第89話 ある神の視界➁ ~浅はかな国王は気づかない~
「何の用事だったんだ?」
「アラン・ベトナーは例の慈善事業に関しての話です」
「あぁ、王都のをモデルケースに、他の都市でもするという話だったな」
「王都でのケースの反省事項を反映させつつ、スタンプラリーの内容は都市ごとに調整するようでした」
「他の都市には王城はないからな。別の場所をチェックポイントに設定するのだろう。領主邸や領主館が順当か」
スラスラと答えるルリゼに、頷く国王。
二人は訳知り顔で続ける。
「となると、エインフィリア公爵夫人を呼びつけたのも、その件か」
「こちらについては、詳細な相談事などがある訳ではないようでした。おそらく『今後ともよろしく』という挨拶だったのではないかと。終始笑顔で滞りなく、会談を追えて帰られました」
「そうか」
実際には、エリスはあの場であの女に、『妨害工作をした事実を知っている』と示し深い釘を打った。
しかしあの時、ルリゼは常にあの場所にいた訳ではなかった。
彼女がいない時を見計らい、話し相手のエインフィリア公爵夫人にさえ時期を諮った事を悟られずに事を終えた。
「エインフィリア公爵家は、中立の筆頭家だからな。王妃として良好な関係を結べていれば、周りに王家の安泰を強く印象付ける事ができる」
国王が嬉しそうなのは、エリスが結果を出したからではない。
出た結果が、自分にとって有意義だからだ。
思わず「滑稽だな」と小さく笑った。
お前が信じ、喜んだその結果は、既に別物に形を変えつつある。
既に、エリスは『王妃として』動いてなどいなければ、『良好な関係』すら本来彼が想像している『対等』から『上下』のあるものになりつつあるのに、まるでその事に気が付いていない。
「もう一人は、何の用事だ」
「ティーディルディ侯爵夫人に関しては、王妃様がお呼びになったようです。初めてのお越しで楽しげに歓談されていました。主に、お子様方に関するお話に花を咲かせていたように見受けました」
「あぁ、たしかあの家にはロディスより少し上の子どもがいたか」
国王が「そういえば、そろそろロディスの友人を選定してやらねばならなかったな」と思い出したようだ。
が、エリスは勝手にされたら嫌がるだろう。
子どもたちに妙な家の接近を許さないために、自身で選定したいと思っているから。
それにまったく思い至らず、むしろ「仕事が増えた」などと少し煩わしく思っている辺り、エリスとは永遠に分かり合えないのだろう。
「近いうちに、王妃と子の様子を見に後宮に行く」
「かしこまりました。王妃様にお伝えしておきます」
「いや、いい。空いた時間に行く。いつという保証はできんからな。いない日時だけ、こちらに伝えろ」
「かしこまりました」
「あぁそれと」
一度執務机に視線を落とし仕事に戻ろうとした国王が、ある事を思い出し、再び顔を上げる。
「エリスとミーナは仲良くしているか」
「いえ、交流は皆無と言っていいでしょう。近頃はミーナ様のお体が大切な時期。あちらの事を考えれば、直接顔を合わせる機会がないのは仕方がない事ではありますが、せめてお手紙などで交流を図っていただきたいものです」
側妃との関係性を良好に保つこともまた、王妃の役割だというのに。
今にもそんな説教じみたルリゼの内心が、口から出ていきそうだなと思った。
辛うじてそうならなかったのは、近頃の国王の関心が、エリスに向いているからだろう。
国王がよしとしているものを、否定はしにくい。
国王第一だからこそ、そんな思考になるようだ。
「ミーナの子が生まれたら、祝賀会をしなければならないな」
「王妃様方も出席させるのでしょうか」
「当たり前だ。国の宝がまた一人生まれたのだ。国の顔であるエリスにも、勿論参加してもらう必要がある。その時に仲睦まじい様子でも見せれば、両者の良好な関係性も国内外に示せるというものだ。ロディスも、最近は評判がいいと聞くしな」
あぁ、まただ。
エリスの苛立つ顔が目に浮かぶ。
おそらく国王は、最近評判のいいエリスとロディスをなるべく公式の場に出したいのだろう。
王族の一員としての印象を強く持たせたいのだ。
が、エリスの時には――ロディスとリリアの時には、そのような催しはなかった。
本当にこの男は、自分の事しか見えていないし、とことんまでも見る気がない。
「かしこまりました。ではそのために、ロディス様とリリア様にもお召し物を新調させます」




