第19話 国王からの密命 ― 修繕士の進むべき道
夜の王城。
豪奢な廊下をロイに導かれ、僕は玉座の間へと足を踏み入れた。
赤い絨毯の先、玉座に座る国王が静かにこちらを見据えている。
背後には数人の重臣が控えていたが、宰相ドレイクの姿はなかった。
「来たか、修繕士リオン」
低く響く声に、背筋が自然と伸びる。
「まずは感謝を伝えよう。そなたの力により《機神兵》が蘇り、王国は大きな希望を得た」
国王はゆっくりと言葉を続けた。
「だが同時に、それは危うさも孕む。機神の力は、国を救うか、滅ぼすか――すべてはそなた次第だ」
その瞳は、威厳と同時に深い憂いを宿していた。
「……僕は人を傷つけるために修繕をしてきたわけじゃありません。これからも、そのつもりはありません」
正直な気持ちを告げると、王の唇がわずかに緩んだ。
「うむ。だからこそ、そなたに頼みたい」
王が手を挙げると、騎士が一枚の地図を広げた。
王都から遠く離れた国境付近。そこには赤い印が記されている。
「敵国アルヴェリアが、国境の砦に兵を集めつつある。魔導兵器の残骸を掘り起こし、戦力に加えようとしているとの報せだ」
ロイが険しい顔で付け加える。
「もしそれが本当なら、戦争は避けられません」
胸が冷たくなる。
辺境で村を守っていただけの僕に、国境の戦いを左右する使命が託されようとしている。
「リオン。そなたに密命を下す」
国王の声が、広間に重く響いた。
「国境へ赴き、敵の手に渡る前に遺物を修繕し、我らのものとせよ」
「……僕が、国境へ……?」
「そうだ。そなたの力ならば、崩壊した魔導兵器を蘇らせられる。味方につければ我が国は優位に立てるだろう」
僕は思わず拳を握りしめた。
(村を守りたいと願っただけなのに……今は国の未来を背負えと……?)
「拒むこともできる。だがその場合、機神の制御権は王国が預かることになるだろう」
王の声は淡々としていたが、逃げ場を残さぬものだった。
沈黙。
重苦しい空気の中、ロイが小さく言った。
「……リオン。選べ。だが、どんな決断をしても俺はお前を支える」
胸の奥が熱くなる。
僕は深呼吸し、国王を真っ直ぐに見据えた。
「分かりました。僕は――」
言葉を続けようとしたその瞬間、玉座の間の扉が乱暴に開かれた。
「陛下! 緊急の報告です!」
駆け込んできた兵士が叫ぶ。
「国境の砦が……すでに敵国の奇襲を受け、陥落寸前とのこと!」
広間に衝撃が走った。
国王が立ち上がり、ロイの瞳が鋭く光る。
そして僕は悟った。
選ぶ時間すら残されていない――戦いは、すでに始まっていたのだ。




