土は地味やけど便利
第22回 土は地味やけど便利
朝、目を覚まして最初に屋根を見た
昨日直した二か所、雨漏りしていた場所だ
「……晴れか」
今日は雨が降っていない
修理が成功したのか、まだ分からない
「次の雨待ちやな」
雨なんて来てほしくないのに、家を作り始めてから少しだけ待ち遠しい
変な話だ
横ではルッカが寝ている
「朝やぞ」
反応なし
「甘い」
「甘い?」
肉より早かった
「もうないけどな」
ルッカが起きて俺を見る
「甘い」
「ない」
昨日も言った
干し果実はとっくに食べ終わっている
「交換」
「次、人間来たら聞こうな」
「交換」
「はいはい」
朝飯は肉、少しの塩、木の実、《水球》
いつもの形になってきた
魔法で水を出すことにも、もうほとんど特別感がない
右手を出す
「《水球》」
ぽん、と器へ落とす
ルッカが飲む
「水」
「今日も水や」
毎朝同じ確認だ
食後、焚き火の煙が少し中へ残る
「《風圧》」
弱く外へ
ふわ、と煙が流れていく
これもいつもの動き
「便利」
ルッカ
「便利」
俺
魔法を使っているというより、道具を使っている感じに近い
火を起こす、水を汲む、風を送る、地面を固める
そういう生活の中へ魔法が入り込んでいる
「今日は何するかな」
収納、棚、薬草、屋根の補強
やることはいくらでもある
でも昨日、森の奥で見つけた大きな痕跡も気になる
「……追わんけどな」
それは決めた
知らないもの
危険
今は追わない
村側でも何か知らないか、ダリオたちが確認してくれる
俺たちは俺たちにできることをする
「まず家やな」
ルッカが、
「家」
と返す
外へ出る
昨日の雨で家の周りの地面はまだ少し柔らかい
入口前、《土締め》した場所を踏む
「お」
沈まない
その横、何もしていない場所
ぐに、と少し沈む
「違うな」
効果ははっきりしている
《土締め》
派手ではない
でも雨の日にはかなり便利だ
「土魔法地味やけど強いな」
強いという言葉が正しいかは分からない
敵を吹き飛ばせるわけではない
でも生活では確実に役立つ
俺が地面を踏み比べていると、ルッカも真似する
固めた場所
とん
柔らかい場所
ぐに
「土」
「そう」
「固い」
「そうそう」
「便利」
「せやろ」
ルッカが少し考えて、
「地味」
「どこで覚えたんそれ」
たぶん俺だ
「地味、便利」
「めっちゃ正しい」
しばらく家の周りを見て回る
昨日の雨のおかげで、水が溜まりやすい場所もよく分かる
低いところには小さな水たまりができ、土が泥になっている
「ここも直したいな」
でも全部《土締め》で固めるのは違う気がする
水が流れる場所を作る
溝
前世なら排水という言葉になる
家から外へ水を逃がす
「掘るか」
枝、石、手を使って、家の横から少し低い方向へ小さい溝を掘る
ざく、ざくと土を掘り、ルッカも手伝う
掘った土は横へ盛る
「これ固めたらええか」
「《土締め》」
ぎゅ
溝の横が崩れにくくなる
「使えるな」
魔法だけなら溝は作れない
少なくとも今の《土締め》では無理だ
でも手で掘って、魔法で補強する
それならできる
「手と魔法」
ルッカが、
「手、魔法」
「両方」
「両方」
これも覚えた
俺は少し嬉しくなる
何でも魔法で一瞬じゃなくていい
手を使って、知識を使って、足りないところを魔法で補う
そのほうが生活している感じがする
◇
しばらく作業していると、森の向こうに人の気配
「来た」
ルッカも、
「人間」
俺は《魔力感知》を広げる
一、二、三、四
知っている
ローデン、エナ、ミラ、あとダリオ
「全員やん」
四人
しばらくして木々の間から現れる
ローデンは何か長い板みたいなもの
ミラは小さな包み
エナは袋
ダリオはいつもの剣
「おはよう」
俺
「おはよう」
みんな返す
ルッカも、
「オハヨウ」
もう挨拶は普通だ
ミラが持っていた包みを上げる
「約束」
「何?」
中には薄いもの
「紙!」
昨日欲しいと言った、地図用の紙
「紙?」
「そう」
何枚もない
一枚、いや二枚
少し厚い
前世の紙とは違って、ざらざらして少し黄ばんでいる
でもちゃんと紙だ
「おお……」
めちゃくちゃ嬉しい
塩をもらった時とは違う嬉しさ
「書く?」
ミラが小さな黒い棒みたいなものを出す
炭?
細く削ってある
「これ」
「書く?」
「うん」
紙と書く道具、両方
「ありがとう」
「どういたしまして」
ルッカが覗く
「食べる?」
「紙は食うな」
ミラが笑う
「ルッカなら言うと思った」
言葉は分からないけど、俺も同意だ
ローデンが持っている長い板を見る
板というより、細く割った木材
「それ何?」
「棚」
「棚!」
前から欲しいと思っていた
「教える」
ローデンが言う
「作る?」
「そう」
なんで欲しいものが次々来るんだと思ったけど、俺がずっと「あれ欲しい」「これ欲しい」と言っているからか
「交換?」
俺が聞く
ローデンは首を振る
「今日は違う」
エナが森の奥、昨日の方向を指し、次に水と休憩の身振りをする
「ああ」
昨日見つけた二つ目の水場
「そこ?」
「そう」
今日はあそこを少し整える?
ダリオが説明する
長い
ミラが短くする
「休める場所」
「作る?」
「そう」
なるほど
昨日、第二水場が補給と休憩、安全経路の途中として使えると分かった
でも今はただ岩と木があるだけ
人間側も使う
俺たちも使う
なら簡単に休める場所を作る
「共同?」
言葉が分からない
ミラがみんなへ手を広げる
「みんな、使う」
「みんな?」
「村の人も」
次に俺とルッカ
「セイジ、ルッカも」
「ああ」
みんなが使う場所
「いい」
俺はすぐ頷く
家とは違う
家は俺とルッカの場所
誰でも来ていい場所ではない
でも第二水場なら、人間側と俺たちが一緒に使える場所にできる
「家じゃない」
俺は自分たちの岩陰を指す
「ここ、家」
次に森の奥
「水、休憩」
ミラが、
「そう」
と頷く
境界はちゃんと分ける
家と共有する場所
その違いは大事だ
「行く?」
ダリオが、
「まず話がある」
と言う
話
俺は止まる
「大きい?」
昨日の痕跡
ダリオが頷く
全員少し真面目な顔になる
家の前に座る
ダリオが説明する
やっぱり長い
ミラが短くする
「村、知らない」
「誰も?」
「何人か聞いた」
「知らない?」
「そう」
ローデンも、
「俺も知らない」
エナも首を振る
つまり昨日見つけた大きな痕跡は、村側でも正体不明
「危険?」
ダリオ、
「分からない」
「追う?」
「追わない」
即答
そこは昨日と同じ
「分かった」
俺もそれでいい
「狼?」
聞く
ダリオ、
「関係、分からない」
「分からない」
確定しない
これも同じだ
俺は少し安心する
誰かが「あれはこれだ」と適当に決めなかったことに
分からないものは分からない
「危険場所」
昨日の地面地図と木の印を思い出す
「行かない」
ルッカも、
「行かない」
ローデンがルッカを見る
「一人でも?」
ルッカは少し黙る
「行かない」
よし
その確認は大事だ
「じゃあ水場」
空気を変える
紙、木材、縄、少しの食べ物
必要な道具を持つ
俺たちは六人
セイジ、ルッカ、ローデン、エナ、ダリオ、ミラ
第二水場へ向かう
◇
昨日と同じ雨上がり用の道
ルッカが先頭
「案内人」
ミラが言う
ルッカ、
「案内人」
嬉しそう
今日はローデンもいる
昨日は来ていない
だから途中、ルッカが滑りやすい場所を避けた理由や、水場までの分岐を少しずつ教える
言葉は短い
「こっち」
「滑る」
「危険」
「水」
それだけ
でも十分伝わる
ローデンが、
「頼りになるな」
と言う
頼り
分からない
エナが、
「すごい」
と言い直す
「ルッカ、すごい」
ルッカ、
「すごい」
自分で返す
「そこは謙遜せえよ」
森を進む
昨日、小型獣二体を避けた場所には今日は気配がない
《魔力感知》を前、右、左へ広げる
小さい反応は遠い
「大丈夫」
ダリオへ言う
「今、近く、危険ない」
言葉は少し変でも伝わる
「分かった」
昨日戦闘した場所には死体がまだ残っている
でも一部がなくなっている
「食べられた?」
ルッカが跡と匂いを見る
「獣」
「何?」
「知らない」
でも引きずられた跡と小さい足跡
昨日の大きな痕跡とは全然違う
「これは普通?」
「普通」
ならいい
森で死んだものを別の生き物が食べる
当然だ
持ち帰らなかったものが森へ戻っていく
少し進むと第二水場
岩の間から、昨日と同じ透明な水が流れている
「ここ」
ローデンが周囲を見る
平らな岩、木、地面
「悪くない」
悪くない
分かる
「休憩」
俺
「休憩」
ルッカ
ダリオが昨日付けた道の印を確認する
「ここまでなら」
また長い
ミラが、
「来やすい」
「人間?」
「そう」
村からここへ直接ではなく、森の入口からこの経路を使う
森に慣れた人間が、一人ではなく複数
そういう条件
完全な安全ではない
昨日は戦闘もした
だから休憩所を作ったから誰でも来ていい、ではない
「危険はある」
俺が言う
ダリオ、
「ああ」
「一人、だめ」
「そう」
大事だ
ローデンが作る場所を決める
水に近すぎない
増水、ぬかるみ、その危険を避ける
少し高くて平ら
大きな木の近く
「ここ」
ルッカも地面を見る
「ここ、いい」
二人が一致した
森ならルッカ
建築ならローデン
両方がいいなら、俺も賛成
「作る」
最初に地面の石、枝、落ち葉を片づける
大きくはない
六人が座れるくらい
屋根も完全な家ほどではない
雨を少し避けて、座って、水を飲む
その程度
「家より簡単やな」
ローデン、
「家にするな」
「休憩」
「そう」
まず地面を平らにしたい
石や根を避け、枝をどける
少し高低差がある
「ここ」
ローデンが少し低い場所を示す
「土」
俺
「使う?」
ローデンが頷く
「やってみろ」
《土締め》
でも《土締め》は平らにする魔法ではない
固めるだけ
低い場所に土を持ってきて手で盛るなら、これまでと同じだ
「もっと楽にできんかな」
土を見る
今の俺は土を自由に動かせない
でも《土締め》を覚える時、土そのものへ魔力を触れさせる感覚は分かった
締める
その次
形
「前にやったな」
土魔法を試した時、土の形を変えようとして、寄せる、押すと何度も失敗した
あの時は、土と繋がる感覚がなかった
今は少し違う
「試していい?」
ローデン、
「無理するなよ」
「少し」
ダリオ、
「その少しが信用ならん」
意味は全部分からない
でもまた疑われている
「少し」
本当に少し
地面の低い場所
その横の少し高い土
右手
土へ魔力を流す
《土締め》ではない
締めない
土を持ち上げるのではなく、形をゆっくり変える
高いところから低いところへ
「……」
何も起きない
「まだ」
ルッカ
「早い」
もう一回
土を作る必要はない
そこにある
《風圧》で空気へ触れた時は、流す方向を決めた
土は風より重く、動きにくい
だから一気に動かさない
押すのではなく、少しずつ形を変える
「ここから」
高い土
「ここ」
低い場所
魔力を面で広く、ゆっくり
「……」
表面が、ざら、と少し崩れる
「お」
自然に崩れた?
もう一度同じ方向へ
「……」
ざ
今度は明らかに動いた
ほんの少し
数センチ
「土」
ルッカ
「動いた」
でもこれだけでは魔法として安定していない
もう一度
「無理に飛ばさない」
土をそのまま、形だけ変える
盛り上がったところと低いところを繋ぐ
魔力
「……」
ず、と土の表面がゆっくり滑る
低い場所へ
「来た」
ローデンがしゃがんで見る
「もう少し」
俺は魔力を流す
土
形
変える
頭の中で意味がまたはまる
《土成形》
分かった
《土成形》
周囲にある土へ魔力を作用させ、小規模に形を整える初歩の土魔法
「《土成形》」
発動
ずず、と高い部分の土がゆっくり低い場所へ寄る
穴が浅くなる
「おお……」
止める
一回
小さい範囲
でもできた
「土、二?」
ルッカ
「そう」
《土締め》
《土成形》
同じ土でも役割が違う
「成形」
聞き慣れない言葉
でも意味は分かる
形を整える
「便利すぎん?」
ローデンが土を触る
「柔らかいままだな」
「そう」
動かしただけ
固まっていない
「じゃあ」
「《土締め》」
ぎゅ
「おお」
形を整える
締める
二段階
「組み合わせや」
これ、かなり使える
穴を埋める
地面を平らにする
少し盛る
排水
壁の補修
でも、
「魔力重いな」
《土成形》一回
《土締め》一回
二つ続けると、頭が少し重い
範囲を広くすると、もっと消費しそう
「広い場所は手でやったほうがええな」
ローデンが頷く
「全部やろうとするな」
「分かってる」
ダリオが疑う顔
「ほんまやって」
ルッカ、
「休む」
「はい」
座る
早い
でも今日は人数がいる
俺が全部やる必要はない
土作業もみんなでする
石をどける
土を運ぶ
木を拾う
必要な場所だけ俺が《土成形》を少し、《土締め》を少し
「これくらいがええな」
魔法を使えば全部一人でできる、ではない
六人の作業を少し楽にする
それがちょうどいい
◇
昼前には休憩所の地面がかなり平らになった
水が流れ込まないよう、片側を少し高く、反対を低くする
簡単な排水
「家でやったのと同じやな」
経験が使える
次は座る場所
倒木が一本
ローデンが見る
腐っていない
太い
短くできれば椅子にできる
でも切る道具が足りない
「そのまま使う」
少し重い
ダリオ、ローデン、俺の三人で動かす
ルッカが位置を指示
「ここ」
地面を《土成形》で少し窪ませる
倒木を、ころ、とはめる
「《土締め》」
周りを固める
「おお」
簡単な長椅子
「座る」
ルッカが座る
「いい?」
「いい」
五秒で占領
エナも隣
ミラも座る
「ちゃんと休憩所っぽい」
休憩所
新しい言葉
「休憩所」
「そう」
「ここ、休憩所」
みんなが使う
水
座る場所
次は簡単な屋根
柱二本――いや、四本
家ほど強くはしない
既存の木二本を利用し、追加の柱二本
ローデンが設計する
枝、縄、蔓、葉、草
俺たちの家とほぼ同じ
ただし壁なし
風が通る
雨は上だけ防ぐ
「こっちのほうが簡単やな」
開放的
煙もない
食料保存もしない
寝ない
必要なものが少ない
「用途で家の形変わるんやな」
当たり前
でも実際に作るとよく分かる
◇
昼
まだ完成前だけど、一度休憩する
まさに休憩所
水場なので自然の水を飲む
《水球》は使わない
せっかく水がある
ルッカは肉
俺は塩
人間側も食事
エナが何か持ってきた
パンに近い
前にもらった硬い塩パンとは少し違う
小さくて茶色い
「交換?」
俺
「今日はみんなで」
「食べる?」
「そう」
分ける
ルッカが一口
「……」
顔が明るくなる
「甘い?」
「甘い」
また甘いのか
俺も一口
少し甘い
木の実か何か練り込んである
「うま」
ルッカ、
「交換」
「今食いながら商談すんな」
エナが笑う
ミラ、
「また持ってくる?」
ルッカ、
「交換!」
成立したらしい
◇
午後は屋根作り
ローデン中心
ルッカは枝集め
俺は結び
ダリオは重い枝
エナは葉
ミラは草
自然に役割が分かれる
誰も指示しなくても、前より動ける
「慣れてきたな」
家作りで一緒に作業するのも、もう初めてではない
途中、ミラが紙を出す
「地図」
「今?」
「ここ、書く」
なるほど
休憩所の位置
忘れないうちに
俺は《水球》で手を洗い、紙を濡らさないよう少し離れて座る
紙
黒い棒
「これで?」
線を引く
薄い
でも書ける
最初に四角
「家」
次は道
昨日と今日通った雨上がり用経路
途中の分岐
大きな木
岩
「ここ?」
ルッカに聞く
ルッカ、
「違う」
「え」
線は消せない
「最初から失敗した」
ミラが笑う
「小さく」
「先に教えて」
紙は貴重だ
適当に書いたら駄目
地図は難しい
「ルッカ」
俺は紙と地面を指す
「先、地面」
「地図」
「そう」
まず地面へ大きく、ルッカに描いてもらう
家
森
道
水場
ルッカの絵はものすごく雑
でも位置関係は俺より正確らしい
「これを紙」
ミラが頷く
俺は慎重に、家、線、目印、第二水場を書く
「休憩所」
丸を一つ
さらに昨日の危険地点
かなり奥
「危険」
大きく×印
「これは絶対分かる」
ダリオ、
「それでいい」
第一水場も別方向へ追加する
「水、一」
「水、二」
番号は便利
紙の隅に一、二
数字も少し覚えている
「地図できてきた」
まだ正確な縮尺なんてない
方向も距離も適当
でも役に立つ
道
水
危険
それだけでも十分
「これ家に置く」
「濡らすなよ」
ダリオ
紙、濡れる
「分かる」
屋根、収納
「紙、場所必要やな」
また収納の理由が増えた
◇
午後後半
休憩所の屋根は完成に近づく
ローデンが葉の重なりを確認する
「これでいい」
「雨?」
「少しくらいなら」
完全な家ほどではない
でも休憩中の雨ならしのげる
「壁なし」
俺
「壁はいらん」
ローデン
「風」
「通る」
「いい」
薬草乾燥にも少し使えるかもしれない
でもここに物を置きっぱなしにするのは危険だ
獣
人間
他の魔物
「置く?」
俺は食べ物を置く仕草をする
全員首を振る
「置かない」
「そう」
休む時だけ使う
物資保管なし
これも家との違い
「共有の場所でも、全部置くわけちゃう」
俺とルッカの家には、大事な物を置く
塩、布、紙、薬草
休憩所には水、屋根、座る場所
誰でもではないけど、人間側と一緒に使う
それでいい
完成というほど立派ではない
簡単な屋根
倒木の座る場所
平らな地面
水場
小さい排水
木にはダリオが目印をつける
「これ何?」
昨日とは違う印
危険の印じゃない
「休める」
「休憩所の印?」
「そう」
「人間、分かる?」
「村の連中には教える」
村の人間
でも昨日言われた通り、誰でも安全ではない
「一人?」
俺は首を横へ振る
「一人だめ」
ダリオが頷く
「そのまま伝える」
よし
場所を作るだけじゃない
使い方
ルールも必要
「ルール」
ミラ、
「約束?」
「約束?」
「決まり」
「決まり」
新しい言葉
「一人、来ない」
「奥、行かない」
「食べ物、置かない」
簡単な三つ
「休憩所の決まり」
俺
「いい」
ルッカ、
「肉、置かない?」
「置かない」
悲しそう
「持ってきて食べるのはええ」
「肉」
復活した
◇
夕方前
みんなで完成した場所を見る
小さい
すごく小さい
でも昨日まではただの水場だった
今は休める
屋根
座る場所
地図上の印
「みんなで作ったな」
誰にも通じない
でも、そうだ
俺の家は俺とルッカの場所
これはみんなで使う場所
なんか新しい
「居場所って一個だけちゃうんかな」
家
村
休憩所
人によって、場所によって意味が違う
俺には家が一番
でも人間と俺たちが同じ場所で休める
そういう場所が森にあるのも悪くない
「帰る」
ローデン
「家?」
ルッカ
「家」
◇
帰路は行きより荷物が少ない
紙の地図は大事に布で包み、俺が持つ
落とさない
濡らさない
途中、俺は《土成形》について考える
新しい魔法
《土締め》より自由度がある
でもまだ本当に小さい範囲だけ
土を少し寄せる
凹凸を整える
穴を浅くする
小さく盛る
その程度
「戦闘で?」
考える
敵の足元を少し凹ませる
盛る
でも発動は遅い
土が動く速度も遅い
戦闘中、相手が待ってくれるわけじゃない
「今は無理やな」
生活、建築
そっちで十分
《土締め》と組み合わせればかなり便利
ただ二つ連続だと魔力が重い
「使いすぎ注意」
自分で言う
ダリオ、
「珍しいな」
何言った
ミラ、
「自分で分かってる」
「ああ」
信用されていない
◇
家に戻る
「ただいま」
俺
「タダイマ」
ルッカ
人間四人は今回は「おかえり」とは言わない
一緒に帰ってきたから
それでいい
紙は家の一番奥、乾いているところへ布を敷いて置く
「ここ」
地図
上に物を置かない
水の近くは駄目
火からも離す
「棚」
ローデンが持ってきた木材はまだある
「今作る?」
ローデンが外と空を見る
「少しなら」
始まった
休憩所を作ったあと、また家作り
「先生、元気やな」
「先生言うな」
棚は簡単なもの
壁へ直接穴を開けるわけではない
二本の支えと横板
低い一段
まず地面
《土締め》で支えを固定――
でも今日は魔力を使っている
「手でやる」
俺は土と石で固定する
「魔法は?」
ルッカ
「今日は使いすぎた」
「休む」
「そう」
自分からちゃんとやめる
ローデンが少し感心した顔をする
「何?」
「何でもない」
絶対何かある
棚は小さい
一段
でも完成
紙、布、塩、薬草を分ける
塩は乾いた袋に入れ、さらに布
一番奥
紙はその隣
火から離す
薬草は種類別
俺の仮称
薬一
薬二
薬三
薬四
エナが嫌そうな顔
「名前」
「無理」
「覚えて」
「いつか」
ルッカ、
「まだ」
「そう、まだ」
エナまで笑った
収納ができた
たった一段
でも地面に全部置いていた時とは違う
「生活感すごいな」
家が本当に家になっていく
◇
人間四人は夕方に帰る
「また」
「また」
ミラ、
「地図、次、増やそう」
「増やす」
「紙、もう一枚ある」
「大事」
「大事」
ダリオ、
「危険な場所は勝手に増やすなよ」
危険、勝手
全部は分からない
でも危険場所へは行かない
「追わない」
俺
「そう」
ローデン、
「屋根も次の雨見ろ」
「見る」
エナ、
「薬四」
正式名をもう一度言う
「薬四」
エナがため息をつく
三人――いや、四人が帰っていった
静かになる
俺とルッカ
家
「今日は作ったな」
休憩所
地図
棚
土魔法
「土二」
ルッカ
「そう」
《土締め》
《土成形》
二つ
「地味やけど」
「地味」
「便利」
「便利」
完璧
◇
夕食は肉、塩、汁、水
「《水球》」
煙には《風圧》
今日は土魔法はもう使わない
「休む」
自分で言う
ルッカ、
「すごい」
「休むだけで褒められるようになったん俺?」
◇
夜
地図を棚から出す
焚き火から離れて見る
紙には家、第一水場、第二水場、休憩所、安全経路、危険の印
まだすかすかだ
森全体から見ればほんの少し
でも最初にこの森で目を覚ました頃の、何も知らなかった俺から見ればすごい
「ここが家」
指す
「水」
一つ目
「水」
二つ目
「休憩所」
丸
「危険」
×印
ルッカが地図を見る
次に、もっと先を示すように地面を指す
「ここ」
紙の端
「何?」
「森」
「全部森や」
ルッカは別の場所を示したいらしい
でも紙にはまだ書かない
知らない
確認していない
「行ってから」
俺
「地図」
ルッカは少し考える
「行く」
「安全ならな」
「まだ」
「そう」
行動範囲は少しずつ
昨日は新しい水場
今日は休憩所
次もまた少し
でも危険地点は越えない
あの大きな痕跡を思い出す
「何やろな」
ルッカも地図の×を見る
「知らない」
「うん」
知らない
まだそれでいい
人間側も知らなかった
だから急いで答えを出さない
「来たら?」
ルッカ
「何?」
大きい
手で足跡を示す
「大きい、来る?」
家に?
「……それは困るな」
近くにはいなかった
痕跡も家からかなり離れている
でも、もしこっちへ来たら、その時は考えないといけない
《火弾》
《風圧》
《土締め》
《土成形》
《治癒》
《水球》
魔法
仲間
人間側
逃げる
守る
選択肢はいろいろある
でも、
「今来てない」
俺
「今、考えすぎない」
ルッカ、
「考える?」
「ダリオの仕事」
「ダリオ、考える」
二人で笑う
本当に頼る気満々
でもそれでいい
一人で全部背負わない
◇
夜、棚を見る
塩、布、紙、薬草
床に散らばっていない
「棚一個でめっちゃ変わるな」
次はもう一段
肉、器、道具を分ける
収納をもっと増やせば、家はさらに良くなる
「風呂遠いなあ」
家作り
道
休憩所
地図
やることが増えすぎて、風呂が進まない
「風呂」
ルッカ
「覚えてる?」
「風呂」
「欲しいな」
「水」
「水は出る」
「土」
「土も使える」
「火」
「火もある」
「……あれ?」
必要なもの、かなり揃ってきてないか
水
温める火
穴
土
排水
「できる?」
考える
湯を大量に作る
そこが問題
《水球》の量はまだ少ない
何十回も使えば魔力がきつい
水場から運ぶにも器が少ない
浴槽もない
「まだやな」
「まだ」
でも最初よりかなり近い
「そのうちには……」
どれくらい先になるか分からないけど
「風呂、そのうち」
「そのうち?」
「まだ」
「まだ」
便利すぎる
◇
寝床へ入る
今日は、いろいろ作った
LEVELは確認していない
昨日の戦闘で上がったかもしれない
上がっていないかもしれない
でも今日もSTATUSは開かない
今気になるのは数字より、地図、棚、休憩所、土魔法
「LEVEL上がらんでも毎日できること増えるな」
これが俺には合っている
戦って、強くなって、また戦う
それだけじゃない
作る
知る
助ける
教わる
繋ぐ
それでも世界は広がる
今日は俺とルッカの家とは別に、人間と一緒に使う場所ができた
小さな屋根
倒木の椅子
水
ただそれだけ
でも村と俺たちの家の間に、もう一つ場所ができた
「中間やな」
森の入口
人間の村
俺たちの家
第二水場
休憩所
全部が点
地図へ書き、線で繋ぐ
関係も似ているかもしれない
最初、人間と俺は完全に離れていた
そこへエナ、ミラ、ダリオ、ローデン、ヤギ、交換、家作り、道
少しずつ点が増えて、線が繋がる
「地図みたいやな」
ルッカはもう寝ている
聞いていない
俺は棚の上の地図を見る
まだ小さい
でも確かに、俺の知っている世界がそこにある
家
水場
休憩所
危険な場所
そして、まだ何も書かれていない紙の余白
そこにこれから何が増えるのか
少し楽しみだった
「おやすみ」
ルッカが寝言みたいに、
「肉」
「夢でも食うんか」
返事なし
外では風
屋根の葉
壁
静かだ
地面
今日覚えた魔法
《土成形》
地味
遅い
範囲も小さい
派手さはない
でも穴を埋めた
地面を整えた
倒木を固定した
みんなが休める場所を作った
「土は地味やけど便利やな」
目を閉じる
今日作った休憩所も家も、どちらも土の上に立っている
派手じゃない
目立たない
でも下からちゃんと支えている
それくらいで、いいのかもしれない




