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浅い森の異変2

第24回 浅い森の異変2


 目を覚ました時、まだ森は暗かった


 夜が終わって朝になる少し前で、鳥の声も少なく、火もほとんど消えている


「……起きたか」


 身体を起こす


 昨日の疲れが残っていて、脚が少し重い


 魔力は昨日より戻っている


 全部かどうかは分からないけど、昨日の夕方よりずっといい


「よし」


 横を見ると、ルッカはもう起きていた


 珍しく槍を持ち、先端や蔓の緩みを確認している


「おはよう」


「オハヨウ」


「早いな」


 ルッカは森を見る


「大きい」


「そうやな」


 今日は、あの大型魔物をどうにかする


 逃がすか、倒すか


 そこまではまだ決まっていない


 でも村へ行かせない


 それだけは決まっている


 俺は外へ出て《魔力感知》を広げる


 いる


 昨日より少し位置が変わっているけど、まだ浅い森の中


 村へ一直線に向かっているわけでもない


「おるな」


「いる?」


「いる」


 方向を指すと、ルッカもそっちを見る


 当然、ここから見えるわけではない


 朝飯は今日は軽くする


 肉、木の実、少しの塩


《水球》を使おうとして、止めた


 昨日言われたことを思い出す


 できるから使う、じゃない


 器には昨日の残り水がまだある


「これ飲む」


 ルッカが器を見る


「水」


「そう」


 魔力は残す


 食べ終わる頃、人の気配が四つ近づいてきた


「来た」


 ルッカも立つ


 森の間から最初にダリオ


 その後ろにローデン、エナ、ミラ


「おはよう」


 ミラ


「おはよう」


 俺


「オハヨウ」


 ルッカ


 ダリオはまず俺を見る


「寝たか」


「寝た」


「魔力」


「戻った」


 全部とは言わない


「大丈夫?」


 エナが聞く


「大丈夫」


 ダリオがこっちを見る前に、


「今日は言っていいやろ」


 俺から言う


 ダリオが少し笑った


「まあな」


 ローデンは家の横に残っている大きな跡を見る


「これか」


「そう」


 しゃがんで触る


「でかいな」


「でかい」


 ミラも近づきすぎずに見る


 エナは血が少し残っている場所へ目を向けた


「怪我」


「大きい」


 昨日見た大型魔物について、腹の傷、折れた片方の角、引きずる脚を説明する


 言葉が足りないので地面へ絵も描く


 大きい身体、角、腹の傷、脚


 足りないところはダリオが補った


「かなり傷ついてる」


 エナの顔が曇る


「治せる?」


 自分を指す


「《治癒》?」


 エナは少し考えた


「近づければ」


 近づければ


 それが一番難しい


 ダリオが首を振る


「最初からそれは考えるな」


「うん」


 治療するために命をかけて近づくのは違う


 まず人と村の安全


 次に魔物を逃がせるか


 その後、余裕があれば


「今日」


 ダリオが地面へ枝で図を描く


 村、家、第二水場、大型魔物、森の奥、俺たち


「まず位置を見る」


「うん」


「次」


 ルッカを指す


「道」


「うん」


「逃げ道を二つ作る」


「二つ?」


 一本だけではない


「なんで?」


 ダリオは大型魔物の傷と森の奥を示す


「昨日みたいに、奥を嫌がるかもしれない」


「ああ」


 俺たちが一つだけ「こっちへ行け」と決めても、あの低い音が聞こえればまた逆へ走るかもしれない


 だから村から離れる方向を二つ用意する


「こっち」


 ルッカが地面へ線を引く


 一つ目は森の奥ではなく横方向


 第二水場とも違い、人間がほとんど使わない場所


 もう一つは、そこからさらに斜め


「どっちも村から離れる?」


「そう」


「家?」


「離れる」


「休憩所?」


「離れる」


 いい


 俺たちの生活圏から外へ出す


 必ず森の奥へ戻すことにはこだわらない


「奥、怖い」


 俺が言う


「たぶん」


 ダリオも同じ考えらしい


「だから今日は奥へ戻すことにこだわらない」


 目的を変える


 村から離す


 家から離す


 人が使う道から離す


 それで十分


「倒す?」


 ルッカが聞く


 ダリオは少し黙った


「無理なら」


 ルッカも俺も頷く


「分かった」


 ローデンが聞く


「俺は何する」


 ダリオは待ってましたみたいに木と枝と道を指す


「塞ぐ」


「壁?」


「壁までは作れん」


 ローデン


「通ってほしくない方へ障害物を置く」


 倒木、枝、縄


 完全に止めるわけではない


 大型魔物が通りにくい、嫌がる程度


「家作りと逆やな」


「何が」


「家、入れる」


 入口を示す


「今日は、入れない」


「まあな」


 ルッカが、


「ローデン、家」


「今日は違う」


「ローデン、壁」


「それも違う」


 でも近い


 エナが自分を指す


「私は?」


「後ろ」


 治療担当


 人が怪我をしたら頼む


「分かった」


 ミラも聞く


「私は?」


 ダリオは少し考え、


「エナと一緒に後ろ」


 次に俺、ルッカ、ローデン、ダリオを順番に指す


「伝える」


「伝える?」


「見えない位置になる」


「ああ」


 全員が一か所に固まらない


 大型魔物、逃げ道、障害物、俺の風、ダリオの判断


 離れた位置同士へミラが声を伝える


「ミラ、話す」


 俺が言う


「そう」


 ちゃんと役割がある


 最後に俺


「魔法」


「必要なものだけ」


「分かってる」


「昨日も聞いた」


「今日はほんま」


 信用が低い


「じゃあ行く」


 六人で家から出る


 ルッカが先頭


 俺、ダリオ、ローデン


 少し後ろにエナとミラ


 大型魔物の位置を《魔力感知》で探す


「まだいる」


 ゆっくり動いている


 昨日より反応が弱い気もする


 でも《魔力感知》で体調まで分かるわけじゃない


 分かるのは位置や大きさ、そのくらい


「近づく」


 ルッカは痕跡を追う


 新しい血がある


 昨日より少ない?


「止まってた」


 ルッカが一か所を示す


 地面がかなり荒れ、草が広く潰れ、血も残っている


「休んだ?」


 エナが見る


「たぶん」


「弱ってる?」


「だからって近づくな」


 ダリオに先に言われた


「分かってる」


 痕跡の先に大型魔物はいる


 でもまず直接接触しない


 ルッカが逃げ道を確認する


 左は少し開けた森


 右には岩と木


 その先に人間の道と村


「左、いい」


 次にもう一つ、斜め奥


「こっちも」


「二つ残す」


 ダリオ


 ローデンは通してほしくない村方向へ障害物を作る


 近くの倒木を動かす


 俺も手伝う


「《土成形》使う?」


 自分で聞く


「必要か?」


 ダリオ


「……今は、いらん」


 四人いれば倒木は動く


 魔法はいらない


「成長したな」


 ローデン


「何が?」


「何でもない」


 またそれ


 倒木を一本、道の真ん中へ置く


 完全には塞がない


 大型魔物なら越えられる


 でも傷ついた脚なら嫌がるかもしれない


 次は枝を絡める


 縄を木と木の間へ張るが、低すぎないようにする


「罠?」


「罠にするな」


 ダリオ


「転ばせたら危ない」


「じゃあ?」


「見て嫌がる程度」


 縄を高めにし、枝と葉を絡ませて目立つ壁のようにする


「なるほど」


 無理やり止めない


 選ばせる


 通りやすい道を二つ


 通りにくい村側


「誘導」


「そう」


 昨日は魔法で直接押そうとした


 今日は先に環境を作る


「魔法なくても誘導できる」


 また家と同じだ


 魔法は補助


 全部じゃない


「ここ」


 ローデンが柱代わりの枝を固定する


 地面が柔らかい


「セイジ」


「はい」


 これは必要


 柱の根元へ、


「《土締め》」


 ぎゅ


 一回


「終わり」


 ダリオが俺を見る


「終わり」


「よし」


 一回でちゃんとやめる


 反対側の倒木は人力


 俺は魔法を使わない


 準備ができる


「大型、どこ?」


《魔力感知》


「近い」


 さっきより少し近い


「動いてる」


 ルッカ


「来る」


 痕跡の方向から、こっちへ近づいてくる


「みんな位置」


 ダリオが指示する


 ミラとエナは後ろ


 ローデンは村側の障害物から少し後ろ


 ルッカは左の逃げ道


 俺とダリオは中央


「セイジ」


「うん」


「最初は何もしない」


「何もしない?」


「来る方向を見る」


「分かった」


 何もしない


 これが難しい


 できる魔法は六個ある


 でも待つ


 茂みの向こうで枝が、ばき、と鳴る


 大型魔物が出てきた


 昨日より遅い


 脚を引きずり、息も荒い


 傷からはまだ血


 でも生きている


 周りを探すように目を動かし、俺たちに気づいて止まる


 低い声


「来た」


 ルッカは槍をまだ構えない


 ダリオも剣を抜かない


 俺も手を下げたまま


 何もしない


 大型魔物が右を見る


 村方向


 そこには倒木、枝、縄の障害物


 止まる


 次に左を見る


 開いている


「いけ」


 心の中で言う


 大型魔物が一歩、左へ


「お」


 二歩


「そのまま」


 でも止まる


 鼻を鳴らし、俺たちを見る


「風?」


 小声で聞く


 ダリオは首を横へ振る


 まだ何もしない


 大型魔物は左へもう一歩


「いける?」


 その時、森の奥から低い音


 ぐ、ううう


 また来た


 大型魔物の全身が硬くなる


「来た!」


 頭を奥へ向け、次に村の障害物、左の逃げ道、俺たち


 迷っている


「ダリオ」


「待て」


 待つ


 大型魔物が村側へ一歩


 倒木の前で止まる


 傷ついた脚では越えにくい


「効いてる」


 ローデンが小声で言う


 次に左を見る


 開いている


「……」


 魔物が左へ動く


「いけ!」


 でも奥からもう一度、


 ぐうう


 大型魔物が急に走った


 左


 開けた道


「行った!」


 予定通り


 みんなの息が抜ける


「追う?」


「距離を取って確認」


 ルッカが先へ


 大型魔物は走る


 傷が深い


 途中に血


「速い?」


「昨日より遅い」


 ルッカ


 脚を引きずりながら、そのまま左の逃げ道を進む


 人間の道から離れる


 家から離れる


 村から離れる


「成功?」


「まだだ」


 ダリオ


 大型魔物は途中で止まる


 遠い


《魔力感知》で確認する


「止まった」


「どこ」


 ルッカが道の先を指す


 小さい谷


「谷?」


「水」


「水?」


 知らない場所


「ルッカ知ってる?」


「少し」


 距離を保ちながら追う


 大型魔物の反応は動かない


 近づくにつれて血が増えている


「まずい」


 エナが後ろから言う


「何?」


「血」


 大型魔物は逃げた


 でも傷が開いた


 このまま死ぬ?


「村には来ない」


 ダリオ


「でも」


 俺は言葉に詰まる


 目標は達成した


 村は安全


 家も安全


 休憩所も安全


 なら、ここで終わり?


 大型魔物は傷つき、何かから逃げ、昨日は俺たちにも追い込まれ、脚の傷も少し増えた


「死ぬ?」


 エナ


「分からない」


「治癒」


 俺


 ダリオはすぐ、


「近づけるのか」


「分からない」


 正直に答える


 大型魔物は俺たちを敵として覚えている


 近づけば、また戦う


「やめる?」


 エナが大型魔物の方向を見る


「出血だけでも止められたら」


 俺の《治癒》は人間にも使った


 自分にもエナにも


 でも大型魔物に効くかは分からない


「危険」


 ルッカが俺を見る


「うん」


「行かない?」


「……」


 迷う


 昨日言われた


 できること全部やるな


 今日の目的は村から離すこと


 それは達成した


 治療は必要?


 俺たちに?


 違う


 魔物に


「何したい」


 自分へ聞く


 助けたい?


 なぜ


 怖いから?


 可哀想だから?


 俺たちも傷つけたから?


 全部少し


 でも助けるために仲間を危険へ巻き込む


 それは違う


「俺一人なら?」


 口から出た瞬間、


「駄目だ」


 ダリオが即答した


「やっぱり」


 当然だ


 一人で近づくなんて最悪


「じゃあ、できる方法」


 考える


 今の《治癒》は触れる必要がある


 遠距離から治療することはできない


 なら、


「できない」


 認める


「治したいけど、できない」


 エナは少し悲しそうな顔をしたけど、頷いた


「無理しない」


「うん」


 できる魔法はある


 でも、できないこともある


 それを認める


 大型魔物の反応が少し動く


 谷の方向


「水」


 ルッカ


「水ある?」


「ある」


「飲める?」


「たぶん」


 また、たぶん


 でも生きるなら水は必要


 大型魔物はそっちへ自分から行っている


「追わない」


 ダリオ


「ここまで」


「うん」


 俺たちは止まる


 大型魔物の反応は少しずつ遠ざかり、谷の下で止まった


「行った」


 村とは反対


 生活圏の外


 少なくとも今は


「終わり?」


 ルッカ


 ダリオは長く大型魔物の方向を見る


「一旦な」


 一旦


「一旦」


 覚える


 完全解決ではない


 大型魔物は生きている


 森の奥の音もまだ分からない


 何から逃げていたのかも分からない


 でも今日の問題、村と家への危険は一旦終わった


「戻る」


     ◇


 帰りに、作った障害物をどうするか相談する


 大型魔物が戻ってくる可能性があるので、倒木や縄、枝の一部は残す


 ただ、人間の道を塞ぐ


「あとで外す」


 ローデン


「今日は残す」


 危険の目印も追加する


「地図」


「帰ったら書く」


 ミラ


「うん」


 第二水場の休憩所近くを通る


「休む?」


 エナ


「休憩」


 ルッカ


 全員賛成


 昨日作ったばかりの休憩所


 屋根、倒木の椅子、水


「昨日作って今日使うんや」


 ルッカはすぐ座る


「ルッカ、一番使ってるな」


 水場の自然の水を飲む


 今日は《水球》を使わない


 ある水を使う


 エナがみんなの状態を確認する


「怪我」


 まずルッカ


 枝に引っかけたらしい小さい擦り傷


 血はほとんどない


「大丈夫」


 次にダリオ


 目立った新しい傷はない


「大丈夫」


 ローデンは縄で擦った手が少し赤い


 エナが薬を塗る


「俺?」


 何もない


 昨日は転んだけど、今日は無傷


「大丈夫」


 ダリオが、


「その言葉便利だな」


「便利」


 ルッカ


 全員が笑い、緊張がやっと抜けた


 ミラが食べ物を出す


 硬いパン


 エナは木の実


 ローデンは干し肉


 俺も自分の肉


「みんな肉持ってんな」


 誰にも意味は分からない


 ルッカだけが、


「肉」


 と反応する


「お前に言うてない」


 六人で休憩所の屋根の下、倒木へ座って食べる


 昨日みんなで作った場所


 今日は危険から戻って、ここで飯を食べている


「なんか、ええな」


 ミラが聞く


「何?」


 俺は場所を指し、次にみんなを指す


「ここ、みんな」


「ここ、いい」


 言葉は足りない


 でもミラは少し分かったらしい


「みんなの場所?」


「……そう」


 みんなの場所


 俺とルッカの家とは違う


 でも俺もいていい


 人間もいる


 ルッカもいる


「みんなの場所」


 ルッカ


「肉の場所」


「違う」


 みんな笑う


 エナが、


「食べる場所でもある」


 と付け足す


 ルッカは満足した


     ◇


 食事が終わると、ダリオが地面へ今日の経路を描く


 大型魔物


 家の近く


 村側の障害物


 逃げ道


 谷


「ここ」


 ルッカが谷を指す


「水」


「名前?」


 ルッカは首を振る


「知らない」


「地図に書く?」


 ミラ


 俺は少し考える


 紙の地図へ書けるのは、実際に確認した場所


 俺たちは谷そのものへは入っていない


 大型魔物もいる


「まだ」


「危険」


 ×印だけ


 ミラが頷く


「確認してから」


「そう」


 行っていない場所、安全か分からない場所を勝手に決めて書かない


 危険だけ記録する


「地図、大事やな」


 今回、位置や道を考える時にかなり使えた


 家、村、水場、大型魔物がどこにいるか


 言葉が少なくても図なら伝わる


「ミラ、紙ありがとう」


「役に立った?」


「すごい」


 ミラが笑う


「よかった」


     ◇


 少し休んで家へ戻る


 人間四人も一緒


 家でもう一度情報を整理する


 障害物はあとでダリオとローデン、村人何人かで外す


 大型魔物が戻った場合はどうするか


 森の入口では注意する


 人間一人で奥へは行かない


 第二水場の利用は、


「休憩所?」


「使う」


 ダリオ


 大型魔物は今、別方向にいる


「でも一人は駄目」


「決まり」


 ミラ


「そう」


 そこは変わらない


 大型魔物がいなくなったから安全、ではない


 森にはもともと危険がある


 家が見える


「ただいま」


 俺


「タダイマ」


 ルッカ


 後ろからエナが、


「おかえり」


 ミラも、


「おかえり」


 ローデンも少し遅れて、


「おかえり」


 ダリオまで、


「おかえり」


「……」


 昨日と違う


 今日はちゃんと家へ帰ってきた感じが強い


「ただいま」


 もう一回


「タダイマ」


 ルッカも返す


 家は昨日のまま


 棚、紙、塩、薬草、屋根、壁


 何も壊れていない


「守れたな」


 誰にも聞こえないくらい小さく言う


 大型魔物は倒していない


 戦利品もない


 今日、誰も殺していない


 でも家、村、休憩所


 全部無事


「これでええ」


     ◇


 昼過ぎ、棚から地図を出す


 六人で囲む


 新しい痕跡


 家の近く


 追跡経路


 障害物


 大型魔物


 谷方向


「危険」


 森の奥には前からある大きな×印


 今日、大型魔物が向かった先にはもう一つ印が必要だ


 ×ではなく三角?


「これ何?」


 ミラ


「分からない」


 未確認


 俺は紙へ小さく、


「?」


 と書く


「それいい」


 ミラ


 知らない場所で、危険かどうかもまだ分からない


 なら「?」


 ただ、大型魔物が今いる可能性があるから、それだけでは足りない


「危険?」


 ルッカ


「今は危険」


 なら×と?を両方


「分かりやすいな」


 地図へ少しずつ記号が増える


「文字読めんでも使える」


 俺は文字がまだほとんど読めない


 でも絵、印、数字なら使える


「言葉も地図も、全部一気に覚えんでええな」


 少しずつ


 それで世界が広がる


 情報を整理しながら大型魔物について聞く


「名前?」


「ある」


 ダリオが種名を言う


 長い


 無理


「もう一回」


 無理


 ルッカが、


「大きい」


「それでええか」


 ミラが笑う


「ちゃんと名前あるよ」


「難しい」


 種名を覚えられない


「いつか」


 エナ


「薬草もね」


「それは別」


「同じ」


 困る


 でもダリオの説明で一つ分かった


 あの大型魔物の種類そのものが特別に異常なのではない


 普段はもっと森の奥にいて、単独で行動し、人間が遠くから見ることはある


 積極的に人間を狙う魔物でもない


 ただ大きく、力が強い


 刺激すれば危険


「昨日の俺、刺激しまくったな」


「そうだな」


 ダリオ即答


「もうちょい否定して」


 通じない


 ローデンが笑う


「今日は上手くいっただろ」


「今日は」


 障害物


 逃げ道


 待つ


 必要な魔法は《土締め》一回


 途中で戦闘もなかった


「俺、今日ほとんど魔法使ってない」


 ルッカ、


「土」


「一回」


「水?」


「使ってない」


「風?」


「使ってない」


「火?」


「使ってない」


 ルッカが俺を見る


「魔法使い?」


「魔法使いや」


 全員が笑う


 でも面白い


 昨日は魔法を使いすぎて失敗した


 今日はほとんど使わず成功した


「これやな」


 強い魔法でも、たくさんの魔法でもない


 必要なものを選ぶ


 仲間を頼る


 環境を使う


 待つ


「ダリオ」


 俺は頭を指す


「考える」


「またそれか」


「今日、考える、すごい」


 ダリオが少し照れたように見える


「お前も少しは考えろ」


「考えた」


「昨日よりはな」


 褒められた


 たぶん


     ◇


 午後、エナは大型魔物の血を気にしている


「傷」


「何?」


 大型魔物


 治療


「無理だった」


「うん」


「死ぬ?」


「分からない」


 少し胸が重い


 でもエナは言う


「自分で歩いた」


「うん」


「水ある」


 谷


「うん」


「まだ生きられる」


 生きられる可能性はある


「治せなかった」


 俺が言うと、エナがこっちを見る


「全部、治せない」


 短い


 分かる


《治癒》を覚えた時、何でも治せる魔法ではなかった


 傷を少し助ける


 身体が治るのを手伝う


 それだけ


 俺自身にも治せないものはある


 近づけない相手には《治癒》も使えない


「できないことあるな」


 ルッカが、


「ある」


「ルッカ?」


「薬、知らない」


「俺も知らん」


 エナ、


「二人とも覚えて」


「まだ」


 ルッカ


「まだ」


 また笑いが起き、少し空気が軽くなる


     ◇


 森の奥から聞こえた低い音については、ダリオもローデンも知らなかった


 大型魔物が何かを恐れている


 村側には情報がない


「調べる?」


 俺が聞く


「今すぐはやらない」


「うん」


 今回一番大事なことかもしれない


 分からないからすぐ行く、はしない


「森の奥は危険だ」


 分かる


「ルッカも」


 ダリオ


「行かない」


「一人で?」


「行かない」


「二人で?」


 ルッカが俺を見る


「……」


「行かんから」


「行かない」


 ルッカは少し残念そうだ


「案内人でも?」


「案内人でも」


「まだ」


「そう、まだ」


 今後、準備が必要


 もっと森を知る


 人、装備、情報


 それから、いつか


「いつか」


 ルッカ


「いつか」


 新しい言葉


 いつ覚えたのか分からない


     ◇


 夕方、人間四人が帰る前にローデンが屋根を見る


「次の雨はまだか」


「俺も待ってる」


「雨待つやつ初めて見た」


 意味は半分しか分からない


 でもたぶん笑われた


 ミラ、


「地図、大事にね」


「大事」


 エナ、


「薬四」


 正式名をまた言う


「薬四」


「覚えて」


「いつか」


 エナがため息


 最後にダリオが俺を見る


「次に危ないことがあったら」


「うん」


「一人で全部やるな」


「うん」


「魔法も全部使うな」


「うん」


「まず考えろ」


 俺は考える仕草をして、


「ダリオ」


「俺に全部任せるな」


「違う?」


 ルッカが、


「ダリオ、考える」


 ダリオが頭を抱える


 みんな笑う


「また」


「また」


 四人が森へ帰っていく


 もう「来る」「帰る」「また」が自然になった


 最初は人間を見ただけで逃げていた


 今は家で六人、地図を囲んで魔物をどうするか話して笑っている


「変わったな」


 あの頃は傷が痛くて、岩陰の家には俺とルッカの二人だけだった


 そこからエナ、《治癒》、言葉、薬草


 ローデン、家


 水、風、土


 ヤギ、村人、交換、地図、休憩所


「いっぱい増えた」


 ルッカが聞く


「何?」


「色々」


 伝わらない


 でもいい


     ◇


 夕方、棚の二段目を作ろうか少し考える


「今日は休む」


 自分から言う


 ルッカが、


「すごい」


「それまだ褒める?」


「すごい」


「はいはい」


 座って地図を見る


 紙一枚


 最初より線が増えた


 家


 第一水場


 第二水場


 休憩所


 危険


 今日の経路


 大型魔物が向かった先


 余白はまだいっぱいある


「森って広いな」


「森」


「お前の答え全部それやな」


 でも間違っていない


 今知っている場所は森のほんの一部


 この先にはもっとある


 危険


 食べ物


 人


 魔物


 知らないもの


 この先にもまだいくらでもある


 でも、もしここまでの暮らしに名前をつけるなら、家の中だけだった世界が家の外へ広がった


 そんな感じだ


 前の俺にとって居場所は、この岩陰だけだった


 今は第二水場、休憩所、森の道、人間と話す場所、村の入口近く


 少しずつ、


「俺がおってええ場所」


 が増えた


 人間の村そのものへはまだ入らない


 怖がる人も、嫌う人もいる


 それでいい


 全部一気にじゃない


 休憩所みたいな真ん中の場所もある


「家の外にもあるんやな」


 居場所


 ルッカは隣で木の実を食べている


「ここ、家」


「そう」


「水、休憩」


「そう」


「人間」


「そう」


 言いたいことは似てる?


「ルッカも分かってる?」


「肉」


「絶対分かってない」


 笑う


     ◇


 夜の夕食は肉、塩、汁


 今日は魔力に余裕がある


 でも《水球》は汁用に一回だけ


 煙を外へ送る《風圧》も一回


 それくらい


「必要な分」


 自分で確認する


《土締め》は今日一回


《土成形》なし


《火弾》なし


《治癒》なし


 戦闘もなし


 それで問題は解決した


「LEVELも上がってへんやろな」


 誰も殺していない


 大型魔物も生きている


 昨日も倒したわけではない


 前に戦った小型獣も、俺が殺したのかは分からない


 最後はダリオかルッカだった


 たぶんLEVELは変わっていない


 でもSTATUSは開かない


 今日は別に見たくならなかった


 数字が変わっていなくても、俺が変わったことは分かる


 少し前までは《治癒》も使えず、人間語も少なく、家も狭かった


 水は汲むだけ


 風はただ吹くだけ


 土はただ踏むだけ


 今は《治癒》《水球》《風圧》《土締め》《土成形》


《火弾》と合わせて六つ


 でも今日、一番役立ったのは《土締め》一回だけ


「数ちゃうな」


 使い方


 人


 判断


 目的


 そっちのほうが大事


     ◇


 寝る前、外へ出て森を見る


《魔力感知》


 大型魔物の反応は遠く、谷の方向


「……いる」


 まだ反応がある


 少し前より遠い気もする


 移動している


「生きてる」


 小さく言う


 ルッカが横へ来る


「大きい?」


「いる」


「来る?」


「今は来てない」


「倒す?」


「今は倒さない」


「肉?」


「まだそれ言う?」


 ルッカが笑う


 大型魔物は生きている


 村は無事


 家も無事


 人間も無事


 俺たちも無事


 それでいい


 森の奥から聞こえた低い音の原因は残っている


 前に大量に来た狼たちの理由も残っている


 分からないものはいっぱいある


「次の問題やな」


 でも今日じゃない


 今日は休む


 家へ戻る


 寝床


 壁が風を止める


 屋根の雨漏り修理はまだ結果未確認


 棚は一段


 地図


 塩


 薬


 まだ風呂はない


 畑もない


 収納も足りない


 家は未完成


 それでも最初よりずっと家だ


「完成してないくらいがええんかな」


 完成したらやることがなくなる


 そんなことないか


 絶対次が出る


「セイジ」


「何?」


「タダイマ」


 もう帰ってからかなり時間が経っている


「今?」


「タダイマ」


「……おかえり」


 ルッカが少し笑う


「オカエリ」


「俺にも?」


「オカエリ」


 俺は少し黙る


「ただいま」


 誰かに言われる「おかえり」


 自分も返す


 人間とも休憩所で一緒に飯を食べる


 危険なら一緒に考える


 俺


 ゴブリン


 人間


 仲間


 家


 森


 最初は全部別々だった


 今は少しずつ繋がっている


「居場所って、家だけちゃうんやな」


 ルッカには分からない


 でも、


「家」


 と答える


「そうやな」


 まずここ


 俺とルッカの家


 そこから外へ道が伸びた


 水場


 休憩所


 人


 森


 少しずつ俺の世界が広がる


 明日は何をする


 棚


 屋根


 薬草


 地図


 風呂


 甘いものの交換


 やることはいっぱい


「普通の暮らし戻るな」


 大型魔物がまた来るかもしれない


 森の奥で何かが起きているかもしれない


 でも危険があるから、ずっと身構えて暮らす


 それも違う


 危険が来たら、みんなで考える


 今日は寝る


「おやすみ」


「オヤスミ」


 目を閉じる


 森の家は最初、俺が隠れるためだけの場所だった


 次にルッカと暮らす場所になった


 人間が来るようになった


 助けたり、助けられたり


 物が増えて


 言葉が増えて


 道が増えて


 その先に、みんなで使う場所までできた


 家から外へ、俺がいていい場所が少しずつ広がっている


 まだ人間の村へは入れない


 森の奥も知らない


 闇魔法も使えない


 風呂もない


 畑もない


 分からないこと、できないことは山ほどある


 だからたぶん、まだ続けられる


 暮らしも


 魔法も


 人との関係も


 一つずつ増やせばいい


 昨日より少しだけ今日


 今日より少しだけ明日


 それで十分


 眠る直前、遠く森の奥で低い音が聞こえた気がした


 でも今夜は追わない


 俺は自分の家で、ルッカの隣で目を閉じた

第二部 完

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