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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第六章】第十二節:各所にて(第九賭ざまぁ)

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第85話 中立派の筆頭家夫人に『鎖』を付ける



「いえ、しかし側妃様もご懐妊なさる前にはされていた事ですし――」

「そもそも何故私が側妃に倣わなければならないのかという話をしてもいいけど、とりあえず今は横に置いておきましょう。私は『夫人や令嬢を招いての公式のお茶会をしたくない』と言っている訳ではないのだしね」

「それなら」

「私が言いたいのは、何故私が《《貴女に指示されて》》そのような事をしなければならないのか、という事よ。――私の慈善事業の邪魔をしてまで、売る恩を意図的に作る真似をした貴女の」

「っ! そんな事!」


 していない、とでも言いたげだ。

 いや、この後すぐにそう言うのだろう。

 でも。


「貴女が先程侮ったアランは、仕事ができる子よ。潔癖で愚直な彼はこの期間に、王都内の方々に足を運び、出店という形で多くの店に事業への協力を求めた。そうしてアランが自ら構築した人間関係や情報網が、貴女の真実を掴んでいる」


 アランはきちんと証拠を持ってきてくれた。


 陛下のところに持っていけば、妻が話題になっている事に自分への有用性を感じている状態の今の陛下は、十中八九『その邪魔をしようとした人物』として、エインフィリア公爵家夫人を罰するだろうと確信できるくらいには、決定的な証拠を。


 中立派の筆頭家である事を加味してもそうなるだろうと思える程の証拠なのだから、どの程度決定的なのかは明白だろう。



 が、私はこの件についてあの男を通すつもりはない。

 彼女を罰するつもりはない。


 状況を決定的なものにしない限り、少なくとも現時点で夫人は私の敵には回らない。

 そう仮定する。

 賭けをする。


 そして、この賭けに勝てたなら。


「私、貴女の商人としての矜持に一定の信用を置いていたのよ。だから『マタニティドレス』の件も任せていたし、今回の事業でも事前に貴女に話を通した。しかしその結果がこれなのですから、頼り甲斐がないと思われても仕方がないのではないかしら」


 むしろ、相談したからこそこのような工作が比較的容易にできたとも言える。


 私から聞いた事実の間に、自分の介入する余地を作るだけでいいのだ。

 介入する余地を探す手間がまるでなかったお陰で、彼女は探る時間も労力も払わずに済んだし、それによって怪しまれるかもしれないという危ない橋を渡る必要さえなかった。


 我ながら、かなり甘い言葉を使っている自覚がある。

 が、これは温情ではない。



 彼女が私を「甘い人間だ」と思ったかどうか。

 これも賭けだけど、この賭けの結果はもう少し先にならなければ分からないだろう。


「『マタニティドレス』の件は、私の方に引き取らせてもらうわ。大丈夫。幸いにも、慈善事業そのものに致命的なダメージを負わせた訳ではなかったもの。貴女の行いが明るみに出るような事はないわ。私が周りに溢さない限り」

「――王妃様」

「私のこの決断を、どうか今度こそ裏切らないでね? 《《信じているわ》》、エインフィリア公爵夫人」


 これは鎖だ。


 『甘い』私が、今回の事をこれで許したと思わせる。

 それによって、彼女は少なくとも当分の間、縁を切られるような事態になって自分の選択肢を狭める事のないように、私との関係を現状維持に留めるだろう。


 先程のように助言という形で私の言動を操るそぶりを見せるような事もなく、側妃にすぐ寝返り協力するような派手な事もしない。

 己の言動に慎重になる間、彼女は私の敵にはならない。

 そして、『甘い』私が再び彼女を今までの場所――自分の作り出した流行の量産と拡散を任せるような場所に置くようになると信じて、勝手に私の利になるように動く。



 この鎖が実際に、どのくらいまで私の思い描いた通りに彼女を動かすか。


 これが、最後に残った賭けだ。

 そしてこの鎖がどの程度の時間効力を持つかも、賭けである。



 彼女は、時戻り前に側妃がロディスを殺した、薬の入手元だった。

 だから最初から信用していない。


 一度も信用した事などなかった。

 能力こそある程度買っていてもただそれだけだ。

 注文も最初と比べれば落ち着いてきただろうし、職人たちも作業の要領を得た頃だろう。


 ずっと重用する気はなかったし、重用すれば実際に、先程のように私の言動に口を挟んでくるのではないかという懸念もあった。

 だから今回、実際にそうなったこの段階で早急かつ彼女の落ち度を咎めるという自然な形で遠ざける事ができたのは、小さな想定外ではあっても結果的にはちょうどいい事だった。

 


 そんな私の思惑を知ってか知らずか、彼女は返事はしなかった。

 しかしとりあえず静観する事は決めたようで、私の言葉に抵抗するようなそぶりはなく、一礼をして応接室を後にした。




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