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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第六章】第十二節:各所にて(第九賭ざまぁ)

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第83話 息子の将来が、不安……?



「お母さま! お花が咲いてる!」


 そんな可愛らしい報告と共に外テラスに面した庭園から駆けてきたロディスに、思わず笑みが零れてしまった。


「本当ね。先日まで蕾だったのに」


 その花は、ロディスが芽が出た頃から成長を見届けていた花壇に咲いていた。


 つい先日「蕾になってる!」と嬉しそうに話してくれた彼の顔がまだ記憶に新しいというのに。

 時は確実に経っているのだなと、愛息子の言葉で気付かされる幸福を、噛み締めずにはいられない。


「あのお花はね、サルビアっていって、色んな色のお花があるんだよ! だから僕、楽しみにしてたの!」

「ロディスの好きな色はあった?」

「全部好きだよ? すくすく育ったお花は皆可愛いでしょ?」

「ふふふっ、そうね」

「あのね! サルビアはたまに強い幻覚を引き起こす子がいるんだって。ここには咲いてないけど、僕、アンと一緒に図鑑を見たよ! 葉っぱが大きくて、表面にちっちゃい毛がいっぱい生えてるんだって!」


 一生懸命説明してくれるロディスに相槌を打ちながら、安心する。

 アンは私たちの身の回りの世話だけではなく、しっかりと当初の役割――ロディスの教師役もこなしてくれているのね、と。


 そして、それを熱心に、そして楽しそうに語るロディスを見て、負担にならずきちんと自分の身を守るための知識が身についてくれているわね、と。


 しかし。


「ロディス様、将来女性を惑わす魔性の男になってしまわれたりするかもしれないわ……!」


 さも「素質があります……!」とでも言い出さんばかりの彼女の声に、私は思わず「え?」という声が出た。


 しかしよくよく考えてみると……。

 た、たしかに今の言葉、相手を他の令嬢に置き換えたら「皆好きだよ? 元気な子は皆可愛いでしょう?」という事に……?!


「どどどどどうしましょう、アン……!」

「これは私、もしかしてロディス様に女の子にモテモテにならないための授業もしなければなりませんかねっ?!」


 ロディスはとてもいい子である。

 母親思いだし、妹想いだ。


「そうじゃなくても、実際にロディス様に笑顔を向けられた使用人たちは『初めてお会いしたけれど、屈託のない笑顔が非常に可愛らしかった!』としきりに話しているのに!」


 その話は、既に一度アンから報告を受けていた。


 曰く、『ロディス様のスタンプラリーの時の反応が、瞬く間に使用人伝手に後宮内に広まっています! 聞いたところによると、王城内にもだそうで!』との事だ。

 『王城』のスポットでの言動が理由だと。


 たしかにロディスが、王城での仕事について話をするボランティアを引き受けてくれた使用人たちに、仕事について軒並み聞いて『いつもお仕事してくれて、ありがとう』と言って回ってはいた。


 その時は、照れたり恐縮したりする使用人たちも含めて「微笑ましいな」と思いながら眺めていただけだったけど、どうやらその時の話が事細かに使用人の間に広まったらしい。



 王太子殿下が、自分たち下々の話を聞いてくれた。

 日々の仕事を褒めてくれた。



 子どもが目をキラキラとさせながら、自分や自分の仕事に興味を持ってくれる。

 おそらくそれが嬉しかったのだろうと思う。


 珍しい事でもあったのだろう。

 平民たちは彼らの仕事をよく知らないし、貴族たちは自分に付き従う人間がいる事にすっかり慣れてしまっているから。


 そこにいる事が当たり前で、そうしてくれる事が当たり前な相手に、人はわざわざお礼や労いは言わない。

 そのありがたみを痛感した事がない人間は、皆どこか無意識的にそう思ってしまっている事が多い。


「そろそろ縁談の打診も、本格的になりつつあるのよね……。ロディスは現国王との間に生まれた第一子。男児なので継承権もあり、顔も陛下の見目のよさを引き継いでいる」


 あの男の見た目を引き継いでいる事には少し思うところもあるけれど、それがロディスという子の魅力のすべてではない。


 今でも勿論可愛いが、成長するにつれてきっと凛々しくもなっていくだろう。

 時戻り前はともかく、今回は政治による私たちの立場の陰りがない。

 その上で、誰もを虜にしてしまうような言葉を無意識的に口にしてしまうような事になれば……!


「……これは、腰を据えて本気で吟味しなければならないわね、相手を。ロディスには引き続き純粋で優しい子に育ってもらいつつ、ロディスの味方になってくれる、ロディスの周りを飛び交う羽虫をうまくあしらえるような子を」

「あ、ロディス様をどうにかする方向にではなく、そんなロディス様をうまくフォローしてくれる子を探すんですね」


 あまりにも思わせぶりなのはよくないけど、自然と出る言葉にはなるべく制約を掛けたくない。


 ロディスは生まれながらの王太子である。

 どんなふうに育っても王族として、次期後継者としての葛藤や窮屈さに直面するだろうと思うから。


 だから、義務の部分以外は縛らないようにしてあげたいのだ。

 勿論あの手の言葉の危険性も、おいおい話をする必要はあると思うけど。



 気が付けば、ロディスが再び庭園に駆け出して、花壇の前に座り込んでいた。


 花を眺めている。

 そんな事をしていて楽しいのかと思わないでもないけど、どうやら彼は走り回るのも好きだけど、草花を眺めるのも好きらしい。

 

 よくやっている事だし、距離が少し離れただけで何物にも遮られずに姿は見えている。

 アンも、私の後ろに控えていながらしっかりとロディスから目を離さずにいてくれている。


「……私もアンには感謝しているわ。貴女がいてくれたから私は安心してアランと慈善事業をやれたんだもの」


 先日の事業でのロディスに倣って、改めて彼女に感謝を伝えた。



 勿論アランにも感謝している。

 彼がいてくれたお陰で、慈善事業の細かなところの手配を一任する事ができた。


 これはまた後で本人に伝えよう。



 が、それ以外の人間は信用できない。

 彼だったから任せたのであって、彼がいなければすべて私が自ら周りに働きかけて動いていただろう。


 一定の信用ができる条件を揃えて――それこそ権力と正妃用の国家予算を使ってお金の力で裏切らない担保が取れる人間を探し、使っていたと思うけど、それでも手放しに信用するのは難しいので、その者たちに監視を付けていたと思う。



 そういう諸々がなかったお陰で、あれだけ大きな慈善事業の準備をしながらも、ロディスとリリアとの時間も取れた。


 事業自体も成功したし、それにより正妃の私と共に私個人の知名度も少なからずは上がった。


 加えて一番大きなのは、人材だ。


「アンとアランと同列とまではいかなくても、一定の信用が置ける人間に――貴族に当たりが付けられたのは僥倖ね」 

「王妃様が信用する人間の中に、ルリゼさんやウィルター様は含まれていないのですね」

「……ルリゼは私じゃなく、国王陛下のメイドだもの。今は陛下と私の関係性が悪くないから従順に見えているだけだもの。私も人手が足りないから傍に置いているけど、貴方と同じくらい信じるに値する者ができた時には、陛下にお返しする人材だわ」


 仕事ができない訳じゃない。

 むしろできる方だと思う。


 しかし、彼女の行動原理は陛下である。

 そうである以上永遠に信用できない。

 だって、誰でもない私自身があの男の事を、まったく信用していないんだもの。

 そしてこれは今後何があっても変わらないと思うから。


「ウィルターだって、お兄様の首輪だもの。彼があちらに情報を流した結果、借りと共に何かしらの助けが得られる可能性はあるけど、結局彼もスイズ公爵家の騎士だから、公爵家や当主であるお兄様の利になるように動くでしょう」


 言葉少なだが、それだけに頑なで懐柔も難しい。

 子どもの頃からお兄様に仕えているから切り離しは難しいだろうし、そんな相手の説得に使う程の時間の余裕はない。

 それこそ直接的に子どもたちの身を守るべき騎士の選定は急務なのだから。


「今回の件で、炊き出しに限らず事業全体で、少なからず人の動きがあったわ。私に敵対する者、敵対こそしないものの非協力的だった者、媚びてくる者、今回の一件を機に、私に目を向け始めた者、そして……裏切者」


 私の言葉に、アンが僅かに目を見開いた。


 思えば彼女の前では今初めて、その存在について言及した。

 アランは調査した張本人なので知っているけど。


「まぁ、本当の裏切者なのかというと難しいところではあるけれど。だって私、あの人の事は最初から信用してはいなかったもの」

 

 小さくクスリと笑った理由は、私の当初からの方針は間違っていなかったという気持ちと、きっとうまくやったと思っているのだろう本人の滑稽さを思ってだ。


「――王妃様、お約束のエインフィリア公爵夫人がいらっしゃいました」


 言ってきたのは、ルリゼである。

 彼女には、呼びつけた相手が来るからと言って、部屋の外で彼女を迎える役を任せていた。


「ご指示の通り、既に応接室へお通ししています」

「ありがとう。――それじゃあ、子どもたちの事、よろしくね」


 言いながら、私は腕の中でスヤスヤと寝息を立てている可愛いリリアをアンに預けた。



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