城壁の向こうへ
第67回 城壁の向こうへ
出発の朝、俺はフェルナの町の門近くで荷車を見ながら、少しだけ納得がいかなかった
「これ、全部持っていくの?」
荷台には食料、水、大きな袋、木箱、予備の道具まで積まれている
数日分の移動を考えれば必要なのだろう
それは分かる
でも俺には空間収納がある
せっかく便利なものがあるのに、荷車まで必要なのかと思ってしまう
「セイジ、これ」
エナが小さな包みを差し出す
救護用品だ
「これは入る」
収納する
次に縄
入る
紙
入る
小型の容器
これも入る
ローデンが工具をいくつか持ってくる
小さいものなら問題ない
「これも」
「それもいける」
少し得意になっていたところへ、ダリオが大きな木箱を指した
「じゃあこれは」
見る
荷台の端から端までとは言わないが、抱えるだけでも苦労しそうな大きさだ
「……それは試してない」
「こっちは?」
今度は大量の食料が詰まった袋
「それも試してない」
「なら荷車へ載せる」
「はい」
終わった
空間収納があるからといって、今まで試していない大きな荷物まで全部任せるわけにはいかない
実際、今まで使ってきたのも小物が中心だった
布
救護用品
紙
縄
小型の容器
当日分の食料の一部
その程度だ
最大でどこまで入るのかは、まだ正確には分からない
だからといって、大型の木箱を今ここで無理に試す気にもならない
「便利だけど、荷車はいらなくならないんだな」
俺が言うと、ローデンが荷台を確認しながら頷いた
「今は、こっちで運ぶ」
「俺一人で物流革命とか無理か」
「ぶつり?」
「何でもない」
前世なら、収納能力ひとつで荷物全部解決、なんて想像をしたこともある
実際はそう簡単じゃないらしい
人が増えれば必要な食料も増える
大きな道具もある
壊れたものを直す資材もいる
何でも俺一人へ集める方が危ない
「これでいい」
ローデンが荷車の固定を終える
今日ガルディアへ向かうのは、俺、ルッカ、エナ、ダリオ、ローデン、ミラ
それにフェルナ側から情報を持っていく人間が数人
ついに主要六人全員で森の外へ出ることになった
ローデンが同行するのは、森深部で報告されている大きな裂け目や地下へ続く可能性のある場所について、地盤や構造を見る知識が必要になるかもしれないからだ
俺が土魔法を使えても
地面を動かせることと
地面が安全か判断できることは別
そこはもう何度も思い知らされている
エナも救護担当として同行する
ミラは当然、人間側との話
ダリオは全体の安全判断
ルッカは森と痕跡
俺は魔法と魔力探査
考えてみれば、かなり役割が分かれてきた
「セイジ」
ミラが呼ぶ
「何?」
「今日はフェルナの中を歩くのとは違いますから、少し安心してます?」
「かなり」
「でも街道は人が多いですよ」
「町よりは少ないだろ」
「場所によります」
嫌なことを言う
それでも前にフェルナへ来たときよりは気が楽だ
フェルナの町中で一斉に見られるより、移動している方がまだ落ち着く
準備が終わり
俺たちは早朝のフェルナを出た
門を抜ける
振り返ると、数日前まで俺にとって大きすぎると思っていた町の壁が見える
そしてその先には
もっと大きな都市があるらしい
「ガルディアって、本当にそんな大きい?」
歩きながらミラに聞く
「フェルナよりは、かなり」
「どれくらい?」
「見れば分かります」
「説明放棄した?」
「セイジに建物の数で説明しても分かりにくいでしょう」
それはそうだ
俺はこの世界の町の規模を比べる基準自体ほとんど知らない
「城壁ある?」
「あります」
「フェルナより高い?」
「はい」
「門も大きい?」
「大きいです」
「人も多い?」
「多いです」
「ギルドも?」
「大きいです」
「楽しみだな」
後ろからダリオが言う
「遊びに行くんじゃないぞ」
「分かってる」
「顔が分かってない」
ルッカが横で言う
「お前までダリオ側に行くな」
街道を進む
森の中とは違い、見通しがいい場所が多い
荷車もあるため、好き勝手に道を外れるわけにもいかない
最初のうちは何事もなかった
街道を行き交う人間が俺を見る
やっぱり驚く
中には遠巻きにする人もいる
でもフェルナの門を初めてくぐったときほど緊張しない
俺の方が慣れた
それが大きい
「ゴブリン?」
小さな子供が俺を見て言った
親らしい人が慌てて手を引く
俺は何となく手を振ってみた
子供も振り返してくれた
親はもっと慌てた
「余計なことした?」
「たぶん」
ミラが笑う
「でも以前よりはいいでしょう」
「何が?」
「セイジも、人間を見るたびに身構えなくなりました」
言われて気付く
確かにそうだ
前は人間を見ただけで
敵か
逃げるか
戦うか
そればかりだった
今は
普通に道ですれ違う相手
そう思えることが少しずつ増えている
それは悪くない
街道を進みながら、俺は時々《魔力探査》を使った
人が多い場所では反応も多い
全部を拾うと頭が散らかる
だから森側だけ
前方だけ
気になる方向だけ
範囲を絞る
前よりその使い方にも慣れてきた
ただし、やっぱり地形は分からない
反応がある
それが道の上なのか、木の陰なのか
川の向こうなのか
そこまでは見えない
「左の森側、少し大きいの一つ」
俺が言う
ルッカもそちらを見る
耳を動かす
「遠い」
「同じくらい?」
「ああ」
「じゃあ大丈夫そうだな」
ダリオが確認する
「近づいているか」
意識を向ける
「動いてるけど、こっちじゃない」
「ならそのまま」
それだけ
毎回全部調べるわけではない
気になるものだけ拾う
こういう使い方の方が疲れにくい
しばらく進んだところで、街道の一部が少し崩れている場所に出た
片側は森
反対側は斜面
道の端が雨か何かで削られたらしい
荷車なら通れる
ただ、少し寄りすぎると危ない
ローデンが先に見に行く
「どう?」
俺も近づく
「端、弱い」
「土締めする?」
「今全部固める必要ない」
「じゃあ?」
ローデンが荷車の通る位置を指す
「中央寄り」
「そこなら大丈夫?」
「ああ」
俺が土魔法を使うまでもないらしい
何でも魔法で直せばいいわけじゃない
荷車を慎重に通す
問題ない
「俺、何もしてないな」
「それがいいときもある」
ローデンが言う
妙に説得力がある
そのまま先へ進む
昼を過ぎた頃
街道を行く人の数が少し減った
森が近い場所が増える
俺も《魔力探査》の範囲を広げる回数が増えた
前
右
森側
小さな反応
また一つ
近くに大きな反応はない
そう思った直後
後ろを歩いていたルッカが止まった
「音」
全員が止まる
「どこ?」
「森」
「どっち?」
ルッカが右後方を指す
俺も意識を向ける
反応
一つ
二つ
いや
もう少し奥にも
「いる」
ダリオが言う
「近いか」
「二つは近い、奥にもある」
ルッカが地面を見る
「来てる」
「街道へ?」
「ああ」
嫌な流れだ
荷車がある
人もいる
フェルナ側の同行者
俺たち六人
さらに少し前方には別の荷車も見える
「先に知らせろ!」
ダリオの声で、人間側の一人が前へ走る
俺たちは荷車を止める
ローデンが車輪と道の状態を見る
エナとミラは中央
ルッカは森側
俺は魔力探査を広げる
「右から三つくらい、でも奥にもいる!」
「種類は?」
「分からない!」
もう何度も言っている
探査は便利だ
でも種族は分からない
木々が揺れた
最初に飛び出したのは、前に見たことのある細身の魔物だった
混成魔物群にいたやつ
一体
その後ろからもう一体
「来る!」
俺は《火弾》を作る
射線
前に味方はいない
撃つ
一体へ命中
倒れる
もう一体
人間側が槍で止める
そのとき
反対側から声がした
「前にもいる!」
前方
《魔力探査》
確かに反応
二つ
いや
三つ
「前にも三!」
俺が叫ぶ
「荷車を挟むな!」
ダリオが位置を変える
人間側も動く
荷車を守りながら前後を見る
一つの方向だけなら楽だ
でも前後
さらに森側
守るものまである
「セイジ、後ろ!」
火弾
撃つ
一体倒す
次
作る
その瞬間
前方から叫び声
間に合わない
一度後ろを撃ってから
前を向いて
次の魔法を作る
それでは遅い
「くそ」
俺は火弾を作ったまま、前を見る
後ろ側に一つ維持
前側にも魔力を集める
頭の中が引っ張られる
二つの方向
「セイジ!」
「分かってる!」
前へ《風圧》
敵を押し返す
同時に
後ろに残していた火弾を撃つ
一瞬だけ
できた
でもすぐ意識が乱れる
火弾の方向がずれる
外す
「今の……」
考える暇はない
さらに別の反応
街道端から出てくる
「右!」
ルッカ
俺はそちらを向く
その瞬間
荷車の近くで嫌な音がした
土が崩れる
「止めろ!」
ローデンが叫ぶ
前後の動きで荷車を避けた人間が、道端へ寄りすぎた
端の土が崩れ始めている
しかも荷車の車輪まで近い
このまま崩れれば傾く
「セイジ、土!」
ローデン
「どこ!」
「そこだけ支えろ! 広く固めるな!」
指された場所へ手を向ける
《土成形》
崩れた土を戻す
下から支えるように形を作る
でも
右から魔物
近い
「セイジ!」
火弾を使いたい
でも今《土成形》を止めれば、荷車の下がまた崩れるかもしれない
今までなら
一つ終わらせて
次
だった
それでは間に合わない
「同時に……!」
土を維持したまま
もう片方の意識で火を作る
難しい
水と土を同時に使ったことはある
第二水場の水やりと排水
短時間
狭い範囲
単純な用途
あれは二つの魔法を一緒に動かしていた
今は違う
土は地面を支える
火は敵を狙う
全く別の目的
意識が裂ける
土へ集中すると火が消える
火へ集中すると土が緩む
「保て……!」
崩れるな
火も消えるな
右から魔物が走る
ルッカが進路をずらす
「今!」
火弾を撃つ
命中
倒れる
土は
まだ持っている
「できた……?」
「まだだ!」
ダリオの声
前方
二体
後ろ
一体
その奥にも反応
休ませてくれない
俺は土を維持したまま、もう一つ火弾を作る
今度は作った火弾をすぐ撃たない
右側に浮かせたままにする
次
左前にも魔力を集める
「おいおい……」
頭の奥が重い
一つ
二つ
土まで入れれば三つ
無理か
いや
全部を同じ強さで考えるから駄目だ
土は動かさない
形を維持するだけ
待機させた火弾も、狙いを固定しておく
今動かすものだけへ意識を強く向ける
前から一体
《風圧》
押す
その間も土は残る
右の火弾も消えない
「右、来る!」
ルッカ
待機させていた火弾へ意識を戻す
撃つ
命中
「……いける!」
前
次
火弾
撃つ
後ろ
反応
もう一つ作る
今度はすぐ撃つ
外れ
次
当たる
頭が熱い
本当に頭の中を三つに四つに分けているような感覚だ
視線は一方向しか見られない
でも《魔力探査》が周囲の反応を補う
ルッカの声が位置をさらに細かく教える
ダリオが人間側の動きをまとめる
ローデンが叫ぶ
「土、もう少し左!」
「左?」
「車輪の下!」
《土成形》を動かす
支える場所をずらす
同時に前方の火弾を維持
後方の敵を探査
「忙しすぎる!」
「喋る余裕あるなら大丈夫だ!」
ダリオに返される
「基準おかしいだろ!」
それでも少し笑いそうになった
こんな状況なのに
不思議と頭は止まらない
むしろ
何をどこへ置くか
少しずつ分かってきている
土はここ
火弾は右
探査は周囲
今使う魔法は前
全部を一つに混ぜない
別々のまま持つ
「そうか」
水と土のときは
二つを同時に使う
という一つの作業として考えていた
今は違う
別の目的
別の場所
別の魔法
それぞれを独立させたまま
同時に動かす
右の火弾を撃つ
前へ風圧
土を維持
次の火弾を作る
もう一つ待機
「セイジ、後ろは俺たちがやる!」
人間側の声
「分かった!」
全部やらなくていい
そこも大事だ
後方の反応を捨てる
人間側へ任せる
俺は前と街道端だけを見る
二体来る
火弾
一つ
二つ
別々に狙う
連射ではない
同時に浮かせ
右
左
それぞれへ飛ばす
命中
一体は倒れる
もう一体はまだ動く
ルッカが仕留める
さらに奥の反応が止まる
こちらへ来ない
「残りは?」
ダリオ
《魔力探査》を広げる
近い反応
味方の位置と照らし合わせる
一つ
遠ざかる
もう一つ
もっと遠い
「逃げてる!」
「追うな!」
「分かってる!」
戦闘が終わる
でも土はまだ終わっていない
「ローデン」
「もういい、ゆっくり戻せ」
「戻す?」
「急に消すな」
なるほど
俺は少しずつ《土成形》を緩める
その間にローデンが地面を見る
荷車を中央へ戻す
崩れた端は無理に元通りにしない
危険な場所だけ分かるようにする
「ここは後で直す?」
俺が聞く
「今じゃない」
「了解」
やっと全部の魔法を止める
その瞬間
頭が急に重くなった
「うわ」
膝へ手をつく
「大丈夫?」
エナが来る
「怪我じゃない、頭使いすぎた」
「頭?」
「魔法いっぱい」
「休む」
「はい」
素直に座る
今回は本当に疲れた
魔力そのものも使った
でもそれ以上に、意識を分け続ける方が疲れる
一つの魔法を大きく撃つ方が楽かもしれない
少し休んでいる間
エナは他の負傷者を見る
人間側に数人、軽い傷
一人は腕を切っている
ルッカは無傷
ダリオも大きな怪我なし
ローデンも問題なし
ミラも荷車の近くで無事
誰も重大な負傷はしていない
それだけで安心した
「今の、何だった?」
ルッカが隣へ座る
「何が?」
「いっぱい魔法」
「俺も分からない」
正確には
何となくは分かる
前から二つの属性を同時に扱うことはできた
水球と土成形
でも今は
土を維持しながら
火弾を待機させ
別方向へ風圧を使い
また別の火弾を動かした
一つずつ順番に使っていたら間に合わなかった
「別々に持つ感じ」
「別々?」
「土は土のことだけ、火は火のことだけ、でも同時」
ルッカが少し考える
「俺には分からない」
「俺も説明できない」
それでいい
あとでSTATUSを見れば何か分かるかもしれない
まず周囲の確認
討伐した魔物は数種類
今回も同じ群れではない
森側から街道へ流れてきた
前後から来たのも、連携していたようには見えなかった
ただ同じ時期に同じ場所へ出てきただけ
そのせいで結果的に街道が危険になった
「また奥から?」
俺がルッカへ聞く
「ああ」
「全部?」
「見た跡は」
また同じ
森の奥から外へ
少しずつ確実になっている
俺たちが偶然何度も同じものを見ているだけではない
フェルナの情報
街道の戦闘
ガルディア側の報告
全部が重なり始めている
移動を再開する前に
俺はSTATUSを確認した
前に確認した時はLEVEL10
途中の変化は分からない
いつ上がったのかも
どの魔物だったのかも不明
意識を向ける
NAME セイジ
RACE ハイホブゴブリンメイジ
LEVEL 12
HP C
MP B-
筋力 D+
耐久 C-
敏捷 C
器用 C+
精神 C+
魔力 B
SKILL
《魔力探査》
《魔力制御》
《魔力圧縮》
《並列制御》
TITLE
なし
「やっぱり増えてる」
ルッカが覗き込むように近づく
「何?」
「LEVEL12」
十から十二
十一になった瞬間は分からない
でも今は十二
能力も変わっている
敏捷
器用
精神
特に器用と精神が上がっているのが、さっきの戦いと妙に合っている気がする
そして
「《並列制御》」
新しいSKILL
名前を見れば、何となく意味が分かる
並べて制御する
別々の魔法を同時に維持して操作する
「さっきのやつかな」
「いっぱい?」
「ああ」
試しに
小さな水球を一つ作る
そのまま維持
もう片方に火弾
作るだけ
撃たない
二つを別々に保持する
前より明らかに楽だ
「できる」
でもさらに土まで動かそうとすると
頭に負荷がかかる
「……増やすほど楽にはならないな」
集中力がいる
数が増えれば雑になる
強い魔法なら負担も増えるだろう
「便利?」
ルッカが聞く
「かなり」
「疲れる?」
「かなり」
「じゃあ使いすぎるな」
「はい」
今日は素直に聞く
これ以上試す気はない
新しいSKILLが嬉しくても
移動はまだ終わっていない
俺たちは荷車を立て直し
街道を進んだ
さっき崩れた場所は、人間側が簡単な印を残した
あとから通る者が気付けるようにするらしい
それからしばらくは、大きな戦闘はなかった
俺は魔力探査を必要なときだけ使う
無駄に広げない
《並列制御》も試さない
ダリオに
「覚えたばかりのものを移動中に遊ぶな」
と言われたからだ
「遊んでない」
「顔」
ルッカが言う
「お前、本当にそれ好きだな」
「分かりやすい」
午後が深くなるにつれ
街道の様子が変わっていった
荷車が増える
人が増える
装備のしっかりした冒険者も多い
商人らしい一団
大きな荷を積んだ車
魔法使いらしい杖を持つ人間
フェルナへ入る道より、明らかに交通量が多い
「近い?」
俺がミラへ聞く
「もう少しです」
「見える?」
「そのうち」
ずいぶん雑な答えだ
でも少しして
本当に見えた
最初
遠くに灰色の線があるように見えた
山ではない
森でもない
近づくにつれて高さが分かる
「……あれ?」
俺は歩く速度を落とした
ルッカも顔を上げる
「壁」
「あれ全部?」
ミラが頷く
「ガルディアです」
「でか」
思っていたよりずっと大きい
フェルナの壁を初めて見たときも感動した
でも比較にならない
遠くからでも分かる高さ
長く続く城壁
その向こうに見える建物
一部は壁より高い
塔らしいものまである
近づくほど人と荷車が増える
大きな城門
衛兵
冒険者
商人
旅人
何かの素材を積んだ荷車
鎧を着た人間
杖を持った人
前世の記憶を使っても
こんな場所を歩いたことはない
大阪のビル街とは全く違う
でも
人と物が大量に集まる場所の圧力みたいなものは少し似ている
フェルナが町なら
こっちは
「町いうより、ほんまに街やな」
思わず前世の言葉が出た
ミラが振り返る
「今、少し変な言い方しました?」
「気にしないで」
ルッカは城壁を見上げている
耳が忙しく動いている
「音、多い」
「フェルナより?」
「ずっと」
「匂いは?」
「もっと多い」
「大丈夫?」
「ああ」
今度は俺が言われる前に聞いた
城門へ近づく
当然
また視線が集まる
ハイホブゴブリンメイジの俺
ゴブリンのルッカ
人間たちと一緒に荷車を引いて大都市へ入ろうとしている
そりゃ見る
「また始まったな」
「何が?」
ルッカ
「視線」
「慣れた?」
「ちょっと」
俺は胸のあたりへ手をやる
フェルナ支部で作られた特例探索者の記録
万能な身分証ではない
ここガルディアで自動的に同じ扱いになるわけでもない
だからフェルナ側の同行者がいる
記録を持って
事情を説明して
森深部の情報を共有するために来た
門で止められる
当然だ
衛兵の目が俺とルッカへ集中する
「その二体は?」
フェルナ側の人間が前へ出る
書類を出す
説明
フェルナ冒険者ギルド
特例探索者
森深部の魔物移動
調査情報
同行者
知らない言葉も混ざる
俺は黙って待つ
前なら、自分のことを自分で説明できないのが少し悔しかった
今は違う
俺が話せることも増えた
でも
制度の説明はミラや人間側の方が正確だ
任せればいい
しばらく確認が続く
衛兵の一人が俺を見る
「名前は?」
「セイジ」
「言葉は分かるのか」
「簡単なら」
「目的は?」
これは言える
「森の情報、持ってきた、ガルディアのギルドに話す」
衛兵が少しだけ表情を変える
「戦闘目的ではない?」
「違う、でも魔物来たら戦う」
横でダリオが小さくため息をついた
「余計な一言を足すな」
「でも本当だろ」
衛兵の口元が少し動いた
笑ったのかもしれない
確認の末
門を通る許可が出る
城門の内側へ一歩入った瞬間
俺はまた止まりそうになった
広い
道が
フェルナよりずっと広い
荷車が何台も行き交える
左右の建物も大きい
人が多い
店の数も比べものにならない
武器
防具
布
食料
見たことのない道具
魔物素材らしいものを扱う店
少し遠くには、魔法を使った何かの光まで見える
「……全部見たい」
「今日は駄目です」
ミラが即答する
「まだ何も言ってない」
「言いました」
「独り言」
「聞こえました」
ダリオも言う
「まずギルドだ」
「分かってる」
前を見る
城壁の向こう
知らない街
知らない人
知らない魔法
知らない情報
そして
森の奥へつながる何か
今までよりずっと大きな世界が
目の前に広がっていた




