↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
44/96

森の奥から来るもの

第44回 森の奥から来るもの


第二水場に着いた俺は、いつものように道具小屋へ荷物を置くと、そのまま試験栽培区画へ向かった


昨日見つけた小さな芽は、まだそこにある


劇的に大きくなったわけではない


それでも前より少しだけ緑がはっきりした気がして、俺はしゃがみ込んだまましばらく眺めた


「育ってる?」


隣でルッカも覗き込む


「たぶん」


「たぶん?」


「昨日よりちょっと大きい気がする」


「気がするだけ?」


「毎日見てると分からんな」


ルッカが土へ指先を当てる


「まだ濡れてる」


「ほな今日も水なしやな」


《水球》を使えるようになってから、水が足りないことを心配する必要はほとんどなくなった


それでも植物に必要なのは、出せるだけの水ではない


必要な量だけ


最近は何をするときも、その感覚が頭に浮かぶ


「触らんと行こか」


「うん」


二人が立ち上がったところで、森の外側からダリオとミラが歩いてきた


今日は二人とも、普段より少し真面目な顔をしている


「おはよう」


「おはよう、何かあった?」


俺が聞くと、ダリオはすぐに答えず、第二水場へ着いてから道具小屋の横へ腰を下ろした


ミラが持ってきた紙を広げる


簡単な地図だった


ハルナ村


第二水場


森の外側へ抜ける道


フェルナ方面へ続く街道


細かい距離までは正確ではないが、最近確認されたものを記すには十分らしい


「前に来たフェルナの人たちから、もう少し話を聞けた」


ミラが言う


「森の近くで、前はあまり見なかった生き物を見ることが増えてるって話」


「前に聞いたやつ?」


「そう、でも場所をもう少し聞けた」


ミラが地図の数か所を指す


どれも森の奥ではない


街道に比較的近い場所


木々が薄くなる辺り


人が通ることのある範囲だった


「こっちでも似た話がある」


ダリオが別の場所を示す


「第二水場の近くで見つけたやつらもそうだが、最近、普段ならもっと奥にいるはずのものを外側で見ることがある」


「同じ原因?」


「分からない」


ダリオは即答した


「そこはまだ決められない」


「やんな」


俺も頷く


森の中で起きていることは一つではない


以前見た大型の魔物


傷を負っていた理由


水のある谷


森の奥で聞いた低い音


最近浅い場所で確認される危険な生き物


そして数日前に見つけた、小型の二足歩行らしい足跡


全部がつながっているようにも見える


けれど、つながっている証拠はない


「今日見に行くの?」


ルッカが聞く


「近い場所だけな」


ダリオが答える


「奥へ入るつもりはない、最近見つかった痕跡と、前から分かってる生き物の位置を比べたい」


「俺も行く?」


「ああ」


俺は地図を見る


戦うための探索ではない


森の中で何がどこにいるのかを確認するための調査だ


「ミラも?」


「フェルナ側から聞いた場所を確認したいから」


「じゃあ四人か」


ルッカ


ダリオ


ミラ


俺


それぞれ役割が違う


ルッカは痕跡と森を見る


ダリオは危険判断と退路を見る


ミラは人間側から得た情報と地図を確認する


俺は《魔力感知》と魔法


「出る前に一個だけ試してええ?」


俺が言うと、三人の視線が集まった


ルッカだけは少し嫌そうな顔をした


「また実験?」


「危ないやつちゃうよ」


「前も言ってた」


「今日はほんまに小さいやつ」


俺は両手を前へ出した


ここ数日、空間収納の練習をしている間に《魔力制御》の細かい使い方をかなり意識するようになった


そして一つ気になっていたことがある


別の魔法を同時に維持できないか


複数の《火弾》ではない


それより前に、弱い魔法二つを同時に扱うだけ


「《水球》」


右手の前に、小さな水球を作る


飲み水にも足りない程度


大きくする必要はない


そのまま維持する


「これ残したまま……」


左手へ意識を移す


「《風圧》」


ごく弱い風を起こそうとした


瞬間


水球がぐにゃりと形を崩した


「あ」


水が落ちる


地面が濡れた


「失敗」


ルッカが言う


「早いな判定」


「落ちた」


「落ちたけどな」


今までは、一つの魔法を使い終えてから次へ切り替えていた


水を出したあとに風


火を使ったあとに土


連続で使うことはできる


でも同時となると話が違う


「もう一回だけ」


今度はもっと小さくする


《水球》を手のひらほどに抑える


維持


そこへ、ごく弱い《風圧》


風が生まれる


同時に水球が大きく揺れた


「おお」


一瞬だけ両方が残る


しかし次には水が飛び散り、風も消えた


「今ちょっとできたやろ?」


「ちょっと」


「一瞬だけね」


ミラが言う


「でもこれ、使えるって言うにはまだ無理そう」


「俺もそう思う」


成功と言うには短すぎる


水球を維持する意識が風へ引っ張られる


風を安定させようとすれば、水が崩れる


「違う属性を同時に考えるん、思ったより難しいな」


空間収納とはまた別の難しさだった


「今日はここまで」


自分から言うと、ルッカが少し驚いた顔をした


「やめる?」


「調査前に疲れる方があかんやろ」


「学んだ」


「俺をなんやと思ってんの」


「セイジ」


「それ答えになってへん」


四人で第二水場を出た


今日の目的地は、以前より少し外側へ寄った森の縁に近い地域だった


まずルッカが前を歩く


俺は少し後ろから《魔力感知》を広げる


ダリオは周囲と退路を確認し、ミラは地図と実際の地形を見比べていた


しばらくは何も起きなかった


小動物の痕跡


古い足跡


風で倒れた枝


ルッカが時々立ち止まり、地面や木の幹を見る


「これはいつもの」


「何の?」


「獣」


「危ない?」


「小さい」


問題なし


さらに進む


別の場所で、ルッカがまた止まった


「ここ」


土の上に残った大きめの足跡


俺にも見覚えがあった


「これ、前にもっと奥で見たやつちゃう?」


「うん」


ルッカが頷く


ダリオもしゃがみ込む


「この辺りまで出ることはある」


「あるんや」


「絶対にいない場所じゃない、ただ最近は見つかる回数が多い」


「一回おったから異常、ではないってことやな」


「そうだ」


その区別は大事だった


森の生き物は動く


決められた場所から一歩も出ないわけではない


だから一体見ただけでは何も言えない


問題は回数


時期


場所


複数の情報が重なったときだ


ミラが地図へ簡単な印を加える


「フェルナ側で聞いた場所とも、そんなに離れてない」


「ここから街道まで?」


「森の中をまっすぐなら近いけど、人が通る道とは違う」


俺は周囲を見る


まだ人の生活圏そのものではない


それでも奥と呼ぶほど深くもない


「この辺まで来てるんやな」


「来てるものがいる、だな」


ダリオが訂正する


「全部が動いてるとは限らない」


「了解」


勝手に大きくしない


見たことだけを覚える


さらに一時間ほど進む


ルッカが何度か痕跡を見つけた


いずれも、普段はもう少し奥で見ることが多いという生き物のものだった


ただ、古い跡も混じっている


今日通ったとは限らない


「前より増えてる?」


俺が聞く


ルッカはすぐに答えなかった


「増えてると思う」


「思う?」


「同じ道で、前はこんなに見なかった」


断定ではない


でもルッカの感覚なら無視はできない


ダリオも頷いた


「少なくとも、調べる理由はある」


そのときだった


俺の《魔力感知》に反応が入った


「止まって」


三人が即座に足を止める


俺は意識を前へ向ける


一つ


二つ


三つ


さらに奥にもう一つ


「四……いや、五」


「距離は?」


「そんな遠くない」


「向こうも気づいてる?」


「まだ分からん」


ルッカが音を立てず前へ出る


少し先の木の陰から様子を確認し、すぐ戻ってきた


「いる」


「何?」


ルッカが特徴を説明する


大型ではない


ただし、これまで浅い場所で頻繁に見るような生き物でもない


俺も以前、もっと森の内側で見たことがある


「五体まとまってる?」


「近い」


ダリオが周囲を見る


「避けられるか?」


ルッカが少し考える


「戻れば避けられる」


「それなら戻る?」


ミラが聞く


ダリオはすぐに答えなかった


足跡を見る


地形を見る


俺が感じている位置を聞く


「こいつらがこのまま外側へ動くなら、さっきの経路に出る」


「人が通る方?」


「可能性がある」


戦うために追いかける必要はない


けれど、すでに浅い場所まで来ている危険な個体群を、そのまま外へ行かせるのも問題だ


「倒す?」


俺が聞く


「ここならな」


ダリオが周囲を確認する


比較的開けた場所


火を使っても周囲の木へ燃え移りにくい


退路もある


「ただし奥へ逃げた個体は追うな」


「了解」


ルッカが俺の横へ来る


ミラは一歩後ろへ下がる


ダリオが前方を見たまま言う


「来る」


五体のうち二体が動いた


こちらに気づいたらしい


俺は右手を上げる


いつものように一発ずつ撃てばいい


そう考えた


けれど、二体が左右へ分かれた


距離もほぼ同じ


一体を撃てば、もう一体が近づく時間ができる


「二つ……」


ふと、朝の失敗を思い出す


水と風を同時に扱おうとして崩れた


でも《火弾》二つなら同じ属性だ


やることも同じ


今まで一発へまとめていた魔力を、二つに分ける


「セイジ?」


「一回やってみる」


「危なかったらやめろ」


ダリオの声だけ聞く


俺は前を見る


右手の前へ魔力を集める


いつもなら一点


今日は二点


「《火弾》」


一つ目の炎が生まれる


その横へ、もう一つ


「……っ」


二つ目を作った瞬間、一つ目が揺れた


朝の《水球》ほどではない


同じ火だからか、感覚が似ている


ただ、二つを同じ位置へ置こうとすると互いに引っ張られる


「分ける」


右側


左側


二つの火弾へ別々に意識を置く


大きさは通常より少し小さめ


高出力にはしない


必要以上に強くしない


「二つある」


ルッカの声が聞こえた


「あるな」


自分でも少し驚く


でも今は喜んでいる場合ではない


二体が迫っている


「右、左」


それぞれ一体ずつ


狙いを分ける


同じ方向へ飛ばしては意味がない


「行け」


二つの《火弾》が同時に飛んだ


一発目


命中


二発目は少し外へずれた


「ずれた!」


完全には外れない


相手の横をかすめ、動きを鈍らせる


そこへ俺は次の《火弾》を一発だけ作った


「《火弾》」


今度はいつもの一発


狙いを定め、残った一体へ撃つ


直撃


二体とも倒れる


「できたけど、まだ甘いな」


「後ろ」


ダリオの声


考える暇はない


残り三体が動いている


俺は一歩位置を変える


ルッカが一体の進路を指す


「あっち来る」


「見えた」


ダリオが別の一体の位置を確認する


「二体が近い、もう一体は遅れてる」


もう一度


二つ


さっきより魔力を少なくする


強さより安定


「《火弾》」


二つの炎が並ぶ


今度は最初ほど揺れない


左右へ分ける


一体ずつ狙う


「行くで」


二発が飛ぶ


今度は両方とも狙った方向へ進んだ


一体目に直撃


二体目にも当たる


ただし片方は浅い


「まだ動く」


ルッカが言う


「分かってる」


無理に二つを維持し続けない


一度消し、一発へ戻す


「《火弾》」


仕留める


残り一体


しかし最後の個体は、こちらへ向かわず森の奥へ逃げ始めた


俺は反射的に手を上げる


その前にダリオが言った


「追うな」


手を下ろす


「了解」


四体討伐


一体は奥へ逃走


静かになる


俺は《魔力感知》を広げた


「近くに他はいない」


「ルッカ」


ダリオが言う


ルッカが周囲を確認する


「大丈夫」


そこでようやく力を抜いた


「……できたな」


自分の手を見る


「二つ」


完全ではない


一度目は片方がずれた


二度目は当たったが、威力の差が出た


同じ大きさ


同じ速度


別々の目標


全部を揃えるにはまだ練習が必要だ


それでも、二発同時に作って撃てた


「前まで一個ずつやったのに」


「便利?」


ルッカが聞く


「便利やけど、制御できんかったら危ないな」


二発になれば、危険も二倍になる


味方が近くにいる場所で狙いを外せば、それだけ危ない


「使えるからって毎回やるもんちゃうな」


「さっき一発ずれた」


「うん、あれ人おる方向やったら危なかった」


今日は開けた場所で、味方の立ち位置も確認していた


だから試せた


狭い場所ではまだ使うべきではない


「二つ出せる、で終わりちゃうな」


大事なのは二つを安全に扱えること


《魔力制御》を得た意味が、少しずつ分かってきた気がする


ダリオは討伐した個体を見る


「やっぱりこの辺りでまとまってるのは気になるな」


「奥にいるやつなん?」


「もっと内側で見る方が多い」


ルッカが答える


「ここには絶対おらん?」


「絶対じゃない」


「またそれやな」


異変と断定するには弱い


ただ、似た事例が増えている


それだけは事実だった


「記録しとこ」


ミラが地図へ場所を書き込む


俺も位置を覚える


戦闘が終わったからといって奥へ追うことはしない


目的は原因を突き止めることではなく、今どこまで何が来ているかを確認することだ


少し休憩してから、四人は別の経路で第二水場へ戻ることにした


帰り道では、ルッカが再び地面へ目を向けた


俺も何となく足元を見る


数日前に見つけた小さな二足歩行の跡が頭に残っていたからだ


「ルッカ」


「うん」


ほぼ同時に二人が止まった


柔らかい土


小さな足跡


以前見たものと似ている


一つ


二つ


さらに先にも


「またある」


俺がしゃがむ


最初に見つけた場所とは違う


距離も少し離れている


「同じやつ?」


「似てる」


「新しい?」


ルッカが慎重に見る


「前のより新しい」


「近くにいる?」


俺が《魔力感知》を広げる


反応なし


「今は分からん」


ダリオも痕跡を見る


「追うな」


「分かってる」


「先に言っておく」


「信用ないなぁ」


とはいえ、今日は追う理由がない


森の異変を調べている途中で、正体不明の人型存在まで追い始めれば目的が崩れる


ミラが足跡を見る


「人間の子供じゃない?」


「形が違う」


ルッカが答える


「裸足?」


「それとも違う」


俺は自分の足元を見る


今の自分よりかなり小さい


進化前のゴブリンなら、これくらいだっただろうか


「ゴブリンの可能性はある?」


「あるかもしれない」


ルッカはそれ以上言わない


俺も決めつけない


「前のとこだけやなかったんやな」


それが今日分かったことだった


一か所だけの足跡ではない


別の場所にも似た痕跡がある


「増えてるってこと?」


ミラが聞く


「分からん」


今度は俺が答えた


「前からおったけど気づいてへんかっただけかもしれんし」


「そうだな」


ダリオも頷く


「見つけた場所だけ覚えておこう」


俺は少しだけ名残惜しく足跡を見る


もしゴブリンなら


今度こそ、その先を想像しかける


けれどやめた


まだ足跡だ


会っていない


敵かどうかも分からない


仲間かどうかなど、もっと分からない


「帰ろ」


自分から立ち上がる


ルッカが少しだけ俺を見たあと、先に歩き出した


第二水場へ戻った頃には、日が傾き始めていた


エナも来ていて、試験栽培区画の様子を見ていた


「おかえり」


「ただいま」


「どうだった?」


ミラとダリオが調査結果を説明する


俺はその間に道具小屋へ向かい、空間収納から小さな布と縄を取り出した


今日もちゃんと使える


調査中に必要になることはなかったが、持ち歩いていても邪魔にならなかった


「便利やなぁ」


小さく呟く


空間収納を覚えたのは昨日


今日はもう、持っていることが少し普通になり始めている


ただし容量を広げるような実験はしていない


必要な小物だけ


それで十分だ


エナたちの話が終わったあと、俺も戦闘について説明した


「《火弾》二つ?」


エナが驚く


「二つ同時」


「できるようになったの?」


「一応な、でもまだ危ない」


「危ない?」


「最初一個ずれた」


「じゃあ気をつけて」


「そこはほんまに気をつける」


ルッカが横から言う


「二回目は当たった」


「お、そこも言ってくれるんや」


「でも一個弱かった」


「ちゃんと全部言うなぁ」


俺は苦笑した


それでも事実である


成功した


でも完成ではない


「朝やった水と風はもっとあかんかったしな」


エナが首を傾げる


「水と風?」


「《水球》出したまま《風圧》使おうとしてん」


「できた?」


「一瞬だけ、すぐ崩れた」


「じゃあまだ使わない方がいいね」


「うん、実戦でやる気はない」


同じ火を二つ扱うことと、違う属性を同時に扱うことは別らしい


何が違うのか


魔力の分け方か


属性を変える意識か


まだ分からない


正式な新しい魔法になったわけでもない


新しいSKILLが増えたわけでもない


ただ、自分の操作できる範囲が少し広がっただけだ


「STATUS見とこかな」


今日倒したのは四体


前にも複数を倒した戦いのあと、確認するとLEVELが2から4へ上がっていた


今回も何か変わっている可能性がある


俺は表示を開く


NAME セイジ


RACE ホブゴブリンメイジ


LEVEL 6


HP E+


MP D+


筋力 F+


耐久 E+


敏捷 E+


器用 D


精神 D-


魔力 D+


SKILL


《魔力感知》

《魔力制御》


TITLE


なし


「……六」


昨日まで4だった


一度の戦闘を終え、今は6


「また二つ上がってる」


ルッカが覗き込む


「六?」


「うん」


ほかにも変化がある


MPがDからD+


器用がD-からD


魔力がDからD+


「結構変わってるな」


進化後、最初にLEVELが上がったときより変化が分かりやすい


今日は《火弾》を二つに分けて扱った


朝には異なる属性を同時に維持しようともした


空間収納も使っている


それらと能力ランクの変化がどう関係しているのかまでは分からない


ただ、細かい魔力操作を続けてきた結果として見れば、妙に納得できる部分はあった


「器用も上がった」


「手?」


ルッカが俺の手を見る


「たぶん手先だけの話ちゃうと思うけどな」


魔法の細かい操作


道具の扱い


力加減


そういう部分も含まれているのかもしれない


正確な意味は分からない


「でも、強くなってるんは分かる」


LEVEL6


進化してから、またLEVEL6まで上がった


まだ次に何があるかは分からない


進化条件も表示されていない


それでも、また少しずつ育っている


「探して倒しに行く気はないけどな」


誰に言うでもなく口にする


今日の戦闘も、森の浅い場所へ出てきた危険な個体群を確認した結果だった


LEVELを上げるためではない


「必要なときに戦った結果でええ」


「うん」


ルッカが頷く


STATUSを閉じる


その後、四人で今日の情報を簡単に整理した


浅い場所で、普段はもう少し奥側にいることが多い生き物の痕跡を複数確認


実際に複数個体とも遭遇


フェルナ方面でも森に近い街道周辺で似た目撃情報あり


別地点で、小型二足歩行の正体不明の足跡を再確認


ただし、これらが同じ原因で起きているとは限らない


「原因探しはまだ早い?」


俺が聞く


「情報が少ない」


ダリオが答える


「奥へ入り込んで確かめる段階じゃない」


「了解」


焦って奥へ行く必要はない


生活圏に近い場所の安全を見ながら、情報を増やす


それでいい


帰る前に、俺は試験栽培区画へ寄った


朝見た小さな芽は、当然ながら大きく変わっていない


「こっちは平和やな」


ルッカが横へ来る


「平和?」


「今日ずっと森の変な跡見てたから」


「芽」


「そう、芽」


水はまだいらない


触りもしない


ただ見るだけ


森の奥から何が来ているのかは分からない


正体不明の足跡が誰のものなのかも分からない


それでも第二水場では、小さな芽が静かに育っている


道具小屋もある


水もある


少しずつ整えた場所がある


「守るもん増えたなぁ」


小さく呟く


「芽?」


「芽も」


「道具小屋?」


「それも」


「第二水場?」


「それもやな」


ルッカが少し笑う


岩陰拠点へ帰るころには、空が赤くなっていた


今日はいつもより歩いた


戦闘もした


魔法もかなり使った


それでも、進化前ほど疲れてはいない


夕食を作りながら、俺は小さな《火弾》を一つだけ使った


二つ出せるようになったからといって、火をつけるのに二つはいらない


「一個で十分」


「二つ出さない?」


「いらんいらん」


「できるのに?」


「できるから使う、やったらまた失敗するからな」


温水を作るときも一つ


生活ではそれで十分だ


強くなったことより、必要な強さを選べる方が大事なのかもしれない


食事を終えたあと、俺は小さな《水球》を作った


手の前に維持する


そして朝のように、反対側へ少しだけ風を起こそうとする


「またやる?」


「最後に一回だけ」


弱い《風圧》


一瞬だけ水球が残る


次の瞬間、形が崩れた


「やっぱ無理やな」


「失敗」


「今日は素直に認めるわ」


異なる属性を安定して同時に扱うのは、まだ無理


火弾二つとは違う


今はそれが分かっただけで十分だ


「そのうちやな」


「明日?」


「そのうちって言うたやろ」


「明日やりそう」


「……否定はせんとく」


ルッカが笑う


俺も笑った


LEVEL6


MP D+


器用 D


魔力 D+


小さな空間収納


初めて成功した二つの《火弾》


少しずつできることは増えている


けれど、今日一番頭に残っているのはSTATUSの表示ではなかった


森の浅い場所に増えている、本来ならもっと奥で見ることが多い生き物


そして別の場所でも見つかった、小さな二足歩行の足跡


どちらも理由は分からない


同じことが原因なのかも分からない


「ルッカ」


「なに?」


「あの足跡、次見つけても勝手に追わへんから」


「うん」


「その代わり、また見つけたら絶対教えて」


「分かった」


俺は寝床へ横になる


もし次に足跡だけではなく、姿を見たら


そのとき自分はどうするのだろう


人間なら、まず話せるか考える


魔物なら、危険かどうかを見る


ゴブリンなら


そこまで考え、俺は目を閉じた


答えを出すにはまだ早い


今はただ、森の中に自分たち以外の何かがいる


その可能性だけを覚えておけばいい


明日になれば、第二水場の芽をまた見に行く


道具小屋も使う


空間収納も少し練習する


いつもの生活を続けながら、森の変化を見る


今できるのは、それだけだった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。