第39話 繋ぐ糸 ― 影の奥に眠る声
闇の中に、確かに揺らぎがあった。
影の修繕士の赤い瞳がわずかに震え、声が掠れる。
「……なぜ……胸が……痛む……?」
それはただの兵器の言葉ではなかった。
人としての、迷いの響きだった。
「あなたは……人だったんだね」
僕は一歩踏み出し、両手を差し伸べる。
「命を奪う修繕に縛られているけど、奥にある心は……まだ残っている」
「我は……兵器……命令に従うだけ……」
「違う!」
僕の声が森に響いた。
「修繕は命令じゃない。誰かを想う気持ちがあるからこそ、壊れたものを繋ぎたいって思えるんだ!」
光の糸が僕の手から伸び、影の修繕士の胸に触れた。
その瞬間、闇がざわめき、断片的な記憶が流れ込んでくる。
――泣きながら弟を抱きしめる青年の姿。
――病で倒れた家族の手を握り、何度も「助けたい」と願う声。
――だがその願いが叶わず、彼は禁忌の術に囚われた。
「これは……」
「やめろ……見るな……!」
影の修繕士が呻き、黒い鎖が暴れ出す。
「リオン!」
ルシアが叫び、駆け寄ろうとする。
しかし僕は首を振った。
「大丈夫……これは僕にしかできない!」
痛みと共に流れ込む記憶を必死に受け止めながら、僕は強く言葉を紡いだ。
「あなたは、ただ守りたかったんだよね……。大切な人を失いたくなくて……!」
影の修繕士の瞳が大きく揺れた。
「……なぜ……分かる……」
「僕も同じだから!」
僕は叫んだ。
「守りたい人がいるから、何度だって立ち上がれる! だから……一緒に繋ごう!」
光の糸がさらに強く輝き、闇を裂いていく。
影の修繕士の体を覆っていた黒い鎖が、一部ほどけて消えた。
その下から現れたのは――普通の青年の面影。
疲れ切った表情と、それでも消えない優しい瞳。
「……僕は……誰だった……?」
その声は、かすかに震えていた。
僕は糸を握り締め、真っ直ぐに応えた。
「あなたは人間だ。奪うための影なんかじゃない!」




