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街道の救難1

第46回 街道の救難1


朝の第二水場には、いつもより人が多かった


俺とルッカが着いたときには、すでにダリオとミラがいて、少し遅れてエナとローデンもやってきた


昨日までなら、六人そろえば道具小屋の補修か、森の情報整理か、何か共同作業でも始まるところだった


今日は違った


ダリオが地図を広げたまま、森の外側を示している


「何かあった?」


俺が聞くと、ミラが顔を上げた


「フェルナ方面から来るはずだった一行が、まだ着いてない」


「この前の人ら?」


「同じ人がいるかまでは分からないけど、フェルナとハルナの間を移動してる交易の一行」


「遅れてるだけちゃうん?」


「その可能性もある」


ダリオが答える


「ただ、昨日のうちにハルナ側へ入ってる予定だった」


俺は地図を見る


街道そのものを細かく把握しているわけではないが、第二水場から森縁へ抜ければ、人間が使う道へ近づける


問題は、その周辺だった


最近、普段ならもう少し森の奥で見ることが多い生き物が浅い地域まで出ている


フェルナ方面でも似た話がある


「誰か見に行く?」


「その相談をしてた」


ダリオは森側と街道側を交互に見る


「何もなければそれでいい、道の途中で足止めされてるだけなら手伝えば済む」


「もし魔物おったら?」


「状況を見る、倒すことが目的じゃない」


「救助優先?」


「ああ」


俺はすぐ頷いた


「行こ」


ダリオは少しだけ俺を見る


「まだ何が起きてるか分からないぞ」


「分からんから見に行くんやろ?」


「そうだな」


出発の準備は早かった


第二水場の道具小屋から、縄、清潔な布、簡単な修理道具、小型容器を出す


エナは救護に使う物を自分で選び、足りない分を俺の小規模空間収納へ入れた


「これと、これ」


「了解」


「すぐ出せる?」


「立ち止まればな、走りながらはまだ無理」


「それでいい」


布


短い縄


小さな容器


最低限の救護用品


今の収納には、それだけでも十分だった


「こういうとき便利やな」


「なくさないでよ」


「覚えてるって」


ルッカが横から言う


「使ったら戻す」


「収納の中までそれ言う?」


少しだけ空気が軽くなる


けれど、出発すれば全員の顔つきは変わった


ルッカが先頭


その後ろにダリオ


俺とミラ


エナとローデン


森を抜けるまでは、これまで何度も使ってきた経路を進む


俺は《魔力感知》を広げた


遠くまで探りすぎない


近くの危険を見落とさない範囲


最近はその加減も少し分かるようになっている


「今のところ何もない」


「足跡はある」


ルッカが地面を見る


「何の?」


「人」


数人分


荷物を運んだ跡も混じっているらしい


少し先には車輪のような跡も見える


「一行のやつかな」


「たぶん」


進行方向はハルナ側


ただし途中から跡が乱れていた


車輪の筋が深くなる


地面の一部が大きく削れている


「荷車?」


ローデンがしゃがんだ


「重いのを無理に動かした跡だ」


「壊れた?」


「ここだけじゃ分からん」


ルッカがさらに先へ進む


しばらくして、手を上げた


「止まって」


全員が足を止める


「何かある?」


「血」


背中に力が入る


地面へ小さな赤黒い跡がある


大量ではない


だが一つではない


ミラが息を呑んだ


「人の?」


「分からない」


ルッカは断定しない


俺が《魔力感知》を前方へ伸ばす


弱い反応がいくつもある


人間だろうか


その周囲


少し離れた場所に別の反応


一つ


二つ


「前に何人かおる」


「動いてる?」


ダリオが聞く


「少し、でもまとまってる、あと別に二つ」


「距離は?」


「近い」


ダリオがすぐ判断する


「ルッカ、見えるところまで」


「うん」


ルッカが一人で先へ進む


追いかけず待つ


数分もかからず戻ってきた


「荷車、止まってる」


「人は?」


「いる、怪我してる人もいる」


「敵は?」


「二つ見えた、もっといるかもしれない」


「場所は?」


「道の横、荷車の向こう」


ダリオが地形を確認する


「正面から行く、逃げ道を先に作る」


「戦わんの?」


「必要な分だけだ」


俺は頷く


目的は助けること


敵を全部倒すことではない


六人は少しずつ前へ進んだ


森が薄くなり、街道が見える


道の端で荷車が大きく傾いていた


片側の車輪がぬかるみに落ち、さらに木の根へ引っかかっている


荷台の荷物の一部は崩れ、道へ散らばっていた


その陰に人がいる


六人


いや、七人


一人は地面へ座り込んでいる


もう一人は肩を押さえている


護衛らしい二人が外側を警戒していた


そして、少し離れた森の縁


魔物が二体


昨日までにも見たことがある種類


ただし街道近くで見るには嫌な位置だ


「ミラ」


「分かった」


ミラが先に声をかける


ハルナ側から来たこと


助けに来たこと


こちらの人数


そして俺がいることも、先に伝える


荷車のそばにいた人間たちがこちらを見る


最初は安堵


次に俺を見て緊張


「やっぱそこは通るよなぁ」


小さく呟く


「今は気にするな」


ダリオが言う


「分かってる」


ミラが説明を続ける


俺は前へ出ない


両手も見える位置へ


今回は信用してもらうための時間をかけている場合ではない


怪我人がいる


周囲にも危険が残っている


ダリオが一行の護衛と短く話し、状況を聞く


「何があった?」


俺が聞く


「森から出てきた魔物に驚いて荷車を避けようとして、車輪を落としたらしい、そのとき一人が転んで脚を痛めた、別の一人も荷物が当たって肩を切ってる」


「魔物は?」


「何度か近づいてきたから追い払った、でもまだ周りにいる」


その説明の途中


《魔力感知》に反応が増えた


「ダリオ」


「何だ」


「二つちゃう、奥から三つ来てる」


「今見えてるのと合わせて?」


「五つになる」


ダリオの表情が変わる


「退避を優先する」


指示がすぐ飛ぶ


「エナ、怪我人を見る、ローデン、荷車は後だ、まず人が通れる足場を作る」


「分かった」


「ルッカ、外側の動き見ろ」


「うん」


「セイジ、近づくやつだけ止めろ、追うな」


「了解」


役割が決まる


俺は街道の端へ出た


魔物二体がこちらへ向きを変えている


さらに森の奥から三体


全部を倒す必要はない


近づけなければいい


「まず二体」


手を上げる


昨日初めて実戦で使った、二つの《火弾》


今度は最初から大きくしない


高出力にもする必要はない


街道には人がいる


荷物もある


燃えるものも多い


「小さく、狙って」


魔力を二つへ分ける


《魔力制御》で形を揃える


「《火弾》」


二つの火が並ぶ


昨日ほど揺れない


左右へ少し離す


味方の位置を確認する


荷車


人間


森の縁


狙うのは、その外側


「行け」


二発が飛ぶ


一体へ直撃


もう一体は横へ避けた


「右!」


ルッカの声


俺は追撃を一発だけ作る


「《火弾》」


命中


二体が倒れる


「次来る!」


今度は奥から三体


全部が一直線ではない


一体が先


二体が少し後ろ


「一体ずつでええ」


自分へ言い聞かせる


二つ出せるようになったから、毎回二つ出す必要はない


先頭へ通常の《火弾》


直撃


残り二体が左右へ分かれる


「ここやな」


二つ同時


今度は大きさを揃える


「《火弾》」


二発


一体ずつ


放つ


片方は正面から当たった


もう片方も肩口へ命中し、相手が崩れる


倒れたまま動かない


「終わり?」


ルッカが周囲を見る


俺も《魔力感知》を広げる


「近くにはもうおらん」


「追うな」


「追わへんよ」


ダリオが頷く


戦闘は短かった


以前なら五体を前にすれば、一体ずつ位置を取り、ルッカやダリオと動きを合わせながら慎重に戦っていた


今は必要な個体だけを短時間で止められる


強くなった


それは分かる


でも喜んでいる場合ではない


「エナ!」


「こっち!」


俺はすぐ荷車へ戻った


脚を痛めた男が地面へ座っている


足首から下ではない


膝の横


強く打ったらしく、腫れが出始めていた


「折れてる?」


俺が聞く


「まだ分からない」


エナが答える


「動かさないで」


「《治癒》使える?」


「先に状態を見る」


「了解」


勝手に治さない


それももう身についてきた


もう一人の肩の傷は、服が裂けて血が出ている


そちらは洗浄が必要らしい


「水」


「出す」


俺は《水球》を作る


大量ではない


エナが必要と言った分だけ


容器へ移す


「布」


今度は空間収納


集中


清潔な布を取り出す


「これ」


「ありがとう」


続いて小さな救護用品


縄


エナが必要な物を言うたび、俺が収納から出していく


「これ、やっぱ便利やな」


「今それ言う?」


「いや、ほんまに」


道具小屋へ戻らなくても必要な物が出せる


今までなら誰かが持っていなければ終わりだった


小さい収納だからこそ救護用品と相性がいい


エナが傷を洗う


出血を確認する


「深くない」


「《治癒》いる?」


「少しだけ」


「どこ?」


「ここ、この傷の周りだけ」


エナが指で範囲を示す


俺はそこへ手をかざした


「《治癒》」


光を小さく


範囲も狭く


必要なところだけ


以前のように、とりあえず傷全体へ魔力を流すのではない


エナの判断に合わせる


血が止まりやすくなる


傷口の状態も落ち着いた


「これでいい」


「了解」


脚の怪我人にはまだ《治癒》を使わない


エナが触れ方や痛みの出る位置を確認している


「歩かせない方がいい」


「荷車は?」


ダリオが聞く


ローデンが首を振った


「今すぐ動かすのは難しい」


「車輪?」


「車輪そのものも傷んでる、しかも地面が沈んでる」


傾いた荷車を見る


片側の車輪はぬかるみへ深く落ちている


根に引っかかり、無理に動かしたせいで軸の部分まで歪んでいた


「直すの時間かかる?」


「ここで完全に直すならな」


「じゃあ荷物捨てて人だけ戻る?」


俺が言うと、商人らしい男が反応した


ミラが話を聞く


「全部は置いていけないって、商いの品だから」


「でも人の方が大事やろ」


「分かってる、だから最低限だけ持ち出したいって」


ダリオが判断する


「持てる分だけにする、荷車は後で回収だ」


一行側も最終的には頷いた


俺は傾いた荷台を見る


「空間収納には無理やな」


「当たり前だ」


ローデンが言う


「俺のは小物入れやって」


「なら今できることをしろ」


「はい」


大きな荷物は人が持つしかない


ただ、問題は怪我人だった


「この人どうする?」


エナが脚を痛めた男を見る


「担ぐ?」


「道が悪い」


ローデンが周囲を見る


ぬかるみ


車輪の跡で削れた土


途中には倒れた枝


さらに街道の端は一部崩れている


健康な人間なら歩ける


怪我人を支えながらでは危ない


「セイジ」


「土?」


「分かってるじゃないか」


「最近ローデンの考えちょっと読めるようになってきた」


「ならこっちを平らにしろ」


ローデンが道の端を指す


荷車を直すためではない


人を退避させるための道


「広さは?」


「二人並んで支えられる程度、固めすぎるな、雨水が溜まる形にもするな」


「了解」


俺は地面へ手を向ける


「《土成形》」


大きく変えない


足を取られそうな窪みを埋める


出っ張った根の周囲へ土を寄せる


傾きを緩くする


「そこまで」


ローデンの声で止める


「次ここ」


また整える


怪我人を運ぶための幅だけ


森全体の道を作り直すわけではない


「《土締め》」


必要なところだけ軽く締める


強く固めすぎれば、水が流れず次の雨で逆に危なくなる


試験栽培で学んだことが、こんな場所でもつながっていた


「こっちの端、もう少し」


「了解」


ローデンが歩いて確かめる


「よし」


「結構いけるな」


「お前の魔法だけなら形を作るのは速い、どう作るかが分かってないと駄目だがな」


「そこは任せる」


ローデンが決める


俺が作る


この形が一番早い


その間、街道の先で風が強くなった


先ほどの戦闘で乾いた土が舞い、視界が少し悪くなる


さらに倒した魔物の一体から焦げた臭いと煙が出ている


「煙こっち来てる」


ミラが言う


「《風圧》使う」


俺は人がいない方向を確認する


強く吹かせない


「《風圧》」


弱い風


煙を街道から外へ流す


土埃も少しずつ散らす


怪我人の周囲へ吹きつけないよう、方向をずらす


「こっちでええ?」


「もう少し向こう」


「了解」


ミラの位置を見ながら調整する


戦闘のために覚えた風魔法が、今日は視界を確保するために使われている


「ほんま使い道増えたな」


小さく呟く


準備が整ったところで、怪我人を移動させることになった


脚を痛めた男は、一人で歩かせない


簡単な支えを作る


ローデンが荷車から使えそうな板と棒を選び、縄で固定する


俺が持っていた短い縄だけでは足りなかったので、一行の荷物から追加する


「この板持てる?」


ローデンが聞く


「余裕」


持ち上げる


進化前なら二人で扱った方が良さそうな重さ


今は一人でも持てた


「軽いな」


「軽くはない」


「前よりって意味」


ローデンが一瞬俺を見る


「力も上がってるな」


「進化してから荷物運ぶん楽にはなってる」


板を運び、簡単な担架のように組む


完成したものへ怪我人を移す


エナが脚を固定


ダリオが持ち方を決める


「セイジと俺で前後を持つ」


「俺?」


「力あるだろ」


「任せて」


担架を持ち上げる


重い


けれど持てない重さではない


「痛い?」


怪我人へ聞いても言葉が完全には通じない


ミラが代わりに確認する


「大丈夫だって、今のところ」


「揺らさんように行こ」


歩き始める


ローデンが作った足場


俺が整えた土


そこを一歩ずつ進む


ルッカが前を確認する


ミラは一行との会話


エナは怪我人


ローデンは障害物


それぞれが動く


数十歩進んだところで、ルッカが急に止まった


「待って」


全員が止まる


俺も担架を持ったまま動かない


「何?」


「前に跡」


「何の?」


ルッカが少し先へ行き、すぐ戻る


「さっきのと同じ」


「魔物?」


「うん」


俺が《魔力感知》を前へ広げる


二つ


遠い


まだこちらへ来てはいない


「二体、ちょっと先」


ダリオが考える


「道を変えられるか?」


ルッカが首を振る


「怪我人いるなら、今の道の方がいい」


「戻る?」


商人たちも不安そうにしている


ダリオは後ろを見る


荷車の場所へ戻れば、また足止めされる


しかも先ほどより安全になった保証はない


「進む、ただし先に追い払う」


「倒す?」


「必要なら」


問題は俺が担架を持っていることだった


「俺置いたらあかんよな」


「ローデン、代われるか?」


「短時間なら」


ローデンが後ろ側へ入る


俺はゆっくり担架を下ろして交代した


「すぐ戻る」


「一人で行くな」


ダリオが止める


「ルッカと俺も行く、ミラたちはここで待て」


エナは怪我人と残る


ローデンも残る


護衛二人も周囲を固める


俺、ルッカ、ダリオの三人で少し前へ出た


「位置は?」


「まだ二つ」


《魔力感知》にはっきりある


木々の向こう


近づいてはいない


「こっちから攻撃する?」


「道のすぐ横なら移動させたい」


ダリオが答える


「近づかずに追い払えるならそれでいい」


「火、弱め?」


「森を燃やすな」


「了解」


俺は小さな《火弾》を一つ作る


敵ではなく、その少し手前


地面へ撃つ


火が弾ける


音


光


反応の一つが動く


奥へ離れた


もう一つも少し遅れて離れる


「行った?」


「遠ざかってる」


「追わない」


「もちろん」


倒さなくても済むなら、それでいい


今日は特にそうだった


「戻ろ」


三人で怪我人のところへ戻る


俺が再び担架を持つ


「行ける?」


エナが聞く


「行ける」


「疲れてない?」


「まだ大丈夫」


歩き始める


街道から森縁を抜け、第二水場方面へ


ただし、思っていたより時間がかかる


怪我人がいる


荷物もある


肩を傷めた者も無理はできない


進む速度は普段の半分以下だった


さらに途中で一度休憩を入れる


俺も担架を下ろし、腕を振った


「さすがにずっと持つと重いな」


「交代するか?」


ダリオが聞く


「まだいける」


「無理するな」


「分かってる」


エナが怪我人の脚を見る


腫れが少し増えている


「第二水場まで行ける?」


俺が聞く


「行けると思う、でも急がせない方がいい」


「《治癒》は?」


「今はまだ使わない」


「了解」


エナがそう言うなら使わない


治せる魔法を持っているからこそ、使うべき場面を選ぶ


休憩中、ミラが一行から追加の話を聞いていた


「何やった?」


「昨日の夕方、森の方から鳴き声みたいなのが何度か聞こえたって」


「いつもの獣?」


「分からないって」


「今日襲ってきたやつと同じ?」


「それも分からない」


「分からんこと増えるなぁ」


ただ一つ確かなのは、彼らが足止めされた場所が、最近異変を確認している森縁に近かったこと


それだけだ


「原因決めるにはまだ足りんよな」


「うん」


ミラが頷く


休憩を終え、再び出発する


今度は空が少し暗くなり始めた


第二水場まではまだ距離がある


普段なら十分明るいうちに着ける


しかし怪我人を運びながらではぎりぎりだ


「ダリオ」


「何だ」


「暗くなる前に第二水場行ける?」


「このままなら何とか」


その言葉が終わる前に


俺の《魔力感知》へ、複数の反応が入った


前ではない


横


森側


「……待って」


全員が止まる


「また?」


ルッカが俺を見る


「一つ、二つ……三つ」


少し離れた位置


動いている


先ほど追い払った二体とは方向が違う


「こっち向いてる?」


「分からん、でも近づいてる」


ダリオの顔が険しくなる


「人数が多いのを見て寄ってきてる可能性がある」


護衛二人が武器を構える


俺は担架を下ろした


「俺が行く?」


「全員で動かない」


ダリオは周囲を見る


怪我人


荷物


夕方


森の縁


条件が悪い


「ここで迎える、退路を確保する」


「土使う?」


「足元だけ整えろ、逃げるとき邪魔になる場所をなくす」


「了解」


俺は地面へ手を向ける


大きく作り替えない


怪我人を運ぶ経路だけ


「《土成形》」


低い窪みを埋める


足を取られそうな泥を端へ逃がす


「《土締め》」


最低限


その直後


森の中で枝が折れる音がした


近い


「来る」


ルッカが言う


俺は立ち上がる


《魔力感知》では三体


だが、そのさらに奥


弱い反応がもう一つ


いや


さらにもう一つ


「ダリオ」


「何体だ」


「増えた、五……たぶん」


「全部こっちか?」


「まだ分からん」


昨日の調査


浅い地域に増えている生き物


今日の街道


荷車を止めた個体


さらに帰路でも近づいてくる反応


偶然で片づけるには、少し多い


それでも原因は分からない


「セイジ」


「うん」


「倒すことより、ここを守れ」


「分かってる」


背後には怪我人がいる


エナ


ミラ


ローデン


交易の一行


逃げる速度は遅い


だから今は、自分が前に立つ


俺は両手を上げた


火を二つ


いつでも作れるよう魔力を分ける


でもまだ撃たない


「近づくやつだけ」


自分へ言い聞かせる


木々の間から一体目が姿を見せた


続いて二体目


前に出る


「《火弾》」


二つの火が並ぶ


今度はほとんど揺れなかった


「右、左」


二つの目標


それぞれへ


放つ


二発とも命中


倒れる


三体目が横から出てくる


一発


直撃


「まだいる!」


ルッカが声を上げる


四体目


五体目


距離が近い


「二つ!」


再び《火弾》を二つ


出す


分ける


狙う


撃つ


一発目が命中


二発目も当たる


五体とも倒れた


森が静かになる


俺はすぐ《魔力感知》を広げる


「近くにはもうおらん」


「奥は?」


「反応あるけど、こっち来てへん」


「追うな」


「追わへん」


息を吐く


昨日よりずっと安定していた


二つの《火弾》


照準


威力


使う順番


戦う相手ではなく、守るものが後ろにある状況


それでも制御できた


「セイジ」


ダリオが呼ぶ


「ぼーっとするな、移動する」


「了解」


今は成長を喜ぶ場面ではない


俺はすぐ担架へ戻る


再び持ち上げる


全員で歩く


夕暮れが近い


第二水場まで、まだ少しある


途中でSTATUSを確認したい気持ちはあった


だが今は後回しにした


まず全員を安全な場所へ


それだけ


日がかなり傾いた頃、ようやく見慣れた森の形が見えてきた


「もうすぐ第二水場」


ルッカが言う


「よかった」


ミラも少し息を吐く


しかしエナは怪我人の脚を見たまま、表情を緩めなかった


「着いたらすぐ休ませる」


「道具小屋の前?」


「横の方が広い」


「温水いる?」


「傷を見るなら欲しい」


「作る」


「先に横にしてから」


「了解」


第二水場が近づく


水の音が聞こえる


その音を聞くだけで少し安心した


ここまで戻れば、水がある


清潔な布もある


道具もある


休む場所もある


少し前までは、ただ水を使う場所だった


今は違う


「ここ、ほんま役立つな」


呟く


「何が?」


ルッカが聞く


「第二水場」


怪我人を連れて戻れる場所がある


それだけで救助のやり方が変わる


全部をその場で解決しなくてもいい


安全なところまで運び、そこで治療や休憩ができる


六人と交易の一行が第二水場へ入った


俺とダリオが担架を下ろす


エナがすぐ怪我人の確認へ移る


ローデンは座れる場所を整える


ミラは一行へ第二水場の使い方を説明する


ルッカは周囲の警戒へ


俺は水を出す


「《水球》」


容器へ


次に小さな《火弾》を熱源として温める


救護に使える程度まで


「これでええ?」


エナが温度を確認する


「もう少しだけ冷まして」


「了解」


水を追加


布を用意


空間収納から出した救護用品も並べる


「俺、何したらええ?」


「まず休んで」


「まだ動けるで」


「さっきからずっと人運んで、魔法も使ってる」


「……はい」


言われてみれば、腕も少し重い


魔力もかなり使った


俺は道具小屋の横へ腰を下ろした


「STATUS見てもええかな」


「好きにしたら」


ルッカが戻ってきて隣へ座る


「周り大丈夫?」


「今は」


「ほな見るわ」


STATUSを開いた


NAME セイジ


RACE ホブゴブリンメイジ


LEVEL 8


HP E+


MP D+


筋力 E-


耐久 E+


敏捷 D-


器用 D


精神 D-


魔力 D+


SKILL


《魔力感知》

《魔力制御》


TITLE


なし


「……八」


思わず声が止まる


「また二つ?」


ルッカが覗き込む


「うん、六から八」


前にも、複数を倒した戦いのあとに確認するとLEVELが二つ上がっていた


そして今日も同じだった


何体倒せばいくつ上がる


そんな計算はできない


途中でLEVEL7になっていたのかも分からない


確認した今、LEVEL8


それだけが確定している


「筋力も上がってる」


F+からE-


担架を長時間持てたこと


進化後の身体で荷物を運び続けてきたこと


その辺りも関係しているのかもしれない


「敏捷もE+からD-」


「速くなった?」


「分からん、今走りたくはない」


ルッカが少し笑った


「今日は休む」


「そうする」


STATUSを閉じる


LEVEL8


強くなった


でも救助はまだ終わっていない


荷車は街道へ残っている


交易品も一部残した


怪我人も治療途中


街道の安全も確認できていない


そして森の浅い場所には、今日だけで何体もの危険な生き物が現れた


「明日、また行く?」


ルッカが聞く


「ダリオ次第やけど、行くことになるやろな」


置いてきた荷車


残した荷物


道の確認


助けた人たちをこの先どうするか


まだやることは多い


少し離れたところで、ミラが交易の一行と話している


そのうち一人が俺を見た


街道で最初にこちらを警戒していた護衛だった


目が合う


俺は軽く手を上げる


相手は少し迷ったあと、同じように手を上げた


「お」


「なに?」


「いや、なんでもない」


前にフェルナ方面の人間と初めて会ったとき


大きなホブゴブリンとして警戒された


今日も最初は同じだった


でも、今は少し違う


少なくとも、襲ってくる魔物とは見られていないらしい


それだけで十分だった


エナが呼ぶ


「セイジ」


「はい」


「脚の方、今から少し《治癒》使いたい」


「分かった」


立ち上がる


休憩は短かったが、もう大丈夫だ


「どこ?」


エナが位置を示す


「腫れてるところ全部じゃなくて、この辺だけ、痛みが強いところ」


「骨は?」


「たぶん大きくは折れてないと思う、でも無理に歩かせない」


「了解」


俺は手をかざす


光を小さく


広げない


「《治癒》」


必要な部位だけへ


魔力を流す


男の表情が少し緩む


エナが状態を見る


「今日はここまで」


「もっとせんでええ?」


「やりすぎない」


「はい」


何でも最大まで


できるだけ多く


それが正解ではない


水も


火も


土も


治癒も


そして戦闘でも同じだった


必要な分だけ


必要な場所へ


夜が近づく


交易の一行は、今日は第二水場で休むことになった


村まで無理に移動させるより、怪我人を休ませた方がいい


ただし、第二水場は宿ではない


寝泊まりの設備が整っているわけでもない


できる範囲で場所を作るだけだ


ローデンが雨や風を避けやすい位置を選び、簡単な敷物を整える


俺も《土成形》で傾きを少し直す


《土締め》は必要な部分だけ


ルッカは第二水場の周囲をもう一度見回る


ダリオは明日の行動を考えている


「荷車、取りに戻る?」


俺が聞く


「朝になってからだ」


「人数は?」


「まだ決めない、今日の場所に他の個体が集まってる可能性もある」


「救助対象は?」


「怪我人は残す」


「エナも?」


「必要ならな」


まだ決まっていない


明日、状況を見て判断する


今夜のうちに無理に答えを出さない


俺は水辺へ座った


今日一日で、朝とはずいぶん状況が変わった


LEVEL6から8


筋力と敏捷も上昇


複数《火弾》は、昨日より明らかに実戦で扱いやすくなった


土魔法で退避路を作った


風で煙と土埃を流した


水で傷を洗った


《治癒》をエナの判断に合わせて使った


空間収納から救護用品を取り出した


一つ一つは、ここまでの生活の中で覚えてきたことばかりだった


でも今日は、それらが全部一つにつながった


「戦うためだけちゃうかったな」


小さく言う


ルッカが隣へ座る


「何が?」


「魔法」


《火弾》は敵を止める


《土成形》《土締め》は怪我人が通れる道を作る


《風圧》は視界を確保する


《水球》は傷を洗う


《治癒》は必要な場所を治す


空間収納は道具を持ち運ぶ


どれか一つだけでは、今日の救助はもっと難しかった


「便利になったから助けられたんやな」


「強くなったから?」


「それもあるけど、たぶんそれだけちゃう」


火力だけ高くなっても、怪我人は運べない


道も作れない


治療もできない


「できること増えたからやと思う」


「うん」


第二水場の少し離れた場所では、助けた人たちが休んでいる


昨日まで知らなかった人間


フェルナ方面から来た人たち


この場所がなければ、もっと先まで無理に運ばなければならなかったかもしれない


「みんなの場所、役立ったな」


ルッカが言う


「ほんまやな」


俺は道具小屋を見る


小さな建物


水


試験栽培の芽


皆で使う道具


そして今日は、外から来た人が休んでいる


「村でも宿でもないけどな」


「うん」


「でも、こういう場所もええな」


少しだけ誇らしかった


ただし、まだ終わっていない


森の外には荷車が残っている


危険な生き物もいる


街道が安全かどうかも分からない


助けた人たちを無事に送り出すところまでやって、初めて終わりだ


「明日も大変そうやな」


「寝る?」


「寝る」


今日は岩陰拠点へ戻らず、俺とルッカも第二水場に残ることになった


夜の警戒を交代で行うためだ


ダリオも残る


ローデンとミラも状況に応じて動ける位置にいる


エナは怪我人の近く


いつもなら夕方には人が減る第二水場が、今日は静かな声と物音で満ちている


俺は空を見上げた


LEVEL8


あとどれくらい強くなるのかは分からない


でも今は、その先より明日の方が大事だった


街道へ戻る


荷車を確認する


残っている危険を排除する


助けた人たちを安全に送り出す


「明日で終わらせよ」


ルッカが隣で聞く


「何を?」


「救助」


俺は森の暗い方を見る


《魔力感知》には、今のところ危険な反応はない


静かな夜だった


少なくとも、今は


けれど街道の方では、まだ何かが動いているかもしれない


救難は、まだ終わっていなかった

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