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新しい身体で、こんにちは

第35回 新しい身体で、こんにちは


翌朝、目を覚ました瞬間に最初に確認したのは天井だった


昨日みたいに勢いよく起き上がって頭をぶつけるのは嫌だったから、目だけを動かして岩の位置を確かめ、それからゆっくり体を起こす


寝床はやっぱり狭い


一晩寝れば慣れるかと思ったが、そんな都合よく家の方が広くなってくれるはずもなく、脚を伸ばせば端へ当たり、肩を動かせば以前より余裕がない


「進化二日目、家はまだ狭い」


「昨日も狭い」


隣で起きていたルッカが即座に返す


「一日で直らへんのは分かってるけど、起きるたび言いたくなるねん」


「ローデン」


「今日は会う予定やからな」


昨日は進化直後ということで岩陰拠点の周囲だけを歩き、新しい身体へ慣れることを優先した


今日は第二水場へ行く


戦闘で壊れた場所も気になるし、ローデンには岩陰拠点の改修も相談したい


それ以上に、避けて通れないことがある


エナ、ダリオ、ローデン、ミラに、進化した今の姿を見せる


考えるだけで腹の奥が少し重くなる


昨日、ルッカは何も変わらなかった


大きいセイジ


それだけで終わった


でも人間側が同じとは限らない


初めて村へ入ったときだって、普通に挨拶してくれる人もいれば、俺を見て子供を家へ入れた人もいた


それは今でも理解できる


俺はゴブリンだった


そして今はホブゴブリンメイジ


名前だけなら、むしろ前より強そうな魔物になっている


水面で見た自分は少し人間に近づいたように感じたが、人間から見てどう映るかは別だ


「せっかくちょっと信用されたのに、また最初からとか嫌やな」


朝食用の肉を切りながら呟くと、ルッカが首を傾げる


「最初?」


「初めて人間と会った頃みたいに、また怖がられるかもしれへんってこと」


「あのとき一緒にいた」


「エナたちはな」


「なら大丈夫」


「その理屈で全部解決したら楽やねんけどな」


ルッカは気にせず肉を食べ始める


俺も自分の分を口へ入れる


昨日も感じたが、進化前より少し食べられそうな気がする


極端ではない


二倍食わないと足りないとか、そういうことではなく、以前ならこれくらいで十分だったという量を食べても、もう一口くらいいける


ルッカは当然そこを見逃さなかった


「増えた」


「何が?」


「食う量」


「まだ誤差かもしれんやろ」


「昨日も増えた」


「観察細かいな」


「肉大事」


「俺の体より肉基準なん?」


朝からそんな話をしていると、少し緊張が薄れる


食事を終え、水を飲み、出発の準備をする


進化前から使っていた荷物袋を肩へ掛けると、紐の長さが微妙に合わない


身長と肩幅が変わったせいだ


位置を直し、結び目を少し変える


こういう小さなところでも昨日までとは違う


「服も荷物も全部調整いるな」


「器も」


「家も」


「肉の量も」


「最後だけお前の希望入ってるやろ」


岩陰拠点を出る前に、昨日より慎重に入口をくぐる


頭を下げる


今度はぶつけない


「よし」


「覚えた」


「一回ぶつけたら覚えるわ」


外へ出ると朝の森は静かだった


《魔力感知》を使う


近くに弱い反応がいくつか、遠くにも小さい反応


危険な強い反応はない


進化しても《魔力感知》そのものの感じは大きく変わっていない


ただ、身体の中を流れる魔力の感覚が少し違う


MP D


魔力 D


昨日までのD-より一段上


同じように意識を広げても、少し余裕がある気がする


「無駄に広げんようにせな」


「何?」


「魔力増えたからって、ずっと全力で感知してたら疲れるやろ」


《魔力制御》で範囲を少し絞る


近くだけ


第二水場までの道ならそれで十分だ


進化したから強くなった


それは間違いない


でも強くなったから全部を大きく使う必要はない


《魔力制御》を覚えたときから意識している感覚は、進化しても変わらない


必要な分だけ


その方がいい


歩き始める


新しい身体でこの道を通るのは初めてだ


昨日は岩陰拠点周辺だけだった


今日はもう少し距離がある


最初のうちは歩幅を意識した


以前と同じつもりで足を出すと少し先へ進む


枝の高さも違う


低いところは頭へ当たりやすくなった


その代わり、地面の根を越えるときは脚が上げやすい


身体が大きくなったのに、動きが鈍くなった感じはない


敏捷E+


それが効いているのかもしれない


ルッカはいつも通り前を歩く


ただ今日は時々振り返る


「何?」


「速い?」


「俺が?」


「うん」


「どうやろ」


少しだけ歩調を上げる


以前より一歩が広く、ルッカへ追いつくまでの距離が短い


「おお」


「速い」


「でも森ではまだお前の方が上やろ」


ルッカは何も言わず、木の根と岩の間をするりと抜ける


俺も真似して入ろうとして肩が枝へ当たった


「……今ので答え出たな」


ルッカが笑う


「体でかくなった分、通れへん場所増えた」


「ルッカ勝ち」


「競ってへん」


新しい身体は強い


でも森そのものに慣れているルッカへ追いついたわけではない


そこも安心する


進化で全部の関係がひっくり返るわけではない


第二水場へ近づくにつれ、人の声が聞こえてきた


一人ではない


木を叩く音もある


修復を始めているらしい


俺は足を止めた


ルッカも止まる


「行かない?」


「行く」


即答したものの、すぐには動けない


木々の向こうに第二水場がある


何度も行った場所なのに、今日は初めて行く場所みたいに緊張する


「何してんねやろ俺」


群れ相手には残った


最大個体にも火弾を撃った


それなのに仲間へ顔を見せるだけで足が重い


怖さの種類が違う


ルッカが俺の腕を軽く引く


「行く」


「はいはい」


一歩


二歩


第二水場が見える


最初に気づいたのはローデンだった


壊れた倒木の近くで縄を扱っていた手が止まる


俺を見る


完全に止まる


「……」


やっぱり


そう思った


見た目が変わった


警戒される


そう考えた瞬間、ローデンが口を開いた


「でかくなったな」


「第一声それ?」


「他に何がある」


「いや、もうちょいこう、進化したんかとか」


「進化したんだろ」


「した」


「なら次だ」


ローデンは俺の体を上から下まで見る


そして第二水場でもSTATUSでもなく、いきなり言った


「家、直さなあかんな」


「そこ!?」


思わず関西弁のまま声が大きくなる


「昨日から俺も思ってたけど!」


「入口、今のままだと頭当たるだろ」


「もう当たった」


「寝床は」


「狭い」


「棚」


「低い」


「やっぱり直す」


「見ただけでそこまで分かるん?」


「体格変わったんだから当然だ」


怖がるどころか、外見を見て最初に考えたのが家の改修


あまりにもローデンらしくて、胸の中に溜まっていたものが少し抜けた


「お前、もうちょい驚いてくれてもええんやで」


「驚いてる」


「顔に出えへんな」


「仕事増えたと思ってる」


「そこなん?」


近くにいたダリオも気づき、歩いてくる


俺の目、肩、腕、脚をローデンより長く見る


少し緊張が戻る


「セイジか」


「そう見えへん?」


「声は同じだな」


「ちょっと低なった気するけど」


ダリオは俺の周りを一度見る


「歩けるか」


「普通に」


「走れる」


「昨日ちょっとだけ」


「魔法」


「低出力の《水球》と《風圧》だけ試した」


「暴発は」


「最初ちょい強かったけど、《魔力制御》で合わせられた」


そこまで聞いてダリオは頷く


「ならいい」


「それだけ?」


「何がだ」


「見た目とか」


「でかくなった」


「ローデンと同じ!」


「戦えるなら問題ない」


「戦う前提やめてくれへん?」


「あの防衛戦みたいなのがまた来たら必要だ」


それはそう


ダリオらしい


見た目より、動けるか、判断できるか、魔法を扱えるか


そこを見ている


俺がセイジかどうか


そこにはあまり疑いがないらしい


「腕」


別の声


エナ


俺を見るなり近づいてくる


少し驚いた顔はしている


当然だ


でも警戒するより先に、あの防衛戦で最大個体へぶつけられた肩を見た


「服、上げて」


「第一声が診察なん?」


「肩」


「はい」


逆らえない


防衛戦のあと《治癒》を使った場所


赤みはかなり引いている


エナが触る


「痛い?」


「押したらちょい」


「腕上げて」


上げる


昨日より楽


「もう一回」


動かす


問題なし


「大丈夫」


「進化した体の方は?」


「見る」


エナが今度こそ全体を見る


腕、手、首、肩、目、耳、足


俺は診察台になった気分だ


「どう?」


「大きい」


「みんなそれ言う」


「傷、治り早い?」


「分からん、進化挟んだからな」


エナは少し考える


防衛戦で負った傷が治っているのが《治癒》の効果なのか、進化の影響なのか、普通の回復なのか


一回では判断できない


だから決めつけない


「変な痛み?」


「ない」


「息苦しい?」


「ない」


「めまい?」


「ない」


「お腹?」


「ちょっと前より食えるかも」


そこだけルッカがすぐ反応する


「増えた」


「まだ確定ちゃう!」


エナが少し笑う


「何日か見る」


「食事量?」


「全部」


「俺、観察対象なん?」


「進化したから」


それもそうか


自分でも分からない体だ


エナが見てくれるなら助かる


最後に来たのはミラだった


修復用の道具を持って村側から戻ってきたところで、俺を見つけて足を止める


「セイジ?」


「そうやで」


近づいて顔を見る


一度横へ回る


「大きい」


「四人目」


「何が?」


「今日みんな最初それ言う」


ミラは楽しそうに笑う


「名前は?」


「セイジ」


「違う、種族」


「ああ」


昨日STATUSで確認した


「ホブゴブリンメイジ」


ミラがゆっくり繰り返す


「ホブ、ゴブリン、メイジ」


「そう」


「ホブゴブリン」


「メイジも忘れんといて」


「魔法使い」


「そうそう」


人間語での言い方、発音をミラは何度か確認する


俺も逆に、人間側ではホブゴブリンという言葉がどう聞こえるのか気になる


「知ってる?」


「名前は」


「おるん?」


「見たことない」


「俺が初?」


「私は」


ミラ自身は見たことがないらしい


「人間から見て怖い?」


聞いてしまう


ミラはすぐには答えない


俺の顔、耳、体格を見る


「前より大きい」


「うん」


「知らない人なら、怖いかも」


ちゃんと答える


変に安心させようとしない


それがありがたい


「やっぱりか」


「でも私はセイジ知ってる」


「……そっか」


「あのときいた」


「そうやな」


あの防衛戦では一緒に第二水場を守った


その前にも、地図を作った


村へ入った


話した


食べた


笑った


その積み重ねがある


姿が変わっただけで全部なくなるわけではない


四人と話しているうちに、朝からあった緊張はかなり消えていた


誰も、


お前は誰だ


とは言わない


ルッカと同じだ


変わったところは確認する


でもセイジであること自体は疑わない


「俺、昨日めっちゃ心配しててん」


簡易屋根の下で水を飲みながら言う


ダリオが聞く


「何を」


「進化したら、また最初から信用作り直しかなって」


ローデンが壊れた長椅子を見ながら答える


「見た目は変わった」


「うん」


「あの防衛戦で一緒に戦ったのは変わらん」


短い


でもそれで十分だった


エナも頷く


ミラは、


「知らない人は知らない」


と言う


「それはそうやな」


進化前だって同じだった


俺を知らない人はゴブリンを見る


俺を知っている人はセイジを見る


今もたぶんそうだ


ただ、見た目が大きくなった分、知らない人の警戒は前より強くなるかもしれない


そこは消えない


「全員に慣れてもらうのは無理やろな」


俺が言う


ダリオが答える


「必要もない」


「そうなん?」


「全員に好かれる必要はない」


「まあ、それは前世でも無理やったわ」


意味は分からないだろうが、俺だけ少し笑う


第二水場の修復はまだ途中だった


今日は本格的な作業日ではなく、戦闘後の破損確認と危険箇所の整理が中心らしい


倒木障害物はほとんど作り直し


切れた縄、傾いた屋根、割れた長椅子、地面の焦げ跡


全部残っている


「手伝う?」


俺が聞く


ローデンは首を振る


「今日は身体に慣れろ」


「エナと同じこと言うな」


「家を見る方が先だ」


「俺の?」


「ああ」


「第二水場より?」


「こっちは人手がある」


見ると村人が数人いる


防衛戦で退避した人の中にも、今日は手伝いに来ている人がいるらしい


俺たちだけで直す必要はない


「人増えたな」


「あのときのこともある」


ミラが言う


戦闘のあと、第二水場が壊れた


でも誰も、もう使わないとは言わなかった


むしろ直すために来ている


それが嬉しい


「ほな、家はまたあとで見てもらう?」


「今日見る」


ローデン


「今?」


「帰りに寄る」


「助かる」


そこでミラが少し言いにくそうに俺を見る


「セイジ」


「何?」


「村、来られる?」


胸が少し止まる


「今日?」


「うん」


防衛戦について村側へ報告する


それから第二水場を守ったことへの礼を、村の中で伝えたいらしい


「俺が?」


「セイジとルッカ」


「入ってええの?」


「今日だけ、用事ある」


前に村へ入ったときと同じだ


正式な目的


日中


必要な場所だけ


自由に入れるわけではない


進化したから条件が変わったわけでもない


「ダリオと一緒?」


「うん」


「エナも?」


「行く」


少し安心する


ただ、別の不安が出る


第二水場でエナたちへ見せるのと、村へ入るのは違う


俺を知っている人だけではない


進化前の俺を一度見ただけの人


知らない人


子供


みんながいる


「……行く」


断る理由はない


怖いけど正式な用事がある


「ルッカ」


「行く」


当然のように答える


「干し果物探す気ちゃうやろな」


「ある?」


「目的変わってる」


午前の修復確認を終え、昼前


俺とルッカ、ダリオ、エナ、ミラの五人で村方向へ向かう


ローデンは第二水場へ残った


途中、ミラがもう一度条件を確認する


「村の中、前と同じ」


「必要なとこだけ」


「うん」


「勝手に歩かん」


「うん」


「魔法使わん」


「必要な時以外」


「そう」


「走らん」


ダリオが付け足す


「この体で走ったら前より怖がられそうやな」


「だから走るな」


「分かってる」


初めて村へ入ったときと同じ道


でも感覚は違う


あのときはゴブリンとして初めて


今日は進化した姿で初めて


入口が見える


人


一人


二人


こちらを見る


そして俺のところで視線が止まる


分かる


驚いている


警戒している


顔も体も以前より大きい


見慣れない


「やっぱりそうなるよな」


小さく言う


ダリオが前を歩く


止まらない


俺も止まらない


村の入口近くで一人の男が何か言う


ミラが答える


セイジ


進化


あの防衛戦


そんな言葉が聞き取れる


男は俺を見る


まだ警戒している


それでも武器へ手は掛けない


俺も軽く頭を下げる


「こんにちは」


人間語


少し緊張して、いつもより固い


男は短く返事をする


それだけ


でも追い返されなかった


中へ入る


前回より視線が多い気がする


進化したからなのか


防衛戦の話が広まっているからなのか


両方かもしれない


家の前にいた女性が俺を見る


子供を少し後ろへ寄せる


胸がちくりとする


でも前にもあった


今回はさらに体が大きい


知らないなら当然かもしれない


俺はそちらを見続けない


「大丈夫?」


ミラが小さく聞く


「大丈夫」


本当に


少し痛いだけ


その少し先に見覚えのある人がいる


初めて村へ来たとき、第二水場の地図を一緒に見た村人だ


俺を見て一瞬驚く


そして顔を近づけるようにして見る


「セイジ?」


「そう」


俺が答える


男はもう一度見る


「大きい」


「それ今日五回目くらい言われてる」


意味は全部伝わらないだろうが、ミラが笑って補足する


男も笑う


そして俺の肩を軽く叩こうとして少し迷い、結局叩いた


強くない


「あのとき」


男が言う


「水場」


「うん」


「ありがとう」


短い


俺にも分かる


何と返すか少し迷う


「みんなで守った」


ゆっくり人間語で言う


ミラが必要なら補うつもりで待っていたが、男は頷いた


「みんな」


「そう」


それだけの会話


でも胸の奥が軽くなる


姿を見て驚いた


それでも俺だと分かった


これまでのことを覚えている


全部最初からではない


村の入口近くにある、前回も使った場所へ案内される


奥深くまでは行かない


限定的な入村


そこも変わらない


何人か村人が集まる


防衛戦で第二水場から退避した人


戦闘を遠くから見た人


あとから話を聞いた人


俺を見る反応はばらばらだ


露骨に距離を取る人


興味深そうに見る人


普通に見る人


ルッカの方ばかり見る人


全員が一気に慣れるわけではない


それでいい


前回より俺自身がそれを受け入れられる


説明はダリオとミラが中心


俺は見たことを話す


森の奥から群れが来た


第二水場方向


中層寄り


突進する種類


原因は分からない


低い音との関係も分からない


谷の大型魔物との関係も分からない


分からないことは分からないまま


前と同じだ


進化したから情報の確度が上がるわけではない


俺が話している間、村人たちは真剣に聞く


一人が俺の姿について質問する


ミラが訳す


「前と違う、何があった?」


「進化」


答える


ミラが説明する


LEVEL10


進化


ホブゴブリンメイジ


細かいSTATUSまでは話さない


必要もない


防衛戦のあと、その夜に変わった


今もセイジ


それだけ


別の人が不安そうに聞く


強くなったのか


「たぶん」


俺は答える


「でも、村で勝手に魔法使わん」


そこは先に言っておく


進化して強くなった


だから怖い


そう感じる人がいるなら、ルールを守ることを示すしかない


前に村へ入ったときと同じだ


自由に村へ来ない


勝手に歩かない


必要なく魔法を使わない


「そこ変わってへんから」


ミラが訳す


何人かが頷く


全員ではない


でも伝わる人には伝わる


話が終わったあと、少しだけ食べ物が出る


硬いパン、水


それからルッカの視線が一点へ止まる


「……あ」


俺も気づく


干し果物


「お前、それ目的で来たんちゃうやろな」


「違う」


言いながら視線は完全に干し果物


村人が笑って、ルッカへ少し渡す


「ありがとうございます」


俺が代わりに頭を下げる


ルッカも下げて、すぐ食べる


「甘い」


「よかったな」


俺もパンを一つ受け取る


以前より手が大きいせいで、やっぱり少し小さく見える


食べる


まだ入る


「やっぱ食う量増えたかも」


ルッカがすぐこっちを見る


「何でそんな嬉しそうなん」


「仲間」


「大食い仲間にすんな」


村人の一人が会話の意味をミラへ聞き、訳されたあと笑う


気づけば俺も笑っていた


この村の全員が俺を受け入れたわけではない


今でも遠くから見ている人がいる


俺が動くと少し身を引く人もいる


でも、これまで話した人は今日も話してくれる


一緒に笑う人もいる


姿が変わっても、積み上げたもの全部が消えたわけではない


帰る前、ダリオが村側の人へ、今後も俺とルッカの入村は必要な用事がある場合だけだと確認する


自由に出入りできるようになったわけではない


俺もその方がいいと思う


一回守ったから


進化したから


急に何でも許される


それは違う


「前と同じやな」


俺が言う


ダリオが頷く


「前より知ってる人間は増えたがな」


「それは嬉しい」


村を出るとき、入口の男が俺を見る


最初よりは少し表情が柔らかい


それでも距離はある


俺は頭を下げる


向こうも軽く返す


それで十分


第二水場へ戻る途中、俺は息を吐いた


「疲れた」


ルッカが聞く


「歩いたから?」


「そっちちゃう」


「腹減った?」


「それでもない」


精神的に、という言葉は伝わりにくそうなのでやめる


「人に見られるん疲れる」


「セイジ大きいから」


「そのせいなん?」


でも今日は確かにずっと見られていた


ダリオが少し前を歩きながら言う


「慣れろ」


「簡単に言うな」


「お前が慣れれば、向こうも慣れる」


「まあ……それはあるか」


毎回びくびくしていたら相手も不安になる


俺は俺


ルールを守る


同じように話す


同じように助ける


必要なら距離も取る


それを続けるしかない


「最初からちゃうかったな」


俺が呟く


ミラが振り返る


「何が?」


「進化したら、人間関係また全部最初からやと思ってた」


「違った?」


「うん」


怖がる人はいた


前より警戒した人もいる


でもエナたちは変わらなかった


村でも俺を知っている人は、ちゃんと俺だと分かってくれた


「見た目変わっても、前にやったこと残るんやな」


ミラが頷く


「前のことも残る」


「そうやな」


防衛戦だけじゃない


これまで全部だ


家畜を探した


怪我を治した


道を調べた


第二水場を作った


村へ来た


地図を広げた


一緒に戦った


その全部が、俺の顔より先に残っている人もいる


第二水場へ戻ると、ローデンがまだ作業していた


俺たちを見る


「どうだった」


「怖がられた」


「そうか」


「普通に喋ってくれた人もおった」


「そうか」


「もうちょい反応ないん?」


「予想通りだ」


「冷静やな」


ローデンは道具を片付ける


「次、お前の家を見る」


「ほんまに今から?」


「明日直すなら今日見た方がいい」


「第二水場は?」


「今日はここまで」


傾いた簡易屋根、壊れた長椅子


まだ直っていないところはある


でも危険な部分は整理したらしい


「ほなお願い」


エナ、ダリオ、ミラと別れ、ローデンが俺たちと岩陰拠点へ来る


途中、俺の歩き方を見る


「まだ変だな」


「分かる?」


「歩幅が一定じゃない」


「身体慣れてへんからな」


「家直す前に、お前も慣れろ」


「それは自分でやる」


岩陰拠点へ到着


俺は入口の前で止まり、頭を下げて入る


ローデンは後ろからそれを見る


「やっぱり低い」


「昨日ここでぶつけた」


「上を削るか」


「できる?」


「岩そのもの全部は無理だが、木と土で狭くなってる部分を変えれば少しましになる」


中へ入る


寝床


俺が横になると脚が端へ出る


ローデンが見る


「広げる」


「頼む」


次は棚


俺が立つ


以前の位置が今は低く感じる


「これは全部上げなくていい」


ローデン


「何で?」


「ルッカが使いにくくなる」


「ああ」


それ大事


俺の体に全部合わせたら、今度はルッカが困る


「俺用とルッカ用、分ける?」


「一部だけな」


「ええな」


調理場所、入口、寝床、棚、通路


順番に見る


大改造まではいらない


少し広げる


少しずらす


少し高さを変える


それで十分


「進化したから家建て直し、とかにならんでよかった」


「また進化して大きくなったら知らん」


「それ言うな」


「次あるのか?」


「分からん」


STATUSには今、進化可能の表示はない


ホブゴブリンメイジが途中なのか、これで終わりなのか


まだ分からない


「先のことは先で考える」


「それでいい」


ローデンが印をつける


明日から少しずつ直す


第二水場の修復もある


一気にはできない


「手伝うで」


「土は使ってもらう」


「木も前より持てる」


ローデンが俺を見る


「どれくらい」


外に落ちている枝を持ってみる


昨日ルッカと試したくらいの太さ


持ち上がる


「ほら」


「前よりはましだな」


「ましって」


「大きい木はまだ無理だ」


「分かってるわ」


ルッカが横から、


「F+」


「お前ほんま覚えたな」


三人で笑う


夕方、ローデンが村へ戻る


「明日来る」


「頼むわ」


「頭ぶつけるなよ」


「もう覚えた」


見送る


岩陰拠点


昨日より狭く感じる


でも嫌ではない


直せる


自分たちに合わせて、また変えればいい


夕食


今日も俺は少し多めに食べる


ルッカが何も言わず見ている


「何?」


「増えた」


「……認めるわ」


「肉いっぱい必要」


「そこが問題やな」


食料の消費


狩り


保存


進化は生活にちゃんと影響する


強くなった


それだけでは終わらない


器、寝床、入口、服、飯


全部


でも、そういうのも含めて生きてる感じがする


食事を終え、水を飲む


今日は魔法をほとんど使っていない


身体も進化直後より少し慣れた


試しに《水球》をごく少量


昨日と同じ魔力D、MP D


最初より感覚は合ってきた


《魔力制御》


必要量で止める


小さな水球


思った通り


「よし」


「飲む」


ルッカが手を出す


「水そこにあるやろ」


「魔法の水」


「味同じやで」


それでも少し渡す


飲む


「同じ」


「そらな」


笑う


STATUSは開かない


昨日確認したばかり


LEVEL1


変わるようなことは何もしていない


戦闘もない


討伐もない


能力もSKILLも何も変わっていない


でも今日変わったものはある


俺の中の不安


朝、第二水場へ行くのが怖かった


村へ入るのはもっと怖かった


進化で、せっかく作った関係が全部なくなったかもしれない


そう思っていた


実際、怖がる人はいた


警戒する人もいた


これからもいると思う


でも全部ではなかった


ルッカはルッカ


エナはまず傷を見る


ダリオは動けるかを見る


ローデンは家を直そうとする


ミラは名前を確かめて、俺が俺だと分かっている


村でも知っている人は声をかけた


これまでのことを覚えていた


「姿変わっても、全部なくなったわけやないんやな」


俺が言う


ルッカは肉の残りを確認しながら、


「うん」


とだけ答える


たぶんルッカには最初から分かっていた


俺だけが怖がっていた


「まあ、まだ怖がられるけどな」


「セイジ大きい」


「それ原因みたいに言うな」


でも少し笑える


進化してホブゴブリンメイジになった


人間にはならなかった


LEVELも1へ戻った


家は狭くなった


飯も増えた


知らない人には前より怖く見えるかもしれない


それでも帰る家がある


一緒にいるルッカがいる


明日はローデンが家を直しに来る


第二水場では人が修理を続けている


村には俺を知っている人が少しずつ増えている


全部、進化前から続いている


「明日忙しいな」


「家直す」


「第二水場も」


「肉も」


「それは食料補充な」


寝床へ横になる


やっぱり狭い


明日には少し広くなるかもしれない


入口も棚も少し変わる


でも場所そのものは変わらない


俺は目を閉じる


新しい体にも、新しい見た目にも、少しずつ慣れていけばいい


人間側も、すぐ全員ではなくていい


これまで積み上げたものの続きを、明日からまた積み上げればいい


それで十分だと思えた

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