第17話 動き出す古代機神 ― 修繕士の真価
広間の空気は張り詰めていた。
宰相ドレイクの挑発的な笑み、貴族たちの好奇と不安が入り混じる視線。
そのすべてを背中に浴びながら、僕は古代魔導具《機神兵の心臓》に手をかざした。
「――〈修繕〉」
淡い光が走る。
砕けた歯車が浮かび上がり、バラバラの破片が光の糸で結ばれていく。
焦げ付いた魔力回路が滑らかに繋がり、ひび割れた魔結晶が再び輝きを宿す。
ゴウン、ゴウン……!
まるで巨大な心臓が脈打つように、低い振動が大聖堂全体に響いた。
「な、なんだ……地響きか!?」
「まさか……動いているのか!」
ざわめきが広がる。
やがて《機神兵の心臓》の中心部が眩く光り、重厚な機械音を鳴らしながら脈動を始めた。
「……ば、馬鹿な。千年動かなかったものが……」
ドレイクの顔から笑みが消え、愕然とした表情に変わる。
僕は額に汗をにじませながらも、両手を離した。
そこにあったのは――完全に修繕された、古代の動力装置。
その瞬間、広間が大きく揺れた。
大聖堂の床下から、何かが目覚めるような重厚な振動。
石壁が軋み、奥に隠されていた巨大な影が、ゆっくりと姿を現した。
「こ、これは……!」
「古代機神……!?」
壁の奥から現れたのは、錆びつきながらもなお威容を放つ巨人の鎧。
《機神兵》――千年前、古代戦争で使われたと伝わる戦闘兵器。
その胸部に、僕が直した“心臓”がはめ込まれていく。
ドンッ!
巨体が動いた。赤い光が両目に宿る。
「……起動、確認」
無機質な声が広間に響き、騎士や貴族たちが悲鳴を上げた。
「し、修繕士! これは制御できるのか!?」
「暴走でもしたら、この王都が……!」
僕自身も動揺した。
(まさか、こんなものまで動かしてしまうなんて……!)
しかし機神兵は暴れ出すことなく、その場で膝をつき、巨大な手を床についた。
そして――僕に向かって頭を垂れたのだ。
「……主、認識」
広間は静まり返った。
誰もが息を呑み、信じられない光景を見つめている。
「し、主だと……?」
「修繕士が、古代機神の主に……?」
国王がゆっくりと立ち上がった。
その瞳は驚愕と同時に、強い決意を宿していた。
「リオン。そなたはただの修繕士ではない。千年前の遺産すら従える者……王国の未来を背負うにふさわしい」
騎士たちが一斉にひざまずく。
だが、ドレイクだけは唇を噛みしめ、怒りを隠そうともしなかった。
(……やってしまった。これで完全に、僕は国の中心に巻き込まれる)
胸の奥が重くなる。
けれど同時に――村の笑顔、守りたい人々の姿が浮かんだ。
ならば、この力を恐れず使うしかない。
僕は深く息を吸い込み、呟いた。
「……僕は必ず、この力で人を守ります」
だがその決意を見透かすように、広間の隅で仮面の人物が小さく笑った。
「――修繕士。面白い。ならば、この力……必ず奪ってみせよう」
王都の陰に潜む闇が、静かに牙を研いでいた。




