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魔力を操る、その先へ

第31回 魔力を操る、その先へ


翌朝、腕の擦り傷はほとんど気にならなくなっていた


赤みはまだ少し残っているし、触れば軽く痛いが、動かすには問題ない


昨日、エナが《治癒》を使わなくていいと判断した通り、この程度なら普通に治っていくらしい


「LEVEL上がっても傷は残るんやな」


腕を眺めながら呟く


ゲームならレベルアップと同時に全回復、そんな仕組みも珍しくなかった


でも俺の体はそうじゃない


LEVEL8


HP E-


耐久 E-


確かに昨日より能力は上がった


でも擦り傷は擦り傷のままだし、疲れたら眠いし、腹も減る


「当たり前っちゃ当たり前やな」


「何が?」


寝床から起きてきたルッカが聞く


「LEVEL上がっても傷消えへん」


ルッカが俺の腕を見る


「もう大丈夫」


「せやな」


「肉食べたらもっと大丈夫」


「それ治療ちゃうで」


昨日の調査で保存食はかなり減った


今日は狩りか採集に出る必要があるかもしれない


ただ、その前に第二水場へ行く予定がある


水場の利用者が少しずつ増えている


昨日持ち帰った谷の情報も村側へ伝わっているはずだ


浅い区域へ危険な魔物が出る事例が増えていることもあり、第二水場周辺をどう使うか改めて確認する話になっていた


「今日もダリオ来る?」


ルッカが肉を食べながら聞く


「来るって言うてた」


「エナ?」


「今日は分からん」


「ミラ?」


「たぶん来るんちゃう?」


「干し果物?」


「それは聞いてない」


一番気にしているのはそこらしい


朝食を終えて、水、縄、少しの保存食と最低限の物を持つ


今日は遠出する予定ではない


第二水場まで、その周辺だけ


昨日までと比べれば、完全にいつもの範囲だ


そう思っていた


第二水場へ向かう途中、《魔力感知》を使う


近くに強い反応はない


小さな反応がいくつかあるが、動物か小型魔物かは分からず、こちらへ向かってもいない


谷へ向かう調査から意識している


強弱、単複、動静


以前よりは分かる


ただし正体までは分からない


その線引きを忘れない


「右、ちっちゃいの一個」


俺が言う


ルッカがそちらを見る


「鳥」


「また?」


「鳴いた」


「魔力感知の立場なくなるな」


「見えないとき便利」


「フォローありがとう」


第二水場が見えてくる


簡易屋根、長椅子、水


いつもの場所だ


ただ今日は人が多い


すでにダリオとミラがいて、ローデンもいる


さらに村人が二人


俺たちが近づくと向こうも気づいた


一人は以前村で挨拶したことがある


もう一人は顔だけ見た気がする


「おはよう」


ミラが手を上げる


「おはようさん」


ルッカも軽く手を上げる


以前なら、村人が二人いるだけで少し構えていた


今はまだ緊張するものの、逃げたいとは思わない


これも変わったところだ


「今日は多いな」


俺が言う


「水場使う人、増えた」


ミラが答える


「昨日の話で減るかと思ったけど」


「逆だ」


ダリオが言う


「危険があるからこそ、どの道を使うか確認したい人間もいる」


「なるほど」


危ないから行かない


それだけでは生活できない


水が必要で、森へ入る必要がある


家畜を探すこともあれば、木や草を取りに行くこともある


なら、危険を知った上で使うしかない


「今日の話は?」


俺が聞く


ローデンが簡易屋根の周囲を見る


「ここで人が休む時間が長くなってる」


「前より?」


「ああ」


「何か足す?」


「その前に、逃げる場所を考えた方がいい」


少し空気が変わる


「逃げる場所?」


「魔物が来た時だ」


これまで第二水場は、休む場所、水を使う場所、情報交換する場所という意味が中心だった


でも浅い場所へ危険な魔物が増えている


なら、ここに人が集まること自体が危険になる可能性もある


「簡易屋根の後ろに隠れる?」


俺が聞く


ローデンが首を振る


「壁じゃない」


「そらそうか」


「木の位置、村側への道、森側への逃げ道、その辺を決めたい」


ダリオが地面へ線を引く


「今のところ、人間側へ逃がすのが一番安全だ」


「村方向?」


「ああ」


「森側は?」


「ルッカとお前なら動けるが、全員が同じように動けるわけじゃない」


昨日の帰路がまさにそうだった


俺とルッカだけなら通れる道でも、エナとミラがいると危険になる


人数が増えればもっと難しい


「ほな、村側へ逃げる道は空けとく?」


「そうなる」


ローデンが頷く


「荷物や木を置きすぎない」


「備蓄増やすなら場所考えなあかんな」


「そういうことだ」


第二水場を便利にする


物を置く


屋根を増やす


長椅子を増やす


それだけでは駄目


逃げられるように空ける


守るために、何も作らない場所も必要になる


「家作りと似てるな」


俺が言う


「何が?」


ローデン


「物置く場所だけやなくて、通る場所もいる」


「当たり前だ」


「俺、最初そんなこと考えてへんかったからな」


最初の岩陰拠点なんて、寝られたら勝ちくらいだった


今では火の場所、水、棚、寝床、入口まで全部分かれている


第二水場も同じだ


使う人が増えれば、場所の役割も増える


話をしている間にも、一人、また一人と村側から人が来る


大人数ではない


二人組、三人組で、それぞれ水を使い、少し休んでまた戻る


「ほんま増えたな」


俺が言う


ルッカは人より、持っている食べ物を見ている


「見るな」


「見てない」


「めっちゃ見てる」


「パン」


「肉ちゃうんか」


「パンも食べる」


知らなかった


少しして、村側から別の小さな一団が来るのが見えた


三人


荷物を持っている


一人は年配で、二人は若い


見たことはあるが、名前までは知らない


第二水場へ向かっている


俺は何となく《魔力感知》を広げた


癖になっている


人が来る方向には当然三人分の反応がある


ただ、その反対側


森の左奥にも別の反応


俺は顔を上げた


「待って」


ルッカがすぐ俺を見る


ダリオも、


「何だ」


「左」


集中する


一つ


二つ


いや、もっと


動いている


速い


「複数」


「数は」


「まだ分からん」


反応同士が近く、動きが速いせいで重なる


三


四


もしかしたらそれ以上


「速い」


「こっち?」


「斜めに来てる」


その方向を頭の中で追う


第二水場へ一直線ではない


少し人間側寄り


「……まずい」


俺は村側から来る三人を見る


魔力反応の方向


人間の進路


交わる


「ダリオ」


「分かった」


まだ説明していない


でも顔と位置で察したらしい


「ルッカ、見ろ」


「うん」


ルッカが森側へ走る


無理に奥へ入らず、地面、草、木の根元を見ながら少し移動する


俺は感知を続ける


反応が近づく


やっぱり複数


かなり速い


「四……いや五かも」


「強さは」


「一個一個は昨日のやつより弱いと思う、でも速い」


ダリオが村側の三人へ声を上げる


止まれ


戻れ


こっちへ来るな


そんな意味だと思う


向こうが立ち止まる


「ミラ」


「分かった」


ミラが走る


村人側へ説明しに行く


ローデンも周囲を見る


「ここで迎えるか?」


「人間側と進路が近すぎる」


ダリオが地面を見る


「森側へずらす」


ルッカが戻ってきた


「いる」


「何だ」


「小さい、速い、群れ」


「危険か」


「危ない」


「人を襲う?」


「襲う」


それで決まった


「セイジ」


ダリオが俺を見る


「はい」


「強い火は使うな」


「人おるから?」


「ああ」


村側から来ていた三人


第二水場にいる人


ミラ


ローデン


ルッカ


ダリオ


人が多い


いつもみたいな《火弾》を外せば危ない


森の中であることも同じ


「狭く使う」


俺が言う


ダリオは頷く


「できるか」


少し考える


前に弱い火弾を練習した


その後の実戦では大きさを変えた


昨日の戦いでは、必要な魔法だけを順番に使った


できる


たぶん


「やる」


ダリオが位置を決める


第二水場から森側へ少し離れた場所


人間側経路と魔物の進路の間


ここで止めれば、村人へ届かない


第二水場にも入れない


「人間側は戻す」


「ローデンは?」


「残る、後ろを見る」


ローデンが頷く


「ミラは戻ってくるな」


ダリオが声を上げる


遠くのミラが返事をする


村人三人と一緒に、少し後ろへ下がる


第二水場にいた別の人たちも、ローデンが村側へ移動させる


俺、ルッカ、ダリオ


三人が前


前の三体戦と同じ構成だ


ただ今は場所が違う


後ろに人が多い


「セイジ」


ダリオが言う


「昨日みたいに考えろ」


「目的から?」


「ああ」


まず何をする


敵は複数


速い


人が近い


強い火は危ない


なら殺すより先に、進路を止める


広がらせない


俺は地面を見る


柔らかい


第二水場に近いせいで湿り気もある


《土成形》


使える


大きく穴を掘る必要はない


進路を狭める


土を少し盛る


低い壁


完全に止めるほどではない


でも横へ走りにくくする


「ルッカ、どこ通りそう?」


ルッカが反応の方向と地形を見る


木と木の間を指す


「ここ」


「ほな両側ちょい狭くする」


魔力を流す


《土成形》


右側を少し盛って止める


左も少しだけ


これ以上は時間がない


反応が近い


「来る」


ルッカ


俺は魔法を切り替える


火はまだ出さない


風を準備し、魔力を集める


ここで気づく


昨日より魔力が多い


いや、正確には扱える量が増えた感じがする


昨日LEVEL8で変わったのはHPと耐久だけで、MPはまだE+


だから気のせいかもしれない


今は考えない


茂みが揺れる


一体目


小さい


昨日の中型魔物より明らかに小さい


でも俺より低いだけで体は太い


四本足


細長い口


後ろから二体


さらに二体


「五!」


俺が叫ぶ


合っていた


五体


まとまって出てくる


一体目がこちらを見る


止まらない


二体目も


後ろも続く


群れで突っ込んでくる


「広げるな!」


ダリオ


「分かってる!」


盛った土の間、狭いところへ入る


一体目


二体目


三体目


後ろは少し横へ行こうとする


「ルッカ右!」


「うん!」


ルッカが石を投げ、右へ広がろうとした個体を戻す


俺は《風圧》


でも、いつもの広さでは駄目だ


ルッカまで巻き込む


ダリオも近い


後ろに人もいる


狭く


前の二体だけ


風を細く、必要な範囲だけ


「《風圧》!」


出す


いつもより小さい


でも方向は合っている


一体目の肩


二体目の頭


体勢が崩れ、三体目がぶつかる


群れが詰まる


「よし!」


ダリオが前へ出る


一体を武器で押し返す


ルッカも横から動く


俺は火を作る


小さい


狙う


一体だけ


「《火弾》!」


飛ぶ


先頭の肩に当たる


炎は小さい


でも当たった個体だけが怯む


後ろへ燃え広がらない


「もう一発!」


自分で言う


次の魔力を出す


小さく


同じくらい


ここで少し変な感覚がした


今までは、魔力を小さく出そう、弱くしよう、そう考えていた


今は違う


必要な量だけ出して、そこで止める


水を器へ注ぐみたいに、ここまで


止める


それだけ


《火弾》


二発目


さっきより小さい


でも形が崩れない


狙った場所へ飛び、一体の脚へ当たる


転ぶ


「……今の」


考える暇はない


左から一体が抜ける


人間側へ


「左!」


ルッカが追う


間に合わない


俺も向きを変える


火は危ない


人間側が後ろ


なら風


でも強く押したら、そのまま人側へ飛ぶかもしれない


横へ


森側へ戻す


狭く


一体だけ


必要な強さ


「《風圧》!」


風が横から当たる


魔物が進路を変える


人間側ではなく木の方へぶつかる


「戻った!」


ルッカが追いつき、槍で牽制する


俺は息を吐く


さっきの風


狭い


小さい


でもちゃんと動いた


以前より思った通りに魔力が止まる


「セイジ、前!」


ダリオの声


見る


残りが来る


考えろ


土、風、火


何が必要


足場


今の盛り土だけでは足りない


抜けた一体がいる


なら地面を少し締める


いや逆


滑りやすいところを作る方が早い


《土成形》


小さく


一体が踏む場所だけ土をずらす


すぐ止める


次は風


まだ


魔物が踏む


前脚がずれる


「今!」


《風圧》


狭く、一体だけ


倒れる


火


弱すぎない


強すぎない


胸


「《火弾》!」


当たる


一体が動かなくなる


「一体!」


俺が倒した


でもまだ四体


ダリオが一体と戦っている


ルッカが一体を牽制


残り二体


一体は怪我している


もう一体が俺を見る


来る


距離が短い


「くっ」


大きな風


駄目


周りに味方がいる


小さい風じゃ止まらないかもしれない


なら土


足元


《土締め》


一瞬迷う


締める


相手の足元全部ではなく、前脚が乗る狭いところだけ土を固くする


変化は小さい


でも柔らかい地面との硬さの差で、走る足がずれる


ほんの一瞬


俺は横へ避ける


敏捷E


体がついてくる


牙が横を通る


近い


「危なっ」


魔物が振り返る


火


大きくできない


でも近い


小さくても当てればいい


「《火弾》!」


顔の横


外れる


木へ当たる


小さい火だから燃え広がらず、すぐ消える


「そこ助かるな!」


自分で言う


大きい火なら今ので木が燃えていたかもしれない


でも感心している場合ではない


魔物がまた来る


今度は風


横


「《風圧》!」


肩に当てる


進路がずれる


そのままルッカの方へ行きそうになる


「まずっ」


止める


風を止める


すぐ止まった


以前なら少し余計に押していたかもしれない


ルッカの直前で流れが弱くなる


「ルッカ!」


「大丈夫!」


ルッカが横へ避ける


ダリオが一体を倒す


残り三


俺が倒した一体


ダリオが一体


三体が残っている


そのうち一体は脚を火傷している


群れの勢いはもうない


逃げるなら終わる


俺は手を止める


ダリオも追わない


ルッカも


一体が後ろへ下がる


もう一体も


「逃げる?」


俺が言う


その瞬間、三体目がルッカへ飛びかかった


「ルッカ!」


間に合わない


火は撃てない


近すぎる


風


でもルッカも巻き込む


狭く


もっと狭く


魔物の胴体だけ


必要な量


止める


「《風圧》!」


風が一点へ当たる


魔物の体が横へずれ、ルッカの肩すれすれを通って地面へ落ちる


「今離れて!」


ルッカが飛ぶ


距離ができる


俺は火を作る


この距離なら、小さく、強く


矛盾しているようで違う


大きさは小さく


中の魔力は必要分


「《火弾》!」


胸へ当たる


魔物が倒れる


起きようとする


もう一発必要か


見る


前脚が動く


立つ


必要


「《火弾》!」


二発目


首元


動きが止まる


「二体目……!」


俺が倒した


残り二体


その二体は今度こそ逃げた


森の奥へ


誰も追わない


俺も撃たない


「追うな!」


ダリオが言う前に、


「追わへん!」


答えた


反応が二つ遠ざかる


速い


離れる


「行った」


息が切れている


魔力もかなり使った


でも昨日の戦いより、変な疲れ方が少ない


一発一発を小さくしたからかもしれない


必要な量だけ


本当に必要な量だけ


「ルッカ!」


俺は走る


「怪我は?」


「ない」


肩を見る


服が少し汚れている


牙は当たっていない


「ほんま?」


「うん」


ダリオも来る


「全員確認」


後ろからローデン


人間側も無事


ミラも戻ってくる


「怪我?」


「なし」


「人は?」


「大丈夫」


村人三人も、第二水場にいた人たちも怪我なし


そこで初めて全身の力が抜ける


「よかった……」


二体逃げた


三体倒した


俺が二体


ダリオが一体


でも誰も怪我していない


第二水場にも入らせなかった


人間側の経路へも抜けさせなかった


「セイジ」


ダリオが呼ぶ


「ん?」


「今の風」


「どれ?」


「ルッカの前で止めたやつだ」


「ああ」


俺も思い出す


魔物だけ押した


ルッカへ届く前に止めた


「前より細かい」


「俺も思った」


「火も」


ミラが言う


「小さかった」


「人おったからな」


「でも倒した」


「当てる場所と回数やな」


以前は、強い魔法を出せば強い、そんな感覚もあった


今は違う


大きな火が必要なときもある


でも小さい火の方がいい場面もある


風も同じだ


強く押すだけでは駄目


どこまで


誰に


どの方向へ


どれくらい


そこを決める


「魔力、止める感じが変わった」


俺は自分の手を見る


「止める?」


ミラ


「今まで弱くしようとしてたんやけど」


言葉を探す


「今日は、必要なとこまで出して、そこで止める感じ」


伝わっているか分からない


自分でも説明しにくい


でも感覚ははっきりしている


魔力を操作する、ではなく、魔力がどこまで出るかを決める


ここから先へ行かせない


必要な分だけ通す


そんな感じ


「セイジ」


ルッカが俺を見る


「何?」


「変わった?」


「何が?」


「中」


よく分からない言い方だ


でも、確かに何か変わった気はする


戦闘中、途中から魔力の切り替えが妙に滑らかだった


土


風


火


土


風


火


属性を変えるたび、一度全部を消して次を作る


そういう感覚が前より薄い


必要な場所へ、必要な形で繋ぎ直せる


「……STATUS見たい」


俺が言う


ダリオが周りを見る


「ここならいい」


「ほんま?」


「戦闘は終わった」


「ほな」


意識を向ける


STATUS


表示が開く


最初に見る


LEVEL


9


「九!」


声が出た


「上がった?」


ルッカ


「上がった!」


LEVEL8から9


予想はしていた


二体倒した


でも実際に見るとやっぱり嬉しい


下を見る


HP E-


変わらない


MP D-


「……D?」


思わず顔を近づける


見間違いではない


MP D-


「MP上がってる!」


昨日まではE+


一気にD帯へ入った


「魔力いっぱい?」


ルッカ


「たぶん、使える量とかその辺やと思う」


筋力 F


「そこは相変わらずやな」


耐久 E-


敏捷 E


器用 E+


「器用も上がってる」


昨日はE


今日はE+


細かい魔力調整、狙い、切り替え、その辺と関係しているのかもしれない


精神 E+


魔力 E+


ここは変わらない


そして、


SKILL


《魔力感知》


……


「え?」


一瞬固まる


もう一つ


《魔力制御》


「操作なくなっとる!」


思わず叫ぶ


「何?」


ダリオが警戒する


「《魔力操作》!」


「どうした」


「ない!」


「なくなった?」


ミラが聞く


「さっきまであったやつや、魔力操作!」


もう一度見る


ない


《魔力感知》


《魔力制御》


二つ


数は同じ


でも名前が違う


「待って待って」


焦る


《魔力操作》が消えた


使えなくなった?


それは困る


俺が今まで魔法の出力を調整していた基本みたいなSKILLだ


「制御って何?」


ミラが聞く


「新しいやつ」


そこで、やっと気づく


操作


制御


「……もしかして」


落ち着いて見る


《魔力操作》はない


代わりに《魔力制御》がある


「昇格したんか」


口から出た


《魔力操作》が消えて、代わりに《魔力制御》が表示されている


なら、なくなったというより変化したと考える方が自然かもしれない


「操作から制御」


俺は手を開く


さっき感じたもの


弱くするのではなく、必要量で止める


属性を切り替える


狭い範囲へ風を当てる


火弾を小さく保つ


暴れさせない


全部、制御


「これや」


「何が?」


ルッカ


「さっきの感覚」


戦闘の途中から、魔力がいつもより言うことを聞いた


いや、言うことを聞くという言い方も違う


俺がどこまで使うかを、前より細かく決められた


それがSKILLになった


「《魔力制御》」


もう一度読む


何か嬉しい


LEVELが上がったときとは違う


ずっと使ってきたものが形を変えた


《魔力操作》


最初から持っていた


《火弾》一つしか使えなかった頃から、弱い火、水、風、土、治癒と、いろんな魔法を使うたびに少しずつ試してきた


失敗もした


出しすぎた


弱すぎた


消えた


届かなかった


その積み重ねが《魔力制御》になった


「長かったなあ」


誰に言うでもなく呟く


TITLE


なし


そこはいつも通り


「TITLEほんま増えへんな」


「何それ?」


ミラが聞く


「気にせんでええ」


STATUSをもう一度整理する


LEVEL9


HP E-


MP D-


筋力 F


耐久 E-


敏捷 E


器用 E+


精神 E+


魔力 E+


SKILL


《魔力感知》


《魔力制御》


TITLE


なし


大きく変わったのはLEVEL、MP、器用、SKILL


LEVEL7になったときや、昨日LEVEL8になったときより変化が多い


「試したい」


俺が言う


ダリオが嫌な顔をした


「ここで火を撃つな」


「火ちゃう」


「何だ」


「水」


第二水場を見る


自然の水がある


だから普段なら《水球》を使う必要はない


でも今は確認したい


「ちょっとだけ」


俺は地面へ手を向ける


《水球》


大きく作らない


いつもなら飲める量、洗える量、そういうイメージで作る


今日はもっと少し


手のひらへ乗るくらい


魔力を流し、必要なところで止める


水が現れる


小さい


本当に小さい


「おお」


丸い水の塊


以前なら、小さくしすぎると形が安定しなかった


今日は違う


少量のまま形が保たれている


「すご」


ミラが覗く


「これ見て」


俺はさっき戦闘で土がついた手へ水を落とす


ちょうど洗えるくらい


余らない


地面もほとんど濡れない


「……これ」


俺は真剣になる


「生活の方が便利ちゃう?」


ダリオが呆れる


「戦闘で役に立った直後にそれか」


「いやでも考えてみ、毎回水球出したら余るやん」


「水場で水魔法を出すな」


「今日は試験やって」


ルッカが手を出す


「水」


「飲む?」


「うん」


「少なすぎるで」


もう一度


今度は口一杯くらい


《水球》


作る


止める


ルッカへ渡す


飲む


「少ない」


「細かく出せるか試してんねん」


「もっと」


「水そこにあるやろ!」


笑いが起きる


戦いの後


死骸が三体


怖かった


危なかった


でもずっと重くしていても仕方ない


今は全員無事


第二水場も無事


人間側も無事


それなら笑っていい


エナが少し遅れて到着した


村側で別の用事をしていたらしい


こちらの様子を見て、まず怪我を確認する


「誰か怪我?」


「なし」


ダリオが答える


「ほんまに?」


俺も腕を見る


昨日の擦り傷だけ


今日の新規怪我はない


ルッカも、ダリオも、ローデンも、ミラも、村人も無事


エナの表情が緩む


「よかった」


そのあと死骸を見て、地図を見て、説明を聞く


「また奥のやつ?」


俺がルッカへ聞く


ルッカは頷く


「浅い」


エナも真剣になる


前の三体戦


村人から聞いた目撃


谷近くの大型痕跡


昨日の帰路で遭遇した魔物


そして今日


一件だけではない


もう、


「たまたま一体来た」


では済まない


何種類かの危険な生物が、本来より浅いところへ出ている可能性が高い


「第二水場、危ない?」


ミラが聞く


ダリオがすぐには答えない


「今までは、何か来たら逃げるで考えてた」


地面の線を見る


「それだけじゃ足りなくなってきた」


「守る?」


ルッカが聞く


「戦う場所にするつもりはない」


ダリオ


「ここは休む場所だ」


その通り


第二水場を要塞にしたいわけではない


でも、逃げるだけでは間に合わない場面が今日あった


村人と魔物の進路が交差した


俺たちが先に気づいたから止められた


もし誰もいなかったら


「簡単なやつでええんちゃう?」


俺が言う


「何が?」


ローデン


「柵というか、道を狭めるやつ」


地面を指す


「全部囲うんやなくて、森側から真っ直ぐ走ってきにくくする」


ローデンが周囲を見る


「倒木なら使える」


「土もいける」


俺が言う


「でも高い壁とか無理やで」


「必要ない」


「逃げ道は空ける」


ダリオが加える


「人間側へ走れる道は絶対に塞がない」


「ほな森側だけ少し邪魔する?」


「そうなる」


第二水場の防御


と言っても敵を倒す設備ではない


時間を作る


少しだけ進路を変える


逃げる数秒を作る


それくらい


「避難する合図も決めた方がええな」


俺が言う


ミラが頷く


「知らない人もいる」


「せやな」


俺たちだけ分かっていても意味がない


水場へ来る人が増えた


なら、危険が来たとき、どっちへ逃げるか、誰が知らせるか、最低限決める必要がある


「明日からやるか」


ローデンが言う


「今日ちゃうん?」


「今日は戦っただろ」


「俺まだいけるで」


「魔力使った」


エナが言う


「休む」


「はい」


医療担当に言われると弱い


確かにLEVEL9、MP D-になったとはいえ、今どれくらい残っているかは分からない


基礎のランクが上がっただけで、現在残量が回復したわけでもない


「ほな今日は計画だけ」


俺は長椅子へ座る


ルッカもすぐ隣へ


「肉」


「さっき戦ったから?」


「うん」


「やっぱり言うと思った」


保存食を一枚だけ出し、半分にする


「半分?」


「俺も戦った」


「セイジ二匹」


「ほな俺多めでもええ?」


ルッカが肉を引く


「そこは公平なんやな」


結局半分ずつ


食べながら、ローデンとダリオが第二水場の周りを見る


ここに倒木


ここは空ける


ここは人が走る


ここへ物を置かない


俺も途中で口を挟む


「土盛るならこの辺?」


「水が流れたら崩れる」


ローデン


「じゃあ《土締め》も使う?」


「使うなら少しだ」


「了解」


以前なら、防御なら壁、高く、厚く、そう考えたかもしれない


今は目的から考える


逃げる時間を作る


それに必要な分だけ、土も木も魔法も使う


今日覚えた《魔力制御》も同じだ


多いほどいいわけではない


強いほどいいわけでもない


必要な量


必要な場所


必要なとき


「名前ぴったりやな」


俺が呟く


「何が?」


ルッカ


「制御」


「せいぎょ」


「操作より一個上や」


「強い?」


「たぶん」


「肉増える?」


「増えへん」


「残念」


夕方が近づく


村人たちは少しずつ帰っていく


今日戦闘に巻き込まれかけた三人も、ダリオとミラから話を聞いて帰る


一人が俺の方を見た


少し迷ってから頭を下げる


俺も下げる


何を言われたわけでもない


でも、たぶんさっきの戦いを見ていた


強い火をばら撒かなかった


人がいる方へ撃たなかった


ルッカが近いときは風を止めた


そういうところも見られていたのかもしれない


「セイジ」


ミラが言う


「何?」


「怖い魔法、じゃなかった」


一瞬意味を考える


「今日?」


「うん」


「小さく使ったから?」


「人、いたから止めた」


ちゃんと伝わっている


「魔法は怖いで」


俺は自分の手を見る


火


風


土


当たり方を間違えれば人を傷つける


「でも、怖いから使わんのも違う」


必要なときがある


今日みたいに


「ちゃんと使う」


ミラが言う


「せやな」


ちゃんと使う


簡単な言葉だけど、それが《魔力制御》なのかもしれない


俺が制御するのは魔力だけではない


何のために使うか


どこまで使うか


そこも含めて自分で決める


「帰るか」


ダリオが言う


「今日は岩陰?」


「せや」


「腕、昨日の傷」


エナがまた見る


「もう大丈夫やって」


「一応」


確認される


赤みは減っている


問題なし


今日の新規負傷もなし


「明日、防御作る?」


俺が聞く


ローデンが頷く


「材料を見てからだ」


「土は任せて」


「全部土にするなよ」


「分かってる」


「本当か?」


「今日《魔力制御》覚えた男やで」


「関係ない」


即答


「そこはちょっと信用増やしてくれてもええやろ」


みんなと別れる


俺とルッカは岩陰拠点へ戻る


帰り道でも《魔力感知》を使う


近くに弱い反応


遠い


危険なし


《魔力制御》を覚えたからといって、《魔力感知》が変わったわけではない


でも意識の切り替えは少し楽な気がする


感知して、止めて、歩いて、また感知する


魔法を使わなくても、魔力を扱うこと自体が前より自然だ


「LEVEL9か」


歩きながら呟く


「九」


「あと一個で十やな」


口にしてから、自分で少し笑う


「まあ急がんけど」


「十になったら?」


「知らん」


本当に知らない


LEVEL10になったら何かある


そんな知識もない


ただ数字として次が10


それだけ


「また必要になったらやな」


「戦う?」


「必要なら」


ルッカが頷く


いつもの答え


岩陰拠点が見える


帰る場所


今日は第二水場を守るために戦った


正確には、第二水場へ向かう人たちと、そこにいた人たちを守るため


その結果、LEVEL9になった


MPが上がった


器用も上がった


《魔力操作》が《魔力制御》になった


帰宅してから、もう一度STATUSを開く


見間違いではない


LEVEL 9


HP E-


MP D-


筋力 F


耐久 E-


敏捷 E


器用 E+


精神 E+


魔力 E+


SKILL


《魔力感知》


《魔力制御》


TITLE


なし


「やっぱ操作ないな」


「なくなった」


ルッカが横から言う


「でも制御ある」


「ある」


「ならいい?」


「ええと思う」


試しに魔力を少しだけ動かす


火は出さない


水も出さない


ただ魔力を集めて、ほんの少しのところで止める


以前より境目がはっきりする


ここまで


それ以上いらない


そう思ったところで、ぴたりと止まる


「……ええなこれ」


「何も出てない」


「今はそれでええねん」


魔法を出さない練習


前なら変に聞こえたかもしれない


今は分かる


出すことだけが技術じゃない


出さない


止める


抑える


それも必要


最初の頃は《火弾》一つと《魔力操作》


何ができるかも分からなかった


今は六つの魔法、《魔力感知》、《魔力制御》、LEVEL9


ずいぶん増えた


でも筋力はF


「……そこだけほんま動かんな」


「木持てない」


「また言う」


ルッカが笑う


俺も笑う


万能にはならない


それでいい


棚から保存食を出し、残りを見る


「明日は防御作る前に食料も考えなあかんな」


「狩り」


「時間あったらな」


「肉」


「分かった分かった」


食事の準備をする


《魔力制御》を覚えたので、火を小さく出せるか試したくなる


でも普通に焚き火がある


「……使う必要ないな」


「火?」


「せや」


使えるから使う、ではない


必要なら使う


これも同じ


普通の火で肉を温める


ルッカが待つ


俺も待つ


外が暗くなる


今日の第二水場を思い出す


人が増えていた


それは嬉しい


俺たちと人間が一緒に使える場所になっている


でも人が増えれば、守るものも増える


危険な魔物が浅い場所へ出てきている今、第二水場はただの便利な休憩所ではいられないのかもしれない


「明日、ちゃんと逃げやすくしよ」


「第二水場?」


「せや」


「壁作る?」


「壁までは作らん」


「なんで?」


「逃げにくなるから」


ルッカが少し考える


「なるほど」


「ちょっとだけ敵が来にくくして、人はすぐ逃げられる」


それくらいでいい


要塞にしない


家にも村にもならない


みんなが使う場所


その形は変えたくない


でも守れるようにはしたい


肉を食べ終える


「ごちそうさん」


ルッカも食べ終わる


「足りない」


「知ってた」


寝る準備をする


LEVEL9


新しいSKILL


考えたいことはたくさんある


でも今日は疲れた


戦った


魔力も使った


寝る方がいい


横になる


ルッカも隣へ


外の森は静かだ


少なくとも今は


「おやすみ」


「おやすみ」


目を閉じる


第二水場


明日は少し守りを作る


倒木


土


逃げ道


合図


できることをやる


その直前だった


眠りに落ちる前、《魔力感知》を切ったはずなのに、森の遠くで何か大きなものが動いたような、そんな気がした


俺は目を開ける


耳を澄ます


何も聞こえない


《魔力感知》を使おうとして、やめた


疲れている


今すぐ確かめる必要はない


明日でいい


そう思って目を閉じた


ただ、森の奥で何かが一つではなく、まとまって動いているような、嫌な感覚だけが少しだけ残った

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