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みんなの道具小屋

第39回 みんなの道具小屋


第二水場へ着いたとき、俺が最初に目にしたのは、いつもの備品の山ではなく、その横に立って腕を組んでいるローデンだった


足元には切りそろえられた木材と、長さの違う枝、何枚かの板らしいものがまとめて置かれている


昨日までなかった光景だった


「おはよう、ローデン」


「おう、来たか」


ローデンは俺を見ると、すぐに第二水場の端を指した


「エナから聞いた、物を置く場所が足りなくなってるんだってな」


「そうそう、ちょうど相談しようと思っててん」


俺とルッカが近づくと、ローデンは地面に枝で簡単な線を引いた


大きな建物を作るつもりはないらしい


雨を避けられる屋根と、物を地面へ直接置かずに済む床、それから最低限の壁


人が寝泊まりする場所ではなく、道具を置くことだけを目的とした小さな小屋だ


「このくらいで十分だろう」


ローデンが四角く囲った範囲を見る


岩陰拠点よりずっと小さい


今の俺の身体なら、中へ入って歩き回るには少し狭いかもしれないが、そもそも人が長時間中へいるための場所ではない


「入口から手伸ばして取れるくらい?」


「そうだな、中を広くするより濡れないことを優先した方がいい」


「なるほど」


俺は頷いた


自分なら、せっかく作るなら広くしようと考えてしまいそうだった


けれどローデンは、何を置くための建物なのかから考えている


「床は地面より少し上げる、雨が流れ込まないようにして、周りにも水の逃げ道を作る」


「そこ、俺の魔法使える?」


「むしろ使ってもらうつもりだ」


ローデンが笑う


「ただし形は俺が決める」


「もちろん」


そこは最初から異論がない


土を動かせるからといって、俺が建築まで分かるようになったわけではない


どこを高くして、どこを低くするか


柱をどこへ立てるか


屋根から落ちた水をどちらへ流すか


そういう判断はローデンの領分だった


すでに来ていたエナは、今ある備品を少し離れた場所へ移している


ミラもその横で、置かれている物を種類ごとに分けていた


「これ、全部入れるの?」


俺が尋ねると、エナは首を振った


「全部じゃないよ、濡らしたくない物とか、必要なときすぐ使いたい物」


まとめられているのは、縄、空の容器、簡単な修理道具、清潔な布、それから最低限の手当てに使う物だった


昨日気にしていた温水用の器も、使わないときはここへ置けそうだ


「食べ物は?」


「置かない方がいいと思う」


ルッカが先に答えた


「におい、来る」


「ああ、それはそうか」


食料を置けば動物や魔物を引き寄せる可能性がある


保存状態の問題もある


便利だからと何でも詰め込む場所にしてしまうのは良くないらしい


「ほな道具だけやな」


「今のところはな」


ローデンが答えた


少しして、ダリオも木材を抱えて戻ってきた


進化してからの俺なら一度に持てそうな量だったが、だからといって全部自分で運ぶ必要はない


俺はダリオから半分ほど受け取り、指定された場所へ置いた


「これで足りる?」


「柱と骨組みはな、屋根はもう少し必要だ」


ローデンが木材を確認しながら答える


ダリオは建築そのものには口を出さず、第二水場の周囲と、作業中に人が通る位置を見ていた


木を運ぶ経路が重なれば危ない


刃物や重い資材を使う場所の近くを、エナやミラが何度も通るのも良くない


ローデンが建物を作り、ダリオが作業中の安全を見ている


その二人の動きを見ていると、自分が何をすればいいかも自然に分かった


「じゃあ、地面からやる?」


「ああ、ここを少し上げたい」


ローデンが線の内側を示す


「その前に表面の柔らかいところを均してくれ、あまり大きく動かさなくていい」


「了解」


俺は地面へ手を向ける


「《土成形》」


魔力を流すと、線で囲まれた範囲の土がゆっくり形を変える


以前なら、とりあえず平らにすることへ意識を集中させていた


今はローデンの指示を聞きながら、必要な場所だけを少しずつ動かせる


「右側はもう少し低く」


「こっち?」


「そう、そこから水を逃がす」


俺が土をずらす


ローデンがしゃがみ込み、目線を低くして傾きを確認する


「そこでいい」


「次は?」


「固める前に、この辺を少し上げる」


言われた通りに土を動かす


一つの大きな形を作るのではなく、小さな調整を何度も重ねる


昨日の温水作りと似ている気がした


魔法を強く使えば早く終わるわけではない


必要なところだけ変える方が大事だ


ローデンが何度か地面を踏み、問題がないことを確認してから頷いた


「固めてくれ」


「《土締め》」


今度は成形した地面を締める


魔力を切り替えても、以前ほど意識が途切れない


《土成形》で形を整え、《土締め》で固める


一度終えてから周囲を見ると、端の一か所だけ少し柔らかい


俺はそこへ再び《土成形》を使い、ほんの少し土を寄せたあと、もう一度《土締め》をかけた


「そこまで分かったか」


ローデンに言われ、俺は地面から顔を上げた


「踏んだらちょっと違ったから」


「前より扱いが細かくなったな」


「《魔力制御》のおかげやと思う」


ローデンが頷く


「なら次は水の逃げ道だ」


小屋の周囲へ浅い溝を作る


深く掘る必要はない


屋根から落ちた雨や、地面を流れてきた水が床の下へ溜まらないようにするだけだ


俺はローデンに位置を示してもらいながら、《土成形》で細い流れを作っていく


第二水場そのものへ泥水が直接流れ込まない向きも考える


そこまで来ると、俺一人では判断できない部分が増えた


「これ以上こっち向けたら水場に近すぎる?」


「ああ、もう少し外へ逃がそう」


「了解」


魔法は便利だ


けれど便利だからこそ、間違った形も簡単に作れてしまう


ローデンが横にいると、その心配が少なかった


地面の準備が終わると、いよいよ柱を立てる作業に入った


ここからはローデンが完全に主役だった


木材の長さを確認し、組み合わせ、固定する位置を決めていく


俺は言われた場所を押さえたり、重い木材を持ち上げたりする


進化後の身体は、こういう作業で非常に分かりやすく役立った


「もう少し上」


「ここ?」


「そこで止めろ」


「はいよ」


以前なら二人で持つような木材でも、今なら一人で支えられる


ただし、どこへ立てるかを決めるのはローデンだ


俺が力任せに動かしてしまえば、せっかく合わせた位置がずれる


「力あるのに待つ方が難しいな」


「勝手に動かされるよりましだ」


「それはそう」


ルッカは少し離れた場所で、使えそうな細い枝を選別している


森で取ってきたものの中から、傷みが少なく、長さの合うものを見つけてローデンへ渡していた


エナとミラは備品の整理を続けている


「これ、こっちでいい?」


ミラが布の束を持ち上げる


エナが中身を確認してから頷いた


「清潔なものは一緒にしておきたい、使ったものと混ざらないように」


「じゃあ場所を分けよう」


小屋はまだ骨組みしかないのに、すでに中へ何をどう置くかという話が始まっている


俺は木材を支えながら、その様子を見て少し笑った


自分とルッカだけの岩陰拠点を作っていた頃とは違う


ここでは、それぞれが自分の使う物を持ち寄っている


誰か一人のための場所ではない


午前の作業が進み、簡単な屋根の骨組みが形になり始めた頃、ダリオが作業を止めた


「ルッカ」


「うん」


二人がほぼ同時に森の方を見る


俺も反応して《魔力感知》を広げたが、この距離ではまだはっきりしたものを拾えない


「何かあった?」


ダリオはすぐに答えず、地面へ視線を落とした


さっき資材を運んだときに使った経路の近くに、見覚えのない痕跡が増えているらしい


「さっきはなかった」


ルッカがしゃがんで土を見る


「複数」


「どっち向き?」


ダリオが聞く


ルッカは足跡を追い、森の奥を指した


「こっちから来て、向こう」


第二水場を横切ったわけではない


だが近い


人が木材を取りに行く場所とも重なっている


ダリオは少し考え、ローデンへ視線を向けた


「作業を止めるほどじゃない、ただこのまま資材を取りに行くのはやめた方がいい」


「分かった」


「俺とルッカで見る、セイジも来てくれ」


「了解」


ローデンはそれ以上聞かなかった


建築途中の小屋をそのままにし、作業場所へエナとミラも残る


何かあれば三人で第二水場から離れられるよう、ダリオが簡単に退避方向だけ確認してから、俺たちは森へ入った


前を歩くのはルッカだ


ダリオが少し後ろから周囲を見て、俺は《魔力感知》を広げる


戦うために来たわけではない


危険が第二水場の近くにいるか、それを確かめるためだ


しばらく進むと、ルッカが足を止めた


「いる」


今度は俺にも分かった


一つではない


木々の向こうに複数の反応がある


「三つ……いや、四つか」


「近いな」


ダリオが低い声で言う


さらに進んだところで姿を確認できた


どれも以前に見たことがある魔物だった


一体なら今の俺にとって大きな脅威ではない


進化前でも、距離と位置取りを間違えなければ倒せた相手だ


ただし四体がまとまって第二水場の近くをうろついているなら、放置する理由はない


「避けて戻るだけならできる」


ダリオが言う


「でも、資材取りにまた人がここ通るよな」


「ああ」


「なら残す方が危ないか」


ダリオはすぐに頷いた


「倒せるなら、ここで減らした方がいい」


判断が決まる


ルッカは戦う位置を選び、木々の間に十分な空間がある方へ移動した


俺もその位置へ合わせる


昨日一体だけを倒したときとは違い、今度は四体いる


だからといって、複数の《火弾》を同時に出すつもりはなかった


まだ試してもいないことを、必要のない場面で始める理由はない


「一体ずつでいく」


「分かった」


ダリオが横へ広がらず、退路を残せる位置に立つ


一体がこちらへ気づいた


続いて残りも動く


俺は右手を上げた


「《火弾》」


昨日使ったものと同じ、高出力


先頭へ一発


直撃した魔物がその場で倒れる


残りが散ろうとしたところで、俺は少し身体の向きを変えた


「《火弾》」


二発目


別の一体が倒れる


同時ではない


一発ずつ、狙いを変えて撃っている


それでも進化前とは速度がまるで違った


三体目は木の陰へ回ろうとしたが、ルッカが動きを先に読み、その方向を指した


「あっち」


「見えた」


三発目を撃つ


木へ当てないよう角度を変え、開けた位置へ出た瞬間を狙う


命中


最後の一体がこちらへ向かうのをやめ、森の奥へ逃げようとした


俺は撃つ前にダリオを見る


「追う?」


「いや、第二水場から離れるなら深追いするな」


「了解」


最後の一体はそのまま森の奥へ消えた


俺は追わなかった


三体を倒せた


それで十分だ


ルッカが周囲を確認し、別の反応がないことを確かめる


「いない」


「戻ろう」


ダリオの判断は早かった


討伐した魔物を必要以上に調べたり、さらに奥へ進んだりはしない


目的は第二水場周辺の安全確保であって、森の掃討ではない


帰り道で俺は、自分の右手を見た


三発


高い出力で続けて使った


多少魔力を使った感覚はあるが、息が切れるほどではない


昨日一体を倒したときにも強くなったと感じたが、今日はさらに分かりやすかった


以前なら、四体を前にすればもっと準備が必要だった


《風圧》を使うか、足場を考えるか、ルッカやダリオに前へ出てもらうか


今は、安全な位置さえ取れれば《火弾》だけで短く終えられる


「前よりだいぶ楽やな」


「だからって油断するなよ」


ダリオがすぐに言った


「してへんしてへん」


「今の最後を追わなかったのはそれでいい」


「そこは任せるわ、追うかどうかは俺よりダリオの方が分かるし」


ダリオは少しだけ頷いた


強くなったから、全部自分で決める


そうならないのは、俺にとっても楽だった


戦えるかどうかと、戦うべきかどうかは別だ


第二水場へ戻ると、ローデンが真っ先に状況を聞いた


「どうだった」


「四体おった、三体倒して、一体は奥へ逃げた」


ダリオが続ける


「近くに別の群れは確認できてない、資材取りは少し場所をずらした方がいい」


「なら今日は残ってる分で進める」


「それがいい」


話はそれで終わった


大きな事件になったわけではない


全員が作業へ戻る


俺もそのつもりだったが、ふと昨日のことを思い出した


「そういや……」


STATUSを開く


昨日は一体を倒したあと、LEVEL1から2へ上がっていた


今日も変化があるかもしれない


表示へ視線を走らせる


NAME セイジ


RACE ホブゴブリンメイジ


LEVEL 4


HP E+


MP D


筋力 F+


耐久 E+


敏捷 E+


器用 D-


精神 D-


魔力 D


SKILL


《魔力感知》

《魔力制御》


TITLE


なし


「……ん?」


俺は一度目を閉じ、もう一度見る


LEVEL4


「四?」


ルッカが隣から覗き込む


「昨日、二やったよな」


「うん」


「三飛ばして四になってる」


正確には三を飛ばしたのか、戦いの途中で三になってから四になったのかは分からない


ただ、確認したときには2から4へ変わっている


「一個ずつちゃうんや」


思わず口から出た


進化前は、LEVELが上がれば一つ増えるものだと思い込んでいた


けれど今回、一度の戦いを終えて確認すると二つ上がっている


経験値がどう計算されているかは分からない


何をどれだけ倒せば次へ上がるのかも分からない


それでも、一度の戦いの間に二つ上がることもあるらしい


「ほな、いっぱい倒したら一気に上がるんかな」


口にした直後、俺は森を見る


そして小さく首を振った


「……いや、だからって探して狩る必要はないか」


「うん」


ルッカがすぐに答えた


今日戦ったのも、第二水場の近くに危険な魔物が複数いたからだ


LEVELを上げるためではない


「必要なときだけでええな」


表示をもう一度見る


LEVELだけではなかった


HPがEからE+へ


耐久もEからE+へ変わっている


進化した直後より、少しだけ丈夫になったということだろう


ほかの能力には変化がない


SKILLもそのまま


TITLEもない


「ほんまにまた育ってるな」


嬉しくないわけではない


むしろ嬉しい


けれど、そのために今日の目的を変える気にはならなかった


俺はSTATUSを閉じる


「よし、小屋続きやろ」


「もういいのか?」


近くにいたミラが尋ねる


「うん、LEVEL上がっただけやし」


「だけって言っていいの?」


「今は小屋の方が途中やろ」


ローデンを見ると、すでに次の木材を持って待っていた


「終わったならこっち持て」


「はいはい」


午後の作業が再開する


骨組みへ屋根をつけ、雨が入りやすそうな方向には簡単な壁を作る


完全に閉じてしまうと中が湿りそうなので、空気が抜ける隙間も残す


そこもローデンが考えた


俺は再び地面側を担当する


午前中に作った排水の溝を確認し、資材を運んだことで崩れた部分だけ《土成形》で直す


そのあと《土締め》で固める


使う


形を見る


少し直す


固める


午前よりさらに流れが滑らかだった


「《土成形》」


土が動く


必要なところで止める


「《土締め》」


そのまま魔力を切り替え、形を崩さず固める


別々の魔法だが、使う順番を考えなくても自然につながるようになってきた


ローデンが床の端を踏みながら言う


「ここはもう大丈夫だ」


「次どこ?」


「入口だ、出入りするときに泥が溜まらないよう少しだけ高くしてくれ」


「了解」


戦いより、こちらの方が時間は長かった


けれど俺は嫌ではなかった


魔物を三体倒してLEVELが二つ上がったことも確かな成長だ


こうして《土成形》と《土締め》を迷わず続けて使えることも、別の意味で成長だと思う


夕方が近づく頃、小屋はようやく形になった


「できたな」


ローデンが少し離れて全体を見る


大きくはない


人が暮らすには狭い


岩陰拠点のような寝床も、調理場所もない


けれど屋根があり、地面より高い床があり、三方を簡単な壁が囲っている


入口から中を覗けば、物を置くための場所がきちんと確保されていた


「小さいけど、ええな」


俺が言う


「大きくする必要はない」


ローデンが返す


「足りなくなったら、そのとき考えればいい」


「最初から何でも作りすぎん方がええか」


「使い方もまだ決まってないからな」


それもそうだった


できたばかりの場所に、いきなり何でも詰め込む必要はない


エナとミラが、午前中に分けていた物を運び始める


俺とルッカも手伝った


縄


空の容器


簡単な修理道具


清潔な布


最低限の救護用品


温水を作るときにも使える器


どれも大量ではない


食料も置かない


必要なものだけが、取り出しやすいように並べられていく


「これはこっち」


エナが清潔な布を奥へ置く


「汚れたものはここへ戻さないで」


「使ったら?」


「洗ってから」


「了解」


ミラが修理道具の場所を確認する


「これは誰が使ってもここに戻す、でいい?」


「それが分かりやすいな」


ローデンが頷いた


「使ったら戻す」


俺が繰り返す


「単純でええやん」


「セイジ、忘れそう」


ルッカが言う


「なんで俺限定やねん」


「よく置く」


「……否定しにくいな」


岩陰拠点でも、使った物を手近なところへ置いてあとで探すことがある


ルッカはそれを知っている


ミラが笑い、エナまで少し笑った


「ほな俺もちゃんと戻します」


「うん」


ルッカが満足そうに頷く


小屋の中へ物が収まると、第二水場の景色が少し変わった


昨日まで地面や岩陰へ分散していた物がなくなり、空いた場所が増えている


水を飲んで休む場所


簡単な作業をする場所


道具を保管する場所


役割が少しずつ分かれてきた


村ではない


誰かが住んでいるわけでもない


店でも宿でもない


それでも、最初に見つけた水場のままではなくなっている


「みんなの道具小屋やな」


俺が言うと、ローデンが少し眉を上げた


「名前を付けるほどのものか?」


「分かりやすいやん」


「道具小屋で十分だろ」


「みんなの、が大事やねん」


自分の物ではない


ルッカの物でもない


ローデンだけが使う小屋でも、エナだけが使う小屋でもない


ここへ来る皆が必要なものを置き、使ったら戻す場所だ


「ええやろ?」


ミラが笑いながら頷いた


「私は分かりやすいと思う」


「ほら」


「好きに呼べ」


ローデンは諦めたように言った


最後にダリオが周囲を一周し、資材の端材や足元に危ない物が残っていないか確認する


その間に俺は、小屋の周りへ作った排水をもう一度見る


雨が降らなければ本当にうまく流れるかは分からない


けれど少なくとも、今までのように道具を地面へ置いたまま雨を心配する必要は減るはずだ


「これで布も濡れにくいな」


エナが小屋を見ながら言う


「温水の器も置けるで」


「増やしすぎないでね」


「分かってるって」


「昨日からそれ何回目?」


ミラに言われ、俺は数えようとしてやめた


「まあ、分かってるってことで」


「たぶん分かってない」


ルッカが言う


「味方おらんな今日」


笑い声が第二水場に広がる


戦ったことより、小屋ができたことの方が今日一日の記憶に残りそうだった


片づけが終わった頃には、空が少しずつ夕方の色へ変わり始めている


俺は完成した小屋と、その前にいる五人を見る


ローデンが建て方を考えた


ダリオが作業と周囲の安全を見た


ルッカが森の痕跡を見つけ、資材も選んだ


エナが清潔にしておきたい物を分けた


ミラが皆で使う道具を整理した


俺は土を整え、固め、重い物を運んだ


一人で作ったものではない


だからこそ、出来上がった小さな小屋が妙に嬉しかった


「なんか、ほんまにみんなの場所っぽくなってきたな」


誰に言うでもなく呟く


第二水場は、まだただの森の中だ


夜になれば皆それぞれの場所へ帰る


俺とルッカも岩陰拠点へ戻る


それでも、ここへ来れば水があり、休めて、道具まで置けるようになった


少しずつ役割が増えている


帰る前、俺は道具小屋の入口から中をもう一度覗いた


「使ったら戻す、やな」


「セイジが一番」


後ろからルッカの声がする


「覚えてるって」


そう返しながら外へ出る


ふと小屋の横へ視線を移すと、まだ何も使っていない地面が広がっていた


平らなところもあれば、少し日が入りそうな場所もある


今まではただの空き地にしか見えなかった


今日はなぜか、別のものに見える


道具を置く場所ができたからだろうか


ここで何か作るなら、次は何が便利だろう


そんなことを自然に考えるようになっている


「セイジ?」


「ん?」


「帰る」


「ああ、帰ろか」


ルッカと並んで歩き出す


LEVELは4になった


HPと耐久も少し上がった


それは嬉しい


けれど第二水場に残った小さな道具小屋を見ると、今日増えたものはSTATUSの数字だけではなかった


森の中に、昨日までなかった便利な場所が一つ増えた


そしてそれを使うのは、自分一人ではない


俺はそのことを、LEVELが二つ上がったことと同じくらい嬉しく感じていた

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