うまい飯と、言葉の壁
第7回 うまい飯と、言葉の壁
目が覚めたとき
最初に聞こえたのは
「アト」
だった
「…………」
目を開ける
目の前
ルッカ
「アト」
「…………」
朝一番に何を言うてんねん
「それ、たぶんありがとうやぞ」
「アト」
「おはようちゃうぞ」
「アト」
「便利な言葉として使うな」
ルッカが笑う
「絶対分かってやってるやろ」
異世界生活
六日目の朝
俺たちの家と呼ぶにはまだ少し恥ずかしい岩陰で
人間語らしき言葉が乱用されていた
「誰が教えたんや」
俺だった
「教育失敗したな」
身体を起こす
左腕
「…………」
痛み
ある
でも
「だいぶマシ?」
昨日よりさらに軽い気がする
布を見る
ミラにもらったもの
前に使っていた布よりずっときれいだ
「これも助かってるな」
エナ
ミラ
昨日
初めて名前を交換した人間
人間
その言葉を考えても
最初の日ほど身体が固くならなくなっている
「慣れるもんやな」
いや
油断は駄目だ
エナとミラが敵対しなかっただけ
すべての人間が同じとは限らない
むしろ最初に会った三人は俺たちを警戒していた
「……あれも」
今なら
少しだけ見方が変わる
俺はゴブリン
森
人間の生活圏が近いらしい場所
火の跡
近づく
止まれと言われても分からない
さらに魔力を集める
「そら怖いよな」
何度考えてもそうなる
俺だって怖い
向こうが理由もなく襲ってきたと決めつけるのは違う
「次会ったら……」
話せるか
「無理やな」
今の人間語
名前
アト
以上
「圧倒的に語彙が足りん」
敵じゃない
攻撃しない
ごめん
分からない
待って
助けて
食べ物
水
家
交換
「必要な言葉、多すぎやろ」
前世では何も考えず使っていた
日本語
それがどれだけ便利だったのか
「一から言葉覚えるって大変やな」
ルッカを見る
「アト」
「それしか知らんもんな」
「アト」
「俺も似たようなもんやけど」
沢へ
朝の水
傷の処置
布を外す
「お」
今日は
昨日より分かりやすい
赤みが少し減っている
腫れも
最初より明らかに小さい
「治ってきてる?」
ルッカも覗く
傷の周り
軽く押す
「そこは痛い」
別
「そこは大丈夫」
腕を曲げる
伸ばす
「前より動く」
まだ無理はしない
でも
「ええ感じやな」
嬉しい
傷を水で洗う
薬草
確認
葉の縁
匂い
「これ」
ルッカへ
頷く
「もう間違えへんで」
たぶん
潰す
塗る
「っ……」
しみる
「そこは変わらんな」
新しい布を巻く
昨日より上手くできた
「どう?」
ルッカが結び目を見る
手を伸ばす
「締めすぎんなよ」
少しだけ直される
「今日は優しいやん」
「アト」
「それ俺が言うほうや」
拠点へ戻る
朝飯
籠の中
橙色の実
青い実
白っぽい根
「…………」
並べる
「またこれか」
食べられる
ありがたい
でも
「肉食いたい」
「グギャ!」
「せやんな」
初めて完全に意見が一致した気がする
「あと」
昨日のパンを思い出す
「パン食いたい」
硬かった
少し酸っぱかった
でも
焼いた穀物の香り
薄い塩味
「塩……」
口の中が思い出している
「塩欲しいなあ」
肉
塩
焼く
「…………」
想像
「やばい」
絶対うまい
「塩焼き……」
「グギャ?」
「お前にはまだ早い世界や」
ルッカは不満そう
「でもな、肉に塩振ったら絶対うまいねん」
肉
指でぱらぱら
食べる
美味しい
身振り
「こう」
ルッカが目を輝かせた
「そこは伝わるんや」
塩が欲しい
人間は持っている
「交換できたらな」
俺たちには何がある
森の実
根
薬草
肉
「人間も森に採りに来てるもんな」
エナも籠を持っていた
ミラも植物を知っていた
森のものだけでは交換材料として弱いかもしれない
「そもそも交換って伝えられへん」
最大の壁
言葉
「結局そこやな」
今日の目標が決まる
「人間語」
と言っても
エナとミラが来る保証はない
「来んかったら練習できへん」
昨日の音を思い出す
「エナ」
「ミラ」
「アト」
発音
口
舌
喉
「アト」
昨日より少し言いやすい
「アト」
ルッカ
「競うな」
「アト」
「お前のほうが上手い気するの腹立つな」
ルッカは得意そう
「ほな次」
自分を指す
「セイジ」
ルッカ
「ルッカ」
俺
「セイジ」
ルッカが俺を指す
「セイジ」
「言えるやん」
元々ゴブリン同士では名前が通じていた
ただ人間の発音に寄せると少し違う
「エナ」
俺が言う
「エナ」
ルッカ
「ミラ」
「ミラ」
「…………」
普通に言える
「何でお前そんな発音ええねん」
俺のほうが前世で人間だったのに
「身体の使い方?」
ルッカの口を見る
「もう一回、エナ」
「エナ」
「…………」
舌
口
真似
「エナ」
さっきより近い
「おお」
先生が増えた
「人間語の発音をゴブリンに習う元人間って何やねん」
でも使えるものは使う
「アト」
「アト」
「エナ」
「エナ」
「ミラ」
「ミラ」
朝から二匹で発音練習
「傍から見たら怖いやろな」
森の岩陰でゴブリン二匹が人間の名前を繰り返している
「怪しい儀式やん」
腹が鳴る
「…………」
現実へ戻された
「飯やな」
実を食べる
酸っぱい
青いほう
苦い
「…………」
ルッカを見る
「狩り行く?」
「グギャ!」
即答
「小さいやつな」
左腕
「無茶なし」
大型獣
狼
ああいうのは避ける
食料になる小動物
「一匹取れたら十分」
ルッカはもう槍を持っている
「やる気すごいな」
俺も薄い石
持ち手付きの籠
「籠は置いてく?」
狩りなら邪魔
でも採取もできる
「持っていこ」
今日は俺が持つ
片手で持てる
「改良の成果や」
出発
沢沿い
人間と会った方向から少し外れる
ルッカが先頭
俺が後ろ
今日は
左腕が少し動かしやすい
「治るってありがたいな」
当たり前だった
怪我をしたら
病院
薬
消毒
包帯
今は沢の水と草と布
「ミラに会えたん運良かったな」
草についても
少なくとも完全に間違ったものではなさそうだと分かった
「ルッカもな」
最初に草を教えてくれた
「お前おらんかったら、俺どうなってたんやろ」
ルッカが振り返る
「何でもない」
前
進む
途中
橙色の実
「帰りに採ろ」
位置を覚える
特徴
木
近くの大きな岩
「目印」
地図が欲しい
「紙ないけど」
頭の中
沢
拠点
実の木
薬草
「少しずつ森の地図できてきたな」
ルッカには最初からあるのだろう
頭の中に
「俺も覚えよ」
しばらく歩く
ルッカが止まる
「何?」
しゃがむ
地面
足跡
「これ」
昨日も見たような小さい跡
ルッカが指す
俺
前
槍
「追う?」
頷く
「小さい?」
手で高さ
ルッカは膝より低い位置
「ならええか」
追跡
ルッカ
足跡
折れた草
土
俺にはほとんど分からない
「すごいな」
何度見ても
ルッカの森での能力は高い
戦闘力だけではない
生きる力
「俺が魔法使えるからって、偉そうにできへんな」
むしろ生活では教えてもらってばかり
途中
俺も《魔力感知》
外
意識
「…………」
薄い感覚
広げる
昨日
一度だけ
小動物の場所らしきものを感じた
「期待しすぎるな」
自分へ
目
耳
ルッカ
全部使う
「…………」
前
何か
「ある?」
弱い
気のせいか
ルッカが同じ方向を見る
「…………」
少し嬉しい
でもまだ言わない
進む
茂み
その先
茶色
「いた」
角
「角ウサギ」
初めて見たものと似ている
小さな角
茶色い身体
「食えるやつ」
ルッカが低くなる
俺も
役割
もう分かる
ルッカ
追い込み
俺
火弾
「でも」
殺す
食べるため
「…………」
最初よりは
覚悟できる
「生きるためや」
角ウサギが草を食べている
ルッカが回る
俺は反対
距離
魔力
まだ集めない
ルッカが石を投げた
角ウサギが跳ねる
「こっち」
走る方向
俺
「火弾」
小さめ
地面
ぼっ
角ウサギが驚き
方向転換
ルッカ側
「グギャッ!」
槍
突く
外れた
「うわ!」
角ウサギが横へ
「逃げる!」
俺の近く
火弾
「いや近い!」
撃てない
足元を通る
「速っ!」
追う
ルッカ
俺
角ウサギ
「待て!」
待つわけない
木の根
俺
引っかかる
「うわっ!」
前へ
転ぶ
「痛っ!」
右手
地面
左腕は庇った
「セーフ!」
何がセーフなのか
顔に葉っぱ
「くそ」
起きる
「ルッカ!」
前
ルッカが角ウサギを追っている
「待って!」
俺も
走る
左腕
痛みは少し
でも大丈夫
角ウサギ
倒木
その下へ潜ろうとする
「逃げられる!」
ルッカが槍を投げる
槍
倒木の前
地面へ刺さる
角ウサギが止まる
「今!」
俺
火弾
直接
狙う
「…………」
一瞬
ためらう
でも
「ごめん!」
撃つ
火
命中
小さな身体が転がる
「…………」
動く
まだ
ルッカが駆け寄る
槍
短く
終わらせた
「…………」
静か
「取れた」
嬉しい
同時に
少し重い
「いただきますやな」
角ウサギへ
頭を下げる
「食べるから」
無駄にしない
ルッカはもう獲物を持ち上げている
「切り替え早いな」
「グギャ!」
「肉やな」
拠点へ帰る
途中
予定通り実も採る
籠
橙色
青
「肉あるから少なめでええ」
ルッカが肉を抱えている
機嫌がいい
「そんな嬉しい?」
「グギャ」
「俺も嬉しいけど」
今日は
ちゃんと料理したい
「料理って言うても焼くだけやけど」
前世
焼肉
塩
タレ
「タレ……」
醤油
味噌
砂糖
酒
にんにく
「考えたら負けや」
今ない
でも
「工夫できるか?」
森
食べられる根
実
「酸っぱい実」
橙色の実
酸味
「肉に合う?」
柑橘みたいな感じではない
でも
酸味
「試す価値あるな」
拠点
「ただいま」
荷物
獲物
「今日はごちそうやぞ」
ルッカ
「グギャ!」
「分かりやすい」
まず解体
ルッカの石刃
「それ欲しいなあ」
薄い石を取り出す
俺のはただ割れた石
ルッカのは木の柄に固定
「作りたい」
今日は
見ながら使う
ルッカが皮
切る
俺も手伝う
「ここ?」
ルッカが指示
切る
「…………」
難しい
肉を傷つける
「ごめん」
でも前よりはマシ
最初に
一人でやったときは本当にひどかった
「成長してる」
少しずつ
肉
分ける
「全部焼く?」
保存
まだ方法がない
「今日食べる分」
残り
「どうする?」
ルッカは焼けば全部食べそう
「お前基準はあかん」
保存
干す?
燻す?
「知識はあるけど、ちゃんとやり方知らんな」
生半可な前世知識
危ない
「腐ったら終わりやし」
今日は多めに焼く
残りは火を通して早めに食べる
「まず安全」
焚き火
枯れ草
右手
魔力
小さい火
「火弾」
飛ばさない
触れる
ぼっ
「安定」
もう着火はかなり慣れた
火
枝
肉
焼く
「今日はここから」
橙色の実
切る
汁
「酸っぱい」
肉の一部へ
少しだけ
塗る
ルッカが止めようとする
「待て待て」
「グギャ!」
「毒ちゃう」
実を食べる
「食えるやろ」
肉
実
合わせる
「実験」
ルッカの顔
不安
「お前が食べ物でそんな顔すんの珍しいな」
まず普通の肉
焼く
次
実の汁を塗った肉
焼く
香り
「…………」
少し違う
「ええ匂い?」
分からない
腹が減っているから全部いい匂い
「食べよ」
普通
一口
「うまい!」
肉
久しぶり
「これこれ!」
ルッカ
すでに二口目
「早い!」
次
実の汁
「…………」
食べる
「ん?」
酸味
少し
肉の脂
「悪くない」
むしろ
「普通にうまいやん」
塩があれば
絶対もっといい
「ルッカ」
渡す
警戒
「食ってみ」
一口
「…………」
ルッカ
止まる
「どう?」
もう一口
「うまい?」
「グギャ!」
「いけるやろ!」
成功
「料理や!」
焼くだけから
一歩
「異世界初の味付け!」
大げさ
でも嬉しい
橙色の実
食べられる
酸味
肉に使える
「これ覚えとこ」
全部には使わない
ルッカは普通の肉も好き
「食べ比べ」
普通
酸味
根
実
「豪華やな」
前世なら質素
今は宴会
「塩あったら完璧や」
また塩
「ほんま欲しい」
人間
交換
「…………」
エナ
ミラ
「次会えたら」
塩
どう伝える
味
白い粒
「無理やな」
そもそも塩という人間語を知らない
「見せてもらわんと覚えられへん」
言葉の壁
高い
「でも」
昨日
名前
アト
一日で一つ
「一日一個でも」
三十日で三十個
百日で百個
「会えたらの話やけど」
それでも
やる
「人間語、覚える」
短期目標
決めた
「ちゃんと話す」
いつかではなく
やる
「まず十個」
目標
「十個覚える」
名前は除外
言葉
アトが一個
「あと九個」
何を優先する
「敵じゃない」
これ最優先
次
「待って」
「分からない」
「食べ物」
「水」
「交換」
「はい」
「いいえ」
「危ない」
「助ける」
「…………」
十個超えた
「必要なん多いな」
でも順番
まず
「敵じゃない」
これを言えたら
最初の三人のような状況も変わるかもしれない
「どう覚えるかやけど」
エナ
ミラ
頼るしかない
でも
毎日会うわけには
「…………」
そのとき
ルッカが食べる手を止めた
「何?」
耳
森
「…………」
俺も聞く
枝
足音?
「誰か?」
緊張
火
肉
煙
「匂いで来た?」
獣ならまずい
ルッカ
槍
俺
立つ
右手
魔力はまだ
木々
がさ
「…………」
人影
「人間?」
心臓
速い
「二人」
見覚え
「エナ」
明るい髪
その後ろ
「ミラ」
昨日の二人
「来た」
嬉しい
でも
「何でここ?」
拠点
近い
見つかった
「…………」
怖い
ここ
俺たちの場所
人間に知られた
「どうする」
逃げる?
隠す?
もう遅い
エナはこちらを見ている
「セイジ」
「…………!」
名前
呼ばれた
「エナ」
俺も
「エナ」
ルッカが
「アト」
「何で今やねん!」
エナが笑う
ミラは昨日より警戒が少ない
でも周囲をよく見ている
「ミラ」
呼ぶ
ミラが頷く
「来たん?」
通じない
俺は拠点
エナ
指す
「…………」
エナが手に何か持っている
小さな包み
「また?」
近づく
距離は保つ
エナが包みを地面へ
開く
「…………!」
白い
いや
少し灰色
粒
「まさか」
俺
凝視
「塩?」
エナには通じない
指先で少し
舐める仕草
ミラが何か言う
エナが頷く
「食べてええ?」
ほんの少し
指
舐める
「…………」
しょっぱい
「塩や!」
声が出た
「塩!」
まさか
さっきまで欲しい欲しいと言っていたもの
「ほんまに塩や!」
ルッカ
何事かと近づく
「これ!」
少しだけ
「舐めてみ」
ルッカ
舐める
「…………」
目
大きくなる
「な?」
「グギャ!」
「これや!」
感動
「文明!」
エナが笑っている
「エナ!」
包み
胸
頭を下げる
「アト!」
これは分かる
「アト!」
エナが頷く
「アト」
ルッカも
「今は合ってる!」
ミラが何か言う
「…………」
分からない
でも
エナが昨日の布
俺の腕
指す
「傷?」
布を見せる
「これ」
腕
曲げる
笑う
「大丈夫」
言葉はない
エナは少し安心した顔
「心配して来た?」
分からない
塩も
昨日のパンのお礼?
昨日助けた返礼?
それとも別の意味?
「…………」
聞けない
言葉がない
「もどかしいな」
俺は焚き火を見る
肉
まだある
「…………」
思いつく
「食べる?」
肉
エナ
口
「食べる?」
エナが首を傾げる
肉を一つ
葉の上
自分
食べる
「うまい」
エナへ
差し出す
近づきすぎない場所へ置く
「これ」
ルッカが肉を見る
「お前のちゃう」
ルッカを止める
エナがミラを見る
ミラ
肉
俺
火
少し考える
何か言う
エナが頷く
肉を取る
「食べる?」
一口
「…………」
エナ
目
「どう?」
もう一口
「お」
食べる
「うまい?」
エナが何か言う
短い
「――ラ」
「…………」
何?
もう一口
また
「――ラ」
ミラが少し笑う
「意味」
状況
食べた
表情
良い
「うまい?」
俺は自分も食べる
「うまい」
エナ
「――ラ」
「これ、うまい?」
可能性
俺は肉を指す
食べる
笑う
エナの音を真似
「ラ?」
エナが笑う
首を振る
「違う?」
ゆっくり
エナ
「――ラ」
「…………」
最初の音が難しい
「ウ……ラ?」
首
少し
「ム……ラ?」
また違う
「発音むずい!」
エナが何度も
俺
真似
「……メラ?」
エナ
頷いた
「メラ?」
もう一度
「メラ」
エナが笑う
「これ」
肉
「メラ?」
エナ
「メラ」
「うまい?」
たぶん
おいしい
良い味
何かそういう意味
「二個目!」
アト
メラ
「人間語二個!」
嬉しい
正確な意味はまだ分からない
でも
食べ物を食べて
笑って
メラ
「美味しい系や」
覚える
「メラ」
ルッカ
「メラ」
「お前また発音うまいな!」
エナが笑う
ルッカ
肉
「メラ!」
「使い方合ってそうやな」
俺も
肉
「メラ」
エナ
頷く
「よし」
今日一個
もう増えた
「あと八個」
目標十個
すぐには無理
でも
できる
俺は塩を見る
「これの名前」
知りたい
塩
指す
「…………?」
自分
「セイジ」
エナ
「エナ」
塩
「?」
伝わるか
エナが
塩を指す
「――サル」
「サル?」
猿?
「いや日本語ちゃう」
もう一度
エナ
「サル」
「サル」
頷く
「塩がサル?」
たぶん
「三個目」
今日だけで二つ増えた
「サル」
塩
「メラ」
うまい
「アト」
ありがとう
「すごい」
組み合わせ
できる?
塩
肉
俺
「サル」
肉へ少し振る
焼いた肉
食べる
「…………!」
「うっま!」
本物
「これや!」
塩味
肉
「メラ!」
エナが笑う
「メラ!」
ルッカ
塩肉
食べる
「…………」
停止
「どう?」
「メラ!」
「せやろ!」
ルッカの目
完全に変わった
「お前、塩の存在知ってもうたな」
危険
「全部使うなよ」
包みを守る
ルッカが狙う
「保存!」
大事
「少しずつ!」
エナ
ミラ
俺たち
火
肉
塩
四人
いや
種族で分ければ二人と二匹
同じ場所
食べる
「…………」
不思議
初日
人間から逃げた
数日前
人間は怖かった
今
一緒に肉を食べている
「こんなことあるんやな」
ミラは完全には座らない
少し離れた場所
警戒は残っている
それでも
肉を一切拒絶するわけでもない
俺が葉に置く
ミラを見る
「食べる?」
身振り
ミラ
少し考える
取る
一口
「…………」
俺
待つ
ミラ
小さく
「メラ」
「よっしゃ!」
思わず声
ミラが驚く
「ごめん」
でも嬉しい
「料理褒められた!」
焼いただけ
実の汁
塩
「料理や」
立派な料理
「俺の異世界料理第一号」
ルッカを見る
「俺らのやな」
狩ったのは二人
解体も二人
火は俺
森の知識はルッカ
塩はエナ
「四人合作?」
ミラも
まあ
「食べてくれた」
十分
食事
言葉
少しずつ
俺は覚える
エナが肉
「メラ」
俺
「メラ」
塩
「サル」
エナ
「サル」
礼
「アト」
「アト」
「…………」
単語だけ
会話ではない
でも
楽しい
「勉強ってこんな楽しかったっけ」
前世
学生時代
英単語
覚えるの嫌だった
「必要になると違うな」
一個覚えれば
できることが増える
人と近づける
「もっと」
知りたい
俺は水を指す
「これ?」
エナを見る
水
「?」
エナ
「――ア」
「ア?」
もう一度
「――ア」
「…………」
音が短い
「ア」
エナ
少し首
俺の発音を直す
「――ア」
「ワ……ア?」
違う
何度か
「ヴァ?」
エナが頷く
「ヴァ」
水
「四個」
ルッカ
「ヴァ」
「やっぱお前上手い!」
悔しい
次
火
「これ?」
指す
エナ
「――ファ」
「ファ?」
火
「ファ」
頷く
「五個」
覚えすぎ?
「待って」
頭
アト
メラ
サル
ヴァ
ファ
「混ざる」
限界
「今日はここまで」
人間語
五つ
正確な意味は
アト=礼
メラ=おいしい系
サル=塩
ヴァ=水
ファ=火
たぶん
「復習や」
塩
「サル」
水
「ヴァ」
火
「ファ」
肉
「…………」
知らない
「次やな」
食べる
名前
危険
敵じゃない
「欲しい言葉いっぱい」
でも焦らない
エナとミラも
俺たちの言葉を知りたいのか
ルッカを指す
何か聞く
「…………」
ルッカ
理解できない
俺
「ゴブリン語教える?」
水
ゴブリン語
「グァ」
エナ
「グァ?」
「そう」
人間語
「ヴァ」
ゴブリン語
「グァ」
エナが
「グァ」
「おお!」
今度は向こう
「交換や!」
言葉の交換
水
ヴァ
グァ
火
俺たちの言葉
「ギファ」
エナ
「ギファ」
「うまい!」
ルッカも嬉しそう
エナ
火
「ファ」
俺
「ファ」
俺たち
「ギファ」
エナ
「ギファ」
「…………」
すごい
一方的に教えてもらうだけではない
「これなら」
対等
少しだけ
「交換できる」
言葉
物
いつか
「交易とか」
まだ早い
でも
塩
布
金属
俺たちが森で集めるもの
「可能性あるな」
ミラが俺たちを見ている
考えている顔
何を考えているのか
知りたい
「言葉覚えたら」
聞ける
エナ
ミラ
どこから来た
何をしている
俺たちを怖いと思っているか
人間はゴブリンをどう思うか
「知りたいこと多すぎる」
だから
「覚えよ」
人間語
本気で
食事が終わる
エナとミラ
帰る
エナ
手
「セイジ」
「エナ」
「ルッカ」
「グギャ」
「ミラ」
頷く
俺
塩の包み
「アト」
エナ
ミラ
「アト」
ミラが何か言う
長い
「…………」
全然分からない
「まだ無理やな」
苦笑
でも最後
ミラ
「――アト」
「アト?」
たぶん
こちらの肉への礼
「お互い様やな」
手を上げる
「またな」
エナ
手
二人
森へ
消える
「…………」
静か
ルッカ
俺
残った肉
塩
「…………」
ルッカの手が塩へ
「待て」
掴む
「大事に使う」
「グギャ」
「肉には少し」
「グギャ!」
「いっぱいはあかん」
塩
保存
袋が欲しい
「この包みそのまま使お」
湿気
水
注意
「屋根の下」
置き場所
石の上
倒れない
「宝物やな」
前世なら数百円
今
価値
分からない
「大事にしよ」
夕方
残った肉
塩
橙色の実
「どっちがうまい?」
普通塩
実汁+塩
「比較」
焼く
一口
「…………」
実汁
塩
「こっち」
ルッカ
両方
「どっち?」
ルッカ
両方取る
「比較の意味!」
食べる
「メラ」
「それ覚えたん便利やな」
どっちも美味しいらしい
「俺もそう思う」
メラ
短い
使いやすい
「メラ」
俺
「メラ」
ルッカ
二人で笑う
食後
人間語復習
地面
石
五つ並べる
一つ目
「アト」
頭を下げる
二つ目
「メラ」
食べる
三つ目
「サル」
塩
四つ目
「ヴァ」
沢
五つ目
「ファ」
火
「よし」
ルッカ
「アト」
「メラ」
「サル」
「ヴァ」
「ファ」
「完璧やん」
俺
「アト」
「メラ」
「サル」
「ヴァ」
「ファ」
「…………」
言えた
「五個」
昨日一個
今日四個増えた
「十個目標、半分」
ただし
「単語覚えただけや」
文章
文法
語順
発音
何も分からない
「壁高いな」
でも
登れない壁ではない
そう思える
最初の日は
ただの音
今は
火を見て
「ファ」
水を見て
「ヴァ」
塩を見て
「サル」
美味しいものを食べて
「メラ」
何かしてもらったら
「アト」
「…………」
世界に
少しずつ名前がついていく
俺が知っていた日本語とは違う名前
この世界の
人間の言葉
「面白いな」
俺は火を見る
「ファ」
ルッカ
「ギファ」
「そう」
同じもの
二つの言葉
「ファ」
「ギファ」
どちらも火
「…………」
人間とゴブリン
違う
言葉も
姿も
暮らしも
でも
火を見て暖かいと思うのは
「一緒なんかな」
肉を食べて
美味しいと思う
怪我をしたら心配する
何かもらったら礼を言う
「…………」
初日の三人も
そうなのかもしれない
名前すら知らない
怖かった
でも
向こうから見た俺も怖かった
「いつか」
会うことがあれば
「敵ちゃうって言いたいな」
それだけ
言えたら
最初とは違う結果になるかもしれない
短期目標
「人間と話す」
決定
スローライフ
そのためにも必要
人間の町
塩
布
道具
食べ物
そして
人間そのもの
「一人で暮らしたいわけちゃうもんな」
静かに暮らしたい
でも
誰とも関わらない生活ではない
飯を食べて
笑って
話せる相手がいる
「それがええ」
隣
ルッカ
もう寝床
「早いな」
俺も火を小さくする
塩
屋根下
籠
食料
確認
「家っぽい」
物が増えた
管理するものも増えた
「泥棒来たら困るな」
森に泥棒がいるか知らない
「ルッカが全部食うほうが先か」
「グギャ?」
「何でもない」
岩陰
横になる
左腕
今日は
狩り
採取
料理
人間との接触
かなり使った
「ちょっと痛い」
でも悪化した感じはない
「明日は休ませよ」
無理しない
傷が治るまで
大型獣は絶対なし
「小さい獲物も毎日はやめよ」
生活
食料
保存
考えること
まだ多い
「保存食も欲しいな」
肉
干す
塩
「…………」
塩漬け?
知識
曖昧
「適当にやるん危ないな」
食中毒
異世界でそれは洒落にならない
「ちゃんと分かってから」
エナやミラに聞けたら
でも
「保存って人間語知らん」
また言葉
「結局全部そこへ戻るな」
笑う
人間語
五つ
頭の中
「アト」
礼
「メラ」
美味しい
「サル」
塩
「ヴァ」
水
「ファ」
火
「…………」
忘れない
明日も復習
次にエナへ会えたら
「肉」
覚えたい
食べる
危険
待つ
「敵じゃない」
最優先
どうやって身振りで伝えるか
「難しいな」
でも考える
考えられる
昨日まで
方法すらなかった
「進んでる」
少しずつ
異世界で迎える六度目の夜
俺の左腕には、人間からもらった布が巻かれていた
屋根の下には、人間からもらった塩が置かれていた
隣には、塩肉の味を知ってしまった食いしん坊のゴブリンが寝ていた
「ルッカ」
「グギャ……」
「今日の飯」
少し考える
「メラ?」
暗闇
返事
「メラ」
「…………」
笑う
「せやな」
うまかった
食事も
今日という一日も
言葉の壁は
まだ高い
向こう側がほとんど見えないくらい高い
それでも
壁には今
小さな足場が五つできていた
アト
メラ
サル
ヴァ
ファ
たった五つ
それでも昨日の俺より
確実に向こう側へ近づいている
「……明日も一個、覚えられたらええな」
目を閉じる
沢の音
森の音
ルッカの寝息
俺たちが作った屋根の下には
初めて手に入れた塩がある
そして俺の中には
新しい短期目標が一つ増えていた
人間と話す
いつかではなく
少しずつでも
本当に話せるようになる
その先に
パンも
塩も
町も
誰かと笑って囲む飯もあるなら
「スローライフのためにも、勉強せなあかんな」
そんなことを考えながら
俺は異世界で六度目の眠りへ落ちていった




