↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
56/96

みんなの得意なこと

第56回 みんなの得意なこと


何日か経つと、第二水場へ来る人の数だけでなく、ここですることの種類まで増えてきた


朝から水を使う人がいて、少し離れたところでは道具を広げている人がいる


エナは清潔な布や薬草を確認し、ミラは前に持ち込まれた物や最近聞いた話を整理している


ルッカは第二水場へ着いたと思ったら、ほとんど休まず森の方へ出ていった


俺はその後ろ姿を見送りながら、何となく落ち着かなかった


「ルッカ、どこ?」


近くにいたミラへ聞くと、ミラは森の方向を指した


「採取に使う道を見てくるって、それと危ない跡が増えてないか確認するって言ってたよ」


「一人?」


「近いところだけだって」


俺も行った方がいいだろうか


そう考えて一歩動いたところで、後ろからエナに呼ばれた


「セイジ、ちょっといい?」


振り返る


エナの前には救護用品が広げられていた


この前使った分もある


清潔な布


薬草


小さな器


紐


すぐ使えるようにまとめてある物と、補充した方がよさそうな物が分けられていた


「これ、少ない?」


俺が聞く


「清潔な布が少し減ったわね、薬草も種類によっては補充したい」


「取りに行く?」


「今すぐじゃなくていいわ、まず何が足りないか分けてるところ」


「分ける?」


「必要なものが分からないまま取りに行っても仕方ないでしょう」


なるほど


俺は横に座り、布の束を見る


何か手伝えるかと思ったが、どの薬草が何に使えるかまでは俺には分からない


以前より見覚えのあるものは増えている


でも、似た葉まで全部同じに見えてしまう


「これ、治す?」


一本の薬草を指す


エナが少し笑った


「何を?」


「怪我」


「怪我にもいろいろあるから」


またそこからだった


俺は薬草から手を離した


「エナ、分かる」


「ある程度はね」


「俺、分からない」


「それでいいのよ」


最近、そう言われることが増えた


分からないことを無理に自分でやるより、分かる人へ聞いた方が早い


頭ではもう理解している


問題は、体がまだ勝手に動くことだった


「セイジ」


今度は別方向から声が飛んできた


ローデンだった


何本かの木材を抱えている


「こっち手伝ってくれ」


「分かった」


俺は立ち上がる


エナを見ると、


「こっちは大丈夫」


と手を振られた


ローデンについていくと、水場から少し離れた作業場所に木材が並んでいた


以前から雨を避けるための簡単な場所はある


ただ、人が増えたり道具を広げたりすると、端の方が雨に濡れやすいらしい


「ここを少し伸ばしたい」


ローデンが地面と柱を交互に指す


「大きく?」


「少しだ、全部作り直す必要はない」


俺は頷く


また「少し」だ


最近は何でも少しずつ増える


試験栽培も


道具を置く場所も


人との関わりも


一気に完成するものがほとんどない


「土?」


「まずここの足元を頼む」


ローデンが示した場所へ《土成形》を使う


盛り上がっていた土を均し、木材を置きやすくする


完全に平らにしようとすると、


「そこまでいらない」


とすぐ止められた


「なんで?」


「水が流れなくなる」


「水?」


「少し傾いてた方がいい」


俺は地面を見る


俺にはほとんど平らに見える


ローデンには違いが分かるらしい


「難しいな」


「慣れだ」


短く返される


俺が魔法で土を動かせても、どういう形が使いやすいかまで勝手に分かるわけではない


そこはローデンの方がずっと詳しい


「じゃあ、ここ?」


俺が聞く


「もう少し向こう」


直す


「これ?」


「それでいい」


少しずつ合わせていく


ようやく形が決まりかけたところで、また声が飛んできた


「セイジ!」


今度はダリオだった


俺は顔を上げる


「なに?」


「少し来い」


ローデンを見る


「行ってこい、こっちは木を合わせてる」


俺はダリオの方へ走った


第二水場から森へ続く道の入口近くで、ダリオが地面に枝を置いている


枝は何本かの方向へ伸びていた


「何これ?」


「道だ」


「道?」


「よく使う方角を分けてる」


俺はしゃがんで見る


一本はハルナ側


別の一本は採取へ使う方


もう一本は俺にはよく分からない


「ここ、危ない?」


「最近使ってない方だ、少し先で見通しが悪い」


ダリオは周囲を見ながら続ける


「人が増えれば、同じ場所を通る人数も増える、何かあった時に戻れる道くらいは分かるようにしておいた方がいい」


全部は分からない


俺は指で枝を追う


「こっち、安全?」


「今はな」


「ずっと?」


「それは分からん」


俺は頷いた


森なら変わる


危険生物が移動することもある


木が倒れることもある


昨日まで安全でも、ずっと同じとは限らない


「だから、見る?」


「そういうことだ」


そこへルッカが戻ってきた


「セイジ」


「どうだった?」


「こっち、大丈夫」


指したのは採取に使う方向だった


「でも、向こう」


別方向


「足跡、増えた」


「何の?」


「大きいのじゃない、でも何かいる」


ダリオが聞く


「新しい?」


ルッカは少し考える


「前になかった」


「じゃあ今日はそっちを使わない」


決めるのが早い


俺だったら、もう少し見に行こうとしたかもしれない


でもダリオは危険かどうかを確かめるために誰かを入れるのではなく、今使える道があるならそちらを使う判断をした


「俺、見に行かない?」


聞くと、ダリオは首を振った


「必要になったらだ、今日は使わない道だろ」


「分かった」


そういう考え方もある


危険かもしれない場所を全部確認しないと安心できない気持ちはある


でも、今必要なことではない


「セイジ、次こっち」


ルッカが言った


「何?」


「枝、邪魔」


「分かった」


俺はまた移動する


少し先の道で、細い枝が低い位置へ張り出していた


人間なら屈めば通れる


俺でも通れる


ただ、荷物を持っていると引っかかりそうだ


俺は手で折ろうとした


「待って」


ルッカに止められる


「なんで?」


「こっちは切る、これは残す」


俺には同じ枝に見える


「違う?」


「違う」


ルッカは残す方の枝を指す


「これ、目印」


「道の?」


「うん」


危なかった


俺が全部邪魔だと思って取り除けば、ルッカが使っている目印まで消すところだった


必要な枝だけを避けやすくし、残すものは残す


「終わり?」


「うん」


「じゃあローデンのところ戻る」


「セイジ」


また呼ばれる


今度はミラだった


俺は止まる


ローデンの方を見る


ミラを見る


もう一度ローデンを見る


「……何?」


「こっちも少し見てほしい」


「今?」


「急ぎじゃないけど」


「じゃあ、あと」


「うん」


俺は走る


ローデンのところへ戻る


木材の位置が変わっていた


「遅い」


「ごめん」


「そこ持て」


言われた木を持つ


固定する


地面を少し整える


木を下ろす


「次は?」


「今は待て」


「待つ?」


「ああ」


ローデンが木材同士の位置を見る


俺は待つ


待っていると、今度はエナの声が聞こえる


「セイジ、布を洗うなら今お願い」


俺はローデンを見る


「行っていい?」


「今ならな」


また走る


エナのところへ行き、《水球》で使った布を洗う


汚れた水が救護用品の近くへ流れないよう場所を変える


洗い終えたら弱い《風圧》で水気を飛ばす


完全に乾くまで待つ必要はあるが、そのまま濡れた状態よりは早い


「これでいい?」


「うん、ありがとう」


「次は?」


エナが笑った


「私のところは終わり」


「よし」


ローデンへ戻ろうとすると、ミラと目が合った


そうだった


「ミラ、何?」


「忘れてた?」


「忘れてない」


少し忘れていた


ミラの前には薄い板と、紙が何枚か広げられている


俺には文字が読めないものも多い


ただ、線や簡単な印なら分かる


「これは?」


「第二水場の周りで、どっちから人が来たか簡単に残してるの」


地図らしい


正確な地図なのか俺には判断できない


川や道のような線


印


最近よく使う方向


人が危険を見た場所


そういうものをミラが聞き取ってまとめている


「これ、ルッカ?」


「後で確認してもらう」


「ダリオ?」


「危ない場所はダリオにも」


俺は少し安心した


ミラが全部決めているわけではない


聞いた情報をまとめて、詳しい人に確認する


「こっちは?」


別の紙には、俺にも少し分かる絵のような印がある


「この前、持ってきた物と持っていった物」


「交換?」


「そう、ただし値段表じゃないよ」


「値段?」


「そこは今覚えなくていい」


俺もそう思う


「何を持ってきて、何を持っていったか、忘れないように書いてるだけ」


「次も同じか見る?」


「そう」


分かりやすい


一回で決めない


次も同じなら比較できる


違えば違ったと分かる


「俺、何見る?」


ミラが地図の一か所を指した


「この道、セイジも通ったことある?」


見る


少し考える


「ある、でも俺、道詳しくない」


「じゃあルッカに聞くね」


「うん」


俺を呼んだ意味がほとんどなかった気もする


「それだけ?」


「それだけ」


「俺、来なくてもよかった?」


「確認できたからよかったよ」


「分からないって確認?」


ミラが笑った


「それも大事」


俺は何とも言えない顔になった


そこへローデンの声が飛んでくる


「セイジ!」


「今行く!」


走る


途中でダリオに止められる


「セイジ、あっちへ土を盛るなよ」


「なんで?」


「退避するとき通る」


「分かった」


また走る


ローデンのところへ着く


「遅い」


「みんな呼ぶ」


「人気者だな」


「違うと思う」


木材を支える


土を整える


少し離れたところでエナが呼ぶ


聞こえなかったことにしようかと思ったが、本当に必要だったら困る


「なに!」


大きな声で返す


「もう終わったから大丈夫!」


それなら呼ばなくてもよかったのではないだろうか


俺は木材を持ったまま空を見る


ルッカが戻ってくる


ミラが俺を手招きする


ダリオが別方向から何か言っている


ローデンは「動かすな」と言う


俺はその場で固まった


「俺、何してたんやっけ」


思わず日本語が出る


ローデンが木を見たまま言った


「今はそれを持つ」


「あ、そうだった」


ルッカが笑っている


ミラまで笑っている


俺は少し恥ずかしくなった


朝から動いている


でも、何を終わらせたのか自分でもよく分からなくなってきた


道を見た


布を洗った


枝を動かした


地面を整えた


地図を見た


木を持っている


全部必要なことではある


ただ、俺が全部のところへ行く必要があったのか


木材を固定し終え、ようやく手が空いたところで、俺は水場の端へ座った


「疲れた」


ルッカも隣に座る


「いっぱい走った」


「何か俺だけずっと走ってない?」


「うん」


「やっぱり?」


ルッカは笑った


俺は周囲を見る


エナはエナで作業を続けている


俺が横にいなくても困っていない


ダリオは安全な経路を確認している


俺が行かなくても決められることは多い


ローデンは木材を合わせている


土を動かす必要がある時だけ俺を呼べばいい


ミラは情報をまとめている


分からないことがあれば詳しい人へ確認している


ルッカは森を見る


俺にできないことを普通にやっている


「俺、全部いらない?」


思ったことをそのまま口にする


ルッカが首を傾げた


「セイジ、いらない?」


「違う違う」


慌てて手を振る


言い方を間違えた


「俺、全部やらない」


「うん」


「必要な時、魔法」


「うん」


「それでいい?」


ルッカは簡単に頷いた


「いい」


早い


俺は少し笑った


「ルッカ、簡単だな」


「何が?」


「何でもない」


そこへローデンが来た


「休んでるところ悪いが、最後に一つ頼む」


「土?」


「ああ、それと水」


「水?」


ローデンについていく


雨除けを少し広げた場所の外側に、浅い排水の筋を作っていた


雨が降った時、水が作業場所へ入らず横へ流れるようにしたいらしい


俺が《土成形》で溝を作るだけなら簡単だ


ただ、実際に水がどちらへ流れるか確認したいという


「《水球》で流す?」


「少しでいい」


「土を作ってから?」


「それでもいいが、流れを見ながら直せるか?」


俺は溝を見る


土を変える


水を流す


止める


また土を変える


それを繰り返せばできる


でもローデンが言っているのは、流れを見ながら形を少し直すことだろう


「両方?」


「無理なら一つずつでいい」


俺は少し考えた


できるかどうかは、やってみないと分からない


まず《土成形》を使う


溝の一部へ意識を向け、形を少しだけ動かす


その状態を保つ


次にもう片方の手へ意識を分ける


《水球》


小さい


本当に少しでいい


水が浮かぶ


その瞬間、《土成形》で意識していた溝の縁が崩れた


「あ」


水も形が揺れる


俺は両方止めた


ローデンが見る


「無理か?」


「もう一回」


今度は欲張らない


《土成形》で大きく形を変えない


ほんの少しだけ縁を動かす


そこへ小さな《水球》を作る


土


水


二つを同時に意識する


片方へ集中すると、もう片方が薄くなる


完全に同じ強さで扱うのは難しい


水球を小さくする


土も狭い場所だけ


それなら少し楽になる


「流す」


「やってみろ」


水球から少量の水を溝へ落とす


水が進む


途中で一か所に溜まった


《土成形》を切らず、その場所だけ少し低くする


意識がぶれる


水球が揺れる


それでも消えない


数秒


長くはない


水が低くした方向へ流れた


「お」


ローデンが声を出す


俺も驚いた


「できた?」


「もう少し流せ」


「待って」


維持しながら話す余裕がない


一度両方を止める


息を吐く


「今、少しできた」


「見てた」


「もう一回」


次は最初より分かりやすかった


《土成形》で狭い範囲だけを意識する


小さな《水球》を作る


同時に保つ


水を流す


溝の途中をわずかに動かす


今度は水球の形が大きく崩れない


それでも、長く続けようとすると頭の中が忙しくなる


土を見て


水を見る


流れを見る


ローデンの指す場所を見る


「右、少し」


「右?」


「そっちじゃない、反対」


「こっち?」


「そう」


俺は土を少し削る


水が流れる


「そこまで」


両方止める


肩から力が抜けた


「疲れる」


「でもできたな」


「少しだけ」


俺は自分の手を見る


《土成形》と《水球》


二つを同時に使った


ただし、新しい魔法になったわけではない


水が土へ混ざって別の何かになったわけでもない


ただ、それぞれ別の魔法を短い時間だけ同時に保った


しかも、広い範囲では無理だ


小さな土の調整と、小さな水球


そのくらいだからできた


「これ、便利かも」


俺が言う


「水を流しながら直せるなら便利だな」


「でも、長いの無理」


「必要な時だけでいい」


ローデンの答えに頷く


何でも長く使えればいいわけではない


今回必要だったのは、少し流して、少し直すことだけだった


「セイジ」


ミラが少し離れたところから呼ぶ


俺は反射的に立ち上がりかけた


ローデンが笑う


「また走るのか?」


止まる


「……急ぎ?」


俺が大きめの声で聞く


「急ぎじゃない!」


「あとで行く!」


初めてちゃんと断れた気がする


ルッカが向こうで笑っていた


昼を過ぎる頃には、それぞれの作業がかなり進んでいた


雨除けは少し広がった


救護用品も必要な物と不足している物が分けられた


よく使う道と、今日は使わない方がいい道も整理された


ミラがまとめた情報には、ルッカやダリオの確認が加わっている


俺は必要なところで土を動かし、水を出し、洗った物へ弱い《風圧》を使った


全部を自分で決めなくていい


むしろ、何をすればいいか分かっている人に聞いて、その部分だけ魔法を使う方が早い


「これ、ローデンに聞く」


俺が木材の位置について尋ねてきた人へ言う


「セイジじゃ分からない?」


「分からない、だからローデン」


前なら少し悔しかったかもしれない


今は普通に言える


別の人には、


「先にこっち、あとで水を流す」


と作業の順番を説明する


危ない方へ入りそうになった人には、


「危ないから、ここは入らない」


と言えた


短い


でも、理由まで言える


ミラがいなくても、その程度なら通じるようになってきた


複雑な話になると、まだ何度も聞き直す


それでいい


俺が何でもできる必要はない


午後になった頃、森側に小さな影が見えた


ルッカが最初に気づいた


「いる」


俺も見る


ゴブリンが一体


以前接触した三体のうちの一体なのか、それとも別の個体なのか、見た目だけでは分からない


今日は一体だけだった


水場の端まで近づき、周囲を見る


人間側にも気づいている


人間たちも動きを止める


それでも、以前のように誰かがすぐ武器へ手を伸ばすことはなかった


警戒が消えたわけではない


距離は取っている


ゴブリンもこちらへ近づきすぎない


俺は何も言わず待った


一体は水を飲む


そのあと周囲を見る


今日は持ってきた物を置く様子もない


食べ物を求めるような動きもない


ただ水を使い、しばらくこちらの作業を見ていた


俺たちは作業へ戻る


見られているからといって何か特別なことはしない


ローデンと俺が木材の近くで作業していると、細い枝や短い材料が地面に散らばっていた


使う物


使わない物


あとで分けるつもりだった


俺が《土成形》で足元を整えている時、一体のゴブリンが少し近づいた


人間側の空気が硬くなる


俺も手を止める


ゴブリンは俺を見ない


ローデンを見るわけでもない


地面に落ちていた軽い枝を一本拾った


「……?」


何をするのか分からない


俺は動かない


一体は枝を持って少し歩く


ローデンが材料をまとめている場所の近くまで行き、枝を置いた


次にもう一本


同じ場所へ置く


「運んでる?」


誰かが小さく言う


俺は答えない


そう見える


でも、何のつもりなのかは分からない


一体はさらに短い材料を一つ持ち、同じ場所へ置いた


ローデンも黙って見ている


指示はしていない


頼んでもいない


報酬の話もない


ゴブリンは数本運んだところで止まった


周囲を見る


水場へ戻る


少し水を飲む


そのまま森側へ歩き始めた


「帰る?」


ルッカが言う


「たぶん」


俺たちは追わない


呼び止めない


何かを渡そうともしない


一体は振り返らず、森の中へ消えた


残ったのは、まとめられた数本の枝と短い材料だけだった


ローデンがそれを見る


「……助かったな」


「うん」


俺も頷く


でも、それ以上のことは言わない


手伝いに来た


そうだったのかもしれない


前に物を取り替えたから、その続きだったのかもしれない


ただ目についた枝を動かしただけかもしれない


理由は分からない


確かなのは、俺たちが何も頼んでいないのに、一体が材料を数本運び、終わると帰ったことだけだ


「次もするかな」


ルッカが聞く


「分からない」


「見る?」


「うん、次を見る」


最近この答えばかりだ


でも今は、それが一番正しい気がする


人間側も完全に気を抜いたわけではない


ゴブリンが消えたあとで、何人かが森を確認している


それでも、


「危なかった」


ではなく、


「何だったんだろうな」


という声が聞こえた


少し前とは違う


ただ、それだけで人間側が受け入れたと決めるのも早い


怖い人はまだ怖いだろう


次に別のゴブリンが来れば、同じ反応になるとも限らない


今日の一体が攻撃しなかった


枝を運んだ


今はそこまででいい


夕方が近づく頃、第二水場の作業は一段落した


俺は朝から自分が何をしたか思い返してみる


救護用品を見た


ローデンの足元を整えた


ダリオの話を聞いた


ルッカと枝を見た


布を洗った


ミラの地図を見た


排水を作った


土と水を短い時間だけ同時に使った


ゴブリンが枝を運ぶのを見た


やっぱり多い


でも朝と違って、今は少し整理できる


俺が全部やったわけではない


エナが救護用品を見た


ルッカが森と道を見た


ダリオが危ない場所や戻る道を考えた


ローデンが作る形を決めた


ミラが情報をまとめ、人に説明した


俺は必要なところへ魔法を使った


それぞれがやっていることの間を、少しずつつないだだけだ


「俺、今日何した?」


わざとルッカへ聞く


ルッカは少し考え、


「走った」


と答えた


「そこ?」


「いっぱい」


「朝だけや」


「朝いっぱい走った」


否定できない


俺は笑った


「でも、後は?」


ルッカが指を折る


「土」


一本


「水」


二本


「風」


三本


「いっぱい話した」


四本


「それと?」


「休んだ」


「少ないな」


「休むの大事」


それも否定できない


エナとミラが帰る準備を始め、ダリオも森側を最後に確認してから戻ると言った


ローデンは今日使わなかった材料をまとめる


第二水場に置く必要のない物は持ち帰る


俺も共有物を確認する


食べ物は残っていない


今日持ってきた人たちは、自分の分を持ち帰っている


清潔な布や縄、器、救護用品、道具は決めた場所へ戻す


一時置き場も空だ


必要な時だけ使い、今はいらない


俺は洗った器へ弱い《風圧》を使い、残った水気を飛ばした


そのあと、朝使った小さな道具を空間収納へ戻す


別の場所で使う物を取り出す


また戻す


今日は何度も繰り返した


前より出し入れで止まることが減っている


これが能力そのものの変化なのか、俺が慣れただけなのかは確認していない


今分かるのは、複数の作業場所を動きながら必要な小物を取り出すのが、以前より楽になったということだけだ


「終わり?」


ミラが聞く


「うん」


俺は周囲を見る


ローデンの雨除け


浅い排水


整理された救護用品


簡単な地図と情報


使いやすくなった道


大きく変わったものはない


一つ一つは小さい


でも、朝より少しだけ使いやすくなっている


「みんな、違うな」


俺が言う


「何が?」


「できること」


ルッカを見る


「森」


エナを見る


「怪我、薬草」


ダリオを見る


「危ない、道」


ローデンを見る


「作る」


ミラを見る


「言葉、情報」


最後に自分の手を見る


「俺、魔法」


ミラが笑う


「ずいぶん簡単にまとめたね」


「違う?」


「だいたい合ってる」


「だいたい」


そのくらいがいい


きっちり役目を決めたわけではない


ルッカだって物を運ぶし、エナだって水を汲む


ローデンだって危ない場所を見れば教える


俺だって魔法しか使わないわけではない


ただ、困った時に誰へ聞けばいいかが少しずつ分かってきた


それだけでかなり楽になる


「俺が全部やる、違う」


俺は言った


ミラが頷く


「そうだね」


「必要なところ、俺がやる」


「それが一番助かるかも」


中心にいることと、全部をやることは同じではない


俺が決めなくても進むことがある


俺が知らなくても、知っている人がいる


俺にしかできないことが必要なら、その時にやればいい


それで場所は動いていく


日が傾き始め、みんながそれぞれの方向へ帰っていく


俺とルッカも最後に水場を確認し、岩陰拠点へ向かった


森の道を歩きながら、俺は昼の排水を思い出す


《土成形》と《水球》


ほんの短い時間


狭い範囲


それでも同時に使えた


「ルッカ」


「なに?」


「土と水、同じ時できた」


「見た」


「すごい?」


「便利」


「そこはすごいって言ってほしかった」


ルッカは少し考える


「便利で、すごい」


「後から足したやろ」


意味は通じなかったらしく、ルッカは笑っていた


岩陰拠点へ着く


中へ入ると、やっぱり落ち着く


第二水場でいろいろなことが増えても、帰ってくる場所はここだった


荷物を置き、俺は壁際へ座る


朝から走り回ったせいか、体が少し重い


でも嫌な疲れではない


「明日も走る?」


ルッカが聞く


「走らない」


「ほんと?」


「必要なら走る」


「同じ」


「……そうやな」


結局そうなるかもしれない


俺は笑いながら横になる


全部やらなくていいと分かった


それでも必要なら動く


誰かができるなら任せる


俺にできることなら手を貸す


そうやって少しずつ回るなら、その方がいい


今日の第二水場は、俺が頑張ったから使いやすくなったわけではない


みんなが自分のできることをしていた


俺はその間を走り回って、ようやくそれに気づいた


次からは、もう少し走る回数を減らしたいと思う

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。