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お湯がある生活

第38回 お湯がある生活


翌朝、俺は火を起こしながら、昨日の夜から頭の片隅に残っていたことをもう一度考えていた


水を出せる


火も出せる


それぞれ別々に考えれば、今まで何度も使ってきた魔法だった


《水球》は飲み水として使い、汚れを落とすときにも役立っている


《火弾》はもともと戦うために覚えた魔法だが、昨日は出力をかなり落として、夕食の火をつけるためにも使えた


なら、その二つを使えばもっと単純なことができるのではないか


「……お湯、作れるんちゃう?」


呟いたところで、朝食を食べていたルッカが顔を上げた


「おゆ?」


「あったかい水」


「水、あったかい?」


「そうそう」


ルッカは少し考え、それから首を傾げた


森で生活していれば、水は基本的に冷たい


暑い時期ならそれでも困らないが、朝や夜に身体を洗うには冷たすぎることがある


濡らした布で身体を拭くときも、手や顔だけなら我慢できても、全身となるとなかなか気合いがいる


前世では蛇口をひねれば温かい水が出ていた


今思えば、とんでもなく便利な生活だった


「水出せる、火も出せる、ほな温めたらええだけやん」


「火、水にする?」


「いや、それはやめとこ」


ルッカの言葉を聞いて、俺はすぐに首を振った


《水球》を作り、そこへ《火弾》を撃ち込む


一瞬だけ頭に浮かんだが、どう考えても雑すぎる


戦闘で使う魔法を水へ直接撃ち込んだら、温かい水になる前に器が壊れるか、水が飛び散るか、その両方になる気がする


昨日ようやく《火弾》の出力を使い分けることを意識したばかりなのに、いきなり全力で雑なことをしては意味がない


「普通に温めよ」


俺は岩陰拠点の中を見回した


使えそうな器を選ぶ


飲み水を入れるための小さな容器ではなく、ある程度の水を入れられて、火の近くへ置いてもすぐには壊れなさそうなもの


以前から調理に使っている器が一つある


大きさは風呂とはほど遠いが、まず試すだけなら十分だ


「これでやってみるか」


朝食を終えたあと、俺は岩陰拠点の調理場所を少し片づけた


昨日までなら、ここで使う火は普通に燃料へ着火して作っていた


今日は少し違う


まず《水球》を使う


「《水球》」


手の前に水が集まる


以前なら飲む量を作るだけでも、出すか止めるかという感覚が強かった


今は《魔力制御》のおかげで、必要な量だけ出すことがかなり楽になっている


大きな水球を作る必要はない


器の大きさを見ながら少しずつ水を入れ、七分ほど満たしたところで止めた


「これくらいかな」


ルッカが隣から覗き込む


「飲む?」


「飲まへんよ、温める」


俺は器を安定した場所へ置いた


次は火だ


昨日の夜にも小さな《火弾》は作った


ただ、あれは火をつけるための一瞬の利用だった


今回は水を温めるまで、ある程度の時間、弱い火を扱う必要がある


戦闘用の《火弾》をそのまま使うのではなく、《魔力制御》で極端に出力を抑える


「小さく……弱く……」


右手へ魔力を集める


炎が生まれた瞬間、俺は眉をひそめた


「まだ強いな」


昨日の着火に使った程度の小ささだった


それでも器のすぐ近くで長く使うには強すぎる気がする


一度消し、もう一度やる


今度は魔力を集める段階から量を減らす


炎を作る、というより、消えないぎりぎりまで細くするような感覚で調整した


指先の先に、小さな炎が生まれる


「お」


ルッカが顔を近づけようとしたので、俺は空いている手で止めた


「近い近い、熱いから」


「小さい」


「小さいけど火は火やからな」


見た目は頼りない


昨日魔物を倒した高出力の《火弾》とは、同じ魔法とは思えないほど違う


あちらは当たれば命を奪うための炎だった


今は器を温めるためだけの小さな熱源だ


俺は炎を器へ近づける


近づけすぎないよう距離を保ち、底へ熱を当てる


しばらくそのまま維持した


「……これ、地味やな」


ルッカが水を見ている


「まだ?」


「まだやと思う」


触って確認するわけにもいかないので、俺は一度火を離し、器の外側へ手を近づけた


少し温かい


「お、いけてる」


嬉しくなって、もう一度炎を近づける


今度はさっきよりほんの少しだけ強くした


温まるなら、少しくらい早い方がいい


そう思ったのだが、しばらくすると器の底の方から小さな音がした


「あれ?」


水面にも変化が出てくる


「ちょ、待って、これ早い?」


慌てて火を離す


器へ手を近づけると、さっきより明らかに熱い


水へ指先を入れようとして、すぐにやめた


代わりに少量だけ別の器へ移し、慎重に触れる


「あっつ」


ルッカがびくっとした


「失敗」


「お湯?」


「お湯ではある、あるけど熱すぎる」


温水を作りたいのに、熱くしすぎて使いにくくなっている


水を足せば調整できるだろうが、それでは毎回同じことを繰り返しそうだ


「火、思ったより弱くてええんやな」


戦闘では、相手を止められるか、倒せるかという基準で出力を考えてきた


暮らしでは違う


必要なのは強さではなく、ちょうどよさだ


俺は熱くしすぎた水へ《水球》で少し冷たい水を足した


混ぜてから確認すると、今度はちょうどいい


けれど、これは成功というより修正である


「もう一回やろ」


「まだやる?」


「こういうのは最初にちゃんと分かった方が楽やからな」


ルッカはよく分からないという顔をしながらも、その場に座った


二回目は最初から火をかなり弱くした


器との距離も少し取る


一度に早く温めようとせず、弱い熱を長めに当てる


途中で何度か止めて水の温度を確認し、そのたびに炎の強さや距離を少し変えた


魔物へ撃つ《火弾》より、よほど細かい


けれど不思議と面倒ではなかった


昨日までなら《火弾》は、強くすることの方が分かりやすかった


今は弱くすることで、別の使い道が見えてくる


「これくらいやったら……」


少量を手ですくってみる


温かい


熱すぎず、冷たくもない


「できた」


俺が笑うと、ルッカがすぐ隣へ寄った


「さわる」


「ゆっくりな」


ルッカが指先を水へ入れる


目を少し見開き、そのまま手のひらまで入れた


「あったかい」


「やろ?」


「あったかい水」


「お湯や」


ルッカは何度も手を入れている


よほど珍しいらしい


俺にとっても、こちらへ来てからはほとんど触れていなかった感覚だった


温かい水


それだけのものが妙に懐かしい


前世では毎日使っていた


顔を洗うときも、風呂に入るときも、冬の洗い物でも


なくなって初めて、どれだけ生活に深く入り込んでいたものか分かる


「これ、身体拭けるな」


布を一枚取り、水へ浸す


軽く絞り、腕を拭いてみる


「……めっちゃええやん」


冷たい布で拭くのとは全然違う


肌についた汚れを落とすだけなのに、身体が少し緩む


朝の冷たい空気の中なら、なおさらありがたい


ルッカがじっと見ている


「やる?」


「うん」


別の布を温水へ浸し、ルッカへ渡す


ルッカは最初に顔を拭き、それから首、腕と順番に拭いていった


途中から明らかに機嫌がいい


「いい?」


「いい」


「やっぱそうやんな」


俺も顔を拭く


額から頬、首筋へ温かさが広がる


風呂とは呼べない


身体全体を湯へ沈めることもできない


それでも、冷たい水しかなかった生活と比べれば十分大きな変化だった


「頭もいけるかな」


髪を全部濡らすほどの量はないが、温水を少しずつ使えば汚れを落とせそうだ


俺は器へもう一度《水球》を足し、さっき覚えた程度の弱い火で温め直した


二度目になると、最初ほど手間取らない


火をどれくらい離せばいいか、どの程度の出力なら急に熱くなりすぎないか、少しずつ分かってきた


ルッカがその様子を見ている


「セイジ、火、ちっちゃい」


「これくらいで十分みたいやな」


「昨日、大きかった」


「昨日のは戦うやつ、これは暮らすやつ」


「同じ火?」


「同じ《火弾》やで」


口にしてから、自分でも少し面白く感じた


同じ魔法なのに、昨日は魔物を倒し、今日は水を温めている


使う魔力の量と、使い方が違うだけだ


温めた水を使い、髪や頭皮を布で丁寧に拭いていく


完全に洗い流すようなことはできないが、冷たい水よりずっと楽だった


ルッカも真似をする


互いに背中の届きにくいところを拭き合い、朝から思った以上に時間を使った


「なんか風呂入った気分やな」


「ふろ?」


「身体を全部お湯につけるやつ」


「全部?」


「全部」


ルッカが器を見る


それから俺を見る


もう一度器を見る


「入らない」


「そら入らんよ」


思わず笑った


今の俺なら、片足すらまともに入らないだろう


「いつか、もっといっぱいお湯作れたらええけどな」


大量の水を出すこと自体はできる


問題は、それをどう入れて、どう温めるかだ


大きな器も必要になる


排水も考えなければならない


今すぐできる話ではない


けれど、以前なら考えもしなかった


温水を作れたことで、少し先の暮らしまで想像できるようになった


身体を拭き終えたあと、使った布を見て、俺は別のことを思いついた


「これ、洗うか」


「洗う?」


「せっかくお湯あるし」


汚れた布を器の中へ入れる


手で軽く揉むと、水が少し濁った


冷たい水でも洗えるが、温かい方が手が楽だ


特に朝は違いが大きい


何枚かまとめて洗い、汚れた水は生活場所から離れた適切な場所へ捨てる


そのあと新しい水を《水球》で用意し、すすいだ


「問題はこれやな」


洗い終えた布から水が滴っている


晴れていれば外へ干せばいい


だが、乾くまで時間がかかる


雨の日ならさらに困る


俺は布を持ち上げながら考え、すぐに別の魔法を思い出した


「《風圧》」


弱く風を送る


戦闘で相手を押すような強さは必要ない


布が飛ばない程度に抑え、表面へ風を当て続ける


ルッカが布の反対側を持った


「これ、楽やな」


「風」


「そう、乾かす風」


すぐに完全乾燥するわけではない


それでも、水が滴る状態からは目に見えて変わっていく


一か所だけに風を当てるより、向きを変えながら全体へ流した方が乾きやすい


俺が風を送り、ルッカが布を動かす


二人でやると作業はさらに早かった


「前やったら、洗って干して終わりやったな」


「今は風」


「水出して、お湯にして、洗って、風で乾かす」


並べてみると、かなり魔法を使っている


しかも一度も戦っていない


今まで魔法を覚えるたび、最初に考えるのはどう戦えるかだった


《水球》だけは最初から飲み水として重宝したが、《風圧》も《土締め》も《土成形》も、危険を避けるためや拠点を守るために使うことが多かった


それが少しずつ変わってきている


「魔法って、別に殺すためだけにあるんちゃうんやな」


口から自然に出た


ルッカが振り返る


「ころす?」


「いや、なんでもない」


俺は乾き始めた布を見る


昨日の高出力《火弾》と、今朝使った小さな炎


同じ魔法だ


どちらが正しいという話ではない


危険な相手から誰かを守るなら、強い火が必要になる


温かい水が欲しいなら、ごく弱い火でいい


使う場面が違うだけだ


それが妙に嬉しかった


強くなることと、暮らしやすくなることが、少しつながった気がする


午前のうちに、岩陰拠点の調理場所の一角へ温水を作るための場所を決めた


大げさな設備ではない


火を安全に扱える位置を少し空け、器を安定して置けるよう周囲を整えただけだ


燃えやすい物は離す


水をこぼしても寝床側へ流れにくい場所を選ぶ


昨日まで調理のためだけに使っていた場所へ、もう一つ役割が増えた


「ここでお湯」


「うん、使ったら戻す」


ルッカが器をいつもの位置へ置いた


これなら必要なときにすぐ温水を作れる


毎回大げさな準備をする必要もない


「明日も?」


「使ってええよ、朝とか夜とか」


「あったかいのがいい」


「気に入ったな」


「うん」


ルッカは迷わず頷いた


昼前になり、二人は第二水場へ向かった


昨日の安全確認で大きな問題がなかったこともあり、今日は周辺を調べる予定ではない


俺は洗った布の一部と、少しの道具を持って歩いた


昨日より自分の歩幅を意識しているので、ルッカを置いていくこともない


第二水場へ着くと、エナがいた


昨日に続いて顔を合わせることになり、俺は片手を上げた


「おはよう」


「おはよう、今日は肩どう?」


「問題なし、痛みも出てへんよ」


「ならよかった」


エナの視線が、俺の持っている布へ移る


「それ、洗ったの?」


「そう、今朝な」


「ずいぶん乾いてる」


「《風圧》で乾かしてみた」


俺は朝やったことを簡単に説明した


《水球》で水を出し、《魔力制御》で《火弾》をかなり弱くし、器越しに少しずつ温めたこと


最初は熱くしすぎたこと


二度目からは火を弱め、距離を取って調整したこと


できた温水で身体や髪を拭き、布も洗い、《風圧》で乾かしたこと


エナは途中から少し驚いた顔をしていた


「温かい水を作ったの?」


「作れたで、そんな大量ちゃうけど」


「火の魔法を水に当てた?」


「いや、それは怖いからしてへん、器の下からちょっとずつ温めただけ」


「それなら……うん、その方がいいと思う」


エナがほっとしたように言う


「直接やったら何が起こるか分からないし」


「俺もそう思った」


昨日の高出力《火弾》を見たあとなら、なおさら水へ直接撃とうとは思わない


「温かい水が使えるなら、汚れを落とすのは楽になるね」


「やっぱええよな?」


「うん、でも温かければ何にでも使っていいわけじゃないよ」


「例えば?」


「傷を洗うなら、まず水自体が汚れてないことが大事、使った布をそのまま別の傷に使わない方がいいし、汚れた水を何度も使い回すのもよくない」


「なるほど」


俺は素直に頷いた


温水を作れたことが嬉しくて、そこまでは考えていなかった


身体を拭くための布と、傷を扱うための布を同じように使えばいいわけではない


《水球》なら必要なときに新しい水を用意できる


それなら、わざわざ汚れたものを使い回す必要もない


「治療の前に洗うときにも使える?」


「熱すぎなければ、使いやすくはなると思う、でも傷によっては先に状態を見たい」


「そこは昨日と同じやな」


「そう」


俺が勝手に治療方法まで決めるのではなく、判断はエナに任せる


そのうえで必要なら水を出し、温め、《治癒》を使う


自分の役割が少し分かりやすくなった


「ほな、今度必要になったら言って、水もお湯も作れるから」


「必要にならない方がいいけどね」


「昨日も聞いたな、それ」


「今日も同じ」


横でルッカが笑った


「セイジ、また」


「また言われたな」


三人で少し笑ったあと、俺は第二水場の備品へ目を向けた


昨日気になった物の多さは、今日見ても変わらない


むしろ温水を使うようになれば、布や器など、置いておきたい物はさらに増えるかもしれない


身体を拭くための布


洗うための器


傷の手当てに使う清潔な物


それぞれ同じ場所へ適当に積むわけにはいかない


「やっぱここも置く場所いるなぁ」


「昨日言ってたやつ?」


「そう、道具とか濡らしたくない物とか置けるとこ」


エナも備品を見る


「あると助かると思う、今は使うたびに探すことがあるから」


「やっぱりか」


「薬草とか布も、濡らしたくない物があるし」


「ローデンに相談やな」


俺は昨日より具体的に想像できた


ただ道具を積む場所ではなく、濡らしたくない物とそうでない物を分けられる場所


清潔にしておきたい布を地面へ直接置かなくて済む場所


温水を使うための器も保管できる


第二水場が使われるほど、必要になる物が増えていく


それを全部その辺へ置いておくのは、そろそろ限界が近い


「ローデン来たら一回ちゃんと話そ」


「うん」


エナが頷く


昼食を取ったあと、俺とルッカは早めに岩陰拠点へ戻った


今日は戦う必要もなく、森の中で何か特別な痕跡を調べる予定もない


帰ったらもう一度温水を作る


朝より少し多めに


今度はどれくらいの火なら使いやすいか、もっと意識して試してみるつもりだった


岩陰拠点へ着くと、俺は朝決めた場所へ器を置いた


「もう一回やるか」


「お湯」


「そう、お湯」


《水球》で水を入れる


朝と同じくらいの量を作り、今度は最初からかなり弱い火を出した


《魔力制御》で炎を小さく保つ


器から少し離す


急がない


少し温めて止める


確かめて、また温める


一度失敗したおかげで、どこまでやれば熱くなりすぎるか、何となく分かっている


朝よりずっと滑らかだった


「これくらい」


ルッカが触る


「あったかい」


「よし」


一回目のように熱くしすぎることもなく、ちょうどいいところで止められた


俺は炎を消し、器を見つめる


「慣れたらもっと楽になりそうやな」


「毎日?」


「毎日でもええんちゃう、魔力きつくならん程度なら」


朝と夕方に身体を拭く


汚れた布を洗う


寒い日は手を温める


治療で必要なら、エナの判断に合わせて使う


料理にも何か使えるかもしれない


温水一つだけで、暮らしの選択肢が思ったより増える


何より、魔物を倒すためではなく、自分たちが気持ちよく暮らすために魔法を考えるのが楽しかった


「こういうの、ええな」


「お湯?」


「お湯もやけど、魔法の使い方考えるの」


ルッカが水へ手を入れながら聞いている


「今まで、戦うとか逃げるとか、家直すとか、必要になってから使うこと多かったやろ」


「うん」


「こうしたら楽になるんちゃう、って考えるのもありやなって」


前世では当たり前だったものが、この世界では当たり前ではない


その全部を同じように再現する必要はない


できる範囲で、今ある魔法を使えばいい


火を弱くする


水を必要なだけ出す


風で乾かす


それだけでも、昨日までの暮らしとは少し違う


「火と水、一緒にできたらもっと早いんかな」


ふと口にして、俺は手を止めた


ルッカが首を傾げる


「一緒?」


「いや、今は水出して、それから火で温めてるやろ」


「うん」


「最初から温かい水を作れたら、めっちゃ楽やん」


言ってみると、単純な話に聞こえる


けれど実際には、《水球》は水の魔法で、《火弾》は火の魔法だ


今は別々に使い、結果として温水を作っているだけである


水そのものを最初から温かくする方法は知らない


そんな魔法があるのかも分からない


「できる?」


「分からん」


俺は正直に答えた


「今の俺やと、水出してから温める方が安全やと思う」


「じゃあ、それ」


「うん、無理して変なことする必要ないしな」


今できる方法で十分便利だ


分からないものを無理に混ぜる必要はない


それでも、考えるだけならできる


火と水


二つを続けて使うのではなく、最初から一つの結果として出せないのか


昨日までは、そんな発想すらなかった


「まあ、そのうちやな」


俺は温水に布を浸した


軽く絞り、顔を拭く


朝にも使ったのに、もうこれがない生活へ少し戻りたくなくなっている


隣ではルッカも自分用の布を温水へ入れていた


「気持ちいい?」


「うん」


「俺も」


二人で身体を拭き、使い終わった布を洗う


そのあと《風圧》で風を送り、乾かしていく


昨日までなら何でもなかった作業が、少しだけ早く、少しだけ楽になった


それだけの変化だった


けれど、俺にとっては十分だった


強くなった身体で大きな荷物を運べるようになることも、高出力の《火弾》で魔物を倒せるようになることも嬉しい


それと同じくらい、温かい水で顔を拭けることが嬉しい


むしろ毎日使うのはこちらの方だ


「強くなるって、こういうのもありやな」


ルッカには意味が分からなかったのか、返事はなかった


それでも温かい布で頬を拭きながら、満足そうにしている


俺はそれを見て笑った


岩陰拠点には、今日からお湯を作る場所ができた


浴場でもなく、大きな設備でもない


一つの器を置き、《水球》で水を満たし、小さな火でゆっくり温めるだけの場所だった


それでも確かに、昨日までなかった暮らしが一つ増えていた


そして第二水場にも、置きたい道具がまた一つ増えそうだった


温水を作る器も、清潔な布も、濡らしたくない物も、使う人が増えればきっと必要になる


「やっぱ道具置くとこ、早めに欲しいな」


「ローデン」


「うん、ローデンに頼も」


乾いた布を畳みながら、俺はもう一度温水の器へ目を向けた


水を出して、火で温める


今はそれでいい


けれど頭の中には、さっき浮かんだ疑問がまだ残っている


最初から温かい水を作れないのか


答えはまだ分からない


試す方法すら、はっきりしていない


だから今日は考えるだけにしておく


今できることを使いながら、少しずつ次を考える


戦うためだけではない魔法の使い方を探す時間が、思っていた以上に気に入り始めていた

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