリオが一瞬だけ俺を見る


「いけるか」


「ああ」


「なら次で決める準備」


次


簡単に言う


でも、それしかない


戦いが長い


全員疲れてきている


蜘蛛の外殻も傷ついている


糸も増えている


このまま続けば、俺たちの動ける場所が減る


「糸、右側多い」


ルッカ


「左へ誘導できる?」


ダリオ


「たぶん」


「ローデン」


「左奥の床は使える、天井も今は大丈夫」


「射線」


「中央から左奥方向なら柱なし」


ダリオが頷く


「決める」


そこから全員の動きが変わった


ダリオが蜘蛛の正面へ


近すぎない


離れすぎない


狙わせる距離


ルッカは左


蜘蛛の移動先を見る


ローデンは俺が撃つ場所を確保


ミラは右側へ回る糸を警告


エナは中央後方


「セイジ、作れ」


俺は呼吸を整える


複合魔法


発動点


一つ


火属性経路


中心


風属性経路


外側


《多重並列制御》


火


風


発動


射出


さらに蜘蛛の動き


でも、蜘蛛の動きはルッカへ任せる


射線はローデン


タイミングはダリオ


俺は魔法


それだけ


《高密度魔力圧縮》


火の中心を圧縮


昨日の実戦よりさらに高密度


細く


崩さない


風を外側へ


火を押し潰さない


風が強すぎれば軌道がずれる


弱すぎれば形が崩れる


《精密魔力制御》


火経路


少し細く


密度を保つ


風経路


右を弱める


左を少し上げる


発動点


動かさない


射出方向


まだ固定しない


相手の位置が決まってから


頭の中にいくつもの感覚がある


でも混ざらない


火


風


密度


形


発動


それぞれ別々


その全部が一つの魔法の中にある


以前なら、


火を見ると風が落ちた


風を見ると形が崩れた


今は違う


一つを調整しても他を失わない


「右から糸」


ミラ


俺は動かない


ダリオが、


「セイジはそのまま」


と言う


ローデンとエナが位置を変える


糸が俺の前を通る


当たらない


「蜘蛛上がる」


ルッカ


左壁


天井


中央上


いつもの経路


でも今日は糸のせいで少し位置が違う


「次、左寄りに落ちる」


「確定?」


ダリオ


「たぶん」


それで十分


ダリオが左へ


蜘蛛が見る


八つの目の一部がダリオを追う


他の目は俺たち


死角がない


だから視線を奪うだけでは足りない


ダリオがさらに一歩


蜘蛛が落ちる


前脚


ダリオが避ける


蜘蛛が追う


一歩


二歩


「そこで止める」


ダリオが《八眼鎧蜘蛛》の前脚を誘う


身体が上がる


ルッカが叫ぶ


「開く」


前脚の根元


外殻の接合部


見える


狭い


「射線通る」


ローデン


「全員離れろ」


ダリオ


仲間が左右へ退く


蜘蛛の前


俺


その間が開く


射出方向を固定


接合部


一点


《精密魔力制御》


狙う


細い場所


大きな身体の中の、小さな隙間


《高密度魔力圧縮》


さらに一段


魔力が暴れようとする


押し込むんじゃない


細い状態を保つ


火


風


どちらも崩さない


複合魔法の中で、


火だけを高密度にする


風は外側で形を保つ


二つを一つにしながら、


中では別々に調整する


「今」


撃つ


一つの魔法が走った


昨日より細い


速い


蜘蛛が反応する


身体を捻る


でも遅い


外殻の接合部


そこへ入る


一瞬、


硬いものへ当たった感覚


次


抜ける


火と風が一つのまま内部へ通る


蜘蛛の身体が止まった


八本の脚が広がる


前脚が床を叩く


身体が大きく揺れる


まだ立っている


「下がれ」


ダリオ


全員離れる


蜘蛛が暴れる


糸が無方向に飛ぶ


壁


床


天井


一本が俺の横を通る


もう一本


《土壁》


反射的に出す


糸が当たる


削れる


蜘蛛が壁へ登ろうとする


片脚が動かない


落ちる


それでも起きる


「まだ」


ルッカ


俺も探査


反応


強い


弱くなっている


でも生きている


「もう一発作れる?」


ダリオ


魔力


残っている


頭


重い


でもまだいける


「作れる」


「同じ場所は開かない」


ルッカが言う


「反対側?」


蜘蛛を見る


さっき撃った側を庇うように向きを変えている


頭がいい


八つの目が動く


「別の継ぎ目」


前脚


後脚


腹側


全部硬い


でも動くなら接合はある


「次は動かさないと無理」


ダリオ


蜘蛛が天井へ上がろうとする


ローデンが叫ぶ


「上へ逃がすな、右天井は崩せない」


俺は《風刃》


蜘蛛の脚へ


土壁維持


風刃


探査


三つ


《多重並列制御》


負荷


頭が重くなる


蜘蛛が壁から落ちる


ルッカが、


「後ろ脚、右」


と言う


関節


外殻の間


《火槍》


普通のもの


撃つ


当たる


蜘蛛が向きを変える


狙いが俺へ


「来る」


前脚


俺は避ける


脚の傷が痛む


遅れる


爪が肩を掠める


今度は少し深い


血


「セイジ」


エナ


「まだ」


「次当たったら止める」


「分かった」


蜘蛛が俺へ向いた


結果として、右後脚がルッカ側へ見える


「開いてる」


ルッカ


ダリオがそれを見る


「セイジ、作れるか」


「時間」


「作る」


ダリオが蜘蛛の正面へ入る


「こっちだ」


蜘蛛の注意が割れる


八つの目


俺も見られている


完全に逸らせない


でも身体の向きは変えられる


ローデン


「射線、今の位置なら通る」


エナ


「あと一回にして」


ミラ


「右側の糸増えてる、そっち下がれない」


情報が入る


俺は必要なものだけ残す


土壁


もういらない


解除


探査


蜘蛛は見えている


解除


攻撃だけ


複合魔法


火


風


発動


高密度


精密制御


頭の中から余計なものを落とす


外の情報は仲間が見る


俺は魔法の中を見る


火属性経路


細い


密度


高い


風属性経路


左右


安定


発動点


一つ


射出


まだ


「右後脚」


ルッカ


蜘蛛が動く


「今じゃない」


一度閉じる


開く


「次」


ダリオが蜘蛛へ踏み込む


前脚が振られる


避ける


蜘蛛が身体を捻る


右後脚が上がる


「今」


射出


一つ


細い


真っすぐ


接合部へ


命中


抜ける


蜘蛛の身体が傾いた


壁へ脚を掛ける


滑る


落ちる


動く


まだ


前脚が一度床を掻く


次


止まる


俺は魔法を作らない


探査


反応を見る


弱い


さらに弱くなる


ルッカも動かない


ダリオも近付かない


長い数呼吸


蜘蛛の脚が一度だけ動く


そのあと止まった


魔力反応が消えていく


「……終わった」


俺はそこで初めて息を吐いた


膝が少し緩む


座る前にエナが来た


「座って」


「はい」


素直に座る


肩


脚


両方見る


「脚は浅い、肩は少し深いけど大丈夫、縫うような傷じゃない」


治癒を使おうとすると、


「今は私がやる」


と止められた


「魔力残した方がいい」


「分かった」


エナが処置する


ローデンの腕も確認


軽い裂傷


ダリオにも細かい擦り傷


ルッカは糸が服を掠めた程度


ミラも転倒しかけた時に膝を打っている


重大な怪我はない


でも無傷ではない


全員疲れている


戦闘場所に長く残るべきじゃない


「周囲確認」


ダリオ


俺は座ったまま《魔力探査》


近距離


追加なし


少し広げる


背景魔力


遠く


いくつか小さい反応


こちらへ急速に来るものはない


「近くは大丈夫」


「移動できる?」


ダリオ


全員が頷く


少し休む


その間に、ミラが蜘蛛を見る


「やっぱり《八眼鎧蜘蛛》で合ってると思う」


「中層の上位?」


「記録では、もっと奥側で確認されることが多い」


「ここより?」


「そう書いてあったと思う」


断定は避ける


記録そのものが完全ではない可能性もある


でも、一つ気になる


ルッカが戦闘場所の端を見ていた


蜘蛛が来た方向


奥側


糸


擦れ跡


脚跡


「どうした?」


「これ」


ルッカは床の跡を指す


新しい


大きい


蜘蛛のもの


「こっちから来てる」


奥


さらに深い側


「この辺が縄張り?」


ルッカは首を振る


「糸は新しいけど、長くいた感じじゃない」


「通ってきた?」


「たぶん」


「何か追って?」


ルッカは少し先まで痕跡を見る


戻ってくる


「追ってる感じじゃない」


「じゃあ?」


「離れてる」


「何から?」


「分からない」


奥から浅い側へ


何かを追いかけたというより、


深い側から離れるように移動した


ルッカにはそう見えるらしい


《八眼鎧蜘蛛》ほどの魔物が


「こいつも?」


ミラが小さく言う


今までの痕跡


小型


中型


大型


空いた縄張り


《晶殻巨蜥》


そして《八眼鎧蜘蛛》


全部が同じ原因とは限らない


でも、


深い側から浅い側


という方向が重なる


「移動する」


ダリオが言った


「考えるのは安全な場所で」


俺たちは戦闘場所を離れた


蜘蛛の糸を避ける


ローデンが先を見る


ルッカが痕跡


俺が近距離探査


大きな戦闘の直後だから、全員慎重になる


少し進むと、道が大きく下った


今までの段差とは違う


広い傾斜


その先に暗い空間


灯りでは奥まで見えない


「広い」


ミラが呟く


俺も探査を向ける


下


かなり先まで空間が続いている


大きな空洞


その向こうにも経路らしいものがある


「これ、もっと下へ続いてる?」


ダリオ


ローデンが床と壁を確認する


「続いてるようには見える」


「進める?」


「今すぐは勧めない」


「理由」


「広すぎる、先の足場が見えない、戻る道もまだ分からない」


正しい


今日の俺たちは戦闘後


傷もある


魔力も使っている


未知の大空洞へ入る状態ではない


「今日はここまで」


ダリオが決める


誰も反対しない


俺も行きたいとは思う


でも今じゃない


空洞へ入る手前で、安全に休める場所を探す


少し横へ外れた高い場所


入口が狭い


奥は六人座れる


壁


天井


床


ローデン確認


ルッカの痕跡


新しいもの少ない


俺の探査


近距離大型反応なし


「ここ」


ダリオ


今日の安全確保地点


荷物を置く


エナが改めて傷を見る


俺の肩は出血が止まっている


脚も問題ない


治癒を使うほどではないとエナが判断した


全員水を飲む


食料


しばらく誰も話さない


疲れた


かなり


でも全員いる


帰れる状態


それが一番大事だ


少し落ち着いてから、俺はSTATUSを開いた


昨日は26


今は、


NAME

セイジ


RACE

ハイホブゴブリンメイジ


LEVEL

28


HP B-

MP A-

筋力 C

耐久 B-

敏捷 B

器用 B+

精神 B+

魔力 A-


SKILL

《魔力探査》

《精密魔力制御》

《高密度魔力圧縮》

《多重並列制御》


TITLE

なし


「28」


自分でも少し驚く


「二つ上がった?」


ルッカ


「ああ、昨日26だった」


途中の27は見ていない


いつ上がったかも分からない


今確認できるのは28


それだけ


能力を見る


精神


BからB+


他は変わっていない


SKILLも同じ


《精密魔力制御》


名前は変わっていない


でも今日の戦いでは、このSKILLを今までとは比べものにならないくらい使った


複合魔法の中で、


火経路だけを調整


風経路だけを調整


高密度の中心を崩さない


狙う接合部へ射出方向を合わせる


その間に別の魔法も扱う


一つの魔法の中の一部分だけを触りながら、全体を崩さない


以前ならできなかった


「SKILL変わってない?」


ミラ


「ああ」


「でも何か違った?」


俺は少し考える


「前より細かく触れた気がする」


「複合魔法の中?」


「ああ」


火と風を一つにした


だから全部一緒にしか動かせない


わけではない


一つの構造のまま、


中の火だけ


風だけ


密度だけ


方向だけ


個別に調整できる


それを戦闘中にやった


「難しそう」


ルッカ


「難しかった」


頭はまだ重い


でも感覚は残っている


一段上がった


そんな感じはある


STATUSの名前が変わっていなくても、自分の使い方が変わった


それで十分だ


STATUSを閉じる


休憩


そしてミラと今日の記録を整理する


《八眼鎧蜘蛛》


中層上位側で記録される大型蜘蛛型魔物


壁・天井移動


硬質糸


前脚


外殻


広い視野


糸による戦場制限


俺一人なら、たぶんまともに狙えなかった


ルッカが移動位置を読んだ


ダリオが身体の向きを作った


ローデンが撃てる場所を選んだ


エナが負傷と限界を見た


ミラが見えない方向の情報をつないだ


そこまであって、最後に俺が通した


複合魔法が強かったから勝った


それだけではない


撃てる瞬間を作ってもらったから当てられた


「また同じの出たら?」


ルッカが聞く


「できれば避ける」


「勝ったのに?」


「勝てると楽は違う」


全員傷がある


魔力も使った


糸一本で転倒すれば状況が変わる


外殻の接合部へ当てられなければ長引く


何度でも簡単に倒せる相手ではない


「それがいい」


ダリオが言った


「勝った直後ほど勘違いしやすい」


俺もそう思う


少しして、俺は大空洞の方向へ《魔力探査》を伸ばした


近く


問題なし


さらに


背景魔力が濃い


かなり強い


奥へ


遠距離は曖昧


それでも、


突然、


感覚が変わった


「……何だ?」


大きい


魔物の反応とは違う


一個の身体の形ではない


奥側


さらに下


そこから、


一瞬だけ


周囲の魔力そのものが大きく揺れたように感じた


波


圧


うまく言葉にできない


俺は反射的に探査を狭める


「セイジ?」


ミラ


「今、奥で何か変わった」


全員が静かになる


「魔物?」


ダリオ


「分からない」


「さっきの蜘蛛みたいな反応?」


「違う」


「どれくらい」


「一瞬だけ、大きく」


もう一度探す


ない


今は普通


普通と言っても周囲の魔力は濃い


でも、さっきの大きな揺れは消えている


「もう一回?」


「感じない」


ルッカが空洞の方を見る


「音はない」


ローデンも壁へ手を当てる


「揺れも感じなかった」


少なくとも俺たちが感じる地面の揺れはなかった


魔力だけ


そう感じた


「原因は?」


ミラが聞く


「分からない」


「魔物?」


「分からない」


「迷宮?」


「それも分からない」


何も決められない


でも方向は分かる


さらに奥


今まで進んできた側


「今までのも合わせると」


俺は言葉を選ぶ


森の生き物の動き


浅層側へ向かう痕跡


中層入口


空いた縄張り


大型魔物の移動


《晶殻巨蜥》


《八眼鎧蜘蛛》


そして今の魔力変動


全部同じ原因だとは言えない


でも、


「異変が起きてる方向は、かなり奥側っぽい」


ダリオが頷く


「原因が奥にある、とまでは言わない」


「ああ」


「ただ、調べる方向としては」


「さらに深い側」


今までより強く言える


大迷宮のさらに深い側


そこを調べる必要性は、今までよりかなり高くなった


でも今日は行かない


目の前には下へ続く大きな経路


大空洞


その先


気になる


かなり気になる


それでも、


「今日は終わり」


ダリオ


誰も反対しない


「今回の目的は十分だ」


中層のさらに奥まで来た


新しい区域を確認


上位魔物を撃破


異変方向の情報も増えた


これ以上は欲張りだ


「明日戻る?」


ミラ


「状態見てから、基本は帰還」


ダリオ


「下は?」


ルッカ


「今回は行かない」


「次?」


「次があるなら準備してから」


それでいい


俺は大空洞の暗闇を見る


さらに先がある


まだ知らない場所


でも今の俺たちが今日進む場所ではない


深く来た


かなり深く


それでも帰る


いや、


深く来たからこそ帰る


戻って、


傷を治す


記録を整理する


ガルディアへ報告する


第二水場を見る


岩陰拠点で休む


それから、必要ならまた来る


俺は肩の布を少し直した


ルッカが横に座る


「帰れる?」


「ああ」


「道覚えてる?」


「俺よりルッカの方が覚えてるだろ」


「うん」


自信満々だ


「じゃあ大丈夫だ」


「セイジは?」


「魔法担当」


「蜘蛛倒した」


「みんなでな」


そこは間違えない


最後に撃ったのは俺


でも勝ったのは六人


今日ほどそれがはっきりした戦いもない


警戒の順番を決める


食事


傷の再確認


休息


俺の番になるまで横になる


目を閉じる前に、頭の中で今日の魔法を思い返す


火


風


高密度


複数処理


精密な調整


一つの構造の中を、さらに細かく触る


前は魔法を使っていた


今は少しだけ、


魔法そのものへ手を入れている


まだ白紙から作れるわけじゃない


分からないことも多い


でも、確実に変わっている


そして迷宮も同じだ


浅層しか知らなかった頃とは違う


中層


そのかなり深い区域


さらに下へ続く大きな空洞


奥から離れるように動いた《八眼鎧蜘蛛》


一瞬の大きな魔力変動


答えはまだない


でも向きは見えた


さらに深い側


そこに何があるのかは分からない


今は、それでいい


俺たちは今日、そこへ行くために来たんじゃない


帰るための余力を残して、


帰れるところまで深く来た


それが今の俺たちの探索だ


明日は戻る


俺はそう決めたダリオの判断に、何の不満もなかった


むしろ少し安心している


深く行けるのは、


戻る場所があるからだ


そのことを、ここまで来て改めて思いながら、


俺は中層のかなり深い場所で目を閉じた

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