第18話 機神兵の主 ― 王国の切り札となるか
広間に跪いた巨人――古代機神兵。
その赤い双眸が僕を見つめ、「主」と呼んだ瞬間、空気が凍りついた。
「し、主……?」
「修繕士が、機神を従えた……!」
貴族たちがどよめき、騎士たちは畏怖と敬意を込めて頭を垂れる。
国王はしばらく黙したまま巨人を見上げ、やがて重々しく口を開いた。
「……これで決まったな。修繕士リオン。そなたは王国の切り札、我らの守護者である」
広間が一斉に拍手と歓声に包まれる。
けれどその熱気の中で、宰相ドレイクだけは冷ややかな瞳を僕に向けていた。
◇ ◇ ◇
数日後。
僕は王都に設けられた宿舎の一室で、巨人――機神兵と向き合っていた。
石造りの訓練場に座すその姿は、圧倒的な威容。
しかし僕が呼びかければ、静かに反応を返す。
「……自己紹介をお願いできますか?」
「我は《機神兵アークレア》。千年前の戦にて破壊され、今、主により蘇生した」
低く機械的な声が響く。
僕は息を呑んだ。
本当に、僕を“主”と認識しているのだ。
「すごい……君は僕の命令に従って動くの?」
「肯定。主の命に従う。だが……」
機神の目がわずかに光を強めた。
「主の心が曇れば、我は暴走する」
「ぼ、暴走!?」
「修繕の力は、秩序をも修繕する。だが不純な心であれば、秩序は乱れ、破壊に転ずる」
その言葉に背筋が寒くなる。
つまり僕の在り方次第で、この巨人は“守護者”にも“破壊者”にもなるということか。
◇ ◇ ◇
一方、王城の会議室。
「修繕士を切り札とするのは危険すぎる」
「だが他国との戦が避けられぬ以上、今は必要だ」
重臣たちが口々に議論する中、ドレイクが立ち上がった。
「諸君。あの小僧を信用するなど愚かしい。力を手にした途端、王国を裏切るやもしれぬ」
「宰相殿、それは杞憂では……」
「杞憂ではない。だからこそ、制御策を講じねばならぬ。――例えば、“人質”を用意するとか」
その一言に、室内が凍りついた。
◇ ◇ ◇
僕は宿舎の窓辺に立ち、遠くにそびえる王城を見つめていた。
アークレアの言葉が胸に響く。
(……僕は、この力をどう使う? 守るため? それとも……誰かの思惑に利用される?)
その時、ロイが部屋に入ってきた。
「リオン。今夜、陛下から直接の呼び出しがある。準備を整えろ」
「……呼び出し?」
「おそらくは、“修繕士を国の戦略にどう組み込むか”の決定だ。覚悟しておけ」
胸が重くなる。
辺境でただのんびり暮らしていたはずが、今は国の未来を左右する立場。
(僕は……選ばなきゃいけないんだ)
修繕の力で、王国の盾となるのか。
それとも――別の道を探すのか。
答えを出す時が、迫っていた。




