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魔法は、もっと自由らしい

第68回 魔法は、もっと自由らしい


朝、目を覚まして最初に見えたのは、岩でも木でもなかった


天井だった


もちろん岩陰拠点にも天井はある


でも、あれは岩だ


今見ているのは、木を組んで作られた平らな天井


壁も木


窓もある


少し離れたところから人の話し声まで聞こえてくる


「……街だな」


昨日ガルディアへ入ったことを、寝起きでもう一度実感する


フェルナへ行ったときも、人間の建物は見た


でもあそこでは日帰りだった


町の中で眠ることはなかった


今回は違う


ガルディア側で用意された滞在場所に泊まっている


普通の宿と同じ扱いなのかは分からない


俺とルッカがいる以上、どこでも自由に泊まれるわけではないらしい


フェルナから持ってきた記録と、ガルディア側の確認を通して、俺たちが滞在できる場所が決められた


面倒だとは思う


でも


泊まれない


ではなく


どうすれば泊まれるか


を考えてもらえるだけ、昔とは大違いだ


横を見る


ルッカはもう起きていた


窓の隙間から外を見ている


「何してる?」


「人、多い」


「朝から?」


「ああ」


俺も起き上がって窓の方へ行く


外の道には、すでにかなりの人がいた


荷車


歩く人


荷物を運ぶ人


大きな籠を背負った人


店を開けている人


フェルナでも人は多いと思った


でも、ここは明らかに違う


「これで朝なんだよな」


「うるさい」


「寝られた?」


「あんまり」


「やっぱり」


森の中なら


風


葉


虫


獣


それくらいだ


ここでは


足音


車輪


人の声


金属音


何かを叩く音


全部が混ざっている


ルッカには特にきついかもしれない


「今日はギルドだっけ」


「ああ」


「行けそう?」


「行く」


短い返事


それならいい


俺たちは準備をして外へ出た


一階へ降りると、エナが先にいた


その横にはローデン


少し遅れてダリオとミラも来る


「全員いるな」


ダリオが確認する


「まずギルドだ」


「そのあと?」


俺が聞く


「話が終われば自由時間があるかもしれん」


「本当?」


「かもしれん」


「それでもいい」


ミラが俺を見る


「勝手にいなくならないでくださいね」


「分かってる」


「魔法屋を見つけても」


「……見つけたら見るだけ」


「一人では行かない」


「はい」


完全に読まれている


外へ出る


昨日は城門から滞在場所まで移動するだけで精一杯だった


今日は少し余裕がある


だから


見えるものが多い


まず建物


フェルナより高いものが多い


二階だけじゃない


場所によってはその上まである


石造りらしい建物も増えている


道も広い


横道も多い


店の種類も違う


「何あれ」


店先に、青く光る板みたいなものが並んでいる


ミラが見る


「魔道具でしょうね」


「何するやつ?」


「ここからでは分かりません」


「見たい」


「帰りに」


進む


今度は赤い石


次は細長い金属棒


小さな箱


透明な容器


俺には用途の分からない物ばかりだ


中には明らかに魔力を感じるものもある


《魔力探査》を使わなくても、近くを通るだけで少し分かる


「魔力入ってる」


「魔道具なら普通です」


「普通なの?」


「全部ではありませんけど」


フェルナでも魔法を使う人間はいた


でも魔法そのものが生活や道具の中に入り込んでいる感じは、ガルディアの方が強い


「これ、ずっと見てられるな」


「歩いてください」


ミラに押されるようにして進む


途中


武器を売っている店がある


その隣には防具


さらにその先には、魔物の牙や角らしいものが並んだ店


見たことのない皮


黒い甲殻


大きな骨


瓶に入った何か


「鎧角オーガの外殻とかも売れる?」


俺が聞く


「使える部位なら売れる可能性はあります」


「持ってくればよかった?」


「全部を空間収納に入れられるかは試していないでしょう」


「そうだった」


空間収納で大物を扱えるかはまだ分からない


荷車を用意してまで運ぶ価値があるかどうかも分からなかった


「次から使えるか調べてから決めた方がいいな」


「それはそうですね」


エナが横から言う


「薬になるかも分からない」


「食べられるかも?」


「分からない」


「何でも分からないな」


「分からないものを食べる方が変」


「はい」


そろそろ俺も学んでいる


知らないものは専門の人間に聞く


ガルディアの冒険者ギルドは、昨日遠くから見ただけでも大きかった


近くまで来るとさらに分かる


フェルナのギルドより入口が広い


出入りする人も多い


装備もばらばらだ


剣


槍


弓


杖


盾


短い棒みたいなもの


中には俺の知らない形の武器まである


「入るぞ」


ダリオが先へ進む


俺とルッカが後ろに続く


視線


当然来る


昨日の城門より多いかもしれない


「ゴブリン?」


「いや、でかい方は……」


「ハイホブか?」


「人間と一緒だぞ」


「フェルナから来たやつじゃないか」


最後の声に反応する


もう何か伝わっているらしい


良い噂か悪い噂かは分からない


受付でフェルナから持ってきた書類を出す


昨日の城門でも確認したもの


特例探索者


森での活動


フェルナ支部での記録


初依頼の報告


討伐実績


人間側との共同行動


そういうものが書かれているらしい


俺自身には全部読めない


だからミラが横で確認する


受付の人だけでは判断できないらしく、何人かが入れ替わる


待つ


また待つ


「長いな」


「仕方ないです」


「俺が人間ならもっと早い?」


ミラは少し考えた


「普通の登録済み冒険者なら」


「やっぱり」


特例探索者という名前は付いた


でも


どこでも冒険者として自由に扱われる


という意味じゃない


フェルナ支部が認めた


その記録を持って


ガルディアが改めて判断する


そういう仕組みだ


面倒


でも筋は通っている


しばらくして


奥の部屋へ呼ばれた


俺たち六人


フェルナ側の同行者


ガルディアのギルド関係者


話が始まる


最初は森の情報


鉄爪ジャッカル


鎧角オーガ


混成魔物群


街道へ流出した魔物


全部が森奥側から外へ向かっていること


フェルナ側で集めた記録も出される


ガルディア側の人間が地図を広げる


今度の地図は、フェルナで見たものよりずっと広い


「これ全部森?」


俺が聞く


ミラが頷く


「ミレア大森林の一部を含めた周辺図です」


一部


これで一部


森の中で暮らしていると


自分が知っている範囲が広く感じる


岩陰


第二水場


森の外縁


フェルナへ続く道


でも地図で見ると、俺が歩いている場所なんてほんの一角だった


「俺たちこの辺?」


指された場所を見る


小さい


本当に小さい


「森でかすぎない?」


今さらだけど


ローデンが地図より、そこに描かれている線を見ている


川


高低差らしい印


道


森の深い場所


「裂け目は?」


俺が聞く


ガルディア側の人間が奥を指す


いくつか印が付いている


そのうちの一つ


「報告が集中しているのはここだ」


「行った人いる?」


「近くまでは」


「中は?」


「まだ正式には確認していない」


大きな裂け目


地下へ続く可能性


そこまではフェルナでも聞いた


でも


どこへ続くのか


何なのか


そこはまだ不明


「セイジ」


ダリオが小さく呼ぶ


「何?」


「顔」


「ルッカみたいなこと言わないで」


「入りたそうな顔してる」


否定できない


「まだ行くなよ」


「今日は行けないだろ」


そこは分かっている


情報共有が終わったところで


特例探索者の扱いについて話が移った


フェルナ支部での記録


共同依頼の結果


ガルディアまでの街道戦


フェルナ側の人間からの証言


それらを踏まえ


ガルディアでも


限定的に活動を認める


という結論になった


「やった」


声が出た


すぐミラを見る


「これ、冒険者になったって意味じゃないよな?」


「違います」


やっぱり


「フェルナと同じ?」


「近いですが、ガルディア側の記録として扱われます」


「できることは?」


「指定された探索や調査への参加、許可範囲の情報確認などですね」


「依頼も?」


「内容次第です」


「どこでも?」


「ガルディア支部が認めた範囲で」


「了解」


二回目なので理解が早い


俺は普通の冒険者登録をされたわけじゃない


人間社会全体がゴブリンを受け入れたわけでもない


現に


部屋を出たら俺を警戒する人間は普通にいる


廊下ですれ違った冒険者の一人なんて、俺を見た瞬間に壁側へ寄った


それが現実だ


でも活動できる


情報も見られる


調査にも参加できる


今はそれで十分


そこから先が


俺にとって本番だった


「魔法資料を見られる?」


手続きが一段落してすぐ聞いた


ミラが呆れたように見る


「森の情報は?」


「聞いた」


「特例探索者は?」


「分かった」


「もう魔法ですか」


「ずっと気になってた」


ガルディアのギルドには


魔物や地図だけでなく


魔法に関する資料もあるらしい


全部を自由に読めるわけではない


危険なもの


専門家向け


外部閲覧不可


そういう区分がある


でも基本的な理論資料や、冒険者向けの魔法運用記録なら見られるものもあるという


問題は


俺が読めないことだ


正確には


簡単な文字なら読める


短い文章も少しずつ分かる


でも


専門用語が並ぶ長い資料


これは無理


人間だった頃なら字を読むこと自体は問題なかった


今は新しい言葉を覚えるところからだ


「説明できる人いる?」


俺が聞く


「全部ではないですが」


ミラとギルドの資料担当らしい人が一緒に来ることになった


案内された部屋には


紙


本


板


図


石に刻まれたもの


いろいろ置かれていた


俺は入口で立ち止まる


「……すご」


フェルナでは見なかった量だ


本そのものが多い


前世なら図書館なんて珍しくもない


でもこの世界に来てから


これだけまとまった資料を見るのは初めてだった


「全部魔法?」


「全部ではありません」


資料担当の人が答える


「探索記録もありますし、魔物関連もあります」


「この辺は?」


俺が指す


丸


線


矢印


色の違う図


どう見ても魔法っぽい


「基礎的な魔力構成です」


「基礎?」


俺には十分難しそうだ


一枚を見せてもらう


中心に丸


そこから線


外側に別の形


文字がいっぱい


読めない


「ミラ」


「はい」


「簡単に」


「早いですね」


「もう無理」


資料担当が少し笑った


説明が始まる


魔法を考えるとき


属性だけではない


形


密度


速度


流れ


魔力が通る経路


そういうものを分けて考える方法があるらしい


「待って」


俺は止める


「火とか水とか以外に?」


「そうです」


「火魔法なら火を作って終わりじゃない?」


資料担当が首を振る


「同じ火属性でも、球にするか、広げるか、細くするか、持続させるかで術は変わります」


「……それ、俺がやってたやつ」


《火弾》


《火槍》


同じ火


でも違う


火槍を作ったとき


球ではなく細くした


《魔力圧縮》で密度を上げた


速度も上がった


「水も」


今度は《水球》と《水槍》


水のまま


球


細い流れ


押し出す


高圧


形と流れが変わった


「属性が違っても、同じ考え方を使える?」


俺が聞く


資料担当は少し考える


「全く同じにはなりません」


「でも似た考え方は?」


「あります」


それだ


俺は前から


火を細くしたなら


水も細くできるかも


風も


と思っていた


それが人間側の魔法研究でも、全く外れた考えではないらしい


「魔法ってもっと自由なんだな」


「自由?」


「最初から名前のある魔法を覚えるだけじゃなくて、形とか変えていいんだろ」


資料担当が頷く


「扱えるなら」


「扱えるなら、か」


そこが大事


思い付けば何でもできるわけじゃない


形を作る技術


魔力


制御


経験


全部必要


でも


決まった技だけ使うものでもない


それなら面白い


かなり面白い


「セイジ」


ミラが言う


「顔」


「ここでも?」


「完全に魔法の顔です」


否定しない


資料をいくつか見せてもらう


炎を広く出す図


水を流す図


風の向きを変える図


土を持ち上げる図


光を一点に集めるらしい図


知らない魔法は多い


でも


全部を覚えたい


とは少し違う


自分の魔法に使える考え方を知りたい


そう思うようになっていた


一枚の土魔法の図で手が止まる


土を盛り上げ


形を作り


そのあとに強度を上げる


「これ」


俺が指す


「壁?」


「簡単な防壁形成の例です」


防壁


俺は今まで何度も似たことをやっている


《土成形》


土を動かす


形を作る


《土締め》


固める


第二水場でも


岩陰でも


道でも


必要に応じて二つを順番に使ってきた


「俺、これ毎回二回やってる」


「二回?」


ミラが聞く


「土成形で形作って、土締めで固める」


「はい」


「最初から一つにできない?」


全員が俺を見る


「何で毎回、形作りました、次に固めます、って分けてるんだろ」


最初に覚えたのが別々だったから


ずっとそう使っていた


でも


やることが毎回同じなら


一つの流れにしてもいいんじゃないか


火弾を出すときだって


火を作る


球にする


維持する


飛ばす


全部を一つずつ別の魔法名で呼んでいるわけじゃない


一連の形として《火弾》になっている


「試せる場所ある?」


資料担当が少し考える


「訓練区画なら」


「行きたい」


「すぐですか」


「今」


ミラがため息をつく


「こうなると思ってました」


ギルドの中庭に近い場所に、魔法を試すための区画があった


全部の魔法を自由に撃っていいわけではない


使える場所


方向


威力


確認が必要


俺がやるのは土なので許可は出た


ローデンも一緒に来る


「壁作る」


俺が説明する


「どれくらい」


「このくらい」


腰より少し高い程度


大きすぎるものを作る必要はない


まず普通に


《土成形》


地面が盛り上がる


板状にする


止める


次に《土締め》


固める


「いつもの」


ローデンが触る


「これなら壁」


「だよな」


問題はここから


一回でやる


土を持ち上げる


同時に必要な場所を締める


最初から強度を考えて形を作る


「やるぞ」


魔力を流す


地面が盛り上がる


形を作る


同時に固める


……


崩れた


「脆い」


ローデンが言う


「見れば分かる」


見た目だけ壁


触ると端が崩れる


形を作る方へ意識を使いすぎて


締めが足りない


「もう一回」


一度崩して戻す


次


今度は固める方を強く意識


土を持ち上げながら締める


遅い


少しずつしか上がらない


しかも途中で歪む


「固めすぎ?」


ローデンが頷く


「動かなくなる」


「なるほど」


土を動かしている途中で全部締めたら


そりゃ動きにくい


じゃあ順番を完全になくすんじゃない


流れの中へ入れる


下から土を上げる


形が決まったところから必要な部分だけ締める


次の部分を上げる


そこを締める


最後に全体の要所を整える


別々の魔法を二回使う


ではなく


一つの動作の中で


作る


締める


作る


締める


「これなら」


三回目


土が上がる


下側を固める


上へ伸ばす


側面を整える


必要なところだけ締める


一気に全部固めない


形を崩さない


最後に上端


止める


目の前に


低い土の壁ができていた


「どう?」


ローデンが近づく


押す


叩く


端を見る


「さっきよりいい」


「いつもの二段階と比べて?」


「早い」


「やった」


俺も触る


硬い


完全に同じ強度かまでは分からない


でも


実用になる程度の壁を


今までより明らかに速く作れた


もう一度やる


今度は一回目より滑らか


土を上げる


形


締める


止める


考える工程が減っている


身体が一つの流れとして覚え始める


そして


感覚の中で


名前が落ち着いた


「《土壁》」


口に出す


次に魔法を使ったとき


最初からその形を思い浮かべる


《土壁》


地面が持ち上がる


形を作りながら必要な場所が締まる


壁になる


「できた」


火槍や水槍みたいに


全く新しい性質を作ったわけではない


今までやっていたことを


一つの使い方としてまとめただけ


《土成形》も使える


《土締め》も使える


それとは別に


壁が必要なら最初から《土壁》


「新しいけど、新しくないな」


俺が言う


ミラが意味を考える


「今までできたことを、一つの魔法にした?」


「そう、それ」


ローデンも頷く


「作業が早い」


「緊急のとき使えそう」


街道で地面が崩れたとき


あのときこれがあれば


土を支える形をもっと早く作れたかもしれない


もちろん


どこでも土壁を出せばいいわけじゃない


地面の状態次第


ローデンの判断が必要な場所もある


地下なんかで勝手に土を動かしたら崩れるかもしれない


そこは変わらない


「記録します?」


ミラが聞く


「する」


研究用の紙


ガルディアへ来る前に作った簡単な記録方法


丸


線


短い言葉


今度は土壁


土成形


土締め


二つを一つの流れにする


ミラに書いてもらう


「これで七個?」


ルッカが聞く


「何が?」


「魔法」


数える


《火弾》


《治癒》


《水球》


《風圧》


《土締め》


《土成形》


《火槍》


《水槍》


《土壁》


「あれ、九個」


「増えた」


「自分で数えてなかった」


火


光


水


風


土


闇はまだ何もない


でも一つの属性に一個しか魔法がないわけじゃない


同じ属性から派生していく


それが分かってきた


「本当に自由だな」


午後


俺たちはもう一度資料の部屋へ戻った


今度はミラだけでなく


ダリオやローデンも別の資料を見る


森深部の探索記録


地下構造


過去の魔物出現記録


俺は魔法資料と、その近くに置かれていた古い記録を眺めていた


読めない


でも図が面白い


複数の丸


それを結ぶ線


違う印


一つの大きな構造


「これ何?」


資料担当へ聞く


「ああ、それはかなり古いものです」


「魔法?」


「魔法理論ですね」


「読めない」


「でしょうね」


そこは否定してほしかった


ミラも一緒に見る


文字が古いらしい


今使われている言葉と少し違う部分もあるという


「何て書いてる?」


俺が聞く


ミラだけでは難しい


資料担当が説明する


昔の魔法研究


複数の属性


複数の魔力の流れ


術式


魔力経路


そういうものを


一つの構造として組み上げる


高度な考え方


「複数の魔法を同時に使うってこと?」


俺は《並列制御》を思い出す


でも資料担当は首を振る


「それだけではないようです」


「違う?」


「別々の術を同時に維持するのではなく、それらを一つの構造として組み上げる、という考え方に近いですね」


難しい


かなり難しい


「火と水を同時に使う、とか?」


「それは二つの術を同時に使っているだけでしょう」


まさに俺がやっているやつ


第二水場での水と土


街道での土と火


《並列制御》


あれとは違う


「最初から一個?」


「古い記述をそのまま解釈すれば」


「そんなのできるの?」


資料担当は肩をすくめた


「現在、完全に再現できる者がほとんどいないと言われています」


「ほとんど?」


「少なくとも、一般的な技術ではありません」


資料に書かれた言葉を指す


俺には読めない


ミラがゆっくり読む


「マギア……コード」


「マギアコード?」


妙な引っかかりがある


マギア


魔法っぽい


コード


「コードって……組み方みたいな意味か?」


前世の感覚だと


コードと言えば


プログラム


命令


組み合わせ


そういうものを思い出す


もちろん、この世界の言葉が前世と同じ意味とは限らない


音が似て聞こえるだけかもしれない


「どういう意味です?」


ミラに聞かれる


「昔いたところで、何かを組み立てるための書き方をコードって呼ぶことがあった」


かなり雑な説明だ


「魔法を組み立てる?」


「似てるなと思っただけ」


それ以上は分からない


複数の属性


魔力


術式


魔力経路


それらを一つへ組み上げる


俺が今やっているのは


火弾を細くして火槍にする


水球を絞って水槍にする


土の二工程を土壁としてまとめる


その程度


マギアコードとかいうものとは、たぶん比べものにならない


「でも面白い」


「使いたいですか?」


ミラが聞く


「使えるなら」


「説明を聞いた限り、かなり難しいですよ」


「だから面白いんだろ」


いつできるか


そもそもできるか


全く分からない


それでも


この世界には


俺がまだ知らない魔法の作り方がある


それだけで十分だった


資料を戻そうとしたとき


ローデンが別の紙を持ってきた


「これ」


「何?」


「地下」


見る


地図


古そうな線


通路らしきもの


広い空間


文字はほとんど分からない


「裂け目?」


俺が聞く


ローデンは首を振る


「もっと古い」


資料担当も紙を見る


「ああ、それは森深部の探索記録ですね」


「森の地下?」


「そうです」


話を聞く


今見つかっている大きな裂け目より前


かなり古い時代から


ミレア大森林の地下には巨大な地下領域があるという記録が残っている


探索された場所


確認だけされた場所


途中で調査が止まった場所


全部が整理されているわけではない


名称だけは残っている


「何ていうの?」


資料担当が答える


「ミレア大迷宮」


大迷宮


思わず黙る


迷宮


ダンジョン


前世の感覚なら


異世界に来たら一度くらい聞きたい言葉の上位に入る


でも


今は嬉しさより先に、森の異変が頭に浮かんだ


「その迷宮、今の裂け目とつながってる?」


「まだ分かりません」


やっぱり


「可能性は?」


「あります」


古い記録の場所


現在の地形


最近報告された裂け目


それらを照らし合わせると


浅い側のどこかへ接続している可能性がある


ただし


今使える入口として確認されたわけではない


本当に裂け目から入れるのか


入った先が大迷宮なのか


安全に通れるのか


全部これから


「地下に魔物いる?」


俺が聞く


「古い記録では」


「強い?」


「場所によります」


「奥は?」


資料担当が少し笑う


「古い記録でも、全て分かっているわけではありません」


それはそうだ


大迷宮って名前で全部攻略済みだったら、少し違う気もする


「セイジ」


ダリオの声


振り返る


「行きたいって言う前に言っておく」


「何?」


「勝手には行かない」


「まだ言ってない」


「顔」


今日は何人に言われるんだ


「でも調べるんだろ?」


「その話が来た」


ガルディア側で


裂け目の位置確認


地下へ続くか


安全に入れるか


そのための予備調査を準備しているらしい


「参加できる?」


俺は即座に聞いた


ダリオが答える前に


ギルド側の人間が言う


「そのために、あなたたちにも話をしています」


「俺たち六人?」


「ああ」


理由はある


ルッカ


森深部の移動


痕跡


危険回避


人間側の探索者だけより、森の中では明らかに強い


ローデン


裂け目


岩


地盤


地下構造


エナ


救護


ダリオ


戦闘と撤退判断


ミラ


記録


人間側との意思疎通


俺


魔力探査


魔法


戦闘


土魔法もある


ただし


勝手に地面をいじらない


ローデンに先に言われた


「分かってる」


「地下は特に」


「崩れる?」


「分からない場所で土を動かすな」


「はい」


《土壁》を覚えたばかりで使いたい気持ちはある


でも地下で壁を出して天井まで落ちてきたら笑えない


「いつ?」


「準備が整えば二日後を予定している」


二日


すぐだ


「行く」


「だから話を最後まで聞け」


ダリオ


「聞いてる」


調査の目的


まず裂け目まで行く


周辺の安全確認


入口として使えるか確認


地下へ入れる場合も深く進まない


初回は浅い範囲


危険があれば撤退


「奥まで行かない?」


俺が聞く


「行かない」


「ちょっとくらい」


「行かない」


「はい」


分かってる


本当に分かってる


初めての場所


しかも地下


森とは違う


俺の魔力探査だって、どこまで役立つか分からない


壁


岩


曲がった通路


そういう場所で反応の感じ方が変わる可能性もある


ルッカの匂いや音も、地下では森と違うかもしれない


「でも楽しみだな」


小さく言う


ルッカが横で頷いた


「森の下」


「お前も行きたい?」


「ああ」


珍しく分かりやすい


俺だけじゃないらしい


夜までギルドで準備の話が続いた


持っていくもの


水


食料


救護用品


縄


灯り


記録用の紙


小型工具


必要なものは多い


俺の空間収納にも、これまで扱ってきた小物を入れる


それ以外はまた荷物を分担する


便利だけど、まだ分からないことも多い


いつものことだ


話が終わる頃には、外は暗くなっていた


俺は最後に


昼間作った《土壁》を思い出す


新しい魔法が一つ増えた


でも今日は


それ以上に知らないものが増えた


形


密度


速度


流れ


魔力経路


魔法は属性だけじゃない


組み方がある


使い方がある


もっと古い理論には


複数のものを一つの構造へ組み上げる


マギアコード


なんて考え方まである


そして


森の地下には


ミレア大迷宮


名前だけで気になるものが二つも増えた


「来てよかったな」


俺が言う


ミラが隣を見る


「ガルディアへ?」


「ああ」


知らなかったことが多すぎる


第二水場で魔法を試しているだけでは


たぶん知れなかった


人間の町へ来て


ギルドへ入り


資料を見る


それだけで


魔法の見え方が少し変わった


覚えた魔法を使う


だけじゃない


同じものを違う形にする


工程をまとめる


別の属性へ考え方を移す


昔の研究を見る


まだできないものを知る


魔法って


俺が思っていたよりずっと広い


「もっと試したい」


「今日はもう試しませんよ」


ミラに即座に止められる


「分かってる」


「本当に?」


「二日後に地下行くんだぞ、今日は寝る」


「それならいいです」


ギルドの入口へ向かう


俺は一度だけ振り返った


大量の資料


地図


知らない魔法


森深部の記録


あの中には


まだ俺が読めないものが山ほどある


いつか


もっと人間の文字が読めるようになったら


自分で調べたい


ミラに全部読んでもらわなくても


気になったところを自分で探したい


それも一つの目標になった


外へ出る


ガルディアの夜は


暗くなっても静かではなかった


灯りがある


店も一部は開いている


人が歩いている


魔道具らしい光も見える


森の夜とはまるで違う


明後日には


この明るい街から出て


森の奥へ行く


その下へ続くかもしれない裂け目を見る


俺は少しだけ空を見上げた


城壁に囲まれた空は


岩陰から見る空より狭い


でも


ここへ来て


俺の世界はむしろ広くなった


次は


森の下だ

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