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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第六章】第十節:王都にて ~アラン視点~

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第75話 試金石 ~アラン視点~



 正妃様付きの文官は、当初思っていたよりも随分と忙しく大変だった。


 最初はこう思っていたのである。

 ――不正のなさそうな場所に移動できたのはよしとして、王妃様付きの文官なんてやる事などほとんどないだろう、と。



 それが、ふたを開けてみればどうだ。


「あの王妃様、見た目こそ物静かで穏やかそうなのに、その実意外と人使いが荒い」


 それでも悪い気がしないのは、彼女から向けられている信頼を感じるからか。



 正妃様は不思議な方だ。

 この国一番の地位を持つ女性なのに、その実心から信用できている相手は少ない。


 ……いや、権力者であればこそなのだろうか。

 常に周りを警戒しているような、気を張り続けているような雰囲気がある。



 それは彼女の周りに仕えている人間たち相手にも例外ではなく、俺が見る限りでは、正妃様が本当に頼りにしているのは、メイドのアンと多分俺くらいだ。



 正妃様の傍に控えるそつのない騎士・ウィルターの事さえ信用していない風なのに、何故自分如きを信用するのか。


 その理由は分からないが、おそらく彼女の中には、確固たる何かがあるのだろう。



 彼女は俺に教えてくれた。


 この慈善事業は国を挙げたものであり、今後の自身を占うものであるのだと。

 同時に、自分が信じるに足る人たちを探すための試金石なのだと。


 そしてそれは、この事業においては――べトナー卿、貴方なのだと。



 主人と仰いだ方からの用命なら、俺はそのように動く。

 正妃様が俺とアンしか信じる事がまだできないのなら、俺が信じる人間を俺の責任で動かせばいい。


 幸いにも、というべきか。

 財務部で行っていた会計書類の処理は、各部の真面目な人間を浮き彫りにさせていた。


 間違いのない書類、丁寧な字、補足事項を書き加える細やかな気遣いなど。

 地味だが仕事のできる人間や誠実な人格というのは、意外と提出される書類に出る。



 俺には書類処理を熟すにあたり、提出者の名を確認する癖のようなものがあった。

 お陰でできる人間の名は、すべて頭に入っていた。


 彼らに声をかけ、仕事を手伝ってもらう事にした。

 采配は多岐に渡る。


 なんせ正妃様は、調整事のすべてを俺に一任されたのだから。



 それらを適材適所に分担し、様々なところに正妃様の文官として出向き、話をして。

 俺が顔を見ただけで「正妃様の文官だ」と皆に知れる頃には、慈善事業の準備は整っていた。


 が、本番はこの日だと言っていい。

 基本的な采配はすべて前日までに終わっていたが、当日に起きる突発的なトラブル対応と、それからもう一つ――この慈善事業の協力商人の監視は、当日こそが本番なのだから。



「正妃様のところに一度ご報告に上がってから、不審なトラブルが三件か……」


 一つは、スタンプラリーのスポットでスタンプが紛失した件。

 あとの二つは、悪意ある噂の流布。


 スタンプの紛失に関しては、どうあっても紛失しないようにと言明し、スタンプを持つ人間にはスタンプと紐を繋いでおくようにと言っていたのに、その上で失くしたのが一件あった。


 そちらに関しては、正妃様の指示通り予め秘密裏に予備を10個ほど用意していたので、滞りなくここまで行事は行えている。


 実際、スタンプラリーの話を初めて聞いた時には「そんなものに平民は参加なんてするのだろうか」と疑問視していたが、思いの外面白がって参加してくれており、大成功と言っていいだろう。


 各ポイントに立っているスタンプ持ちたちも、俺が見ている限りでは、スタンプを押すと共に担っている「チェックポイントの説明と自身の仕事について話す」という仕事を楽しげに熟し、住民たちとの交流も円滑に行えていた。



 王都内で所々客同士や客とこちら側の人間との間にトラブルが発生する事もあるが、そちらは巡回している王城騎士がすぐに仲裁に入り事なきを得ている。



 そういえば、陛下が張り切っているというような事を正妃様が言っていたな。

 特に嬉しそうでなかったのが少々気になるが、もしやあまり仲が良くはないのだろうか。


 そういえば、何度も打ち合わせのために正妃様の後宮を訪れたけど、一度も陛下とお会いするような機会はなかったな、と今になって思い至る。



 と。


 人の雑踏を切り裂くように、ピューイという鳥の美しい声が聞こえた。

 見上げれば、俺の頭上高くを青く美しい鳥が旋回している。


 ――来たか。



 俺が手をスッと上に上げると、人差し指に鳥がパサリと降り立つ。

 そのまま目線の位置まで鳥を降ろして足の付け根を確認すると、細長く折られた紙が括りつけられていた。


 それを解き、鳥を放つ。

 紙を広げれば端的に、場所と商会の名前が書いてあった。


「愚かな」


 思わず声のトーンが下がる。



 今回の慈善事業に参加する商会には、秘密裏に一人ずつ張り付かせて様子を見させている。

 正妃様が俺を「試金石だ」と言い、物理的に不可能なすべての商会に俺が付けた公正な目を持つ連絡役。


 彼らには予めこう言っていたのだ。


 ――裏切り者が現れたらすぐに秘密裏に、鳥を飛ばし知らせるように、と。




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