進化したらLEVEL1でした
第34回 進化したらLEVEL1でした
最初に感じたのは、
狭い
だった
「……ん?」
目を開ける
見慣れた天井
見慣れた岩
見慣れた棚
岩陰拠点
ちゃんと家だ
昨日、ここへ戻ってきて飯を食って、進化を選んで、体の中が妙な感じになり、そのまま意識がなくなった
そこまでは覚えている
だから目が覚めた場所としては何もおかしくない
おかしいのは寝床だ
「……狭ない?」
肩が端に当たっている
脚を伸ばすと、昨日までより明らかに余裕がない
寝相でずれただけかと思い、少し位置を直そうとする
その瞬間、膝が寝床の端にぶつかった
「痛っ」
声を出して、また止まる
声が少し違う
低い
ほんの少しだけ、昨日までより太い気がする
「……俺?」
自分の手を見る
大きい
いや、ものすごく大きいわけではない
人間だった頃と比べればまだ小さいと思う
でも昨日までのゴブリンの手とは違う
指が少し長く、手のひらも広い
腕も細いままではあるが、前よりしっかりしている
「おお……」
起き上がる
そこでまた違和感
視線が高い
いつも見ていた棚が少し低く見える
岩壁の出っ張りも昨日までとは位置が違って感じる
立つ
「……高っ」
実際どれだけ高くなったのか分からない
測る道具なんてない
でも確実に伸びている
脚、腕、胴
全体が一回り大きくなったような感覚だ
それだけではない
体のバランスも違う
昨日までのゴブリン体型より、腕と脚の比率が少しだけ前世の人間に近い気がする
「進化……したんか」
昨日の最後に見た進化先
ホブゴブリンメイジ
そこへ進むことを選んだ
そして今、体が変わっている
「ルッカ?」
呼ぶ
返事がない
外を見ると朝の光が入っている
ルッカはもう起きているらしい
いつもなら俺より先に食べ物を探していても不思議ではない
「とりあえず……外出るか」
一歩、二歩と歩く
変な感じだ
足がほんの少し長い
それだけなのに、いつもの歩幅で歩こうとすると前へ出すぎる
「うわ」
棚を避け、腰を少し曲げる
入口
いつもならそのまま通っていた
少なくとも、意識して頭を下げるほどではなかった
その感覚のまま外へ出ようとして、
ごん
「いったぁ!」
頭を押さえる
入口の岩にきれいにぶつけた
「何やこれ!」
外から足音がする
ルッカが来る
手には水を入れた器
俺を見る
止まる
「……」
「おはよう」
ルッカは黙ったまま、俺を上から下まで見る
いや、昨日より視線の位置が近い
それに気づく
「どう?」
聞いてみる
ルッカが首を傾げる
「大きい」
「やっぱり?」
「うん」
「怖い?」
「何が?」
昨日と同じ反応だ
「見た目」
ルッカは俺の顔へ少し近づき、耳、鼻、目、口と順番に確認するように見る
「セイジ」
「そらそうやろ」
「大きいセイジ」
「雑やな」
ルッカはそれ以上気にせず、水の器を俺へ渡した
いつもの器
受け取る
「……小さない?」
「何が?」
「器」
昨日までちょうどよかった
今日も器の大きさは同じ
当然だ
でも手が大きくなったせいで少し小さく感じる
片手で持ったときの感覚も違う
飲むと、水の量まで少なく感じる
「これ身体でかくなった分、水も増えるんかな」
「肉も」
「そこ乗っかってくんな」
ルッカの目が少し輝いている
「セイジ、いっぱい食べる?」
「分からん」
「じゃあ試す」
「何を?」
「肉」
「朝から実験方法が雑すぎる」
でも腹は減っている
昨日の戦闘と進化で、かなり体力を使った気もする
「その前に、ちゃんと見たい」
近くの水場へ行く
岩陰拠点で使っている水の場所
水面は完全な鏡ではない
揺れるし、光もある
それでも顔くらいは分かる
しゃがむ
「……おお」
昨日までと違う
輪郭が少し縦に伸び、顎周りも以前より人間に近い形に見える
鼻、目の位置、顔全体
前より人間っぽい気がする
「……ちょっと人間っぽなった?」
思わず笑う
期待していなかったと言えば嘘になる
昨日ホブゴブリンメイジという名前を見て、まだゴブリンかと思った
でも見た目は確実に少し変わった
耳を見る
「……耳は普通にゴブリンやな」
長い
尖っている
色も人間とは違う
肌も完全に人間の色ではない
顔つきも近づいたとは思うが、人間そのものではない
「惜しい」
「何が?」
ルッカが隣から水面を見る
「もうちょい人間になるかと思った」
「人間?」
「いや、俺前は人間やったから」
ルッカは知っている
前世の話を全部理解しているかは分からない
でも俺が以前、別の場所で別の姿だったということは伝えている
ルッカは水面の俺を見る
「セイジ」
「うん」
「今もセイジ」
「そうやな」
昨日も言われた
進化する前、起きたとき俺だったらいい
そんなことを言った
今考えるとちょっと恥ずかしい
でも怖かった
自分がどこまで変わるか分からなかった
今、頭の中は同じ
記憶もある
関西弁も出る
腹も減る
ルッカに突っ込む気もある
俺だ
「ほな次」
STATUS
これが一番大事だ
昨日、進化前はLEVEL10で、進化可能の表示とホブゴブリンメイジという進化先が出ていた
そこから何が変わった
意識を向ける
STATUS
表示が開く
NAME
セイジ
「名前ある」
当然だけど少し安心
次
RACE
ホブゴブリンメイジ
「……まだゴブリンなんかい」
思わず声が出た
分かっていた
昨日見た進化先そのものだ
だから当たり前
当たり前だけど、水面でちょっと人間っぽくなった自分を見た直後だと少し期待してしまった
「ホブ増えた」
ルッカ
「昨日もそれ言うてたな」
次
LEVEL
1
「……」
見間違いか
もう一度見る
LEVEL
1
「……イチ?」
ルッカが俺を見る
「一」
「イチ!? 弱なったんか!?」
思わず立ち上がる
勢いでまた入口方向の岩へ頭をぶつけそうになって止まった
「危なっ」
でもそれどころではない
昨日はLEVEL10
今日はLEVEL1
「十から一やで!?」
「一」
「九も減ってる!」
「減った」
「冷静やな!」
頭の中が混乱する
進化すれば強くなる
そう思って選んだ
なのにLEVEL1
初期化
リセット
ゲームでは転職や進化、クラスチェンジでレベルが戻る仕組みはある
でも実際に自分の数字になると、めちゃくちゃ不安だ
「待て待て」
まだ能力を見ていない
LEVELだけで決めるな
LEVEL6だった頃からずっとSTATUSを見てきた
LEVELが上がるたび、一部の能力ランクも変わった
なら今も見る
HP
E
「……え?」
昨日はE-
今はE
上がっている
「HP上がってる」
MP
D
昨日はD-
「MPも」
筋力
F+
「筋力!」
声が大きくなる
ついにFからF+
「上がった!」
ルッカが聞く
「木持てる?」
「そこはまだ分からん」
でも前からずっとFだった筋力が、LEVEL10でもFだった筋力が、F+になっている
小さい
小さい変化
でも嬉しい
「やっとや」
耐久
E
敏捷
E+
器用
D-
「D入った!」
精神
D-
魔力
D
一つずつ見る
昨日までは、
HP E-
MP D-
筋力 F
耐久 E-
敏捷 E
器用 E+
精神 E+
魔力 D-
今は、
HP E
MP D
筋力 F+
耐久 E
敏捷 E+
器用 D-
精神 D-
魔力 D
全部上がっている
「……LEVEL一やのに」
弱くなっていない
むしろ基礎能力は全部上だ
「これ、LEVELだけ戻ったんか」
LEVELは絶対的な強さの数字ではなく、種族や進化段階の中での成長を表しているのかもしれない
今回の進化ではLEVEL1へ戻った
でも体の土台は上がっているらしい
「分かった」
ルッカが聞く
「何?」
「弱なってへん」
「強い?」
「たぶん、昨日より強い」
「一なのに?」
「そこやねん」
俺も笑う
LEVEL1
なのに、ゴブリンメイジLEVEL10だった昨日より能力ランクは高い
ゲームみたいで、ゲームと違う
数字だけ見たら一
でも中身は違う
「LEVELだけ見たらあかんな」
もう少し下を見る
SKILL
《魔力感知》
《魔力制御》
「ある」
二つとも維持
新しいSKILLはなし
少し期待した
進化したら何か増えるかもしれない
でもない
「まあええか」
《魔力制御》を覚えたばかりだ
《魔力感知》もまだ使いこなしている途中
増やす必要はない
TITLE
なし
「そこはほんま何もくれへんな」
一回くらい何かついてもいい気がする
村守った人
とか
家大事な人
とか
いや、それはTITLEとしてどうなんだ
魔法も確認する
《火弾》
《治癒》
《水球》
《風圧》
《土締め》
《土成形》
全部ある
「よかった」
進化で消えたら困るところだった
闇は相変わらず未習得
新しい魔法もない
空間魔法もない
便利な収納も生えてこない
「そこは夢ないな」
「何が?」
「なんでもない」
STATUSをもう一度上から見る
NAME セイジ
RACE ホブゴブリンメイジ
LEVEL 1
HP E
MP D
筋力 F+
耐久 E
敏捷 E+
器用 D-
精神 D-
魔力 D
SKILL
《魔力感知》
《魔力制御》
TITLE
なし
「……ちゃんと強なってる」
安心した
かなり
LEVEL1を見た瞬間、進化失敗したかと思った
でも違う
「進化ってこういうことなんやな」
今回の俺の進化では、種族が変わり、体が変わり、基礎能力が上がって、LEVELは1へ戻った
少なくとも今回確認できたのはそれだ
「でも人間にはならんかった」
もう一度、水面を見る
昨日より人間っぽい
でもホブゴブリンメイジ
はっきり魔物だ
強くなることと、人間になることは別
「まあ……一回で人間なると思ってたわけちゃうけど」
少しだけ残念
でも不思議と昨日ほど怖くない
ルッカが普通だからだ
見た目が変わった俺を見ても、大きい、それくらい
俺がセイジかどうか
そこしか見ていない
「ルッカ」
「何?」
「ほんまに怖ない?」
「怖くない」
即答
「顔変わったで」
「セイジ」
「でかくなった」
「大きいセイジ」
「やっぱそこなんや」
ルッカが俺の腕を掴んで引っ張る
「何?」
「歩く」
「どこへ?」
「身体見る」
「どうやって?」
「走る」
「いきなり?」
進化直後で身体感覚が違う
確かに軽く動いてみる必要はある
でも昨日、大きな戦闘をした直後でもある
「無茶せん範囲な」
外へ出る
岩陰拠点の周り
いつもの場所
短い距離だけ
立って、足と地面を確かめ、一歩、二歩とゆっくり歩く
やっぱり歩幅が広い
でも変な感じは最初だけで、数十歩も歩けば少し慣れる
「速い?」
ルッカが聞く
「まだ分からん」
軽く走る
昨日までと同じつもりで地面を蹴る
「うおっ」
思ったより前へ出る
止まる
「危な」
敏捷はEからE+
体格が大きくなったのに動きは重くない
むしろ軽い
脚も長く、一歩が広い
「これ慣れるまで走り回ったら危ないな」
「もう一回」
「いやまず歩く」
木の間を歩く
自分の体の幅、肩、頭を気にする
前まで楽に通れた隙間が少し狭い
「家だけちゃうな」
森の中でも、体が大きくなると通り方が変わる
ルッカはいつも通り
俺だけ少し引っかかる
枝が肩に当たる
「昨日までそこ当たらんかったのにな」
「大きい」
「便利なことばっかりちゃうな」
でも地面を踏む力は前よりある
足元も安定する
筋力F+
耐久E
体の強さが昨日までより分かりやすい
「木」
ルッカが言う
「何?」
指す
落ちている太い枝
前に大きな木材を持てなくて散々いじられたことを思い出す
「あれ持てって?」
「うん」
「進化して最初の試験それ?」
近づく
前なら持てるけど重い、あるいは持ち上げても運ぶのがしんどい
そんな太さだ
しゃがみ、両手で持つ
「よっ」
上がる
「あ」
思ったより楽だ
軽いわけではない
重い
でも持ち上がる
数歩運ぶ
「おお!」
嬉しい
「見て!」
「見てる」
「持ててる!」
「うん」
「俺、木持ててる!」
「木」
「なんやその薄い反応!」
あの木材以来の因縁が、やっとほんの少し改善した
「ローデンに言お」
「何を?」
「俺も木運べるようなったって」
「大きいの?」
俺は持っている枝を見る
その向こうにはもっと太い倒木
「……あれは無理やろな」
「F+」
「言うな」
万能ではない
筋力が上がったと言ってもFからF+
ローデンと力比べできるほどではないだろう
「ちょうどええわ」
少しだけできることが増えた
でもまだ頼る
それくらいだ
枝を下ろす
「魔法も見る?」
ルッカが聞く
「一応」
進化で能力が上がった
MP D
魔力 D
昨日まではどちらもD-
同じ感覚で使ったら少し強く出る可能性がある
《魔力制御》がある
だからといって、いきなり強い魔法を撃つのは危ない
「火はやめとこ」
「なんで?」
「森やし、身体変わった直後やし」
水なら安全だ
手を前へ出す
《水球》
ごく少量
昨日《魔力制御》を試したくらいの量を意識して魔力を流す
「……お」
水が出る
思ったより少し多い
「増えた」
「せやな」
すぐ止める
《魔力制御》
量を減らして、もう一度《水球》
今度は思った通り小さい
「感覚ちょい違うな」
魔力ランクはD-からD
MPもD-からD
体の中にあるものと、出る勢いが少し違う
でも制御できる
「慣れたらいけそう」
次は風
弱く
手元の葉一枚だけを動かすくらい
《風圧》
風
葉が転がる
少し強い
「これも」
もう一度出力を下げる
《風圧》
葉だけが少し揺れる
「よし」
土は今日はやめる
進化直後に全部試す必要はない
火も治癒も必要なときでいい
「六個残ってるし、それで十分」
新しい魔法はない
でも今ある魔法を、強くなった体と魔力で改めて使いこなす必要がある
「帰ろ」
岩陰拠点へ戻る
そして入口の前で止まる
さっき頭をぶつけた場所
「……これ毎回しゃがむん?」
ルッカが普通に入る
俺も続く
頭を下げれば入れる
でも、
「狭い」
寝床、棚、入口
全部昨日までの俺に合わせて作っている
当然だ
家が悪いのではない
俺が変わった
寝床へ座る
膝が前より出る
棚へ手を伸ばすと距離感が変だ
「これ、直さなあかんな」
「家?」
「うん」
入口は少し高くしたい
寝床は広げたい
棚も位置を少し変えたい
調理する場所も、体が大きくなった分、今までの間隔では狭く感じる
「ローデン呼ぶ?」
「せやな」
こういうとき、建築担当の顔がすぐ浮かぶ
俺だけで土を動かして適当に広げるより、ちゃんと見てもらう方がいい
「また頼ろ」
進化して強くなった
筋力も上がった
でも家を直すならローデン
身体を見るならエナ
森を歩くならルッカ
危険ならダリオ
言葉や村との話ならミラ
そこは変わらない
「進化したから全部自分でできます、にはならんな」
「肉は?」
「肉はお前が食う」
「うん」
「そこも変わらんな」
朝食というには少し遅い
昨日からの疲れでかなり寝ていたらしい
保存食を出す
いつもの器
「やっぱ小さいな」
肉を入れる
量は昨日までと同じ
食べる
「……足りんかも」
ルッカの目が光る
「増えた」
「まだ一回目やから分からんって」
でも腹の感じとしては、少し多く食べられそうだ
体が大きくなった
必要な食事も増えるのかもしれない
「食費増えるん嫌やな」
「しょくひ?」
「食べ物に必要なもん増えるってこと」
「狩る」
「頼もしいけど、全部食うなよ」
もう少し食べる
水も追加
「器もでかいの欲しい」
今まで便利だった道具が少しずつ合わなくなっている
服と呼べるほど立派なものではないが、身につけていたものもかなり窮屈だ
進化中に破れなかっただけましか
「これも何とかせな」
ルッカが見る
「小さい」
「せやな」
人間に近づいたかどうか以前に、生活用品が合わない
進化って、もっと格好いいものだと思っていた
光
力
新技
そんな感じ
実際は頭ぶつける、寝床狭い、器小さい、服きつい
「めっちゃ生活に影響出るな」
「大きくなったから」
「そらそうやけど」
昼近く、ルッカが第二水場へ行こうと言い出した
「今日行くん?」
「壊れてる」
昨日の戦闘で第二水場の屋根、長椅子、障害物が壊れ、修理が必要なのは分かっている
「気になるけど」
自分の肩を見る
昨日の傷は進化後かなり痛みが減っている
もともと《治癒》も使った
ただ、エナには休めと言われた
「今日はやめとこ」
「なんで?」
「進化したばっかやから」
第二水場へ行けば、エナたちに会う可能性がある
新しい姿を見せることになる
それを考えると少し緊張する
「……それもあるけど」
昨日の夜、一番怖かったこと
人間から遠ざかるかもしれない
外見
進化
ホブゴブリン
エナたちはどう見る
村人はどう見る
せっかく少しずつ近づいた距離がまた戻るかもしれない
ルッカには「セイジはセイジ」と言われた
でも人間全員がそうではない
それは初めて村へ入ったときにも分かった
「明日でええ」
俺が言う
「今日、身体慣らす」
「分かった」
無理に避けているわけではない
と思いたい
でも少し心の準備も欲しい
進化して起きたその日に人間の前へ行く
そこまで急がなくてもいい
今日は自分がどうなったか確認する日だ
午後は岩陰拠点の周囲だけを歩いた
新しい歩幅、しゃがむ高さ、手の届く場所、木と木の隙間、岩場
一つずつ確認する
ルッカが先、俺が後ろ
いつもの短い道なのに、新しい場所みたいに感じる
「そこ」
ルッカが枝を指す
昨日までなら頭の上
今は額の高さだ
「危な」
避ける
「これ覚え直しやな」
身体が大きくなったこと自体は嬉しい
前より人間に近い体格
少し長い手足
高くなった視線
でも環境は俺に合わせて変わってくれない
森も家も道具も昨日のまま
だから俺が慣れる
必要なら家の方も変える
「第二水場も?」
ルッカが聞く
「何が?」
「椅子」
「ああ」
今の長椅子も座れないわけではない
でも前より窮屈かもしれない
「俺一人に合わせて全部でかくする必要ないやろ」
第二水場はみんなの場所だ
人間も、ルッカも、俺も、それぞれ体格が違う
「俺用の場所一個あったら十分」
岩陰拠点は俺とルッカの家
だからこっちはもう少し直していい
その違いもある
「家は変える?」
「入口と寝床はな」
「棚」
「棚も」
「肉置く場所」
「それはそのままでええ」
「大事」
「分かった、ローデンと相談」
夕方近く、拠点へ戻る
今度は入口でちゃんと頭を下げる
「学んだ」
「ぶつけない」
「成長したわ」
LEVEL1だけど
そう思って笑う
寝床へ座る
少し狭い
でも昨日と同じ場所だ
体は変わった
RACEも変わった
LEVELも変わった
でも帰ってくると、やっぱり落ち着く
「進化しても家は家やな」
「うん」
「狭いけど」
「直す」
「せやな」
STATUSをもう一度開く
何度見てもLEVEL1
最初はびっくりした
今は少し面白い
「LEVEL一からやり直しか」
でも最初のLEVEL1とは全然違う
あの頃は、
ゴブリンメイジ
LEVEL1
HP F+
MP E+
筋力 F
耐久 F+
敏捷 E-
器用 E
精神 E+
魔力 E+
《魔力感知》
《魔力操作》
使える魔法は《火弾》だけだった
今は、
ホブゴブリンメイジ
LEVEL1
HP E
MP D
筋力 F+
耐久 E
敏捷 E+
器用 D-
精神 D-
魔力 D
《魔力感知》
《魔力制御》
六つの魔法
同じLEVEL1
でも中身はまったく違う
「ほんまにLEVELだけで強さ決まらんな」
最初の頃の俺と今の俺が戦ったら、比べるまでもない
魔法、体、経験
全部違う
「最初からやり直しじゃない」
数字は一へ戻った
でも積み上げたものは残っている
魔法
SKILL
体
経験
仲間
家
第二水場
人間との関係
全部残っている
「これならええ」
俺はSTATUSを閉じる
ふと考える
昨日あった進化可能の表示は今はない
当然だ
進化した
これで終わりなのか
それともLEVELをまた上げれば、いつか次があるのか
分からない
ホブゴブリンメイジという名前だけ見れば、完成形という感じもしない
でも勝手に決めるのはやめる
「次あんのかな」
「何が?」
「進化」
ルッカは首を傾げる
「また大きくなる?」
「それ以上でかくなったら家全部直さなあかん」
「ローデン」
「頼る気満々やな」
今は分からない
それでいい
もし次があるなら、そのとき考える
今はこの体、このLEVEL1に慣れる
「明日、みんなに会うか」
口にすると少し緊張する
エナ
ダリオ
ローデン
ミラ
昨日まで一緒に戦った仲間
見た目が変わった俺をどう見るか
「怖い?」
ルッカが聞く
「ちょっと」
正直に言う
「昨日の魔物より?」
「種類が違うねん」
戦う怖さと、人にどう見られるかの怖さ
全然違う
「でも行く」
第二水場も直さなければならない
俺の家もローデンに見てもらいたい
エナには進化後の体を見てもらった方がいいかもしれない
ダリオにもミラにも話したい
「逃げる理由ないしな」
昨日、群れから逃げなかった
だから今日、人の反応から逃げるというのも何か違う
怖がられるかもしれない
でもそれは見てから考える
「まず寝よ」
昨日ほどではないが、まだ体が重い
進化の疲れか、戦闘の疲れか
分からない
たぶん両方だ
ルッカはすでに寝床へ行く
俺も横になる
「やっぱ狭い」
「大きい」
「明日ローデンに言う第一声決まったわ」
「何?」
「家、狭なった」
ルッカが笑う
目を閉じる
新しい体
新しい種族
LEVEL1
でも寝る場所は同じ
隣にいるのも同じ
明日、外へ出れば変わったことがもっと出てくるかもしれない
人間の反応も
生活の不便も
魔法の感覚も
まだ分からない
それでも一つだけはっきりしている
進化して、LEVELが一へ戻って、体が大きくなって、少し人間っぽくなっても、ここへ帰ってきたときの感じだけは昨日までと何も変わらなかった




