一瞬だけ、ひとつ
第79回 一瞬だけ、ひとつ
火と風を混ぜて壊してから、何日かが過ぎた
その間、俺は第二水場と岩陰拠点で低出力の実験を続けていた
もちろん一人ではやっていない
ミラに記録を頼み、危ない変化が出たらすぐ止める
エナにも何度か確認された
出力を上げていないか
手や顔を火傷していないか
魔力を使いすぎていないか
最初は少し面倒だと思ったけれど、火と風が一緒に跳ねた時のことを思い出せば仕方ない
あれが実戦用の出力だったら、焦げた土を見るだけでは済まなかったかもしれない
数日試して分かったことは、思ったほど多くない
火を先に完成させる
その周囲へ風を置く
これはできる
《並列制御》で二つを別々に維持すればいい
火槍の外側を風が流れる
同時に撃つこともできる
でも二つだ
次に、火を作ったあとで風の経路を内側へ入れる
これは失敗する
浅く触れれば風が乱れる
深く入れれば火が歪む
さらに入れれば、どちらかが消えるか両方が崩れる
逆に風を先にしても似たようなものだった
火を入れた瞬間、風の形が崩れる
何度やっても、
火を完成させる
風を足す
という順番ではうまくいかなかった
それでも、前より失敗の理由は見えるようになっている
完成した魔法へ別の経路を後から入れようとすると、最初の魔法がすでに使っている構造を崩す
たぶんそうだ
たぶん、としか言えない
マギアコードの資料に書かれている言葉も、まだ完全には読めない
配置
順序
役割
一つの構造
短い言葉なら、自分でも少しずつ意味を拾えるようになってきた
でも、文章が長くなるとミラが必要だ
古い表現が混じれば、ほとんど分からない
だから俺一人で勝手に意味を決めないようにしている
今日はその研究道具を空間収納へ入れ、再びガルディアに来ていた
遊びに来たわけではない
中層探索の続きだ
「紙、多くない?」
出発前、ルッカが収納へ入れる紙を見ながら言った
「前より少ない」
「前も少ないって言ってた」
「今回は本当に必要な分だけ」
「全部必要?」
「……半分くらい」
ミラが横から手を出した
「置いていく分、渡して」
「まだ選んでない」
「今選んで」
結局、かなり減らされた
研究資料を持って迷宮へ入っても、歩きながら全部読むわけじゃない
必要なのは、自分で書いた比較用の記録と、マギアコード資料の一部だけ
それ以外は帰ってから見ればいい
ダリオが全員の準備を確認する
前の探索と同じ六人
俺
ルッカ
エナ
ダリオ
ローデン
ミラ
ローデンの腕はもう普通に使える
ダリオの肩も問題ない
それでもエナは出発前に一度動きを確認していた
「痛みは?」
「ない」
「強く動かした時は?」
「問題ない」
「ローデンは?」
「こっちもない」
「ならいい」
今度は俺を見る
「俺は怪我してない」
「魔法の方」
「低出力でしか研究してない」
「昨日は?」
「低出力」
「一昨日は?」
「低出力」
「今日は迷宮の中で研究する?」
俺は少しだけ迷った
「安全な場所があれば」
エナが何も言わない
その沈黙が怖い
「戦闘中にはしない」
「疲れてる時もやらない」
「分かった」
「危ない変化が出たら一回で止める」
「分かった」
条件は多い
でも全部正しい
出発する
大迷宮入口までの道はもう何度も通った
それでもルッカは痕跡を確認する
俺も《魔力探査》を使う
森の中では中層ほど背景魔力に邪魔されない
遠くの反応も比較的拾いやすい
大迷宮へ入り、浅層を進む
最初の頃に時間を掛けていた場所を、今は必要な確認だけで抜ける
知っている魔物が出ても、長い戦闘にはならない
中層入口へ着いた頃には、もう初めて来た場所という感覚は薄くなっていた
ここから先が問題だ
中層へ入る
これまでに確認した経路を使う
高低差
分岐
崩れた通路
空いていた縄張り
《晶殻巨蜥》と戦った地点
全部をもう一度細かく調べるわけではない
ただ、変化がないかは見る
「跡ある」
ルッカが途中で止まった
地面を見る
「新しい?」
「少し」
「どっち向き?」
ルッカは浅い方を指した
まただ
奥側から浅い側へ向かう痕跡
ただし一つ
これだけで何かが増えたとは言えない
ミラが記録する
「昨日までと同じ種類?」
「たぶん違う」
ルッカが言う
「大きくない」
「追わない」
ダリオがすぐ決める
俺たちの目的は追跡ではない
経路を進む
中層へ入るほど、周囲の魔力が濃く感じられる場所が増えた
前の探索でもそうだった
ただ、ずっと濃くなり続けるわけではない
ある通路では強い
曲がった先では弱い
さらに下るとまた強い
一様じゃない
「ここ、前より強い?」
ミラが聞く
「前に通ってないから比べられない」
「浅層よりは?」
「濃く感じる」
それ以上は言わない
奥へ進めば必ず濃くなる
そう決まったわけではない
俺たちが選んだ道で、濃く感じる場所が増えているだけだ
原因も分からない
魔物の移動と関係しているかも分からない
それでも、記録は残す
少し先で《魔力探査》に複数の反応が入った
「前、四つ」
ダリオが速度を落とす
「距離」
「まだ少しある、こっち向いてる」
ルッカが地面を見る
「よく通ってる道」
「避けられる?」
ルッカが横の通路を確認する
ローデンも見る
「横は足場悪い」
床が途中で割れている
行けないことはないが、戦闘を避けるために危険な足場へ移る意味はない
「ここで受ける」
ダリオが決めた
隊列を整える
反応が近付く
姿が見える
中層で何度か見た魔物
四体
特別な強敵ではない
でも狭い通路で四体同時なら、雑にやれば危ない
「左二つ、俺とローデン」
ダリオが言う
「ルッカ、右を散らせ」
「うん」
「セイジ、正面」
「分かった」
魔力を集める
《火槍》
普通のもの
高密度化は使わない
必要がない
一体目へ撃つ
命中
倒れる
二体目が前へ出る
《風刃》
短く
隣の相手まで広げない
撃つ
脚へ当たる
動きが止まる
そこへルッカが横から入り、向きを変えさせる
ダリオとローデン側も一体を処理している
残り一体
俺へ来る
《水槍》
撃つ
相手が身体を振る
外れる
もう一度
今度は少し速く
当たる
倒れた
戦闘は短かった
「怪我」
エナが確認する
全員問題ない
俺も探査を広げる
追加反応なし
「進む」
ダリオが言う
俺たちは先へ進んだ
戦闘を重ねたからといって、すぐSTATUSを見ることはしない
確認するなら安全なところでいい
中層の既知範囲を抜ける
ここから先は、前より見ていない場所が増える
道はまた下へ向かった
途中で一度大きく曲がる
その先は、壁の形が変わっていた
自然な岩肌の中に、平らな面が長く続く
「また人工っぽいな」
俺が言う
ローデンが近付く
壁を触る
「平らすぎる」
「作った?」
「そう見える」
「確定?」
「しない」
いつもの答え
ミラも記録するだけだ
少し進むと、その平らな壁が突然終わり、自然な洞窟へ戻る
迷宮がどうできたのか
誰かが作ったのか
何かが後から削ったのか
答えはない
さらに進む
上り
分岐
狭い道
広い場所
今日は前の探索より疲れが出るのが遅い
慣れたからかもしれない
LEVELが上がった影響かもしれない
経路選択が上手くなったからかもしれない
どれかは分からない
「止まって」
ルッカの声
全員が止まる
「何?」
「前、匂い多い」
俺も探査する
反応
三つ
その奥にも一つ
さらに遠くに別のもの
「いる」
ダリオが聞く
「避ける道」
ルッカが左を見る
ローデンも確認
「こっちは通れる」
俺たちは戦闘を避けた
何でも倒して進む必要はない
経路を広げることが目的だ
別の道へ入る
この道は魔力が少し濃い
《魔力探査》の遠距離反応が曖昧になる
「近く優先する」
俺が全員へ言う
「遠いのは?」
ダリオが聞く
「今は信用しすぎない方がいい」
「分かった」
ルッカの痕跡判断と合わせる
進む
しばらくして、小さな広場のような場所へ出た
入口が二つ
奥側の天井は高い
床は比較的平ら
壁にも大きな割れはない
ローデンが一周見る
「短く休むなら使える」
ダリオが頷く
「ここで休憩」
エナも全員を見る
「ちょうどいい」
俺たちは座った
食料と水を少し取る
今日は大きな戦闘はない
魔力も十分残っている
頭も重くない
「研究する顔してる」
エナが言った
「まだ何も言ってない」
「する?」
「少し」
「条件覚えてる?」
「低出力、安全確認、疲れてる時はやらない、変な反応が出たら止める」
「よくできました」
褒められた気がしない
ダリオが周囲を見る
「ここなら短時間ならいい、ただし警戒は残す」
「俺も見る」
ルッカが入口側へ移動する
ローデンは研究に使う位置を確認した
「奥側でやれ、入口方向へ撃つな」
「分かった」
ミラが紙を準備する
「今日は何を変える?」
「順番」
「昨日までと同じ?」
「火を先にして風を後からは、たぶんもう無理」
数日続けても安定しない
完成した《火槍》へ風を入れると壊れる
なら、完成させてから足すのをやめる
「最初から両方作る」
ミラが顔を上げる
「同時?」
「ああ」
「前にも同時に作ろうとして不安定だったよ」
「その時は別々に完成させようとしてた」
火の経路
風の経路
それぞれを作る
同時に
でも出口は別
結局、二つの魔法を同時に始めようとしていただけだった
今日は違う
出口を一つにする
「出口?」
ルッカが聞こえたらしく振り返った
「魔法を出す場所」
「同じところから?」
「ああ」
「火と風、ぶつからない?」
「そこを試す」
「また壊れる?」
「可能性はある」
ルッカがエナを見る
「低出力」
俺が先に言った
エナは何も言わず頷いた
研究開始
まず比較
低出力の《火槍》
短い
細い
撃たない
その横に弱い風の流れを作る
二つ
これは簡単だ
次に消す
もう一度
今度は火の経路と風の経路を同時に用意する
完全に発動する前
まだ魔法になる直前
火
風
二本
ここまではできる
問題は出口
いつもなら火は火として前へ
風は風として別へ
それを同じ一点へ向ける
「近い」
ミラが小さく言う
俺にはもっとはっきり分かる
二本の経路が近付く
火側が揺れる
風側も乱れる
「まだ別」
俺は呟く
出口だけ同じでも、その手前で別々なら二本だ
もう少し近付ける
風が消えた
「失敗」
解除
記録
二回目
火と風を同時に用意
今回は風を少し弱くする
一つの出口
近付ける
火の方が風を押し潰す
失敗
三回目
風を少し強く
火が歪む
失敗
「結局同じ?」
ミラが聞く
「似てるけど違う」
前は完成した火へ風を入れていた
今は完成前から両方を並べている
壊れ方は似ている
でも、干渉する場所が違う
「役割がないからかな」
俺は資料を思い出す
火と風を一つへ
ただし、何をさせるのか決めていない
「火は槍」
ミラが言う
「風は?」
「今は……一緒に前へ行くだけ」
「それって役割?」
「弱いな」
風に何をさせるか
切る
押す
速くする
形を保つ
いろいろある
でも今日は一つにすること自体を見たい
効果まで増やすと、また何が原因か分からなくなる
「風は経路だけ」
俺が言う
「どういう意味?」
「《風刃》にも《風圧》にも完成させない」
風属性の魔力経路だけ用意する
火も同じ
《火槍》を完全に完成させる前
火属性の経路だけ
その二つを同じ出口へ
魔法になる直前に合わせる
「それできる?」
「やってみる」
四回目
火の経路
風の経路
属性だけ違う
形はまだ完全に決めない
流れ
同じ方向
出口
一つ
近付ける
今回はすぐ壊れない
「残ってる」
ミラが言う
俺は返事をしない
集中する
火
風
別々
でも近い
一つの出口
ここから形を決める
細長い
槍に近い
火だけなら《火槍》
でも風もいる
形を保つ
《精密魔力制御》
二本を同時に見る
《並列制御》
火が強くなる
風が外へ逃げる
「駄目」
解除
五回目
同じ
今度は風を先に外側へ逃がさない
火と風の流れを同じ速さに近付ける
出口
一つ
形
細長い
途中で火が消える
失敗
六回目
両方崩れる
休憩
「難しい」
俺は水を飲む
「知ってた」
ルッカが言う
「やってるともっと難しい」
「火と風、仲悪い?」
「そういう話じゃないと思う」
「でも一緒にすると壊れる」
「俺のやり方が悪い」
属性同士に相性があるのかもしれない
そこは知らない
でも今の失敗を全部、火と風が合わないからで片付けるのは早い
俺が接続方法を分かっていない可能性の方が高い
ミラが紙を見せる
「成功してる部分もあるよ」
「どこ?」
「前より長く二本を近い状態で維持できてる」
確かにそうだ
前の実験では近付けた瞬間に壊れることが多かった
今日は完成前から用意することで、接触寸前の状態を少し長く保てている
一つにはなっていない
でも近付いた
「もう少しやる」
エナを見る
「疲れは?」
「大丈夫」
「頭」
「問題ない」
「手」
震えていない
「なら少しだけ」
再開
七回目
火
風
同時
出口一つ
形を決める前に、二本の流れをそろえる
失敗
八回目
密度差を減らす
失敗
九回目
火を少し弱く
風も弱く
さらに低出力
出口を広くしない
一点
二つの経路がそこへ向かう
「……近い」
感覚が変わる
前までは、
火
風
と二つを意識していた
今は二つが一つの場所へ重なっている
でもまだ別だ
重なっているだけ
もっと近付ける
壊れない
一瞬
本当に一瞬だけだった
火と風を別々に見ていた感覚が消えた
「え」
自分でも声が出た
二本ではない
一つ
細長い形
火だけでもない
風だけでもない
その状態のまま、
出た
俺の手元から、細い何かが前へ走る
赤い火の周囲に風がある、という見え方ではない
炎そのものが細く捻られたようにも見える
でも《火槍》とも違う
速い
ただし弱い
数歩先の地面へ当たり、土を少し削って消えた
威力は普通の《火槍》よりずっと低い
それでも俺は地面ではなく、自分の手を見ていた
「今」
ミラが立ち上がる
「何だった?」
「……一つだった」
「火と風?」
「分からない」
言い方がおかしい
火と風を使ったのは分かっている
でも射出の瞬間、二つを別々に維持している感覚が消えた
一つの細長い魔法
そう感じた
ルッカが地面の跡を見る
「火槍と違う」
「違うな」
「風刃?」
「それとも違う」
「じゃあ新しい魔法?」
「まだ違う」
即答する
一回だけだ
しかも威力は低い
どうやって成功したかも完全には説明できない
「もう一回」
俺はすぐ手を上げる
エナが何か言う前に、
「同じ低出力」
と付け加える
ミラが紙を持つ
「今何変えた?」
「火と風の強さを両方落とした、出口を一つ、流れの速さを近付けて……」
他にもある
形を決めるタイミング
経路を重ねる位置
維持の強さ
細かい違い
全部を正確に覚えている自信がない
だから今すぐ再現したい
火
風
同時
出口
一つ
流れ
そろえる
近付ける
「……違う」
風が消えた
失敗
もう一度
火が歪む
失敗
三回目
両方維持できる
出口へ向ける
二本のまま放出された
火と風が別々に飛ぶ
失敗
「さっきと違う」
ルッカが言う
「分かってる」
「怒ってる?」
「自分に」
「じゃあ休んだ方がいい」
これも正しい
俺は手を下ろした
成功した
と思った瞬間があった
でも再現できない
それなら、成功と呼ぶには早い
「一回だけだった」
ミラが言う
「ああ」
「でも、起きたこと自体は記録するよ」
「頼む」
一瞬だけ
火と風を別々に感じなかった
一つの出口
一つの細長い形
一つの射出
ただし、そのあと同じことはできない
これを複合魔法成立とは呼べない
偶然に近い
何かの条件がたまたまそろっただけだ
「マギアコードの、一つの構造って」
ミラが資料を見る
俺もその言葉を思い出す
一つの構造
今までは文字だった
説明としては分かる
二つではなく一つ
でも、さっき初めて少しだけ体感した
《火槍》と《風圧》を同時に出す時とは違う
二つを同時に維持する感覚がない
一つの魔法の中に、火と風がある
ほんの一瞬だけ
「こういうことなのか?」
俺が言う
ミラは首を傾げる
「資料が言ってるのと完全に同じかは分からない」
「そうだよな」
まだ決めない
でも、前より言葉の意味が分かった気がする
休憩を長めに取ったあと、探索を再開した
研究だけで一日を終えるわけではない
ここは大迷宮中層だ
安全地点を広げ、次の経路を確認する必要がある
さっきまでの研究場所を片付ける
焦げ跡
削れた土
異常なし
ローデンが周囲をもう一度見る
「崩れもない」
ダリオが先を指す
「次はあっち」
俺たちは進む
中層の道はまた複雑になった
一度下り、その先で二つに分かれる
左は狭い
右は広い
ルッカが両方を見る
右に多くの足跡
左は少ない
ローデンは左の足場を確認する
「通れる」
俺の《魔力探査》では右奥に複数反応
左には近く大きなものはない
左を選ぶ
少し進む
魔力が濃い
前の安全地点より強く感じる
さらに進むと少し薄くなる
また先で濃くなる
「増えてる?」
ミラが聞く
「濃い場所は増えてる気がする」
「奥だから?」
「分からない」
通っている経路が違う
高さも違う
壁も違う
奥へ行くほど必ず強いとは言えない
ただ、今回新しく進んだ場所では、強く感じる場所が多い
それだけ記録する
その先で通常魔物二体と遭遇した
戦闘は短い
一体をダリオたちが抑え、俺が《火槍》で一体を倒す
残りもすぐ処理する
さっきの火+風は使わない
再現できない魔法を実戦へ持ち込むつもりはない
安全確認後に進む
さらに一度戦闘
今度は三体
《風刃》と《水槍》を使う
高密度化も必要ない
問題なく突破する
「研究したやつ、使わないの?」
戦闘後、ルッカが聞いた
「使えない」
「一回できたのに?」
「一回しかできてないから」
「またできるかも」
「できないかもしれない」
戦闘中の一回は重い
失敗したら仲間が危ない
研究なら消してやり直せる
そこは分ける
午後になる頃、探索範囲は少し広がっていた
これまで知らなかった分岐
短い上り
崩れた横道
水がわずかに染み出している壁
魔力が強く感じられる小さな空間
全部を記録する
「そろそろ休む」
エナが言った
今日は研究もしている
戦闘もある
歩いている時間も長い
俺自身はまだ動けると思う
でも、他の全員が同じとは限らない
ダリオも周囲を見た
「次に安全な場所があれば止める」
少し先で、条件に合う場所が見つかった
通路から少し奥へ入った窪み
入口は狭いが、内側には六人が座れる
別の出口はない
床は少し傾いているものの、大きな亀裂はない
ローデンが壁と天井を確認する
「使える」
ルッカが周辺を見る
「新しい足跡少ない」
俺も探査する
近距離に大きな反応なし
ダリオが決める
「ここで終わり」
荷物を置く
今日はここで休む
食事の前に、俺はSTATUSを確認した
戦闘は複数あった
自分でも討伐している
前に確認した時は23
今はどうなっているか
NAME
セイジ
RACE
ハイホブゴブリンメイジ
LEVEL
24
HP B-
MP A-
筋力 C
耐久 C+
敏捷 B-
器用 B+
精神 B-
魔力 A-
SKILL
《魔力探査》
《精密魔力制御》
《高密度魔力圧縮》
《並列制御》
TITLE
なし
「24」
ルッカが当然のように覗く
「一つ上がった」
「ああ」
能力も見る
器用
BからB+
他は変わっていない
「器用って?」
ルッカが聞く
「細かく扱うのが上手くなるとか、そういう感じだと思う」
「魔法も?」
「関係あるかもしれないけど、分からない」
STATUSの能力が何へどこまで影響するのか、全部知っているわけではない
今日の一瞬の一体化が器用上昇のおかげだったとも言えない
そもそもSTATUSを確認したのは今だ
いつ上がったのかも分からない
「SKILLは?」
ミラが聞く
「変化なし」
《魔力探査》
《精密魔力制御》
《高密度魔力圧縮》
《並列制御》
そのまま
「新しい魔法は表示されない?」
「そもそも魔法はSTATUSに一覧で出してないからな」
「そうだった」
ミラが笑う
俺はSTATUSを閉じた
LEVEL24
器用B+
それは正式に確認できた
でも今、一番気になるのはそこじゃない
昼の一回
火と風が一つになったように感じた瞬間
食事を済ませたあと、ミラと記録を見直す
「最初から順番に」
「また?」
「成功したところだけ見ても分からない」
前の実験からの失敗
火完成後に風
失敗
風完成後に火
失敗
二つを別々に完成させながら同時発動
二本のまま
今日
完成前から火経路と風経路を用意
一つの出口へ向ける
複数回失敗
そのうち一回だけ、一つに近い状態
「何が違った?」
ミラが聞く
「出力は低かった」
「他の失敗も低い」
「火と風の強さが近かった」
「前にも近い時あった」
「流れの速さ」
「それも合わせてた」
一つずつ消えていく
「形を決めるタイミング?」
俺が言う
「成功した時は?」
「出口に近付くまで形を決めきってなかった」
「他は?」
俺は紙を見る
完全には覚えていない
記録も、俺が感じた全部を残せているわけじゃない
「一回だけ条件が合ったんだろうな」
「それを見つける?」
「ああ」
でも問題がある
同時にやっていることが多すぎる
火経路を作る
風経路を作る
二つを維持
強さを合わせる
流れを合わせる
一つの出口へ向ける
形を作る
射出する
全部を同時に見ている
どこか一つに集中すると、別のところが崩れる
「《並列制御》で二つを見るだけじゃ足りない」
俺が言う
「火と風?」
「それだけじゃない」
火と風を二つとして見るならできる
でも一つにするには、
火
風
接続する位置
共通の形
出口
少なくとも、二つ以上の処理を同時に維持しなければならない
一瞬成功した時は、それがたまたま全部そろった
でも意識して再現できない
「処理が多すぎる?」
ミラが聞く
「たぶん」
《並列制御》は二つを扱うのに便利だ
でも俺は今、二つの魔法を同時に使いたいわけじゃない
複数の処理を同時に保ちながら、一つへまとめたい
似ているようで違う
「明日またやる?」
ルッカが聞く
「安全なら」
エナがこちらを見る
「朝起きて疲れが残ってなかったら」
「分かってる」
「今日みたいに成功したからって回数増やさない」
「今日は止めただろ」
「珍しく」
「珍しくは余計だ」
夜の警戒順を決める
俺の番は少し後だ
それまでは休む
横になる前、もう一度だけ紙を見る
一瞬だけ
ひとつ
再現できない
だからまだ何も完成していない
複合魔法とも呼ばない
名前もない
威力も弱い
実戦では使えない
それでも、ゼロではなくなった
火と風を同じ場所へ近付ければ壊れる
そこから一歩進んだ
条件がそろえば、一瞬だけ別々でなくなる
それは確認できた
「嬉しい?」
ルッカが聞いた
「かなり」
「できてないのに?」
「一回できたから」
「でも次できなかった」
「だから次もやる」
「やっぱり楽しそう」
「難しいけどな」
ルッカは笑って寝床代わりの布へ入った
俺も横になる
迷宮の中だから、岩陰拠点ほど落ち着かない
それでも、六人いる
帰る道も確認してある
無理なら戻れる
だから試せる
だから先へ進める
目を閉じる
頭の中で火と風を思い出す
二つの経路
一つの出口
一瞬だけ消えた境目
あの時の感覚
火を見ながら風を見る
風を見ながら形を見る
形を見ながら出口を見る
全部を同時に保つ
そこが次の壁らしい
火と風をどうつなぐかだけじゃない
つなぐまでに必要なものを、同時に落とさず持っていられるか
俺はその考えを最後に、身体を休めることへ意識を切り替えた
明日になれば、また試せる
一瞬だけだったものを、
もう一度、一瞬だけでも
自分で起こせるか確かめるために




