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82/96

さらに奥へ

第82回 さらに奥へ


火と風の実験を止めてから、二日経った


昨日は本当に何もしなかった


魔法を一度も使わなかったわけではない


水を出したり、火を使ったり、生活に必要なことはしている


でも研究はしていない


ルッカにも、


「今日は紙見ない?」


と何度か確認された


「見ない」


と答えて、本当に見なかった


たぶん、かなり珍しい日だったと思う


そのおかげか、今朝は頭も軽い


身体にも疲れは残っていない


そして今、俺たちはガルディアにいる


大迷宮へ向かう準備も終わった


目的は探索


中層のさらに先を見る


火と風の魔法を試すためだけに迷宮へ行くわけではない


そこは全員で確認した


「使わなくてもいいからね」


出発前、エナが言った


「分かってる」


「普通の魔法で足りるなら普通ので」


「ああ」


「研究のために危ない戦い方しない」


「しない」


「失敗したら」


「すぐ切る」


エナが頷いた


横ではダリオが装備を確認している


ローデンは縄と灯り


ミラは記録


ルッカはもう入口方向を見ていた


俺の空間収納には、食料、水、救護用品、布、縄、小型道具


研究用の紙も少しだけ


本当に少しだけだ


「少ない」


ルッカが言った


「前も聞いた」


「今日は本当に少ない」


「何枚?」


「数えるな」


ミラが笑う


「私が半分預かったから大丈夫」


そういうことらしい


出発する


浅層はもう慣れた経路を使う


もちろん警戒はする


魔物がいなくなるわけでも、崩落しなくなるわけでもない


それでも、初めて入った頃と比べれば迷う時間はかなり減った


中層入口


そこを越える


空気が変わる


正確には空気なのか、周囲の魔力なのか分からない


でも、ここから先へ入る時の感覚はもう覚えている


《魔力探査》


近距離


必要な範囲


背景の魔力が少し濃い


いつもの中層だ


「近くに大きなのなし」


俺が言う


ルッカも地面を見る


「新しい跡少ない」


「進む」


ダリオの声で、俺たちは奥へ向かった


前に通った休息地点


崩落が起きた経路は避ける


別に確認した道を使う


以前なら一つずつ迷っていた分岐も、今は記録がある


ローデンが構造を確認しながら進む


「前と変わってない」


「崩れそうなのは?」


「今のところなし」


ルッカも匂いと足跡を見る


「こっちは通ってる」


「何が?」


「小さいの、何匹か」


俺の探査でも遠くに小さな反応がある


こちらへは来ていない


そのまま進む


中層の既知範囲を越えるまで、戦闘は二回あった


どちらも大きなものではない


一度目は二体


《火槍》と《風刃》


二度目は三体


ダリオたちが一体ずつ動きを分け、俺は《水槍》で一体を倒した


火と風を組み合わせたものは使わない


使う必要がなかった


それでいい


「使わないね」


戦闘後、ルッカが言った


「普通ので足りたからな」


「試したくない?」


「かなり」


「じゃあ何で使わないの?」


「今使う理由がないから」


自分で言いながら少し驚く


前なら、使えそうなら試したかもしれない


でも今は違う


一つの魔法に近付いたからこそ、雑に使いたくない


必要な時に使う


その方がいい


進む


既知の道が終わる


そこから先は、前よりも石の色が暗い場所が増えた


黒いわけではない


灰色


茶色


そこに濃い筋が混ざっている


壁の形も変わる


自然な岩肌


その隣に妙に平らな面


さらに進むと、床の一部だけ同じ幅で続いている


「これ」


ローデンがしゃがむ


「人工?」


ミラが聞く


「そう見える」


「前より多い?」


「見える範囲では」


ローデンは壁を見る


天井を見る


床を見る


「でも、誰かが全部作ったとは言えない」


「自然なところもある」


「ああ」


人工的に見える部分が増えている


それだけ


由来は分からない


何のためにあるのかも分からない


ミラが記録する


俺は《魔力探査》を少し広げる


「……濃い」


昨日までの中層でも感じていた


でも、ここはもう一段強く感じる


背景の魔力が厚い


遠い反応を探すと、その中へ埋もれる


近くなら分かる


「前より?」


ミラ


「強く感じる」


「奥だから?」


「そこまでは言えない」


同じ条件で比べているわけじゃない


高さ


壁


空間


経路


全部違う


ただ、これまでより深い側へ進むにつれて、こういう場所が増えている


そこまでは言える


「記録しとく」


「ああ」


少し先で、魔力の濃さがまた下がる


さらに進むと強くなる


やっぱり一定ではない


「波みたい」


ルッカが言った


「波?」


「強い、弱い、強い」


「確かにな」


原因は分からない


でも感覚としては近い


俺たちは慎重に進んだ


足場も変わる


広い道から急に狭くなる


一段下がる


さらに横へ曲がる


ローデンが何度も止める


「ここは端に寄るな」


「この天井は?」


「今は問題ない」


「この割れ目は?」


「古い」


俺には全部似て見える


でも、ローデンには違うらしい


さらに一時間ほど進んだところで、ルッカが急に止まった


「待って」


全員止まる


ルッカが壁際へ寄る


地面


擦れ跡


大きい


「何かいた?」


ダリオ


「通った」


「最近?」


「新しい」


俺も見る


大きな足跡


一つではない


同じ個体が何度か通ったのか


複数なのかは分からない


進行方向は、


俺たちが来た側


浅い方向


ルッカが奥を見る


「向こうから来てる」


まただ


奥から浅い側


これまで何度も見た


「大きいな」


俺が言う


「前の《晶殻巨蜥》くらい?」


「違うと思う」


ルッカが首を振る


「形違う」


ミラが跡を記録する


「種類は?」


「分からない」


「追う?」


「追わない」


ダリオがすぐ答えた


「今は進路上にある分だけ見る」


原因を調べるために足跡を追いかければ、帰還経路から外れる


それをする日ではない


俺たちは本来の進路を進む


ただ、気になるものは増えた


浅い側へ向かう小型魔物


空いた縄張り


中層の大型魔物


さらに深い側から来たらしい大きな痕跡


全部同じ理由かは分からない


でも方向は少しずつそろっている


奥から


こっちへ


「セイジ」


ダリオの声


「考えるのは歩きながらじゃなくて休憩で」


「顔に出てた?」


「足元見てない」


危ない


俺は前へ意識を戻した


少し進んだところで休憩する


比較的広い空間


ローデンが安全確認


ルッカが周辺痕跡


俺が近距離探査


大きな反応なし


座る


水を飲む


エナが順番に見る


「疲れ」


「まだ大丈夫」


「頭」


「問題ない」


「魔力」


「かなり残ってる」


研究していないから、消費は少ない


「使いたそう」


エナが言う


「まだ言ってない」


「顔」


最近全員に顔を読まれる


ミラも笑っている


「条件としては?」


ダリオが聞く


「何の?」


「火と風」


俺は少し考える


安全


低出力ではない


実戦で使うなら普通に攻撃できる出力が必要


動く相手


変わる距離


角度


そして周囲の魔力が濃い


研究場所よりずっと条件は悪い


「今、試す?」


ルッカが聞く


「敵いないだろ」


「石」


「石に撃っても実戦じゃない」


「じゃあ敵来るまで待つ?」


「待たない」


俺たちは探索に来た


研究のために魔物を探さない


休憩を終える


さらに奥へ


この辺りから、人工的に見える部分がもっと増えた


壁面だけではない


床に一定間隔の溝


角のように曲がる通路


同じ高さで続く段差


その間に自然な割れ目や岩肌が混ざる


「変だな」


俺が言う


ローデンが答える


「混じりすぎてる」


「自然の洞窟の中に作った?」


「それも分からない」


「元が人工で崩れた?」


「それも分からない」


候補はいくらでもある


答えはない


ミラも断定せず記録する


少し進んだところで、《魔力探査》に反応が入った


一つ


二つ


三つ


四つ


「前、複数」


全員の動きが変わる


「距離」


ダリオ


「中くらい、こっちへ動いてる」


ルッカも耳を澄ます


「来る」


「避けられる道」


右


狭い


ローデンが見る


「右は床が悪い」


左


行き止まりに近い窪み


逃げ場がない


「ここで受ける」


ダリオが決める


場所は比較的広い


六人動ける


天井も高い


足場も悪くない


ローデンが確認する


「中央使える、右端だけ避けろ」


俺たちは配置につく


反応が近付く


姿が見える


三体


いや、奥にもう一体


大きさは《晶殻巨蜥》ほどではない


でも、今までの通常魔物より一回り強そうだ


筋肉の厚い四足


別に細長い身体のもの


種類も同じではない


「混じってる」


ルッカが言う


「一群?」


「分からない」


普通なら違う種類同士で一緒に動かないのかもしれない


でも今は戦闘が先


一体目が走る


ダリオが前へ出る


「左、俺たち」


「分かった」


俺は《火槍》


普通


撃つ


当たる


止まらない


もう一発


倒れる


二体目


ルッカが動きをずらす


ローデンが足場を指示


俺は《風刃》


当てる


浅い


相手が向きを変える


ダリオが横から止める


強い


でも戦える


通常魔法で十分対応可能だ


つまり、無理に新しい魔法を使う必要はない


それでも、


条件はそろっている


動く相手


変わる角度


周囲の濃い魔力


仲間がいる


そして、戦闘としてはまだ余裕がある


試すなら今かもしれない


「ダリオ」


俺が呼ぶ


「火と風、試したい」


ダリオは目の前の敵を見たまま答える


「今できるか」


「たぶん」


「失敗したら」


「普通に戻す」


「一体だけ、こっちで時間作る」


許可というより戦術判断


「ルッカ、セイジに一体向けろ」


「うん」


「ローデン、射線」


「中央なら使える」


「ミラ、他方向見ろ」


「分かった」


「エナ」


「セイジの状態見る」


全員が動く


研究場所とは違う


俺だけの時間じゃない


一体がルッカを追う


ルッカが走る


方向を変える


俺の正面へ


「来る」


俺は手を上げる


まず発動点


一つ


火属性経路


中心


風属性経路


外側


《多重並列制御》


二つを別々に落とさない


火の中心


《高密度魔力圧縮》


研究時より出力を上げる


上げすぎない


風


形状安定


進行方向


射出補助


《精密魔力制御》


左右


上下


火との比率


一つの発動点


一つの方向


一つの解除


「まだ?」


ルッカの声


敵が近い


研究時なら止めて調整できた


今はできない


「もう少し」


火


風


起動


一緒


風だけ先に出ない


火だけ膨らまない


二つを別々に発動させない


一つ


一つの魔法として起こす


感覚が変わる


火を維持している


風も維持している


でも、


二つの魔法を持っている感覚ではない


一つの構造


中心に火


外側に風


一つの起動


「来るよ」


ルッカが横へ外れる


射線が空く


敵が正面


撃つ


一つの射出


風だけ先へ行かない


火だけ残らない


一つの細長い魔法が走る


速い


研究場所より明らかに速い


それでも軌道はぶれない


相手が横へ動こうとする


間に合わない


命中


身体を貫く


その後ろの地面へ突き刺さる


火が散る


風が土を削る


魔物が倒れた


「……入った」


俺は手を見る


一回


できた


でも一回だけだ


前にも一回だけあった


あれを忘れない


「セイジ」


ダリオの声


「喜ぶのあと」


「分かってる」


まだ敵がいる


普通の《火槍》


撃つ


一体を止める


ルッカとダリオが別の一体を処理


ローデンが右側から来る相手を避けさせる


ミラが、


「奥もう一つ」


と叫ぶ


俺も探査


いる


少し大きい


接近


「追加一体」


ダリオがすぐ判断


「ここで処理する」


最初の三体のうち残り一体を倒す


奥から四体目


さっきより細い


速い


壁際を走る


距離が違う


角度も違う


正面ではない


右前方


しかもこちらも動かなければ射線が取れない


これだ


一回目とは条件が違う


「もう一度やる」


俺が言う


エナがすぐ聞く


「頭」


「大丈夫」


「魔力」


「まだある」


ダリオ


「無理なら普通に切り替えろ」


「ああ」


俺は位置を変える


右へ


敵も動く


角度が変わる


ローデンが叫ぶ


「そこからなら足場いい、二歩以上右は行くな」


「分かった」


ルッカが敵の進行方向を読む


「壁から離れる」


一瞬、相手が中央へ寄る


今


発動点


火


風


《多重並列制御》


一回目より速く組む


中心火


高密度


外側風


形状


方向


射出


距離が違う


角度も違う


同じ場所へ撃つわけではない


でも構造は同じ


火と風の比率


一回目を思い出す


風が少し強い


抑える


火


少し上げる


一つの起動


できる


「セイジ」


ルッカ


敵が方向を変えた


狙いも変える


研究場所なら、ここで崩れていた


軌道を変えると風の左右差が出る


火が遅れる


でも今は、


火経路


風経路


発動点


射出方向


全部を別々に持てる


《多重並列制御》


その上で、


一つの構造を維持する


右へ


少し上


狙い


「今」


撃つ


一つ


今度も分かれない


火と風が別々に走らない


一つの射出


敵が飛ぶ


魔法が追う


命中


身体の側面を貫く


敵が地面へ転がる


まだ動く


「倒れてない」


ルッカ


俺は普通の《火槍》を準備


その前にダリオが近付き、仕留めた


俺の魔法だけで倒したわけではない


でも、


二回目も一つだった


距離が違う


角度が違う


相手が動いた


狙いも途中で変えた


それでも、


一つの起動


一つの構造


一つの射出


最後まで火と風が別々に分かれなかった


「……できた」


今度は言っていい気がした


「二回?」


ルッカが聞く


「ああ」


「同じ?」


「条件は違った」


「でも一つ?」


「ああ」


胸の奥が急に熱くなる


魔法の熱じゃない


嬉しい


最初に魔法を使えた時とも違う


覚えた魔法じゃない


前からある《火槍》を使っただけでもない


《風圧》でも《風刃》でもない


知っているものをほどいた


火の経路


風の経路


密度


形


方向


発動


それを組み直した


そして、


一つになった


「名前どうする?」


ルッカが言った


「今聞く?」


「できたから」


俺は少し笑う


「まだ決めない」


「何で?」


「帰ってから考える」


今ここで名前を付ける余裕はない


ダリオも、


「戦闘終わってない可能性ある」


と言った


その通りだ


《魔力探査》


近く


追加なし


少し広げる


背景魔力が強い


遠くは曖昧


「近くにはいない」


ルッカも確認


「音なし」


ローデンが周囲を見る


「長居する場所じゃない」


エナが全員を見る


「怪我確認」


結果


軽い擦り傷が一人


大きな怪我なし


俺も少し頭が重い


でも戦闘継続不能ほどではない


「セイジ」


エナ


「頭」


「少しだけ」


「今日もう火と風やらない」


俺は一瞬考えて、


「ああ」


と答えた


二回できた


条件を変えて二回


それで十分だ


これ以上ここで証明する必要はない


「本当に?」


「できたから」


「できたからもっとやる、じゃなくて?」


「今日は終わり」


エナが少し驚いた顔をした


信用を取り戻しつつある


戦闘場所を離れる


探索は続ける


ただし速度は落とす


俺の集中疲労もある


全員の状態も確認する


少し先で道が二つに分かれた


左


下る


右


ほぼ平ら


ルッカが痕跡を見る


右


古いものが多い


左


大きい跡


さっき見たものとは違う


「こっち、大きいの通ってる」


「方向」


ダリオ


ルッカが奥を見る


それから俺たちが来た側を見る


「奥から、こっち」


また浅い側


しかもかなり大きい


壁にも擦れ跡


高い


「最近?」


「新しいのある」


ミラが記録する


「どんな魔物?」


「分からない」


「ここが縄張り?」


ルッカは首を振る


「通っただけっぽい」


「奥から出てきた?」


「たぶん」


確定ではない


でも、また一つ増えた


深い側から浅い側へ向かう大型魔物の痕跡


「左行く?」


ダリオが聞く


ルッカは少し考える


「今はやめた方がいい」


「理由」


「大きいの、新しい」


つまり近くにいる可能性がある


俺も《魔力探査》を左へ向ける


背景が濃い


分かりにくい


少し広げる


何かある


遠い


大きい


「反応ある」


全員が俺を見る


「距離は?」


「かなりあると思う、でも背景強くて正確じゃない」


「こっちへ来る?」


「今は分からない」


ダリオは迷わなかった


「今日は左へ行かない」


右を選ぶ


探索で一番大事なのは、


見つけたもの全部へ向かうことではない


帰れること


俺たちは右へ進む


ここからさらに構造が複雑になった


自然な岩の間に、明らかに直線的な部分が増える


壁面


床


段差


でも崩れている


一部は土に埋まっている


ローデンが何度も止まりながら確認する


「この先、床の下に空間あるかもしれない」


「落ちる?」


「可能性ある、端歩くな」


「端じゃなく中央?」


「ここは中央」


さっきとは逆だ


地形ごとに違う


俺たちは一列で進む


ミラが後ろから、


「同じ迷宮とは思えないね」


と言う


俺もそう思う


浅層


中層入口


今いる場所


どんどん雰囲気が変わる


まだ中層


そう扱われる範囲だ


でも、入口近くとはかなり違う


周囲の魔力も強い


魔物の痕跡も大きくなる


人工的に見える構造も増えている


さらに進むと、水の音がした


細い流れ


壁から染み出し、床の溝を通っている


「飲める?」


ルッカ


「分からないから飲まない」


エナが即答した


正しい


水は持っている


未知の水をわざわざ飲む必要はない


ローデンは溝を見る


「自然に削れた形じゃないかもしれない」


「また人工?」


「そう見えるだけ」


ミラが書く


本当にそればかりだ


でも、分からないものは分からない


午後に入る


疲労が増える前に休憩


俺は水を飲みながら、さっきの魔法を頭の中で整理する


二回


一回目


正面


短めの距離


相手は直進


二回目


右前方


距離長め


相手が移動


発動後に狙い変更


それでも一つの構造を保てた


「まだ嬉しそう」


ミラが言う


「分かる?」


「分かる」


「できたんだよな」


「二回見た」


「火と風、別々じゃなかった?」


「見た目は私には細かいところまで分からない」


「そっか」


俺にしか分からない部分もある


でも感覚ははっきりしている


二つの魔法を同時に使った時とは違う


火槍と風圧を同時に放つと、


火


風


二つの発動


二つの魔力


二つの維持


そう感じる


さっきは違った


一つの発動


その中に火と風の経路がある


一つの構造


一つの射出


二属性が途中で分かれない


そして実際に相手へ当たった


条件を変えてもう一度できた


「これなら、もう魔法として使う?」


ミラが聞く


「使う」


「名前なしで?」


「名前はあと」


「何て記録する?」


俺は少し考える


「火と風のやつ」


「雑」


「じゃあ仮で火+風」


「もっと雑」


ルッカが笑う


名前は決めない


まだいい


できたことの方が大事だ


「でも、俺が一から作ったわけじゃない」


ミラが顔を上げる


「どういう意味?」


「使ったのは全部前からある」


《火槍》


《風圧》


《風刃》


《高密度魔力圧縮》


発動の仕方


射出の仕方


知っているものを分けて、並べ直した


「それでも新しい魔法じゃない?」


「新しいとは思う」


でも、


何もないところから全部決めた


とは違う


材料はあった


構造も元がある


それを組み直した


「前に、魔法をほどくって言ってたよね」


ミラ


「ああ」


「ほどいたのを組み直した?」


「それが近い」


最初は《火槍》の長さを変えただけ


次は密度


速度


形


そこから別属性を近付けた


壊れた


一瞬だけ重なった


複数処理を持てるようになった


役割を決めた


発動点を一つにした


射出を一つにした


今日、


実戦で一つになった


「長かったな」


俺が言う


ルッカが首を傾げる


「数日じゃない?」


「そういう意味じゃない」


研究の中身が長かった


何度壊したか分からない


でも、その失敗が全部つながっている


休憩を終える


さらに進む


今日はもう大きな戦闘は避けたい


ダリオも同じ考えらしい


「安全に止まれる場所を探す、見つけたら今日は終わり」


ルッカが前へ


ローデンが地形


俺が近距離探査


ミラが記録


エナが全員を見る


少しして、広めの空間を見つけた


入口側


もう一つ奥側に細い通路


床は比較的平ら


天井も高い


ローデンがかなり時間を掛けて確認する


「短期なら使える」


ルッカ


「新しい跡、少ない」


俺


「近くに大きな反応なし」


ダリオ


「ここにする」


臨時の休息地点


恒久的なものではない


荷物を置く


入口と奥側の両方を警戒できるよう位置を決める


エナが全員を確認


大きな問題なし


俺も座る


足が少し重い


頭もまだ軽く重い


でも、戦闘直後よりかなり楽だ


「STATUS見る?」


ルッカが聞く


「見るか」


今日は複数戦闘


自分でも何体か倒している


それに、火と風の魔法でも一体を明確に倒した


開く


NAME

セイジ


RACE

ハイホブゴブリンメイジ


LEVEL

26


HP B-

MP A-

筋力 C

耐久 B-

敏捷 B

器用 B+

精神 B

魔力 A-


SKILL

《魔力探査》

《精密魔力制御》

《高密度魔力圧縮》

《多重並列制御》


TITLE

なし


「26」


「上がった?」


ルッカが寄る


「25から26」


能力も見る


耐久


C+からB-


敏捷


B-からB


他は変わっていない


SKILLも同じ


「二つ上がってる」


ミラが見る


「耐久と敏捷」


「ああ」


「身体変わった感じある?」


エナ


俺は腕を動かす


立って少し脚も動かす


「今は分からない」


「じゃあ疲れてる時に試さない」


「分かってる」


また先に止められた


STATUSを閉じる


LEVEL26


耐久B-


敏捷B


でも、今日はLEVELより別のことの方が大きい


火と風


新しい一つ


俺が組み直した魔法


「本当に名前つけない?」


ルッカ


「今日はつけない」


「明日?」


「分からない」


「候補は?」


「まだない」


嘘ではない


頭に何もない


炎


風


槍


貫く


速い


いろいろ浮かぶけれど、これだと思うものはない


急がなくていい


名前がなくても使える


「じゃあ火と風のやつ」


ルッカが言う


「それは仮でも格好悪い」


「分かりやすい」


「否定できない」


夕方


食事を取る


警戒順を決める


俺は今日の記録をミラと整理する


中層深い側へ進んだ


人工的に見える構造が増えた


魔力が強く感じられる場所も増えた


ただし濃さは一定ではない


大型魔物の新しい移動痕跡


方向は深い側から浅い側


火+風


実戦一回目


成功


撃破


条件変更後


二回目


成功


命中


一体構造維持


「これで偶然じゃない?」


ミラが聞く


「少なくとも、一回だけじゃない」


「研究場所だけでもない」


「ああ」


実戦


動く相手


違う距離


違う角度


狙い変更


それでもできた


だから俺は、


「使える」


と言える


複合魔法


そう呼んでもいいと思う


初めてだ


水と土を同時に使ったことはあった


あれは二つ


土壁と風刃も二つ


今度は一つ


「複合魔法、できたんだな」


口にすると実感が出る


ルッカがすぐ、


「できた」


と答えた


ミラも頷く


「少なくとも、今日の二回は同じ構造として動いてたんでしょ」


「感覚では」


「じゃあ記録する」


嬉しい


かなり


転生して最初に火を出した時


治癒が使えた時


水


風


土


闇


新しい属性を使えるようになった時も嬉しかった


でも今回は少し違う


何かを覚えたのではない


俺が使えるものを見て


分けて


失敗して


組み直した


その結果できた


それが嬉しい


「セイジ」


ダリオが奥側を見ていた


「少し探査できるか」


「近く?」


「奥」


俺は立つ


《魔力探査》


奥側通路


狭く


少しずつ伸ばす


背景の魔力が強い


かなり分かりにくい


さらに


遠く


反応


一つ


大きい


俺は眉を寄せた


「いる」


全員の空気が変わる


「距離」


「遠い、今日は来ないと思う」


「大きさ」


「かなり大きい」


ルッカも奥側通路の入口へ行く


匂い


音


地面


少し先まで見る


「跡ある」


「新しい?」


「ある」


「奥から?」


ルッカは地面を指す


休息地点の奥へ続く方向


そこからこちら側


浅い方へ向かっている


「またか」


俺は探査を切る


追わない


今日はもう進まない


ダリオも同じ判断だ


「明日、状態見てから確認する」


「戦う?」


ルッカ


「まだ決めない」


遠くに大きな反応がある


それだけ


何なのか分からない


こちらへ来ているかも分からない


ただ、周辺には奥側からこちらへ向かう新しい大きな痕跡がある


中層へ来てから、


同じ方向の情報が増え続けている


森での小さな違和感


浅層方向へ向かう痕跡


中層入口


空いた縄張り


大型魔物


さらに奥からの大きな足跡


今いる場所のさらに先


そこからこちらへ向かう痕跡


まだ原因は分からない


でも、


「奥に何かある可能性、高くなってきたな」


俺が言う


ダリオはすぐには頷かなかった


少し考えてから、


「方向としてはな」


と答えた


そう


原因が奥だとはまだ言えない


ただ、異変の発生方向を考えるなら、


大迷宮のさらに深い側


そこは今までよりずっと有力になっている


「魔力も?」


ミラ


「奥の方が強い?」


俺は首を傾げる


「そう感じる場所は増えてる」


「原因?」


「それは分からない」


そこは絶対につなげない


魔力が濃い


魔物が浅い方へ動く


両方が奥側で目立っている


それだけ


因果関係はないかもしれない


「明日見る」


ダリオが言った


「無理なら戻る」


「うん」


ルッカが答える


俺も頷く


火と風の魔法ができた


LEVELも上がった


でも、だから明日大きな反応へ突っ込む理由にはならない


相手


地形


数


帰還経路


全部見て決める


俺たちは食事を終えた


警戒に入る


俺の番は少し後


横になる前、手を見る


今日の感覚がまだ残っている


一つの発動点


中心の火


外側の風


一つの構造


一つの射出


最初は二つだった


二つを近付けて壊した


一瞬だけ重なった


複数の処理を持てるようになった


役割を決めた


構造へ置いた


今日、


戦いの中でも一つになった


条件が変わっても、もう一度できた


できた


やっとそう言える


でも、それで終わりじゃない


使えるようになっただけだ


もっと安定させる必要はある


どこまで通じるかも分からない


名前もない


それに、


奥にはまだ何かいる


俺は目を閉じる


岩陰拠点を思い出す


第二水場


帰る場所


そこからずいぶん深いところまで来た


でも、帰るつもりは変わらない


深く来たからこそ、戻る


戻るために、明日も無理をしない


火と風の魔法ができた喜びを胸の中に残したまま、


俺は次の警戒まで身体を休めることにした

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