森の底へ
第69回 森の底へ
ガルディアを出たのは、二日後のまだ空が白み始めた頃だった
前に街道を歩いたときより荷物は多い
水
食料
救護用品
縄
灯り
記録用の紙
小さな工具
俺の空間収納にも、これまで扱ってきた小物を入れている
それ以外の荷物は分担して持つ
人間側の探索者も数人同行していて、それぞれが装備を背負っている
今回の目的は討伐じゃない
森の深部で報告されている裂け目を確認する
地下へ続いているなら、安全に入れるかを見る
古い記録にあるミレア大迷宮と本当に関係があるのか確かめる
それだけだ
少なくとも、出発前にはそう説明された
「深く行かない」
ダリオが俺を見る
「分かってる」
「地下に入れても浅いところまで」
「分かってる」
「強い反応があっても追わない」
「分かってるって」
三回目になると少し面倒になってくる
横からルッカが言う
「顔」
「まだ何もしてないだろ」
「行きたい顔」
「今日は行くんだからいいだろ」
今回は俺だけじゃない
ルッカも少し落ち着きがない
森の地下なんて、俺たちも見たことがない
昨日はガルディアで必要な準備をしながら、古い地図や記録も確認した
俺には細かい文字までは読めなかったが、ミラや資料担当者から説明は受けている
森深部に地下空間がある
古い探索記録も残っている
ただし、昔使われていた入口と今回見つかった裂け目が同じものなのかは分からない
そもそも
大迷宮
という名前が付いているからといって、全部が人間に知られているわけでもないらしい
記録が途切れている場所も多い
地図も完全じゃない
「本当に迷宮なんだな」
俺が呟くと、ミラが横を見る
「まだ今回の裂け目がつながっていると決まったわけではありませんよ」
「分かってる」
「その顔は分かってません」
「今日はみんな顔で判断しすぎじゃない?」
ローデンが少し前を歩きながら振り返る
「地下なら顔より足元見ろ」
「はい」
一番正しい
ガルディアから森へ近づくにつれ、人の数は減った
街道を離れ
さらに細い道へ入る
そこから先はルッカの仕事だった
人間側の探索者にも森へ慣れている者はいる
地図も持っている
それでも
ルッカが先頭に立ってから、進み方が明らかに変わった
少し進んでは止まる
地面を見る
枝を見る
空気を嗅ぐ
戻る
別の方向へ行く
「そっちじゃないの?」
人間側の一人が聞く
ルッカは短く答える
「古い」
「何が?」
「跡」
説明はそれだけ
俺が地面を見る
正直
分からない
何かが通った跡はある
でも新しいか古いかなんて、俺にはほとんど区別できない
ルッカは別の方向へ歩く
少し先で足を止める
「こっち」
「何が違う?」
俺が聞く
「枝、昨日か今日」
「折れてる?」
「ああ」
「何が通ったか分かる?」
「まだ」
それでいい
分からないものを無理に決めない
俺は《魔力探査》を広げる
周囲
人間側
俺たち
小さな反応
少し遠くに一つ
森の中では役立つ
でも
ルッカが見ているものは全く分からない
足跡
匂い
どの枝がいつ折れたか
どの動物がどちらへ動いたか
魔力探査では過ぎ去ったものは拾えない
やっぱり代わりにはならない
途中
獣道らしい細い道を外れようとした人間をルッカが止めた
「そっち、臭い」
「魔物?」
「分からない、大きい」
俺も探査を向ける
反応はない
「いない?」
「今はいない」
ルッカが頷く
「でも通る」
人間側の探索者が少し考えてから、ルッカの選んだ迂回路へ従った
そういうことが何度か続いた
ガルディアから来た探索者が弱いわけじゃない
むしろ装備も経験も十分に見える
ただ
森の中ではルッカが強い
そういう場所なんだと思う
俺だって魔法なら役に立てる
ローデンなら地盤
エナなら怪我
ミラなら人間側の記録
ダリオなら危険判断
場所が変われば、誰が一番頼れるかも変わる
昼前
空気が変わった
最初に気付いたのはルッカだった
「土」
「土?」
俺も匂いを嗅いでみる
湿った土の匂い
森なら珍しくない
でも
どこか冷たい
「下から」
ルッカが言う
進む
木が少しずつ疎らになる
地面の一部が崩れている
さらに先
大きな窪み
その向こうに
黒い線が見えた
最初は影かと思った
近づくにつれて
それが地面そのものに開いた裂け目だと分かる
「……でか」
前にも似た感想を言った気がする
でも他に言葉がない
人が一人落ちるような細い割れ目じゃない
場所によっては数人並んで通れそうな幅がある
森の地面が大きく裂け
その奥が暗闇へ続いている
「これか」
ガルディア側の探索者が地図を広げる
ミラも古い記録の写しを見る
ローデンはもう地面へしゃがんでいた
「近づいていい?」
俺が聞く
「待て」
即答
ローデンが裂け目の縁を見る
手で土を触る
少し離れて別の場所を見る
「ここは弱い」
「崩れる?」
「端は」
「じゃあ固める?」
《土締め》を使えばいいと思った
でもローデンは首を振る
「今は触るな」
「何で?」
「下が分からない」
地表だけ固めても
その下が空洞なら意味がない
むしろ重さや力のかかり方が変わるかもしれない
「なるほど」
俺は素直に下がる
土魔法があると
地面の問題なら何とかできそうな気がする
でも地下は違う
何が下にあるか分からないところで無闇に動かせば
自分で崩すかもしれない
ローデンと人間側の探索者が周囲を確認し
安全そうな場所へ縄を固定する
少しずつ近づく
俺も裂け目を覗いた
暗い
でも
完全に垂直な穴ではない
斜めに下っていく場所がある
岩と土
その奥に
空間が見える
「洞窟?」
俺が言う
「もっと広い」
ローデンが答える
灯りを下へ向ける
光が届く範囲だけでも
人が歩けそうな場所がある
自然に崩れた斜面
岩の段差
そのさらに奥
「あれ」
ミラが指した
壁の一部
自然の岩とは少し違う
平らだ
「削ってる?」
俺が聞く
ローデンが目を細める
「たぶん」
人間が作ったのか
別の何かなのか
それは分からない
でも自然の洞窟だけではなさそうだ
ガルディア側の探索者が古い地図と現在地を比べる
何度も向きを確認する
少し場所を変える
そして
「一致する」
誰かが言った
「何が?」
俺が聞く
「この地形だ」
古い記録に描かれていた
浅い地下空間の一部
完全に同じではない
崩れているところもある
木も地形も変わっている
それでも
方向
岩の形
地下へ伸びる空洞
いくつかが一致する
「じゃあ」
ミラが慎重に言う
「この裂け目は、ミレア大迷宮の浅層へつながっている可能性がかなり高い、ということですね」
胸が動く
大迷宮
ただの名前じゃなくなった
目の前に入口がある
「入る?」
俺が聞く
ダリオがすぐ答える
「まず周囲確認」
「はい」
分かってる
周辺に魔物がいないか
崩落の危険はないか
戻れるか
全部確認してから
下りる
その間に俺も《魔力探査》を裂け目へ向けた
暗闇の奥
反応
ある
一つ
二つ
もっと奥
小さいものがいくつか
「中にいる」
全員の視線が来る
「どれくらい?」
「近いのが二つか三つ、それより奥にもいる」
「大きい?」
「今近くにいるのは、それほどでもない」
「種類は?」
「分からない」
もう誰もその質問で不満そうな顔をしなくなった
それがちょっと嬉しい
俺の探査で分かること
分からないこと
みんな理解してきている
準備が終わる
先頭は人間側の探索者
そのすぐ近くにルッカ
ローデンも前寄り
俺は中央より少し前
ダリオが全体を見る
ミラとエナは中央
全員が一度に下りない
安全を確認しながら順番に進む
裂け目へ足を入れる
空気が冷たい
森の匂いが遠くなる
土
石
湿気
それが強くなる
外の光が背後へ遠ざかる
灯りが必要になる
足元
右
左
見る場所が多い
「滑る」
ローデンの声
少し先
斜面の一部が湿っている
そこを避ける
さらに下
岩の隙間を抜ける
そして
空間が広がった
「……おお」
天井は高い
場所によって高さが違う
壁は岩
でも一部だけ
明らかに平らな面がある
床も全部が自然な形ではない
何かが削ったようなところ
石を積んだように見える場所
その横には完全な天然洞窟
混ざっている
「本当に迷宮だな」
俺が言う
ミラが灯りを動かす
「まだ入口付近です」
「分かってる」
「奥へ行きたい顔」
「今日は全員それ言うんだな」
ルッカは壁を見ている
「森と違う」
「匂い?」
「ああ」
「分かりにくい?」
「残る」
逆に残りやすいらしい
風が少ない
雨もない
匂いが長く残る
ただ
複数の古い匂いも混ざるので、森とは違う難しさがあるという
俺は《魔力探査》
近い反応
前
右奥
「前にいる」
探索者が止まる
灯りを少し絞る
音
かさ
かさ
石を引っかくような音
暗闇から
小さな魔物が出てきた
四足
でも森で見る獣とは違う
皮膚が白っぽい
目が小さい
前脚に長い爪
一体
二体
三体
「来る!」
盾が前へ出る
一体が飛びかかる
人間側が受ける
俺は《火弾》を作る
撃つ
狭い
火が壁へ当たる
「うわ」
すぐ消える程度
でも森より怖い
逃げ場が少ない
煙も気になる
「火は控えろ!」
ダリオ
「分かった!」
水槍
一体
撃つ
狭い通路なら直線の方が使いやすい
命中
壁へ叩きつける
もう一体
人間側が倒す
残り
ルッカが横へ回る
逃げ道を塞ぐ
俺が水槍
終わる
「このくらいなら大丈夫か」
そう思ったのが早かった
《魔力探査》
奥から反応
増える
「まだ来る!」
五
六
もっと
小さい反応がまとまっている
「入口方向に?」
ダリオが聞く
「こっちへ近づいてる!」
次の集団が見える
今度はさっきと違う
細い身体
低い姿勢
群れで走る
「押し返す!」
《風圧》
通路いっぱいへ風を送る
前列がまとめて後ろへ飛ぶ
「いい!」
人間側の誰かが言う
でも
倒れていない
すぐ起き上がる
また来る
「もう一回!」
《風圧》
押す
距離が空く
また来る
「これ、意味なくない?」
止められる
でも倒せない
広い場所なら
押して距離を作って
味方が攻撃する
それでいい
でも狭い通路では
後ろへ押しても、そのまま戻ってくる
数が多いほど面倒だ
「切れればな」
口から出た
「何?」
ダリオ
「押すんじゃなくて」
風
今までは面で押していた
広く
強く
なら
狭くしたら
《魔力圧縮》
火は細くした
水も細くした
風も
できるんじゃないか
「試す!」
「何をだ!」
「風を細くする!」
「短く言え!」
無茶を言う
でも説明している暇はない
風を集める
今までの《風圧》
広い面
それを
細く
薄く
一方向へ
「……違う」
最初はただ細い風が出ただけだった
一体へ当たる
少しよろける
それだけ
「押してるだけだ」
細くしただけでは足りない
もっと
薄く
刃
前世で見た包丁
紙の端
刃物
厚い板で押すのと
薄い刃を入れるのは違う
風に刃があるわけじゃない
でも
力を狭い場所へ集中できるなら
《魔力圧縮》
薄い面
狭い
まっすぐ
二回目
風が歪む
撃つ
右へ逸れた
壁へ当たる
砂埃が飛ぶ
「危な!」
人間側が叫ぶ
「ごめん!」
狙いが悪い
形を作っても
飛ばすと崩れる
火槍の最初と似ている
形
維持
速度
昨日資料で聞いた言葉が頭に浮かぶ
形
密度
速度
流れ
属性が違っても
考え方は使える
「もう一回」
魔物が近づく
人間側が前を止める
ルッカが横から一体を倒す
俺は少し後ろ
風
集める
薄く
でも薄すぎると崩れる
幅を残す
刃みたいに
《魔力制御》
形を維持
《魔力圧縮》
力を狭いところへ
撃つ
風が走る
一体へ当たる
傷
浅い
「切れた!」
でも足りない
皮膚を裂いただけ
倒れない
「威力不足か」
もう少し
圧縮
ただし広げない
薄くしたまま
密度を上げる
今度は速度も意識する
前へ
一気に
「行け!」
風が飛ぶ
見えない
でも
通った場所だけ空気が歪む
先頭の魔物
首元
裂ける
そのまま倒れる
「……できた?」
次
同じ形
今度は少し早く作れる
薄い
狭い
一方向
撃つ
二体目
横腹
切れる
倒れない
もう一発
止まる
「《風刃》」
名前が出た
《風圧》は押す
《風刃》は切る
同じ風
でも使い方が違う
「セイジ、右!」
《魔力探査》
二体
狭い通路の右側から回ってくる
風刃
一発
外れる
壁へ当たる
「まだ狙いづらい!」
二発目
当たる
一体
三発目
もう一体
倒れる
完璧じゃない
でも使える
近づかれる前に切れる
火じゃない
水ほど大きな押し込みもない
狭いところで
必要な場所だけ攻撃できる
「前、まだいる!」
数は多い
ここから先は
新しい魔法を試すだけじゃない
普通に戦う
《水槍》
一体
《風刃》
一体
近づかれたものは人間側が倒す
ルッカが横道から来る個体を知らせる
ダリオが前後を見る
ローデンは壁際から離れるよう指示する
「そっちは亀裂!」
見ると
壁の上から細い割れ目が走っている
「土壁で塞ぐ?」
「触るな!」
「はい!」
地下で土魔法
本当に使いどころが難しい
少し離れた場所では
古い石積みの一部が崩れかけている
そこへ魔法を撃てば
敵より先に天井が危ないかもしれない
ローデンがいる意味がよく分かる
俺が魔法を使えるからといって
地形を好きに変えられるわけじゃない
戦闘は続く
でも
鎧角オーガほど強い個体はいない
数が多い
だから一体一体に時間をかけている暇もない
水槍
風刃
人間側の剣
槍
弓
一体
また一体
前方の反応が減る
最後の数体が
こちらへ来る途中で動きを変えた
「逃げる?」
俺が探査を追う
違う
奥へ戻る個体もいる
でも
別の反応が
入口側へ動いている
「ダリオ」
「何だ」
「こいつら全部じゃないけど、入口の方へ動いてるのがいる」
「外へ?」
「たぶん、こっち側」
入ってきた方向
森へつながる裂け目
今まで森で見た流れと同じ
深い側から
浅い側
外へ
ここでも
同じ向き
「迷宮の魔物まで?」
ミラが小さく言う
誰も答えられない
まだ断定できない
でも
少なくとも
俺の探査で動きを確認した個体がいる
奥から入口方向へ
それは事実
戦闘が止まる
静かになる
みんな息を整える
俺は《魔力探査》をもう少し奥へ広げた
浅い反応
いくつか
さらに
遠い
一つ
いや
一つだけじゃない
「……いる」
「何が」
ダリオが聞く
「奥」
「近いか」
「遠い」
「強い?」
俺は集中する
比較
近くにいた魔物
今倒したもの
それより
明らかに大きい
強い魔力反応
「強い、今のやつらよりずっと」
空気が変わる
人間側の探索者も奥を見る
暗い
灯りの先には通路しか見えない
でも俺には反応がある
「数は?」
「今分かるのは大きいのが一つ、その周りにも小さい反応」
「動いてる?」
「少し」
「こっちへ?」
集中
位置
変わっている
でも
「分からない、こっちに来てるとは言えない」
ダリオはすぐ判断した
「行かない」
「……はい」
思ったより早く返事できた
前なら
ちょっとだけ
見に行きたい
そう言っていたかもしれない
今も気になる
ものすごく気になる
でも
ここは初めての地下
入口の安全確認も完全じゃない
地図も不完全
魔物の種類も知らない
強い反応
その先に何があるか分からない
行く理由より
戻る理由の方が多い
「初回としては十分だ」
ダリオが言う
人間側の探索者も同意する
裂け目から地下へ入れる
古い地図と一致する
浅層に魔物がいる
内部は天然洞窟と人工的な構造が混ざる
危険な亀裂もある
魔物の一部が入口方向へ動いている
奥には強い反応がある
これだけ確認できれば
十分
「戻るぞ」
俺たちは来た道を戻る
帰りはさらに慎重だった
戦った場所
血
倒れた魔物
崩れやすい床
壁の亀裂
一つずつ確認
ローデンが危険な場所に簡単な印を残す
ミラと人間側の探索者が位置を記録する
ルッカは匂いと足跡を見る
俺は探査
役割がきれいに分かれている
裂け目へ戻り
外の光が見えたとき
思った以上に安心した
「明るい」
俺が言う
ルッカも目を細める
地下に長時間いたわけじゃない
それでも
森の光が妙に明るく感じる
外へ出る
全員
順番に
地上へ
最後の人間側探索者が出たところで
ようやく力が抜けた
裂け目の近くには
簡単な臨時の調査地点を作ることになった
いきなり大きな設備を置くわけではない
安全な場所を選び
必要な物をまとめ
記録を置く
見張りも決める
今日はここまで
ガルディアまで戻ることはせず
調査地点で夜を迎える
その前に
俺はSTATUSを確認した
前に確認した時はLEVEL12
今回は自分でも何体か倒した
でも
どの一体で上がったかは分からない
人間側も倒している
途中で確認もしていない
だから
今を見る
NAME セイジ
RACE ハイホブゴブリンメイジ
LEVEL 14
HP C
MP B-
筋力 D+
耐久 C
敏捷 C+
器用 B-
精神 C+
魔力 B
SKILL
《魔力探査》
《魔力制御》
《魔力圧縮》
《並列制御》
TITLE
なし
「十四」
十二から十四
また二つ上がっている
途中の十三は確認していない
能力も変わった
耐久
敏捷
器用
特に器用がB-になっている
最近
魔法の形を細かく変えることが増えた
火槍
水槍
土壁
風刃
それと関係しているのか
ただLEVELが上がった結果なのか
そこは分からない
SKILLは変わっていない
《魔力探査》
《魔力制御》
《魔力圧縮》
《並列制御》
そのまま
「新しいの増えた?」
ルッカが聞く
「SKILLは増えてない」
「魔法は」
「増えた」
手を少し前へ出す
実際には撃たない
「《風刃》」
「切るやつ」
「ああ」
《風圧》は広く押す
《風刃》は狭く切る
同じ風でも使い分けられる
火弾と火槍
水球と水槍
少しずつ似た形になってきた
一つの属性
一つの魔法
じゃない
同じ属性でも
使い方を変えれば役割が変わる
昨日知った
形
密度
速度
流れ
そういう考え方が
もう実戦で役に立った
「ガルディア来てよかったな」
俺が言う
ルッカは頷く
でも
すぐに裂け目を見る
「奥」
「うん」
魔法が増えたことより
今はそっちの方が大きい
俺も《魔力探査》を軽く向ける
入口付近
反応は少ない
遠く
地下の奥
さっき感じた強い反応は
もう届かない
距離が離れたからか
移動したからか
分からない
「何がいるんだろうな」
誰に聞いても答えは出ない
大迷宮
浅層
入口方向へ動く魔物
さらに奥にいる強い何か
森の外へ出てきた鉄爪ジャッカル
鎧角オーガ
混成魔物
街道へ流れた魔物
全部を一つの原因で説明できる証拠はない
それでも
森の表面だけを見ていたときより
異変がどこから来ているのか
少しだけ近づいた気がする
夕方
簡単な食事を取る
ガルディアの街とは違う
第二水場とも違う
森の深い場所
すぐ近くに大迷宮へ続く裂け目
人間側の探索者たちもいつもより声が小さい
明かりを必要以上に強くしないようにしている
「何で暗め?」
俺が聞くと
探索者の一人が答えた
「森の中で目立ちすぎる」
「地下でも?」
「地下はもっとだ」
「何で?」
「光が遠くから見える」
なるほど
暗い場所ほど
明かりは目立つ
俺たちが敵を見つける前に
敵から光を見つけられる可能性もある
今日の浅層でも
灯りを使わなければ人間側は歩けない
でも
使えば位置が分かりやすくなる
「面倒だな」
「迷宮じゃ普通の問題だ」
普通
その言葉に少しだけ引っかかる
俺には全部初めてだ
でも人間側には
迷宮探索の積み重ねがある
知らないことはまだ山ほどある
俺は暗くなった裂け目を見る
今日は入口を見つけた
浅層へ入った
風刃もできた
LEVELも上がった
でも
奥へは行かなかった
行けなかった
じゃない
行かなかった
その違いは、自分の中では少し大きかった
強くなったから
どこまでも進める
ではない
帰る判断も必要だ
第二水場
岩陰
ガルディア
今は戻る場所がいくつも頭に浮かぶ
だから
無理をする理由はない
「明日も入る?」
ルッカが聞く
「たぶん」
「奥?」
「浅いとこまで」
「本当?」
「本当」
俺は少しだけ笑う
「今日は、ちゃんと戻っただろ」
ルッカも少し笑った
裂け目の奥は暗い
その先に何がいるのかは分からない
でも
今はそれでいい
分からないまま
次に調べるものが残っている
森の底は
まだ入口を見せただけだった




