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暗闇なら、消せばいい

第70回 暗闇なら、消せばいい


翌朝、目を覚ましたとき、最初に見たのは裂け目だった


正確には、木々の向こうに開いた黒い入口


昨日はあの中へ入り、ミレア大迷宮の浅層を少しだけ調べた


そして今朝になっても、見た目は何も変わっていない


ただ地面が割れて


その先が暗い


それだけなのに


中に何があるか知ってしまったせいで、昨日までとは見え方が違った


「起きた?」


エナの声に振り向く


「起きた」


「身体は?」


「大丈夫、魔力も戻ってると思う」


昨日は《風刃》を何度も使った


LEVELも十二から十四になった


それでも朝になれば、身体の重さはほとんど残っていない


少し離れたところでは、人間側の探索者たちが今日持ち込む荷物を確認していた


縄


記録用の紙


小さな工具


灯り


その灯りを見て、昨日の最後に聞いた話を思い出す


地下では暗すぎて、人間側は何も見えない


だから照明が必要


でも


暗い場所で光を使えば目立つ


「今日はそこ見るんだよな」


俺が言うと、ダリオが近くから答えた


「ああ、昨日より進むことが目的じゃない」


「灯りの使い方?」


「それも含む、昨日の範囲をもう一度確認する」


昨日は初めて入った


魔物が出た


戦った


《風刃》まで作った


そのせいで


通路


壁


分岐


危険な場所


灯りがどこから見えるか


そこまで細かく確認する余裕はなかった


今日は同じ浅層を中心に


移動の安全性を見直す


「奥の強いやつは?」


俺が聞く


「触らない」


「まだ何も言ってない」


「聞く時点で顔に出てる」


最近みんな顔で判断しすぎだと思う


でも反論しても勝てないので諦めた


準備が終わる


裂け目へ入る前に、ルッカが周辺の匂いと足跡を確認する


新しく近づいた大型魔物の跡はない


俺も《魔力探査》


入口付近


小さい反応がいくつか


昨日ほど多くない


もっと奥には反応がある


でも、昨日感じた大きな反応は今の範囲では拾えない


「いない?」


ルッカが聞く


「昨日の大きいやつなら、今は分からない」


「奥?」


「たぶん、でも移動した可能性もある」


見えないからといって消えたわけじゃない


そこは気を付ける


俺たちは昨日と同じように順番に裂け目へ入った


地上の光が背後へ遠ざかる


岩


土


湿った空気


少しずつ暗くなる


最初は入口からの光が届く


そのうち足元が見えにくくなる


人間側の探索者が灯りを点けた


昨日も使っていた魔道具だ


小さな石のような部分から白っぽい光が出る


松明より煙がない


便利そうだ


「これ欲しい」


俺が言う


ミラが答える


「あとで店を見ますか?」


「見たい」


「帰ってからですよ」


「分かってる」


光があるだけで歩きやすさが全然違う


ローデンが床を確認する


ルッカは壁際の匂いを見る


俺は探査


昨日通った場所を順番に進む


最初の分岐


昨日魔物が出たところ


風刃を試した通路


壁に傷が残っていた


「これ俺?」


薄く削れた跡


人間側の探索者が見る


「昨日外した風のやつだろう」


「やっぱり」


思っていたより切れている


生き物に当たれば十分危険


壁へ当ててもこれ


狭い場所では本当に狙いを外せない


「もう少し精度上げたいな」


「今日は研究しに来たんじゃないぞ」


ダリオ


「見ただけ」


「今から撃つ顔だった」


何で分かるんだ


さらに進む


昨日戦った場所には魔物の痕跡が残っている


血


爪痕


床の傷


人間側が記録する


その先


昨日より灯りを弱くしてみる


「それで見える?」


俺が聞く


「歩けるが、細かいものは見落とす」


探索者の一人が答える


完全に消せばもっと危険


昨日みたいな床の亀裂があれば踏む


壁の崩れも見えない


魔物がいれば気付くのが遅れる


俺の《魔力探査》なら生き物の反応は拾える


でも地面の穴は拾えない


罠があったとしても分からない


結局


人間側には灯りがいる


しばらく問題なく進んだ


俺は時々後ろを見る


光


かなり遠くまで見える


通路が曲がれば隠れる


でも直線なら


暗闇の中に白い光が浮かんでいるのがはっきり分かる


「これ、敵からも見えるよな」


「だから困る」


人間側の探索者が答える


「匂いとか音より?」


ルッカが言う


「相手次第だ、目がいいやつなら光が一番早い」


なるほど


俺たちが魔物を探すために灯りを持っているのに


その灯りで


向こうにも


ここにいます


と教えている


面倒だ


少し広い空間へ出る


昨日も通った場所


天井が高い


右に天然の岩壁


左には人工的に削られたような平らな面


中央に少し広い道


そこで一度止まる


ローデンが昨日見つけた亀裂を確認する


変化なし


俺は探査を広げる


前方


反応なし


右奥


小さいものが一つ


さらに遠く


二つ


「今のところ大丈夫そう」


そう言った直後


ルッカが顔を上げた


「音」


「どっち?」


「後ろじゃない、前」


探査


さっき遠かった二つ


近づいている


さらに


別の反応


一つ


二つ


増えた


「来る」


人間側が灯りを少し絞る


でも消さない


近づく


反応が増える


「昨日より多い」


「何体だ」


ダリオ


「今分かるだけで……六、いや七くらい」


まだ増える


おかしい


昨日ここまでまとまっていなかった


ルッカが鼻を動かす


「こっち見てる」


「匂い?」


「違う」


「何が」


ルッカが灯りを指した


「あれ」


その直後


暗い通路の先で何かが動いた


目


光を反射する


一つ


二つ


三つ


「灯りか」


誰かが言う


魔物が出てくる


昨日見た小型の種類


別の細身の種類


また混ざっている


群れではない


それでも


光の方向へ集まってきている


「下がるぞ」


ダリオの指示


俺たちは来た道へ少し戻る


魔物も来る


「灯り消す?」


俺が聞く


「今消したら足元見えん!」


その通り


俺なら探査で魔物の位置だけはある程度分かる


ルッカも暗闇に強い


でも人間側はそうじゃない


ローデンだって壁や床を見られなくなる


完全に暗くするのは危険


なら


「光を隠せない?」


口から出た


ミラが俺を見る


「隠す?」


「灯りは俺たちに必要、でも向こうから見えなければいい」


言ってから


自分で考える


板を置く?


壁?


《土壁》で光を遮る?


でも通路を塞げば自分たちも動けない


持ち運べない


光を小さくすれば足元が見えない


「光だけ……」


魔法


光属性


俺は《治癒》を使える


でも


治癒を光と呼んでいいのか、今まで深く考えたことはない


属性としては光


なら


闇


俺には全属性への適性がある


最初からそうだった


火


光


水


風


土


今は五つを実際に使える


残っているのは闇


何度か試したことはある


黒い弾


黒い炎


影みたいな攻撃


何となく


闇属性なら黒い攻撃だろう


そんな雑な考え方をして


何も起きなかった


「攻撃じゃないのか」


「何が?」


ダリオが聞く


「闇」


「今考えることか?」


「たぶん今だから」


魔物が近い


時間はない


でも


今までより考える材料はある


ガルディアで知った


形


密度


速度


流れ


魔力経路


属性だけ見ていても駄目


火なら燃やす


水なら濡らす


風なら押す


土なら固める


それだけじゃない


形を変える


働きを変える


闇も


黒い何かを出す


じゃないのかもしれない


光の反対


明るくするのと反対


「暗くする?」


小さく呟く


光を消す


いや


灯りそのものを消したら人間側も見えない


必要なのは


俺たちの周囲の光は残す


敵の方向には届きにくくする


「セイジ!」


前


一体飛び出す


考えるのを止める


《水槍》


撃つ


命中


倒れる


二体目


人間側の槍


三体目


《風刃》


切る


でも奥からまだ来る


「一度下がれ!」


ダリオ


広い場所から細い通路側へ戻る


その途中で一人が足元の石に躓いた


エナが支える


「だから灯り消せないんだよな」


俺は自分に言う


全部消すんじゃない


弱める


届かなくする


光を


途中で止めるような


布


幕


カーテン


「幕……」


魔力を集める


何属性か


自分でも分からない感覚


火ではない


水でもない


風でも土でも光でもない


今まで触ろうとしても


何も掴めなかった部分


暗い


ではなく


光が少ない


そこへ意識を向ける


手を前へ出す


何も起きない


「……駄目か」


一回目


失敗


魔物はまだ来る


《風圧》


まとめて押し返す


時間を作る


もう一度


今度は


闇を作る


と考えない


目の前の光を減らす


灯りから出た光が


あの通路まで届く量を減らす


魔力を広げる


薄く


面


火槍みたいに狭くしない


土壁みたいに固めない


風圧みたいに押さない


ただ


そこにある光を弱くする


「……あ」


目の前の空間が


少し暗くなった


本当に少し


灯りはついたまま


でも、その先だけ薄暗い


「今、何した?」


ミラの声


「分からない、もう一回」


維持しようとすると


すぐ戻る


でも


できた


何も起きなかったわけじゃない


「暗くなった」


ルッカが言う


「見えた?」


「ああ」


「俺も」


闇


たぶんこれだ


黒い攻撃じゃない


光を減らす


届きにくくする


魔物がもう一度近づく


今度は少し大きく


俺たちと敵の間


そこへ面を作る


光が通る


それを


弱める


《魔力制御》


範囲を決める


広すぎると俺たちまで見えなくなる


狭すぎれば敵から見える


通路いっぱい


高さ


幅


薄い壁みたいに


でも物理的な壁じゃない


魔力を流す


空間が暗くなる


さっきより明確


灯りは俺たちの後ろで点いている


足元も見える


でも


数歩先から先が


暗い膜を張ったように見えにくい


「これ……」


完全な黒ではない


向こう側も少し見える


でも輪郭が崩れる


距離も分かりにくい


「セイジ、中見える?」


ダリオ


「見にくい」


「こっちもか」


そうか


俺たちだけ一方的に見えるわけじゃない


暗くした範囲に入れば


味方も見えにくくなる


万能じゃない


でも


敵からも見えにくいなら


使える


「灯り少し横へ」


人間側へ言う


位置を変える


暗い範囲もずらす


魔物の動きが鈍った


さっきまで一直線に来ていたものが


通路の手前で止まる


「見失った?」


ルッカが言う


「たぶん」


魔物が匂いや音を使うなら完全には隠れられない


でも


少なくとも光を目印に突っ込んでくる勢いは止まった


「名前」


急にルッカが言う


「今?」


「ああ」


考える


暗い壁


闇の幕


「《暗幕》」


その名前を意識した瞬間


魔法の形が少し安定した


一定範囲


光を弱める


視界を悪くする


完全に消すわけではない


攻撃もしない


ただ


見えにくくする


「《暗幕》」


もう一度使う


今度はさっきより早い


通路の途中に暗い領域が広がる


「位置変えるぞ!」


ダリオがすぐ使い方を決めた


「右側へ寄れ、灯りは低く!」


人間側が動く


《暗幕》の後ろで位置を変える


敵から見れば


さっきまで光があった場所が急に見えにくくなり


その間に俺たちの位置がずれる


「なるほど」


自分で作った魔法なのに


ダリオの方が使い方を考えるのが早い


「セイジ、維持できるか」


「できる、でも長いと疲れる」


「十分だ」


魔物が暗幕へ入ってくる


輪郭


反応


《魔力探査》なら分かる


「一体入った!」


俺には位置が分かる


でも人間側は見えにくい


なら


俺が処理する


《並列制御》


暗幕を維持


別に《水槍》


難しい


暗幕の範囲が揺れる


でも消さない


反応へ照準


撃つ


命中


一体倒れる


「次、左!」


ダリオ


もう一つ反応


暗幕の中へ入る


今度はダリオが近づく


「見えないぞ」


「もう少し右、近い!」


「今!」


俺が暗幕を少し薄くする


輪郭が出る


ダリオが斬る


倒れる


「戻せ!」


また濃くする


忙しい


攻撃力はない


でも


戦い方そのものを変えられる


敵の視線を切る


その間に移動する


負傷者を下げる


狙われている場所を変える


「これ、便利だな」


「集中しろ!」


「してる!」


奥から群体が来る


今度は十近い反応


灯りへ向かっている


俺たちはさっきより広い場所にいる


「暗幕、前!」


ダリオ


「分かった!」


幅を広げる


暗い領域


魔物の正面


足元すべてを真っ暗にはしない


でも遠くからこちらの光が見えにくい程度まで落とす


魔物の速度が鈍る


散る


一部は横へ動く


「右から三!」


ルッカ


「探査でも三!」


人間側が右へ備える


俺は暗幕維持


同時に水槍


一体


次


《風刃》


二体目


人間側が三体目


正面から来たものは


暗幕へ入った瞬間に位置を見失う


互いにぶつかる個体までいる


「今!」


ダリオの合図


俺は暗幕を一部だけ薄くする


人間側の弓が飛ぶ


二体


倒れる


また濃くする


別の個体が回り込む


ルッカが知らせる


エナとミラの位置を後ろへ移す


暗幕を横へずらす


「動かせる!」


ただ置くだけじゃない


維持したまま少し位置を変えられる


その分


負荷は増える


《並列制御》がなければ


これを保ちながら攻撃するのはかなり難しかったと思う


それでも頭が重い


「セイジ、大丈夫?」


エナ


「まだいける!」


「まだ、は危ない」


「終わったら休む!」


敵が来る


風刃


一体


水槍


一体


近くへ入った個体はダリオと人間側が処理


一体が暗幕の端から飛び出す


灯りが見えた瞬間


進路を変えて人間側へ走る


「そこ!」


《土壁》


地面から低い壁を出す


魔物がぶつかる


倒れる


槍が入る


土壁を長く残す必要はない


進路を一瞬止めるだけ


「使い方増えたな」


俺が言う


「だから喋るな!」


ダリオに怒られる


でも本当にそう思う


火弾で倒す


それだけだった頃と全然違う


押す


切る


貫く


遮る


止める


治す


隠す


魔法が増えるたび


できることの種類が増える


そして


全部攻撃魔法じゃなくていい


最後の数体が奥へ離れる


「追うな!」


言われる前に止める


俺も魔法を消す


《暗幕》が薄くなる


灯りが通路の奥まで伸びる


明るい


さっきまで暗くしていたせいで、同じ灯りなのに妙に眩しい


「終わった?」


《魔力探査》


近い反応なし


遠ざかるもの


奥に残るもの


「近くはいない」


ダリオが全員を見る


負傷確認


人間側に軽い切り傷


一人転んで膝を打った


エナが見る


治癒が必要なほどではない


主要六人は無事


「戻る」


ダリオが言う


誰も反対しない


今日は昨日より奥へ進むために来たわけじゃない


照明


視界


浅層の移動


そこを確認する目的は果たした


しかも


新しい問題への対処もできた


帰路


灯りの使い方を変えた


常に強く照らさない


必要な場所だけ


直線の長い通路では光量を落とす


曲がり角や危険箇所では上げる


必要なら《暗幕》を使う


ただし


ずっと維持はしない


「常時使うのは無理だな」


俺が言う


ダリオが頷く


「お前が疲れる」


「それもある」


「中にいるこっちも見にくい」


「そこも」


「魔物全部が視覚頼りとも限らん」


「それも」


欠点いっぱい


でも役に立つ


それでいい


完全無欠の魔法じゃなくていい


使う場所があればいい


ルッカが暗幕を使った場所で壁際を嗅ぐ


「どう?」


「匂いなら分かる」


「やっぱり」


つまり


嗅覚の強い魔物には効果が落ちるかもしれない


音を頼る相手も同じ


敵の種類を見て使い分ける必要がある


「魔法って本当に万能じゃないな」


俺が言う


ミラが返す


「万能だったら冒険者は一人で十分でしょう」


「確かに」


それだ


俺が全部できないから


ルッカがいる


エナがいる


ダリオがいる


ローデンがいる


ミラがいる


人間側の探索者もいる


魔法が増えても


そこは変わらない


入口近くまで戻ったところで


俺は一度立ち止まった


「ちょっと確認する」


STATUS


昨日はLEVEL14


今日も自分で何体か倒した


途中では確認していない


どの個体で変わったのか分からない


見る


NAME セイジ


RACE ハイホブゴブリンメイジ


LEVEL 16


HP C+


MP B


筋力 D+


耐久 C+


敏捷 C+


器用 B-


精神 B-


魔力 B+


SKILL


《魔力探査》


《魔力制御》


《魔力圧縮》


《並列制御》


TITLE


なし


「十六」


また上がった


十四から十六


十五になった瞬間は分からない


能力も変わっている


HP


MP


耐久


精神


魔力


かなり増えた


特に魔力がB+


進化した直後


魔力はCだった


そこからここまで来た


「早いな」


自分でも思う


鉄爪ジャッカル


鎧角オーガ


混成魔物


街道


大迷宮


戦う場所が増え


相手も増えた


その分LEVELも上がっている


でも


SKILLは変わっていない


《魔力探査》


《魔力制御》


《魔力圧縮》


《並列制御》


そのまま


新しく増えたのは魔法だ


《暗幕》


「闇、できた」


改めて口に出す


ルッカが見る


「初めて?」


「ああ」


火


《火弾》《火槍》


水


《水球》《水槍》


風


《風圧》《風刃》


土


《土締め》《土成形》《土壁》


光


《治癒》


そして


闇


《暗幕》


最初から適性だけはあった


でも使えなかった


黒い攻撃を作ろうとしても何も起きなかった


今日ようやく


闇が


攻撃ではなく


光を弱くする方向で形になった


「全部使えるようになったな」


俺が言う


ルッカが首を傾げる


「全部?」


「属性」


指で数える


火


水


風


土


光


闇


「六つ」


「多い?」


「たぶん」


この世界の魔法使い全員がどうなのかは知らない


比較できるほど知識もない


だから


六属性使えるから特別だ


なんて勝手に決めるつもりはない


ただ


自分が最初に見た適性の全部について


実際に使える魔法が一つ以上できた


それは嬉しい


「闇が最後だったな」


「難しかった?」


「考え方が違った」


火なら燃える


水なら水


土なら土


そういう分かりやすさがなかった


でも


ガルディアで魔法を属性だけじゃなく


形


密度


流れ


働き方


そんなふうに見る考えを知った


そのあとだったから


今日の発想が出たのかもしれない


外へ出る


森の光


今日も明るく感じる


臨時調査地点へ戻ると、装備を置き


記録を整理する


ミラと人間側の探索者が


今日の魔物位置


照明への反応


暗幕を使った場所


移動経路


それぞれを書き残していく


「《暗幕》についても書く?」


俺が聞く


ミラが頷く


「書きます」


「攻撃力なし」


「はい」


「完全に真っ暗にはならない」


「はい」


「中にいる俺たちも見にくい」


「重要ですね」


「匂いとか音には効かないかもしれない」


「そこは未確認としておきます」


その言い方がいい


効かない


ではなく


未確認


ルッカの反応を見る限り匂いは残っていた


でも魔物がどう感じるかは別


決めつけない


俺たちも少しずつ


分からないものを分からないまま記録することに慣れてきた


午後


大迷宮へもう一度入ることはしなかった


今日の記録整理


装備確認


魔物が入口付近まで出てこないか


それを優先する


俺は《暗幕》を地上で少しだけ試した


明るい場所では


地下より分かりにくい


完全に夜みたいにはならない


日差しが弱くなる


影が濃くなる


その程度


範囲を広げるほど薄くなる


狭くすれば暗さを強くしやすい


でも


強く暗くしても


完全な無光状態にはならない


「こんな感じか」


攻撃できない


壁にもならない


敵を倒せない


でも


昨日までの俺なら


新しい魔法と言われて最初に攻撃方法を考えていたと思う


今は違う


見つからない


逃げる


位置を変える


人を助ける


そういう魔法も十分強い


「ちょっと分かってきたかも」


「何が?」


ローデンが近くで道具を確認している


「魔法」


「今まで分かってなかった?」


「そういう意味じゃなくて」


説明しようとしてやめる


長くなる


「できることを考えるんじゃなくて、やりたいことに合わせて魔法を変える感じ」


ローデンは少し考える


「道具と同じ」


「道具?」


「穴掘るなら穴掘る形、切るなら切る形」


「……それだ」


鍬で木を切らない


斧で土を耕さない


一つの道具を強くするだけじゃなく


目的に合わせて形が違う


火弾


火槍


風圧


風刃


土壁


暗幕


全部同じだ


「ローデン、たまにすごいこと言うな」


「たまに?」


「あ」


睨まれた


「いつもです」


言い直す


ローデンは鼻を鳴らして作業へ戻った


夕方が近づく


今日はここで終わり


そう思っていた


俺は最後に


入口周辺の魔力反応を確認する


昨日から何度もやっている


近く


小さい反応


問題なし


裂け目内部


浅層


いくつか


昨日と同じ


さらに奥


探査を伸ばす


届く範囲ぎりぎり


そこに


大きな反応


「あ」


全身の力が少し固まった


昨日のやつ


たぶん


同じと断定はできない


でも


浅層の小型魔物とは明らかに違う


大きな魔力反応


「ダリオ」


声の調子で気付いたのか、すぐ来る


「どうした」


「大きい反応」


「昨日のか」


「分からない、でも同じくらい強い」


「位置は?」


集中する


昨日感じたときは


もっと奥


遠かった


今は


「……近い」


「どれくらい」


「正確には言えない、でも昨日より近い」


反応が動く


ゆっくり


止まる


また動く


「どっちへ」


俺は裂け目の向き


今日通った経路


地図


頭の中で重ねる


完全には分からない


魔力探査は地図じゃない


壁の位置も


通路の曲がりも見えない


でも


方向だけなら


「こっち側」


ダリオの顔が変わる


「入口へ?」


「入口って断定はできない、でも浅い側へ近づいてる」


周囲の会話が止まる


人間側の探索者も集まる


ルッカが裂け目を見る


ローデンは地図


ミラが今日の探索経路を開く


「私たちが通った範囲に近づいている可能性は?」


俺はもう一度探る


反応


大きい


昨日の浅層魔物とは比べものにならない


移動している


こちら側へ


「ある」


それだけ答える


ダリオはすぐに決めなかった


入口を閉じることも


逃げることも


倒しに行くことも


まず情報を集める


「今夜は見張りを増やす」


それから俺を見る


「セイジ、探査を使い続けるな」


「でも動き見た方が」


「必要な間隔で確認する、疲れた状態で何か来る方がまずい」


「……分かった」


正しい


今日も戦った


LEVELは上がった


魔力も増えた


でも無限じゃない


俺は裂け目を見る


昼間より暗くなっている


その向こう


大迷宮


昨日


奥へは行かなかった


今日も行かなかった


でも


俺たちが行かなくても


向こうから近づいてくるなら話は変わる


「何が来るんだろうな」


俺が呟く


誰も答えない


答えられない


大きな反応


それだけ


魔物の種類も


強さの細かいところも


理由も分からない


ただ一つ


昨日より


俺たちの通った浅層側へ近づいている


それだけは分かった


俺は今日覚えたばかりの《暗幕》を思い出す


見えなくする


位置を変える


退く


攻撃するためだけじゃない魔法


次に何が来るとしても


使うことになるかもしれない


森の底は


俺たちが覗くだけの場所ではなくなり始めていた

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